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冷たい床

ちょっとした出来心だった。
君は前を歩く女性がトイレへと続く廊下へ入っていくのを見て、それほど深くは考えることなく、さりげなくその後ろをつけた。
古くて小さな商業施設のため、廊下の奥にあるトイレ周辺には、いまどき珍しいが、防犯カメラの類いがない。
君はそのことを知っていたし、もちろん周囲に誰もいないことは確認済みで、そういう要因が重なって、君の行動の背中を後押しした。
トイレへと向かったのは、二十代前半っぽい、綺麗な女性だった。

君は胸の高鳴りを抑えながら、自らの気配を消しつつ、彼女からは少し距離を置いて尾行した。
どのみちこの廊下の先にはトイレしかない。
やがて、女性の姿がトイレの中へと消えた。
耳を澄ますと、すぐに個室の扉が閉められる音がして、その後は物音が途絶えた。
ということは、中にはいまの女性がいるだけなのだろう、と君は思い、意を決すると、素早く女子トイレに身を滑り込ませた。
もしも誰かと鉢合わせしてしまったら、男用と間違えた、と恍け通すつもりだったが、その心配は杞憂に終わった。

お世辞にもあまり綺麗とはいえないトイレだった。
古めかしいタイル張りの床は濡れていて、蛍光灯の明かりが妙に白々しい。
個室は三つあり、一番奥の扉だけが閉じられている。
いまの女性がそこにいるのだろう、と君は見当をつけ、その隣、つまり真ん中の個室に入った。

興奮と緊張で君はドキドキしていた。
それでも、蓋を閉じた便器に座り、息を殺しながら、隣の個室の気配に全神経を集中させた。
隣からは、衣擦れの音が微かに聞こえた。
たぶん下着を下ろしているのだろう、君はそう想像し、壁にぴたりと耳を寄せた。
既にペニスは勃起している。

やがて、勢いよく放尿する音が響いてきた。
君は、床に這いつくばって十センチほど開いている隙間から隣を覗きたい、と激しく思ったが、さすがにそんなことをしたら怪しまれてしまうだろうし、いっそ便器の上に立って上空の隙間から隣の部屋をそっと覗き込もうかとも考えたが、もちろん実行には移せるはずもなかった。
ただ、下から覗くよりは、上から覗いたほうが、あんがい気づかれないのではないか、と思ったのだが、リスクは相当高いので、音を聞くだけで満足しておくことにした。
何より、薄い壁一枚隔てただけの、すぐ隣で綺麗な女性が下半身を丸出しにして排泄している、とその光景を再認識すると、途轍もなく昂ってきて、ペニスが反り返った。
たまらず君はズボンのジッパーを下ろしてそのペニスを引っ張り出して握った。
そのままシコろうかとも考えたが、あまりに相手が近すぎるため、こちらの個室に不審感を抱かれたら一巻の終わりなので、自制した。
さすがに男だとは思っていないだろうが、隣の個室に人が入っていることは、気づいているに違いない。
本当は、すぐにでも床に這いつくばって、隣を覗きたかった。
そして直に尿や尻や股間を目の当たりにしながら、大胆にオナニーがしたかった。
しかし、そんな状況でもしもしごけば、音も出るし、吐息とか声とかも洩らしてしまうだろうから、そんな危険はおかせなかった。
だから君は、蓋をした便器の上で息を詰めて身を固くして座り、熱く滾るペニスを握りしめるだけで我慢した。

放尿は続いている。
じきにその音が弱まると、女性は大きな屁をした。
おしっこの強いアンモニア臭の中に、かなり強烈なガス臭が立ちこめた。
君は鼻孔を思いっきり広げながら、その香りを吸い込んだ。

そして、水が流された。
身繕いする音がかさかさと聞こえて、ドアが開き、隣の個室から女性が外に出た。
洗面所を使う音がして、靴音が遠のき、いきなり沈黙が落ちた。
その間、ずっと息を止めていた君は、女性がいなくなり、トイレ内が無人になった気配を察すると、漸く息を吐いた。
まだ勃起したままのペニスをいそいそとパンツの中にしまい、ズボンのジッパーを引き上げた。
しかし、その時になって、ふと、ここから出る際のタイミングについて考えてしまった。
個室を出て、素早く女子トイレから退出するとしても、その間に外から誰がやってくるかわからない。
この個室から出る前に靴音なり話し声なりが聞こえたら、このまま今みたいに息を殺して隠れていることは可能だろうが、もしも個室を出て女子トイレから外の廊下へ出るまでの間に誰かとかち合ってしまったら、どんな言い訳も通用しそうになかった。

困った。

君は今更、自分の軽率な行動を後悔した。
いや、後悔というより、どうして後のことを考えなかったのだ、と自分自身に呆れた。
しかし、だからといっていつまでもここにいるわけにはいかない。
もっとも、もう少しこの個室内に粘って、別の誰かが来るのを待ち、再び女性の排泄の気配や物音や芳香に酔いしれるという選択肢もあったが、いったん退出の際のリスクを認識してしまったら、悠長に居坐ることはもうできなかった。
どのみち隣の個室内を覗くことは不可能なのだし、とりあえず当初の目的はもう果たしたのだから、今日のところはひとまず退散したほうが良さそうに思えた。

君は耳を澄まし、全神経を個室の外へ向けて、人の気配を探った。
いま現在、トイレ内は確実に無人だった。
それは間違いなかった。
ただ、トイレの外の様子は全くわからない。
果たして廊下に誰かいるのか、そのあたりはどれだけ意識を集中させながらじっと耳を澄ましてみても、わからなかった。
よって、賭けに出るより仕方なさそうだった。
運を天に任せて素早く個室を出て、そのまま廊下に出る。
女子トイレという空間からいったん外に出てしまえば、あとはどうにでもなる。
たとえ誰かに見咎められても、中にいたということまでは確認できないだろうから、適当に言い繕うことが可能だ。
問題は、トイレから出る瞬間を目撃されることだ。
その瞬間を抑えられたら、まずアウトだ。
男性用と間違えてしまった、と言い切るしかないだろう。

そう決心して、君は腰を上げ、ドアに取り付けられているスライド式のロックに手を伸ばした。
と、そのとき、急に賑やかな声が聞こえて、君は動きを止めた。
そっと便座に腰を下ろし、気配を探る。
声は、二種類あった。
ということは二人組らしかった。
何について話しているのか会話の内容は不明だったが、笑い声に混じって切れ切れに聞こえてくる「っていうかさあ」とか「うっそーマジ?」とか、そんな言葉の端々からして、若いというより、たぶん中学生か高校生か、そんな雰囲気だった。

(まずいなあ)

君は、息を殺したまま、思った。
女子学生の登場は予想外に魅力的な展開だったが、完全に出られなくなってしまった。
むろん、女子学生のトイレなんて、究極的な禁断の領域だから、変態の君にとっては心がときめく状況の到来だったが、正直なところ、それを素直に喜べる心境ではなかった。
妄想なら楽しめそうだが、現実的にこのまま二人組に居坐られるなんて、あまりにリスクが高い。
しかも、いま君がいるのは、三つある個室の真ん中で、ただでさえ居心地はかなり悪いのだ。
マゾとしては、覗いているところを見つかって、「てめえ何やってんだよ」とか「糞変態、そんなに小便が好きなら掛けてやるよ」とか「ほらシコシコしてるとこ見せろよ」とか口汚く罵られ、バカにされ、小突き回される展開には憧れるが、夢想ならともかく、現実となれば、その瞬間、人生が終了する。

そんなことを考えながら、君は悶々としていた。
そうこうしているうちに、両側の個室にそれぞれ女の子たちが入った。
その気配を感じて、君の緊張はピークに達すると同時に、意を決した。
もう魔の誘惑に抗えなかった。
たまらず君は冷たい床に手をついて這いつくばり、まず右隣の個室を覗いた。
しかしどう頑張っても、視界は窮屈で、人の姿は確認できなかった。
かろうじて、便座に座っている足許が見えただけだ。
唯一の喜びがあったとすれば、下ろしたパンティが足許に引っ掛かっているのがちらりと見えたことだ。
そのパンティは、グレーの地に細い黒のボーダーが入ったものだった。
むっちりとした足、紺色のハイソックス、そして散々履き古されたローファーが、タイルの床を踏みしめていて、放尿音が続いていた。
続いて、左側も覗いた。
しかしこちらもどうにもならなかった。
見えたのは、右側と同じ足許と下ろされたパンティだけだった。
こちらのパンティは、淡いピンクのシンプルなものだった。
それでも、両側からサラウンドで響いている女子学生の勢いの良い放尿音とその芳香に包まれていると、君の理性はついに陥落した。
君はたまらずズボンとパンツを下ろして、既に限界まで屹立している貧相なペニスを引っ張りだすと、右隣の個室に向かって開いている隙間の前で再び這いつくばった。
そして隙間から隣を見上げ、ペニスを握り、激しくしごき始めた。
左ではなく右を選んだ理由は、そちらの足のほうが肉感的で、放尿の勢いもよく、アンモニア臭が強かったからだ。
顔は確認できないから、或る意味では賭けだったが、そこまで考えを巡らせている余裕はもう君にはなかった。
それでも君は、吐息とか衣擦れとか音だけは出さないように細心の注意を払うことだけは忘れなかった。
床に這いつくばってペニスをしごく君の姿は酷く不格好で、不自然で不気味に必死で、おぞましいの一言だった。
君は目を血走らせながら、飲みたい、浴びたい、と心の中で激しく思いながら、狭い視界を見つめ続け、そして、あっという間に精液を噴出させた。
ティッシュやトイレットペーパーで受け止めることなく、君はどろどろとした濃厚な液体をそのまま床に解き放った。

やがてふたりは用を終え、ごぞごそと身支度を済ませると、ほぼ同時に個室を出た。
鏡の前で手を洗う音が聞こえ、「行こっか」という声がした。
君はどんな子だったのだろう、と思いながらまだ汚れたペニスを露出したまま、勇気を振り絞って便器の上にそっと立つと、ドアの上から慎重に外を覗いた。
すると、女の子たちはちょうどトイレから出て行くところで、後ろ姿だけがちらりと確認できた。

ふたりとも、大柄で肉付きの良い制服姿の女の子で、髪を染めていて、派手な印象だった。
青いナイロン製のバッグを肩に掛けている。
短いスカートから伸びるむっちりとした太腿が眩しく悩ましい。
その魅力的な脚は、先ほど狭い隙間から覗き見上げた、紺色のハイソックスにと散々履き古されているローファーで完結していた。

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