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透明な朝、静寂の庭

目覚ましが鳴り出す前に、君は自然に覚醒した。
室内の空気は冷えきっていて寒く、雨戸が閉まっているため暗い。

畳敷きの八畳間の真ん中に敷かれた布団の枕元に行灯型のライトがあり、君は布団の中で体を反転させてうつ伏せになると、腕だけを出してそれを灯した。
目覚まし時計を見ると午前五時五十五分で、アラームが鳴り出すまでにまだ五分あった。
君はアラームが鳴らないようにスイッチを押してから、仰向けの体勢に戻り、天井を見つめる。
小さなライトしか灯っていない部屋は薄暗い。
もっとも雨戸が閉まっていないとしても、冬のこの季節、まだ六時前では夜が明けていない。

部屋に暖房器具の類いは一切ない。
だから冬は寒い。
しかし考えればすぐにわかることだが、人間以下の存在として飼われている君には、こうして雨風が凌げる部屋を与えられていること自体、とてもありがたいことなのだった。
この部屋は、母屋から独立して建てられている小さな離れなので、それほどたいそうな建物ではないが、八畳間に簡単な流しとトイレがあって、風呂はないが最低限の生活はできる。

君は布団をめくり、痺れるような底冷えの寒さの中、立ち上がった。
本来、飼われている身の君としては、衣服の着用など贅沢の極みなのだが、さすがにこの季節だけは就寝時に限ってスウェットの上下を支給されている。
ただ、それでも寒い。
しかし、物が何であれ着られるだけでもありがたい話なので、君に不満や不平はない。
そもそも君の意思など、どうでもよいのだ。
生かすも殺すも飼い主である女性の気持ちひとつなのだから、生きていられるだけで君は幸福を感じなければならないし、実際に感じている。

君は布団を畳んで押し入れにしまうと、着ていたスウェットを脱いで全裸になった。
起床後は就寝まで、全裸が基本だから、スウェットは脱がなければならない。
裸になると、冷気に歯がガチガチとなり、君は寒さを紛らわせるために体操をした。
そして少しだけ体が温まると、雨戸を開ける。

夜が明け始めている。
朝もやが音もなく冬枯れの庭を流れていく。
完璧な静寂の中、君は硝子戸を開けた。
その瞬間、凍てつく空気が流れ込んで肌を刺し、君は身震いした。
吐く息が白い。

押し入れの中の引き出しからバスタオルを一枚取り出し、君は縁側で下駄を履き、庭へ出た。
庭は、油土塀で囲まれた石庭で、箒でラインが描かれた白砂の海の中にごつごつとした無骨で大きな石が適度な間隔で配置されていて、朝もやが流れているその様は、まさに海のように見えた。
白砂に箒の線を描くのは、もちろん君の仕事だ。
しかし朝の君には、それより先に、まずやらなければならないことがある。

君はバスタオルを持ったまま庭を回り、建物の裏手にある井戸へ向かった。
そして水を汲むと、下駄を脱いで裸足になり、息を止めて一気に水を頭から被って身を清めた。
君は何度も激しく水をかぶる。
その度に全身の毛を剃り上げている君の体から盛大に湯気が立ち昇る。
仄かに白い湯気が、山の端から不意に差した一筋の金色の朝日に輝く。
やがて君は水浴びを終了し、一息ついた。
息があがってしまっていて、君は腰を折って膝に手を置き、呼吸を整える。
頭髪も陰毛も、すべての体毛を剃っているので、肌はつるりとしていて、水滴が流れていく。
ペニスは完全に縮み上がっていて、引っ込んだ亀頭を余った皮が包み込んでいる。
やがて君は手早く体を拭き、使ったバスタオルは、井戸の脇の小屋の中にある棒に掛けた。
その小屋には様々な道具類があって、君は箒を持つと、庭へ戻った。

朝の庭は、靄が消えかけていて、差し込む朝日で煌めいていた。
君は丁寧に箒で白砂にラインを描いていく。
そうして黙々と庭を手入れしているうちに、夜が完全に明け、陽光が温かく君の肌を照らしていった。
温かいといっても、ふつうの感覚であればコートを羽織りたいくらい寒い。
しかし今の君には、微弱な太陽の熱さえも、とてもありがたかった。

じきに君は庭の手入れを終えて縁側に戻った。
すると、母屋から続いている小径に人影が現れた。
それは君の飼育者である美しい女性だった。
ダウンのロングコートに身を包み、手にはロープと鞭を持っている。
君は女性の足許へ駆け寄って土下座し、額を地面につける。
「おはようございます!」

君はこの女性に対して、百パーセント従順だ。
しかし、この「従順」という言葉にはネガティブな響きがあるが、「言いなりになる」とか「奴隷になる」とか、そういう意味合いではない。
もちろん、君は飼い主である女性の「言いなり」だし、「奴隷」でもあるが、それだけではないのだ。
どこかでドッグトレーナーのような人が言っていたことだが、従順とは緊張を解いて寛ぎながら心を開いている状態であり、それはまさしく君のこの暮らしそのものなのだった。
厳しい生活だが、君の中には安らかさと豊かさが充ちている。

女性は無言のまま君の後頭部を一度踏んでから、「立ちなさい」と言った。
「はい」
女性の足が頭から下ろされると、君は立ち上がり、膝の土を払った。
「いらっしゃい」
女性は庭の中へ進み、大きな石の前まで来ると、君に命じた。
「そこに立って後ろ手で石を抱きなさい」
「はい」
君は大きな石を背にして立った。
背中に石のゴツゴツとした冷たい感触が伝わって、痛みを感じたが、むろんそのことを口には出さず両手を後ろへ回して逆向きに石を抱くような姿勢をとった。
女性が、君をその体勢のままロープで石と一緒に縛った。
君は若干のけぞるような体勢で動きを封じられ、背中や腕や太腿の裏などに石の突起が突き刺さった。
ロープをぐっと引っ張られるように縛られると、その瞬間体のいろいろな部位の皮膚が石に擦れて鋭い痛みが伝わった。
寒いせいで、痛みは全てふだんの数倍に増幅される。
君は歯を食いしばってその痛みを堪える。
この程度で声を出すことは許されない。

やがて女性は君を縛り終えると、後方へ下がり、巻いて持っていた長い鞭をひゅんと振って伸ばした。
鞭の先端が生き物のようにしなる。
「よろしくお願いいたします!」
君は縛られた状態のまま言った。
こういう状況の場合、通常の君なら既に間違いなく勃起しているものだが、さすがの君もこの寒さの中ではペニスを萎えさせたままだ。
女性はこたえず、無言のまま容赦なく鞭を振った。
張りつめた朝の冷たい空気を切り裂いて鞭が走り、君の体を打つ。
君は眼を瞑り奥歯をぎゅっと噛み締めてその痛みに耐えた。
胸のあたりに赤い痕がくっきりと浮かんだが、一発目は、なんとか声を上げずに堪えることができた。
しかし、更に強く鋭く打ち込まれた二発目は、もう駄目だった。

「うぎゃああああああ」

透明な朝の静寂の庭に、君の絶叫が響き渡った。

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カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
  1. 2012/09/2322:46

    私もムチのプレイが好きです。それまではムチの痛さは振りかぶる強さ、速さに比例していると思ってましたが、その女王様のムチ扱いは全く違いました。ゆっくり柔らかな振り方なのに最後の手首のひねりでムチの先端が私の体を鋭く突き刺し、悲鳴を上げました。だから最後の最後まで柔らかい当たりなのか鋭い当たりなのか判りません。その恐怖心におびえる私の様子を女王様は心から楽しんでいました。もう二度と会うこともないとプレイの直ぐ後は思っていた女王様でしたが、今はもう一度ムチでいたぶってほしいと探している自分がいます。

    • nk
      2012/09/2500:53

      個人的な感覚なのですが、鞭のシチュエーションというのは、なんだか妙に書きやすいです。
      書きやすいというのは、手抜きしやすいという意味ではなく、その行為を起点にした想像力を広げやすいのです。
      「SMといえば、鞭・緊縛・蝋燭(痛い・苦しい・熱い)」みたいに象徴的な行為のひとつですし、何より見た目がわかりやすいというか、綺麗なSと醜いMの対比が際立ちやすく、題材にしやすい感じがあります。

  2. 2012/09/2510:38

    鞭、緊縛、ロウソクといった痛い、苦しい、熱いプレイを何故マゾの私たちは喜ぶのでしょうか?変態だから?痛みが好きだから?苦しみからの開放感が好きだから?確かにそれもあります。ですが、本当に気持ちいいのです。緊縛は余り経験がないので”縄酔い”などどんな物か良く判りませんが、鞭も気持ちいい箇所が体にあります。ロウソクも気持ちいい居場所が有ります。あるM女さんと同じ意見だったのがアナルの穴の中へ蝋をたらしてもらうことです。直腸の中は若干感覚が鈍感なので、皮膚に垂らされた時のような鋭い痛みは無くジンワリとした間隔が楽しめます。叩かれたり縛られた後のジンワリとした痛みがとても心地よいのです。やはりマゾも人間ですから気持ちよいことが好きです。一端こういった感覚に目覚めてしまうと次もまた経験したくなります。その欲望で布団の中で身もだえるほどです。だから捨てられたマゾは次のご主人様、女王様を求めてしまうのではないでしょうか?しかも自分でやるより他の人にしてもらう方が数段気持ちいいのです。

    • nk
      2012/09/2700:01

      こちらでまとめてレスします。
      感想、ありがとうございます。
      お話はすべてフィクションというか所詮は想像の産物なので、皮膚感覚みたいなものを表すことには難しい感じがあります。
      なので時々、誰かの行為を覗き見(というと聞こえが悪いですが、要は気づかれないように見学して)そのまま文章でトレースし、リアリティのあるルポみたいなものを書いてみると面白そうだ、と密かに思ったりしますが、そんなことは人道的に許されないですし、そもそもそんな機会もなさそうで、無理なので、思いついたものを書ける時に気ままに書いていくしかないと思っています。

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