ホーム > 金の鎖、銀の鞭 > 歪んだ旋律

歪んだ旋律

服従は、君にとって歓びだ。
強く逞しく美しい女性の足許に一糸纏わぬ生まれたままの姿で跪き、ひれ伏して服従する時、君は歓喜に包まれる。
その際、女性は立っていても椅子に座っていてもどちらでもいい。
君が床にいて、女性の視線が上方から降り注げば、それでいい。
常に女性が君より上位でいることが重要なのだ。
君と支配者である女性の地平は、同じ高さにはない。
必ず君が、下だ。
そこに例外はない。

そして、女性の強さや逞しさといっても、決して体力や筋力の話ではない。
もっと内面的なことを含む。
もちろん、肉体的に圧倒的な迫力でねじ伏せられる状態も悪くないし、嫌いではない。
ただ、それだけではない。
支配者としての女性は、その存在そのものが、既に強いのだ。

勿論、いくらS女性といっても、一般的な成人男子の君より肉体的に勝る女性はそうそういない。
なかには格闘技経験者などで並の男よりは全然「強い」女性もいるかもしれないが、それは稀だ。
たいていの相手なら、もしも本気の殴り合いなどになれば、男の君のほうが体力的には上だろう。
しかし、根本的な問題として、君は精神的にマゾだから、いくら自分より体力が劣る相手であっても、支配者であるなら、逆らえないし、逆らわないし、暴力を振りかざすことなど前提として既にありえない。
だから、肉体的とか体力的とか、そういうことは、たいして意味がないのだ。
君は正真正銘の変態マゾだがロリコンではないのであり得ない話なのだが、もしも仮に君の支配者女性が、か弱い小学生だったとしても、やはり君は勝てない。
たとえきつい叱責のひとつ、パンチの一発で泣かせることができてしまうとしても、君はただひれ伏し、服従するしかないのだ。
それがマゾという生き物である君の本質だ。

君の中にはいつも歪んだ旋律が流れている。
それは暗く澱んだ、しかしどこか甘い響きを内包する不思議な流れだ。
誰にも聴こえないし、誰にも聴かせられない、君だけのその旋律は、決して美しくはなく、醜い。
しかしその流れは、熱帯の湿地にある生温い泥の沼のように、見ている限りでは醜悪だが、いったん沈み込んでしまうと、妙に快い。
そして一度その快さを経験してしまうと、あとは嵌り込んでいくだけで、抜け出すことは難しくなっていく。
というより、抜け出す気がスポイルされていってしまい、どんどん深みに沈みつつ、変態のマゾとしてもう引き返せなくなっていく。

マゾの道は、一方通行だ。
ふと立ち止まることはできても、戻ることはできない。
引き返す、という選択肢ははじめから存在していない。
いったん足を踏み出したら、どこかの地点で停止して野垂れ死ぬか、もう進めなくなるその瞬間まで、ひたすらとことん先へ進むしかないのだ。
そして進めば進むほど、「まともな人間」からは遠ざかっていく。
マゾは孤独だ。
だからその孤独に堪えかね、その道から離れたいと思うこともあるだろう。
しかし、もしもそれを実行に移すなら、立ち止まるでも戻るでもなく、ただ静かにその道から外れるしかない。
ただしマゾの一本道は高い山の尾根の稜線を辿るように続く縦走路のようなものだから、両側は切り立った崖であり、場合によってはその深い谷に落ちるかもしれないという覚悟がなければ、なかなかその道から離れることはできないだろう。
それでももちろん、自分の意思でマゾの道から逸れることはできる。
進むべき道の選択は常に自由だ。
けれども無論、その道から離れて果たして幸福になれるかどうかは、誰にもわからない。
心に刻まれたマゾの刻印は、一生消えない。
後からどれだけ取り繕ってみても、決して消えない。
優雅に脚を組んで椅子に座る美しい女性の前の床に全裸で跪き、ペニスを破廉恥に勃起させながら、ヒールを脱いだその女性の脚を掲げ持ち、その指を口に含んで恍惚の表情を浮かべた記憶は、永遠に心に刻まれる。
縛れて吊られ鞭を打たれた心と体の疼きは、永遠に血液の中を流れ続ける。
死ぬまでマゾを全うするか、死へ向かう生の途上のどこかで違う道を選ぶか、それは君の自由だ。
すべての選択は君の手に委ねられている。
マゾとして生きることは、或る意味、楽だ。
奴隷は何も考えず、ただ命令にのみ従っていればいい。
しかし、ふとした瞬間に別の道を夢想することもあるだろう。
マゾであることを無理に放棄する必要はないが、その時、道を変えることはできる。
君の生は、たとえそれが歪みきっていようとも、誰のためでもなく、誰のせいでもないから、どこへ向かうか決めることに他人の意見は関係ない。
君が行きたいと望む場所へ君は行けばいい。
それがマゾの道の先にある場所なのか、違う道の先にある場所なのか、そのことを見極めたうえで、どうするか決めればいい。
ただ、マゾの道が一方通行の一本道であることは変えようがないから、いったん道を離れたら、二度とその道に戻ることはできない。
できないというより、そんなことは許されない。
どのような決断を下すとしても、その覚悟だけは必要だ。
もっとも、生きていくことの覚悟は、マゾの道に限ったことではない。
どんな道でもそれは一緒だ。
もしも再びマゾに戻りたいと思ったら、そのときはまたこれまでとは別の新しいマゾの道を最初から切り開いていかなければならない。
以前のマゾの道は、君が離れた瞬間、既に消滅している。
それが、どれだけの時間、どれだけの経験や体験を積み重ね地道に丁寧に育んできたマゾの道であっても、君が離れた瞬間、砂上の楼閣が吹きつける風に崩れるように、無に返す。
道は歩いていくことで前へ伸びていくが、そのまま後ろには刻まれない。
確かな道はいつだって踏みしめる足の下にしかない。
未来も過去も風の中だ。

マゾの道に踏み出すきっかけは人それぞれだ。
初めてSMクラブへ行った時がそうである人もいれば、たまたま何かの拍子に女王様のグラビアなどを見て電流が走り覚醒してしまった人もいるだろう。
もしかしたら、何度かクラブでプロとプレイをしていてもそれほど嵌らず、何人かのプロの女王様の調教を渡り歩き、ある時、ある女王様に調教されていて、聖水を飲んだ瞬間にその道に堕ちた、というパターンもありえるかもしれない。
或いは、学生時代に女の子と喧嘩してビンタをされた瞬間、わけがわからない未成熟なままその道へ図らずも踏み出してしまった人だって、いないとは言い切れないだろう。
ただし、きっかけはどうであれ、いったん踏み出してしまったなら、その誰もが等しく変態マゾであり、その同士の間に上下の差異はない。

君という変態マゾは、あきらかにノーマルの人間とは違う資質を持った存在だ。
崇高でも特別でもないが、特殊だ。
ふつうの男は、女性に跪き服従することに歓びなど感じない。
ふつうの男は、自ら率先して縛られたり鞭を打たれたりすることを望んだりしない。
ふつうの男は、唾を顔に吐きかけられたり蒸れた足の指を舐めたりしながら勃起なんかしない。
ふつうの男は、女性の小便を「聖水」、大便を「黄金」と呼んで崇めながら飲んだり食べたりはしないし、「便器」呼ばわりされながら顔や体にそれらを引っ掛けられて喜んだりはしない。
ふつうの男は、女性の前で自慰をする姿なんて晒さないし、罵倒や嘲笑の中で射精することに心を昂らせたりはしない。
変態マゾは、異常だ。
しかし、異常だが、異常者ではない。
どう理論武装してみても、その特殊な性癖が異常であることは間違いない。
とはいえ、誰に迷惑をかけるわけでもないなら、全否定されるような資質ではない。

だから君は後悔なんかしないだろう。
時々、ふと冷静になった瞬間に自己嫌悪に陥ることはあるかもしれないが、というより、SMクラブでの調教が主なライト層のMなら、プレイで射精を果たした後などはいつもそういう内面との戦いかもしれないが、しかしすぐに、自らが背負ってしまった逃れられない宿命に気づき、受け入れるしかない、という結論に達する。
受け入れなければならないとか、そういう諦観じみたことではない。
選択肢はそれしかないのだから、選択させられるのではなく、自らそれを選択するのだ。
マゾ性は、その「性」という字が示す通り、「サガ」だから、どうしようもない。
人間が男や女として生まれてくるように、マゾはマゾとして生まれてくるのだ。

世界から隔絶された部屋で、今夜も君は変態マゾとして覚醒し、華やかに墜落し、飛翔する。
君は固いフローリングの床で四つん這いになり、女王様に尻を向けてそれを高く掲げた。
そして額を床につけて自分で両手を使って尻の肉を広げ、アヌスを露出させながら、くねくねと腰を振って懇願する。
「女王様、どうか犯してください」
「どこを? どうやって?」
女王様の冷めた声を背後から聞き、君は答える。
「淫乱なケツマンコを、女王様のお指で犯していただきたいです」
「その汚く醜いケツの穴を指で穿ってもらいたいの?」
「はい! どうか、どうか宜しくお願い致します!」
君はいっそう尻の肉を広げ、腰をくねらせてそう言う。
もちろんペニスは完全に勃起している。
腰を振ると、それも一緒にぶらぶらと揺れる。
しかも、その先端からは透明な汁が糸を引いて床へと滴っている。
その姿は、哀れな一匹のマゾ豚だ。

そうして君は今日も自らの内面から響く歪んだ旋律に身も心も委ねながら、手を携えて共に進む者もない、果てしなく孤独で光には至らない道を行く。

広告
カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
  1. まだコメントはありません。
  1. No trackbacks yet.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。