花篝

その家の庭には、桜の巨木がそそり立っている。
樹齢は不明だが、相当な歴史がありそうだ。
家も古い。
築百年に近い、平屋建ての古民家だ。
しかし手を入れているので、みすぼらしくはない。
庭の桜は、廃屋同然だったこの民家を、現在の持ち主がただ同然で手に入れた時から、そこに植えられていた。
そして今、桜は満開を迎えている。
その巨木の傍らには、鉄製の篝籠が置かれているが、まだ火は入っていない。

この家は、君の飼い主である美しい女性が別荘のように使っている家だ。
長く空き家だった古民家を大胆にリフォームして、ほとんど新しい建物のように生まれ変わらせた。
君は、数日前からこの家に滞在している。
もちろん滞在といっても、優雅な旅行ではない。
君は彼女の所有物として、時には家畜、時には奴隷として、連れてこられているだけだ。

よく晴れた日だが、気温は低く、夕方になって吹きはじめた風は冷たい。
もう四月で春だし、陽射しは明るいが、標高八百メートルの地の空気はまだ冷たい。
三寒四温とはよく言ったもので、温かい日があったかと思うと、また冬に逆戻りしたかのような日もある。
山間の集落の最も奥まった場所にひっそりと建つその家の周囲は、深い雑木林で、静まり返っている。
他の家も近くにはなく、風が吹き始めると、その風の音と、風が揺らして擦れる木々の音くらいしか聞こえない。

空は、雲ひとつなく晴れ渡っているが、そろそろ陽が大きく傾いている。
黄昏の光の中で、満開の桜が白い。
君は縁側から、庭に裸足で下りた。
むろん、君は全裸だ。
家から出ると、寒さが身に沁みた。
思わず君は体を竦ませた。
冷たい風が吹きつけて、全身に鳥肌が立ち、自分の意思とは関係なく歯が勝手にガチガチと鳴った。
庭は全体が夕暮れの黄ばんだ光に照らされていて、冷え冷えとしている。

君の首には、赤い革の首輪が装着されている。
その首輪に長いリードが接続されていて、その先端は縁側に座っている女性の手にある。
女性はスポーツウェアの形をしたピンクのペロアのセットアップの上に、銀色のダウンのベストを着ていて、ニットの帽子を目深に被っている。

君は風から身を庇うように背中を丸めながら、庭を桜の木の根元へと歩いた。
リードが一杯近くまでのびて、女性は君の後ろをついてくる。
庭の地面は土が剥き出しで、小石も混じっているので、君は裸足の足の裏が痛くてたまらなかったが、まるで紙鑢で全身の肌を擦られているような冷たい風の感触で、その足の裏の痛みは相殺されかけている。
そんな状況だから、当然、さすがの君でもペニスは萎えている。
寒さによってすっかり縮み上がったペニスは貧相極まりない。
何せ典型的な短小包茎なのだ。
包皮が完全に亀頭を被っていて、更に余っているため、それはまるで象の鼻を思わせる。
ただし、そのサイズはせいぜい手の親指よりも多少大きい程度だから、むしろポークビッツのようで、しばしば「股間に親指が生えている」と揶揄されるほどだ。

大きく枝を広げた桜の木の下は、大きな陰になっている。
強い風が吹くと、花びらがはらはらと舞って君の視界を彩る。
その彩りは君の孤独をいっそう際立たせていく。
君は桜の木の根元まで辿り着くと、その幹に背中を凭れさせかけて立った。

女性はそんな君の側まで来ると、リードから手を離して地面に落とし、その代わりにコートの右ポケットから手錠をふたつ取り出した。
そして、君の両腕を左右に水平に上げさせると、広がる枝のそれぞれに手錠で繋いだ。
女性は更に、左のポケットから赤いロープの束を取り出すと、解き、君の体を桜の木に縛りつけていく。
その際、君は左足だけを持ち上げるように膝の辺りで枝から吊られた。
そんな片足吊りの体勢になることで、自然と股間が剥き出しになり、醜く縮み上がるペニスが殊更強調された。

やがて君は、胸元辺りから右足の膝の下辺りまで、桜の幹にロープでぐるぐる巻きにされた。
かなり強く縛り付けらけたため、肉がはみ出すようにロープとロープの間で膨らみ、君はまるでチャーシューみたいな姿を晒しているが、手は手錠で繋がれていて下ろせないし、ほとんど身動きが取れない。
無理に動こうとすれば手錠の金属製のカフが手首に食い込んで擦れるし、膝で吊られた左足が酷く傷む。
ロープの擦れは、手錠の金属とはまた異質の痛みがあって、冷えきった肌には過酷だった。

君は怯えきった眼を女性へと向けた。
女性は君よりも背が高く、顔はあたまひとつ分くらい高い位置にあり、君は見上げるように視線を泳がせる。
女性はそんなオドオドとした君を、感情のない瞳で睥睨する。
その威圧的な視線に、マゾの君はつい昂ってしまう。
性器に昏い血が滾るのを感じながら、しかしその視線の冷徹さに堪え兼ね、君は地面に視線を落とし、身を固くした。

君は女性が怖かった。
女性はすべての面に於いて君より上位に位置する存在で、生き物としての格が違う。
君は生物の中でもゴキブリやハエ等と同等ともいえる最下層のマゾ豚だから、本来なら同じ空間の同じ空気を吸っているだけでも畏れ多いのだ。
そのことがわかっているから、わかりすぎているから、今の君は女性が恐ろしくてたまらない。
しかし同時に、このように無様で醜い人間以下としか思えない姿を美しい女性の前で晒すことができているというマゾ特有の喜びにも包まれている。

女性は、篝火を点火した。
そしていったん君を放置して家へ戻った。
君は、庭にひとり、取り残された。
そのうちに陽の光は絶え、重厚な暗い夜が下りてきて、世界を黒く塗り込めていった。
篝火が、ゆらゆらと揺れる。
夜の中、君の醜い裸体が花篝の火影に浮かび上がる。

どれくらいそうしていたのか。
じきに、再び女性が家の中から庭へ出てきた。
無言のまま君の前へと歩み寄る。
君の緊張が俄に高まる。

女性が君の目前に立ち、顔を君の顔から数センチの位置まで近づけた。
美しい顔貌を炎の昏い橙色が仄かに染める。
強い視線が君の眼へと注がれる。
香水や髪の甘い匂いが君の鼻孔をくすぐり、君の緊張は高まる。
真っ赤なルージュが塗られた唇がたまらなくセクシーだった。
君は思わず息を止める。

「口開けな」

女性が冷めた視線を注いだまま、感情の起伏のない声で静かに命じた。

「は、はい」

君は怖ず怖ずと口を開いた。
すると次の瞬間、女性は君の開いた口の中へ唾を吐いた。
更に、女性は「いいと言うまで飲み込むな」と命じておいてから、かーーぺっ、と痰も吐いた。
どろりとした生暖かい感触が、君の口腔内を充たす。
女性は再び、かーーぺっ、と痰を吐いた。
そして、口の中に唾やら痰やらを溜めたまま、まるで痴呆のように唇を開いている君の顔に、続けざまに何度も、ぺっぺっと唾を吐いた。
唾は君の顔だけではなく、胸や腹、更にはペニスにまで吐きかけられた。

ふと気付くと、いつのまにか君は勃起していた。
亀頭も三分の二ほど露出している。
仮性包茎の君にとって、それがマックスだった。
どれだけ屹立しても、亀頭がすべて露出することはない。

「口の中のものを全部飲みなさい」

女性が命じた。
君は思いっきり、ごくり、と口の中に溜まっているすべての体液を飲み込んだ。
幸福の感触が喉を滑り落ちていき、君の心を至福が充たす。

「ありがとうございますっ」

君は唾塗れのまま、身動き取れない状態で首だけをこくりと下へ向けて言った。
女性はその言葉に対しては何も答えず、ポケットからティッシュを取り出すと、勢いよく鼻を擤んだ。
そして、もう一度、無慈悲に「口!」と命じた。

「はいっ」

君は間髪入れずに口を開いた。
女性は使ったティッシュを無造作に君の口に突っ込んだ。

風が吹いて、篝火が大きく揺れた。
はらりと舞い散る桜の花びらが、君のペニスの先端に落ちて、女性の唾に塗れた余り気味の包皮に引っ掛かった。

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カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
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