誕生

今でこそ、君は正真正銘、いっぱしの変態マゾだが、その性癖が先天性なのか後天性なのか、はっきりしない。
少なくとも、幼少の頃にそんな性質はなかったし、「性」というものに目覚めて以降に現出してきた性癖であることだけは確かだった。
ただし、その資質がもともと備わっていて、たまたまその時期に覚醒したのか、それとも、突然変異のようにそうなったのか、自分でもまったくわからない。
一般的に、男性が「性」に目覚めるのは、早ければ小学生の高学年、たいていは中学生くらいだろうか。
オクテだと高校生になってからかもしれないが、いずれにせよ十代の中頃には一気に女性に対して興味を抱き始める。
ちょうどその頃、股間に毛が生えてきたり、陰茎の皮が剥けたり、剥いたり、体にも変化が現れる。
いわゆる思春期の到来だ。

今は完全に歪んだマゾの君でも、思春期の当時は、もちろん人並みに、女性の裸に激しく欲情した。
おっぱいやお尻、股間の毛、女性器そのもの……そんな女性の体のすべてに対して尋常ではない執着と憧憬を抱いた。
そして、自慰を始めた。
やり方を誰に教わったというわけでもなかったが、気がつくと、四六時中といっていいくらいペニスをしごいていた。
最初は、ただ弄っているだけでも快かったのだが、或る日、生まれて初めて射精し、その快感に嵌ってからは、完全に猿と化した。

故に、この程度までは、君もごく普通のエロに目覚めたウブな少年だった。
とはいえ、断るまでもないことだが、エロに目覚めたといってもキスの経験すらない童貞だったし、恋人なんているはずがなかった。
当然、風俗等、金銭を介在させて異性と交わるという経験もなかった。
つまり、すべては夢想や妄想だった。

高校の三年間、君は悉く女性とは縁がなく、童貞を捨てるチャンスは一度として訪れず、それどころかキスの機会さえなかった。
彼女なんていなかったし、告白したこともされたこともなく、君は悶々とし続けるだけだった。
女の子の体を触り、おっぱいを吸い、おまんこを舐めたかった。
しかし君にはどれも無理なことだった。
そんな毎日の中で、君の精神は若干歪んでしまった。
共学だったので、周りには常に女子生徒がいたが、君にとっては近くて遠い存在だった。
スカートの裾から伸びる肉感的な太腿はたまらなく魅力的だったが、たとえ触りたいと思っても触れるはずがなく、しかし常に目の前でチラチラとするから、その永遠に続く犬のお預けのような状態は、まさに拷問か生き地獄だった。
もちろん、同じクラスの女子なら教室の中での会話程度はあったが、関係がそれ以上に進展することは皆無で、一緒に帰宅したり、放課後に遊んだり、そんなことは全くなかった。
君は確かにクラスの中に存在していたが、女子たちの眼中には入っていなかったのだろう。
そんな君はただ一方通行的に、手を伸ばせば触れられる距離にいても絶対に触れることはできない校内の魅力的な女子生徒をこっそりと盗み見るように、控えめだが物欲しげに眺めるだけだった。
そして何人かの女子生徒を夜のオカズにした。
なかでも、同じクラスにいるひとりの女の子に君は強く惹かれていた。
しかしその子は少し派手で不良っぽかったため、地味で真面目な風体の君とはほとんど接点がなく、君は遠くから憧れるだけだった。
本当は彼女の体操着や水着を手に入れたいと思ったが、もともと小心者で気弱な君にそんな大胆な真似ができるはずもなく、密かに夢見るだけだった。
それでも、やがてどうしても我慢ができなくなり、君は一度だけ、放課後に「忘れ物をした」という理由で一旦帰宅してから再び学校へ行き、担任に鍵を借りて教室に入ったことがあった。
その時、君は勇気を振り絞って、好きだった女の子のロッカーを漁ったのだが、中には何もなく、激しく落胆した。
いつもならジャージ等が無造作に突っ込まれていて、そのことは密かに確認済みだったのだが、その日に限ってか、ロッカーはもぬけの殻だった。
もしも体操着やジャージがあれば、心ゆくまで匂いを嗅いだり舐めたり抱きしめたりする予定だったのだが、その希望は呆気なく砕け散った。
仕方なく君は、わざと机の中に置き忘れておいた教科書を鞄にしまい、職員室で教室の鍵を返し、帰宅した。
相当緊張していたせいか、帰り道では、どっと疲れが出た。
放課後にわざわざ教室へ忘れ物を取りに戻るなんて、何度も使える方法ではないので、破廉恥で密やかな君のささやかな冒険は、それが最初で最後となった。

その夜、君は狂ったように自慰をした。
自室で、夜寝るまでの間に、三回も抜いた。
好きな女の子だけでなく、こっそりと買ったエロ本のグラビアで、君は抜きまくった。

君はたまらなく生の女性の裸が見たかった。
君はたまらなく生の女性の体に触りたかった。
君はたまらなく生の女性の全身を舐めたかった。
君はたまらなく生の女性とキスをしたかった。
君はたまらなく生の女性とセックスをしたかった。
しかし、その願望はただのひとつも叶えられることはなかった。

後から思えば、放課後の教室で憧れていた女の子の体操着等を漁ろうと考えた時点で、ネクラだし、フェチ的な資質は芽生え始めていたのかもしれない。
というより、その女の子と現実にどうこうとは考えられなかったし、むろんその裸体を夢想して自慰はしたが、心のどこかに(自分なんかが相手にしてもらえるわけがない)という卑屈な気持が最初からあって、それは一種の諦観かもしれなかったが、むしろ要するに自信がなく、君は物怖じしていたのだった。
だから隠れるように、彼女の衣服に執着した。
それは紛れもなくマゾヒスティックなフェチの資質の片鱗といえたが、当時の君には何の自覚もなかった。
ただ己の欲望の赴くままに行動していただけだった。
マゾヒズムという言葉は知識として知ってはいたし、「女王様」とか「鞭」とか「蝋燭」とかそういうアイテムやアイコンは認識していたが、その本質については何も知らなかった。

そうしてやがて、君は悟った。
どうやら生身の女の子に実際に触れたりすることは相当難しいようだ、と。
そう認めた瞬間から、君は微妙にシフトチェンジした。
それまでにもまして、女の子の衣服等に惹かれるようになったのだ。
本体を触ったり舐めたり、挿れたりできないのなら、せめてその体に触れているものが欲しくなったのだ。
そして、それを使って自分を慰めたいと思った。
否むしろ、それくらいが自分のような人間にはふさわしい、そう感じるようになっていった。
自分程度の人間なんか、かわいい女の子の汚れた下着でこっそりとシコシコするのが分相応で、お似合いだ、と若干自嘲気味に思った。

そんな君が特に惹かれたのが、下着と靴下だった。
その二点に君は異常なまでの執着を示し、学校でも、好きな女の子を盗み見しては、どんなパンティを穿いているのだろう、と夢想し、それを手に入れてオナニーをしたい、と激しく思った。
更に、足許を見ては、上履きの中に収まっている靴下をガン見しながら、匂いを嗅ぎたい、と脳内で悶絶した。
しかし当然のことながら、それらすら君が実際に手に入れることは不可能だった。
単に憧れの対象が、生身の女の子から、その女の子が身につけているものに変わっただけで、どのみち君には縁がなかった。

そして或る日、いつものように好きな女の子の足元をこっそりと見ていたら、不意に、その当人と目が合ってしまった。
あわてて君は視線を外したが、女の子は眉を潜めイラっとした表情を浮かべると、ツカツカと君の前まで来て、感情のない目で見下ろし、思いのほか強い口調で言った。

「おまえ、何見てんだよ」
「す、すいません」

君は瞬間的に謝っていた。
しかし女の子は何も言わず、フンと小さく鼻を鳴らして嘲笑すると、小声で「キモっ」と吐き捨てて立ち去った。

その瞬間、マゾの君は誕生した。
彼女はまるでハエかゴキブリを見るかのような冷ややかな目で君を睥睨していた。
同級生なのに、彼女は明らかに君よりも上位にいて、そこから君を見下していた。
教室内にも見えないヒエラルキーが存在し、彼女はその上層にいて、君は下層の住人だった。
しかし君はそんな彼女に詰問されて、更に「キモっ」とまで言われながらも、激しく勃起した。
その状況で勃起するなんて自分でも少々意外な反応だったが、事実だった。
その時、君は何の矛盾もなく、彼女の足元にひれ伏し、しがみつき、小突き回されたい、と思った。
脱がれたばかりのパンティを与えられて、その匂いを嗅ぎながらオナニーしている姿を見下ろされ、軽蔑されたいと思った。
そしてそれは、紛れもなく君がマゾとして新しく誕生した瞬間だったーー。

思春期は、とうの昔に去った。
しかし君は今も相変わらず、むしろバージョンアップしながら、マゾとして生きている。

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カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
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