櫻影

日に日に空気が温くなってきた。
しかし夜はまだ寒い。
もちろん真冬よりはましだが、陽が落ちると、一気に気温が下がる。

君は夜の遅い時間、勤め帰りに、ひとりの夕食でファストフードの店内にいる。
黄色い『M』のロゴが目立つ、ハンバーガーショップだ。
その二階の壁際のテーブルで、君はテリヤキバーガーのセットとチキンナゲットを食べている。
店内は空いていて、二階のフロアには今、君の他に、窓際の席に制服姿の女の子のグループがいるだけだ。
派手な雰囲気の三人組で、賑やかに談笑している。
あまり行儀が良いとはいえない女の子たちで、胡座をかいていたり、ローファーを脱いで片足だけ膝に乗せていたりして、ミニスカートから伸びるムチムチの太腿が悩ましく、いちいち挑発的だ。
無論、本人たちに挑発している意識は希薄だろうが、M気の強い君としては、気が気でなく、ついつい視界の端に捉えてちらちらと覗き見してしまう。
紺ハイソの爪先がたまらない。
跪いて匂いたい……そんなことを悶々と思いながら、君はさりげなく、しかし執拗に彼女たちを見つめる。

君は何気ない風を装ってハンバーガーやポテトを頬張りながら、なまじか直近で若い女子の生足等を見てしまったが為に、妙にムラムラしてしまい、予定外のことだったが今夜これから風俗へ行こう、と考え始めていた。
ガールフレンドがいればいいのだが、見た目も悪く、そのうえ変態M男である君に、当然そのような人はいない。
君は少しだけ卑屈な思いを抱えながら、しかし尚も女の子たちの太腿を盗み見しながら、あの脚に触りたい、あの脚を舐めたい、と心の裡で悶える。
こんな精神状態では、このままおとなしく帰宅して寝るなんて、とうてい無理な話だった。
自慰では収まらない。
しかし、マゾの君だったが、今夜の気分としては、本格的でトラディショナルな調教を受けたいという感じではなかったので、M系のヘルスにしようと思った。
SMクラブでは当たり前だが基本的に自由に女体には触れられないし、いろいろなところを好きなように舐めることもできない。
今夜の君は、触りたいし、舐めたかった。

そんなことを考えながら女の子たちの様子を覗き見していると、不意に、三人のうちのひとりと眼が合ってしまった。
君は慌てて視線をそらし、テーブルを見ると、素知らぬ風でナゲットを齧った。
それでも、なんだか強い視線を感じた。
女の子たちがじっと自分を見ている、そんな気がした。
しかし元来気弱な君は女の子たちの方を見てそれを確かめることもできず、黙々とナゲットやポテトを摘んでは口に放り込み、咀嚼し、コーラで流し込んだ。
味なんて全くわからなかった。
緊張で全身の神経が強張っていた。
気のせいかもしれなかったが、女の子たちの声のトーンが少し下がり、何やら囁き合っているような雰囲気が伝わってきて、君は余計にテーブルから視線を動かせなくなってしまった。
とはいえ、このまま機械的にポテトやナゲットを食べ続けることにも無理があった。
既にナゲットはなくなっていたし、ポテトも残り少なくなってきている。
ハンバーガーはもうとっくに食べ終わっていて、コーラも三分の一ほどになっていた。

君はポテトを摘みながら、ついに耐えきれなくなって、そっと彼女たちの方を見た。
すると、三人のうちのひとりが、わざとなのか、君に向かって大きく脚を開いて座っていて、スカートの奥のパンティを見せつけていた。
それはグレーの地に黒いボーダーの綿パンで、思わず君は瞬間的に見入ってしまった。
勿論、堂々と見つめたわけではない。
あくまでも視界の隅にそれをさりげなく捉えつつ、しかし意識のフォーカスは完璧にその狭い三角地帯に合わせて、決して女の子たちの顔は見ないようにしながら、ぼそぼそとポテトを齧り続けた。
胸の裡では、(生のパンティだ!)と俄然気持が昂っていて、それを抑えることに苦労していた。

と、その時、女の子の声が、響いた。
「何見てんだよ」
君はそのまるで冷水をぶっかけられたような一言ではっと我に返り、衝撃に戦きつつも視線と意識を女の子たちの方から完全に外して素早くポテトを摘んだ。
そして、聞こえない振りをしてコーラに手を伸ばす。
「シカトぶっこいてんじゃねえよ」
更に女の子の声がして、君は漸く(自分に言っているのか? いったい何なのだ?)という風に素っ恍けた雰囲気を繕ってゆっくりと顔を上げ、女の子たちの方を見た。
三人ともじっと君を見据えていた。
君は上目遣いで恐る恐る言った。
「ぼく……ですか?」
「はあ?」
女の子のひとりが立ち上がりながら眉間に皺を寄せた。
「ナメてんのか、おい」
他の二人も続いて立ち上がり、つかつかと君のテーブルまで来ると、君を取り囲んだ。
「な、何ですか?」
君は恐怖と緊張でなかば固まりながら声を震わせてそう言い、女の子たちを見上げた。
キョドリながら精一杯声を絞り出した君を、女の子たちは冷ややかに見下ろした。
君はもう極度の緊張で完全に固まっていた。
自分よりも遥かに年下の女の子たちに睥睨されて、びくびくしていた。
無論、マゾの君だから、その異常な状況に激しく勃起している。
「パンツ、見ただろ」
女の子のひとりが強い口調で詰問する。
「い、いいえ、見てないです」
君は激しく首を何度も横に振った。
意識することなく、自然と君は敬語を使っている。
そんな君の肩を、ひとりが掴んだ。
「ふざけんなよ、てめえ、ちょっと立て」
「やめてください」
君は必死に懇願した。
「いいから、ちょっとついて来い」
肩を掴む手に力が込められた。
君は椅子にしがみつくように居坐り、その力に抵抗した。
「逆らうのか? 抵抗するなら、大声で『痴漢!』と叫ぶぞ」
「どこへ行くのですか?」
痴漢と叫ぶ、と言われたことで君は抵抗する気力を削がれ、おどおどしながら訊いた。
「黙って、おとなしくついてこい」
「は、はい……」
君はまだ決してパンツを盗み見たことを認めたわけではなかったのだが、もはやそんなことは関係なかった。
椅子から立ち上がり、ブリーフケースを持つと、三人の女の子たちに取り囲まれながら、階段を下り、そのまま店の外へと連れ出された。

刑事に囲まれながら護送車から警察署へと連行されていく犯罪者のように君は女の子たちとすっかり人気がなくなった商店街を進み、やがてアーケードが途切れた。
その間、女の子たちは無言だったし、君も何も言わなかった。
正確にいえば、何も言えなかった。
緊張で口の中はカラカラだったし、何より怖くてたまらなかったからだ。
女の子たちは三人とも大柄で、その迫力に貧弱な君は完全に圧倒されていた。

やがて小さな神社があった。
鬱蒼と茂る木立が闇の中に蹲っていて、その中へと女の子たちは君を連れていった。
境内は無人だった。
もともと社務所も何もなく、小さな社があるだけの神社だった。
心細げな水銀灯が一基だけ頼りない光を灯していた。
その光の下を通って女の子たちは君を社の裏手へと回った。
するとそこには桜の巨木があって、満開だった。
闇の中に白い花がまるで夢のようにぼうと浮かび上がっている。

「てめえな、ナメんじゃねえぞ」
女の子のひとりに君はどんと押され、桜の木に背中をしたたかにぶつけた。
そのまま胸倉を掴まれ、真正面から睨まれる。
「コソコソとうちらの方を見やがって、ふざけんな、屑」
「す、すいません……」
君は女の子の視線から逃れて地面に目を落とした。
相手は自分より遥かに年下の女の子たちなのに、冷たいその目の迫力に完全に気圧され、君は怯えを隠せなかった。
口の中がカラカラに渇いていて、何度も生唾を呑み込む。
「おめえなあ」
女の子は胸倉を掴む手に力を込めて捻りあげるように君に前を向かせ、じっと睨んだまま、ペシペシと小刻みに頬を叩いた。
「謝るときはちゃんと相手の目を見ろよ、いい歳してそんな常識もねえのか? あ?」
「すいません……」
君は慌てて顔を上げ、恐る恐る女の子の目を見つめると、頭を下げた。
そんな君に、女の子は情け容赦ない強烈なビンタを浴びせた。
「ざけんな」
「も、申し訳ございません……」
「ったく、うぜえ」
女の子は短く吐き捨てると、君の胸倉を掴んだまま、膝を鳩尾に叩き込んだ。
思わず君は「うぐっ」と呻いて体を折った。
女の子の手が離されて、その場で蹲る。
間髪置かず、背中や横腹や尻を次々に蹴られた。
君は頭を両手で庇いながら、必死に謝罪した。
「すいません、お許し下さい」
「許して欲しければ、土下座だろ、土下座」
女の子のひとりが、ガンガンと君を踏みつけながら言う。
「は、はい!」
君はもぞもぞと地べたを這いずり回りながら体勢を整えて女の子たちの前で跪き、額を地面につけた。
「申し訳ございません」
「生意気なんだよ、おめえはよ」
女の子のひとりがローファーの底で君の後頭部を踏んだ。
「すいませんすいませんすいません」
いつしか君は泣いていて、涙声になっている。
小さな石や砂が額にめり込んで擦れ、痛かった。
勿論、そうして土下座している間も容赦のない蹴りが浴びせられていて、君は泣きながら必死に痛みを堪えていた。
「おら、顔上げろ」
ひとりの女の子が君の髪を掴んで引っ張り上げた。
されるがままに君が顔を上げると、唾を吐かれた。
三人がぺっぺっと次々に君の顔に唾を吐きかけた。
君は思わず、「ありがとうこざいます!」と言ってしまった。

「顔に唾吐かれて、ありがとうございますって、おめえマゾかよ」
女の子が君の胸を正面から蹴った。
君は後方へのけぞり、桜の木に凭れた。
その際、尻餅をついて体育座りのような格好になったので、すかさず命じられた。
「ちゃんと跪いとけや」
「あ、すいません」
君は慌てて正座をした。
そんな君の頭を女の子は掌で叩いた。
「愚図はどうしようもねえな」
「申し訳ございません」
君は深々と頭を下げた。
そんな君を、再び女子たちは蹴り、殴り始める。
その暴行の中で、君の何かが弾けた。
次の瞬間、君はいきなりいそいそとズボンを脱ぎ、パンツも下ろしていた。
勃起したペニスが飛び出る。
しかし包茎の君のそれは、勃起しても亀頭のほとんどは皮に包まれている。
それでも君はその貧相なペニスを空に突き立てながら絶叫する。

「オナニーさせてください!」

オドオドした目で女の子たちを見上げながら君は哀願した。
君の必死なその姿を女の子たちは手を叩いて嘲笑する。
「おめえ、どさくさに紛れて何勝手にチンコ出してんだよ」
「すいません」
君は謝罪の言葉を述べたが、ペニスは熱り立ったままだ。
微風が吹いて桜の梢が揺れ、花びらが舞い、女の子たちの罵詈雑言が蹴りやビンタと共に降り注ぐ。

「すいませんじゃねーよ」
「しかもホーケイだし」
「まじキメえ、死ねよ、変態」
「ちっこい象の鼻じゃねえか」
「脳味噌、溶けてんじゃね? こいつ」
「つうかさ、これで勃ってんの?」
「めっさ皮被ってるし」
「なんか、股の間から小指が生えてて笑える、つか、こいつ奇形?」

女の子たちは君を小突き回し、無遠慮に侮蔑の言葉を浴びせ続けたが、しかし変態の君は、その甘美な言の葉たちにいっそう昂ってしまう。
しかも性懲りもなく、再び執拗に懇願する。
「お願いします、どうかオナニーさせてください!」
切なげな目を女の子たちに向けると、女の子たちは爆笑し、嘲るように言った。
「オナニーオナニーってうるせえな、そんなにシコシコしたけりゃ勝手にやれよ」
「ありがとうございます!」
君は瞳を輝かせて礼を述べ、膝で立つと、右手でペニスを握り、激しくしごいた。

「マジでしごいてやがる」
「ありえねえ」
「こいつヤバくね」
「つうかふつうにキモ過ぎる」

そんな煌びやかな言葉たちが降り注ぐ桜の影の中で、君はあっという間に射精した。
粘り気の強い白濁液が宙を飛んで地面に虚しく落ちる。
「もうイったのかよ」
女の子たちが手を叩いて笑う。
そして君を蹴り、尚も唾を吐きかける。

風が吹き、桜の花びらが盛大に舞って、君の視界を仄白く閉ざした。

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