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新しい住人

隣の房に新しい住人が入った。
地下にはふたつの房があり、君はそのひとつで暮らしているのだが、隣はずっと空いており、長らく地下の住人は君だけだった。
というより、君がこの地下の住人となって以来、誰も隣に入ったことはなかった。

一階から続く階段に足音が響いてきたその時、足音の種類が、ひとつはブーツらしき固い靴音、もうひとつはどうやら裸足らしきペタペタというタイプの足音で、君は瞬間的に(誰だろう?)と思いながら鉄格子越しに廊下を見つめた。
ただしブーツらしき固い靴音は間違いなく飼い主である女性のものとわかっていたので、君は格子の前で床に正座をした。
もちろんそんな君は全裸だ。
人間以下の生物として飼育されている身分だから衣服は必要ない。
とはいっても、いつでもリードが付けられるよう首輪だけは常に装着している。
場合によっては手枷や足枷やハーネスも装着するが、常時ではなく、普段は基本的に首輪だけだ。

やがて鉄格子の向こうの廊下に、飼い主である美しい女性が現れた。
女性は、君のほうを見向きもせずにその前を通過していく。
そして彼女の後ろに、君と同じように全裸で首輪だけを付けた綺麗な女性が続いた。
首輪に繋がる鎖を君の飼い主である女性が持っていて、全裸の女性は俯いて無言のまま引かれている。
横顔くらいしか見られなかったが、二十代後半くらいの美人だった。
全裸のスタイルも、抜群といってよかった。
長身で、胸が大きく、腰はくびれ、陰毛はスクエアに揃えられていて、尻の張りや長い脚のラインが肉感的だった。
そんな女性が、なぜか君と同じような格好で飼い主に引かれている。
裸足なので踵の高いブーツを履いている飼い主の女性より背が低く見えたが、その身長は、おそらく飼い主の女性と変わらないくらいだろうと思われた。
要するに、それぞれスタンスに天と地ほどの差異があったが、繋がれて引かれていく女性のビジュアルもそうとう高いレベルだったのだ。
年齢的には、飼い主の女性より少し上のようだった。
君はわけがわからず、美しいふたりの通過を呆然と眺めた。
飼い主の女性が君の房の前で連れていた女性に向かって「おまえは豚なのだから、ここからは豚らしく四つ足で歩きなさい」と命じた。
女性は「はい」と返事をし、その場で四つん這いになった。
その首輪の鎖を引いて、飼い主の女性は再び歩きだし、四つん這いになった女性はそのままの姿勢で続いた。
何の根拠もない想像だったが、もしも隣の房にも誰か入るとなれば、そこの住人は自分と同じように男だろう、と君は思っていたから、女性の出現は意外というか想定外だった。
しかし戸惑いと同時に妙な嬉しさもあった。

すぐにふたりの姿は君の前から消えた。
隣の房の鉄格子の扉を開く金属質の音が響き、すぐに施錠された。
そして飼い主の女性の姿が再び君の前に現れ、姿勢を正して律儀に正座している君を平坦な眼で見下ろすと、言った。

「隣の牝豚は今日から私が飼う。立場はお前と同じ。ただ、いくら隣り合わせでも喋ったりしてはダメだし、覗くことも許さない。それくらい当然わかっているわね」

有無を言わせない静かな迫力で女性は言い、君は大きく頷いた。
「はい、わかっております」
そうして床に額をつけてひれ伏す。
その君の後頭部に、女性はペッと唾を吐き、そのまま去った。

階段を上がっていく足音が遠のき、ドアが閉まる音が響くと、地下牢は無音となった。
君は正座の姿勢を崩し、粗末なベッドに凭れるようにして座った。
コンクリートの壁一枚で隔てられた隣の房には間違いなく先ほどの女性がいるはずだが、息を潜めて体を硬直させているのか、まったく気配は伝わってこなかった。
しかし、もう夜も遅い時間でそろそろベッドも使うだろうし、トイレだって監獄の独居房と同じで便器が剥き出しで、何のパーテーションもなく部屋の隅に設置されているだけだから、そのうち何かしらの音は出さざるを得ないだろう。
どういう経緯で彼女が隣の房に入ることになったのかはわからないし、君自身のことがどんな風に彼女に説明されているのか、そもそも説明なんかされているのか、そのあたりは全く不明だったが、先ほどこの房の前を通過した際に、視線こそ合わさなかったがここには自分以外の別の人間もいることはわかっただろうから、この地下にひとりでいるわけではないという認識くらいはあるだろう。
そんなことを考えながら、君は耳をすませていた。

随分久しぶりに見る女性の裸だった。
ふだん君が目にする女性は飼い主の女性だけだし、その飼い主が全裸になることなどあり得ない。
せいぜい聖水や黄金を与える際に股間部分や尻を露出するくらいで、むろんそれらを君が自由に触れられる権利などないし、無遠慮で物欲しげな視線を向けることすら常識として厳禁だった。
そんな君だから、隣に全裸の女性がいる、と考えると、どうにも悶々としてきて落ち着かなかった。
本当は覗きたい、しかしそれは叶わないし、自分が置かれている立場として決して許されることではないから、せめて少しでもいいから気配を感じたい、君は切実にそう思っていた。
しかし依然として、どれだけ息を殺して耳をすませても、何も聞こえてこなかった。
溜め息や咳払いすら聞こえなかった。

どれくらい時間が経ったのか、不意に階上のドアが開いて、階段に靴音が響いたかと思うと、飼い主の女性が廊下に現れた。
こんな夜の遅い時間に地下へ彼女が降りてくること自体かなり珍しいことなので、君は一瞬のうちに緊張状態に陥って慌てて正座をした。
もしかしたら隣の房に対して異常なまでに関心を示している様子を監視カメラで見られて飼い主の怒りに触れてしまったのかもしれない、と瞬間的に考えて怖くなったのだった。
背筋を伸ばし、息を詰めた。
しかし飼い主の女性は、平然と君を無視し、その前を通過していった。
その姿をちらりと見ると、手には電動のバイブが握られていた。
そして隣の房の方から、そのバイブを鉄格子の隙間から差し入れて床に置く音が聞こえた。

「今からこれでオナりなさい。大きな声を出して、破廉恥なマゾ豚らしく思いっきり淫らに。隣にお前と同じような変態のオスのマゾ豚がいるから、そいつに淫乱なお前の声を聞かせなさい。それを聞いたら隣の豚はたぶん狂ったようにオナニーするだろうから、豚同士の交尾を想像して激しくオナニーしなさい。淫乱な牝豚のおまえにはお似合いでしょう?」
「はい」
「私はカメラでお前たちがそれぞれオナってる場面を同時に見て笑わせてもらうから」
「はい」

そんな遣り取りが聞こえた後、飼い主の女性が君の房の前に立った。
そして君を見下ろし、言った。

「聞こえてたわよね、そういうことだから、せいぜい頑張って私を楽しませなさい」
「はい、オナニーのご許可、ありがとうございます」

君は平伏して言ったが、飼い主の女性は、その君の礼には答えず、そのまま立ち去った。
階段を上がっていく足音が消え、階上のドアがパタンと閉まる。
と同時に、隣の房から小さなモーター音が響いてきた。
少しずつ声が漏れてくる。
君は体を起こし、全神経を耳に集中させた。
どんな格好で自慰をしているのか、君からは全く見えないが、低いモーター音とともにぴちゃぴちゃと分泌液の塗れる音が聞こえ、やがて次第に卑猥な喘ぎ声も大きくなっていった。
君の性器も俄かに立ち上がる。
無意識のうちに君はもう中腰になりながら鉄格子のそばににじり寄り、隣の壁に密着しながら、屹立を握っている。

隣で女性が大きな声で喘いでいる。
地下の住人となった以上、既にヒトであることを捨てているからか、発情期の獣のように貪欲な声だ。
盛んに呟くように何か言葉を発しているが、何を言っているかまではわからない。
しかし君はその吐息まじりの悩ましい声に理性を捨て去り、狂ったようにしごき始める。
完全に勃起したペニスを握り、名前も素性も知らない女の情欲の声を聞きながら、君は隣の女に聞こえるように荒げた息遣いをわざと大きく響かせ、激しくその手を上下させ続ける。

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