ホーム > 金の鎖、銀の鞭 > サクラ・ブリーズ

サクラ・ブリーズ

谷の先、住宅地の奥に、石垣だけが残る山城の跡がある。
一応は城趾公園として整備されてはいるが、訪れる人は滅多になく、観光地というわけでもないので、常にきちんとメンテナンスされているとは言い難い。
城としての規模も大きくない。
標高五百メートルほどの小高い山麓に石垣が残っていて、天守台跡からの眺めは良いが、典型的な山城のため、そこへ辿り着くための道が結構険しく、未舗装で細く、相当な城マニアでもなければ訪れる者はない。
地元の人間も、もちろんそこに城があることは承知しているが、わざわざ登っていくことはない。
住宅地が途切れると、その先、途中までは山中を曲がりくねるように細い舗装路が続いているが、それも城跡の入り口で終わりで、山頂にある天守台跡まで残りは徒歩となり、その数台が駐車可能な狭い駐車場から山頂までは大人の足で三十分はかかる。

そんな城趾公園だが、春の桜の時期だけは、多少の人出がある。
公園一帯に桜の樹が植えられているため、花見の客が大勢訪れるのだ。
とくに、天守台跡のある山頂周辺の広場は桜の人気スポットだ。
地元の大人達だけではなく、子供達も友だち同士で訪れる。
もっとも、花見の客も昼間だけだ。
陽が暮れれば、途端に無人となる。
夜桜見物の客はまずいない。
なぜならば、殆ど明かりがないからだ。
夜は山全体が真っ暗になってしまい、天守台跡まで続く道すらまともに歩けず、夜桜見物どころではない。

深夜。
一台の車が寝静まった住宅地を抜け、細い山道を進んでいる。
大型のピックアップトラックだ。
運転席でハンドルを握っているのは若い女性で、他に同乗者はいない。
トラックはハイビームで周囲の木立を浮かび上がらせながら、カーブを抜けていく。
ほとんど道幅いっぱいだが、この先は城趾公園で行き止まりだし、こんな時間に対向車はないから、トラックは狭い山道をかなりの速度で登っていく。

やがてささやかな駐車場に到着した。
もちろん他に車両はなく、街灯もないので、トラックが停車してエンジンを切ると、周囲は真っ暗になった。
運転席のドアが開き、女性が降りてきた。
背の高い、美しい女性だ。
革のジャケットを着て、スリムのブルージーンズにブーツを履いている。
手に、黒い無骨な懐中電灯を持っている。
外国映画などでよく警察官やFBI捜査官などが使っている物と同じタイプだ。
ドアを閉めると、ゆっくりと室内灯が消えていってまた闇が下り、女性は懐中電灯を点すと、ゆっくりとした歩調で荷台へと回った。
荷台にはビニールのカバーがかけられていて、女性はロープを解くと、そのカバーを剥がした。
すると、そこには、全裸の男が五人、押し込められていた。
女性は荷台の隅にある長い鞭を取り、それを懐中電灯を持っていない方の手で丸めて持つと、男達に向かって平坦な口調で言った。

「降りなさい」

君はそう言われて、体を起こすと、他の四人と動きを合わせて荷台から降りた。
ロープで五人は繋がれているため、それぞれ勝手には動けないのだ。
君は五人のうちの三番目に繋がれている。
だから前のふたりが荷台から降りた後、それに続いた。
足は比較的自由だが、両手は背中に回して括られていて、その手首と首の部分に張られたロープで男達は繋がっている。
しかも背中にマジックでそれぞれ「1」から「5」まで番号が大きく書かれている。
むろん君の背中には大きく「3」と書かれている。
じきに五人の男達はトラックの荷台を下り、その傍らできちんと背筋を伸ばして整列した。
口枷や猿轡等は装着されていないが、全員無言だ。
男達は靴すら履いていない。
一糸まとわぬ完全な全裸で、しかも全身の毛を剃っている。
春とはいえ、夜気が冷たい。
昼間は暖かくても、夜になるとまだぐっと気温が下がる。
そのため、さすがに男達のペニスは一様に萎えている。
女性は懐中電灯を男達に向け、その股間を順番に照らしていった。
男達のペニスは冷たい空気で縮み上がっていて、全員の亀頭はすっかり包皮に被われている。
五人とも仮性包茎なのだ。

女性は、五人目の体から伸びているロープの端を持つと、懐中電灯の光芒を山頂へ続く狭い道へと向け、言った。

「行きなさい」

五人の男達は後方から照らされる懐中電灯の明かりを頼りにして山道を歩きだした。
裸足のため、足の裏が痛かったが、誰も苦情は申し立てない。
そんなことが言える立場ではないことを、男達は全員承知している。
女性が手首につけているデジタル時計を見た。
小さなボタンを押すと、ディスプレイが青く光り、時刻表示が浮かび上がる。
2:57。
まもなく午前三時だ。

男達は一言も喋らず一列になって山道を登っていく。
君は前から三番目で、足元を見ながら黙々と歩を進めていく。
つと前を見れば、そのすぐ先の背中にはマジックで大きく「2」と書かれている。
細かな砂利や雑草の尖った先端の感触が足の裏に絶えず続いていて、痛く、歩きにくい。
しかしひとりだけ遅れるわけにはいかないので、ひたすら足を進める。

周囲は懐中電灯で照らされている部分以外、完全に闇だ。
しかし、闇に慣れてきた眼に浮かぶ沿道の桜の花が仄かに白い。
君は歩きながらちらりと桜を見上げて(綺麗だ)と思ったが、あまりに寒いし、足の裏は痛いし、花の美しさを楽しむような心の余裕は全くなかった。
そもそもどうしてこんなところをこんな風に歩いていて、この後、どんなことが起きるのか、君は全く知らされていない。
もちろん、それは君だけではない。
繋がれている五人の男達は、全員、何もわかっていない。
ただ女性に促されて、逆らうことは許されないため、歩いているだけだ。

だんだん標高が上がっていくにつれて、ますます気温が下がってきたように感じられた。
少し風も出てきて、君は思わず震えた。
自分の意志とは関係なく奥歯がガチガチと鳴った。
他の四人も同様だ。
但し、かといって勝手に止まることなど出来ないし、女性から休止して良いという命令も下されていないので、男達は歩き続ける。

やがて山頂に辿り着き、開けた場所に出た。
その広場のようなエリアには多くの桜の樹が植えられていて、まさに満開だった。
目の前に、天守台の石垣がある。
しかし石段が崩れているため、そこへ上がることは出来ない。

女性は五人の男達を桜の樹の下まで連れていき、横一列に並ばせた。
そして、両端の男から伸びるロープを、それぞれ太くて立派な桜の樹を選んで、その枝にロープの端をしっかりと縛り付けた。
そうすると、五人の裸の人間が、まるで幕のように満開に咲き誇る桜の樹の下で広がった。
男達は完全に体の自由を奪われて、戸惑いの表情を浮かべている。
君は五人のちょうど中間で、やはり戸惑っていた。

女性はそんな男達の様子に満足げに微笑を浮かべると、懐中電灯を点したまま地面に置き、次の瞬間、鞭をふるった。
縦横無尽に長い鞭を迸らせながら、五人を満遍なく均等に、容赦なく打ち据えた。
凍えた体に鋭い鞭の刺激は熾烈だった。
男達は絶叫し、不自由な体を必死に蠢かせた。
全員が繋がっているため、五人の動きは連動していて、まるで人間の幕が揺れているように見えた。
女性は自由に鞭をしならせ、男達を打ちのめしていく。
その顔貌に感情は浮かんでおらず冷たい無表情だ。
五人の体には瞬く間に赤い鞭の跡が刻まれ、胸、腹、背中、尻、太腿……とあらゆる部分に無数のミミズ腫れが走った。
それでも鞭は止まない。
男達は筋金入りのマゾだからか、つい先程までは完全に萎えていたのに、いつのまにか猛々しく勃起している。
君のペニスも限界までそそり立っている。
勃起した成人男性の無毛の股間は醜くて哀れで卑猥だ。
やがて、男達の体から鮮血が噴出し、飛散した。
皮膚が裂け、破れ、叫び声も高まった。
無人の闇の山間に、男達の絶叫が響き渡る。
既に君は泣いている。
いや、君だけではない。
五人の男、全員が大粒の涙を流しながら、まるで幼い子供のように泣き喚いていた。
風が吹き、桜の花びらが一斉に散って、闇を白く照らす。

やがて女性は鞭を止めると、それを手慣れた仕草で丸めてまとめ、懐中電灯を拾い上げた。
男達は完全に青息吐息で、繋がったまま肩で呼吸している。
女性は男達ひとりひとりに懐中電灯の明かりを向けてそれぞれの様子を確認した。
そして、男達をそのままに、悠然とした足取りで広場を出て、ひとりで山道を下っていった。
砂利を踏みしめるブーツの足音が徐々に遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

完全な無音。
闇。
そして世界を押し潰してしまいそうなほど重い沈黙。
男達の勃起が少しずつ萎えていく。

強い風が吹いた。
不意に取り残されて呆然としている男達の傷だらけの体に、仄白く美しい桜吹雪が降り注いだ。
涙で濡れたままの君の頬に、舞い落ちてきた桜の花びらが止まった。

広告
カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
  1. まだコメントはありません。
  1. No trackbacks yet.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。