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ハッピー・バースデイ

誕生日の夜、君はいつも通りに仕事を終えて、いつもの駅でいつもの列車を降りた。
夜の八時に近い、普通しか停まらない私鉄の駅に、人は疎らだった。
君は改札を抜け、通い慣れた自宅への道を歩きだす。
誕生日といっても特別なイベント等は何もない。
変態M男で、異性とはまるで無縁の君に、祝福してくれる人などいない。
夕食は勤務先近くの定食屋で済ませた。

駅前の通りを外れ、暗い道を進んでいくと、不意に電柱の陰から人影が現れた。
ソフト帽を目深に被った背広姿の小柄な男だった。
帽子も背広も靴も黒で揃えている。
「こんばんは」
男は微笑みながら軽く頭を下げた。
君は訝しみつつ曖昧な会釈だけを返した。
すると男は笑みを維持したまま続けて言った。
「お誕生日、おめでとうございます」
君は突然そんな事を見ず知らずの人から言われて戸惑い、更に不審感を募らせた。
そんな返答に困っている君に、男は安心させるように何度も首を小さく振った。
「決して怪しい者ではありません、警戒される気持はわかりますが、心配は要りません、わたしは無害な存在です、わたしはあなたに誕生日プレゼントを持ってきただけです」
周囲には誰もいない。
確かに若干胡散臭いが、それほど悪い人にも見えなかった。
男が重ねて訊く。
「今日はお誕生日でしょう?」
君はこくりと頷いた。
「ええ、まあ」
「やっぱり、間違いなかった」
男は安堵したように言い、ポケットから小さな箱を取り出した。
それは緑色の箱で、銀色のリボンが巻かれている。
一辺が5、6センチほどの立方体だ。
「どうぞ」
男はその箱を差し出した。
「そう言われても、いきなり知らない人から物なんか貰えませんよ」
君は、いったい何なのだ? と思いながら手を振った。
男は柔和な表情で君をじっと見つめ、穏やかな口調で言う。
「大丈夫です、遠慮は無用です、さあどうぞ」
男が君に箱を更に差し出した。
君は押し切られたような、いいように言い包められたような、そんな感じで、勢いに押されて箱を受け取った。
そして訊いた。
「開けても?」
爆弾か何かだったら、ひとりの時よりこの男の前で開けたほうがいい。
すると君のそんな気持を見透かしたように男は言った。
「もちろんです、いきなり爆発するとか、変な粉が飛び出してくるとか、そういうことはありませんから」
君は軽く肩を竦めてみせてからリボンを解き、箱を開けた。
中には黒いスポンジが詰められていて、その中央部分がくり抜いてあり、そこに小さなガラス壜が入っていた。
容量は10mlほどだろうか、ほんとうに小さな壜だった。
「これは?」
「あなたが常々欲しがっていたものですよ?」
「ん?」
「ほら、いつも考えていらっしゃるでしょう? 透明人間になっていろいろしてみたいって」
君の瞳を覗き込みながら、男は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
確かに君にはそういう願望があった。
しかし誰にも話したことはない、なのにどうしてこの男は知っているのだ?
そんな当惑を優しく打ち消すように男は言う。
「難しく考えることはありません、どうぞ、しかしこれは一回分ですからよく考えて使ってくださいね、一回飲むと三時間透明でいられます、ただ効き目は三時間ですが、誕生日が終わる午前零時には、たとえ時間が残っていても効果は切れますからご注意ください、あともちろん安全です、体にも精神にも害はありません」
とても信じられない話だった。
ドラえもんでもあるまいし、バカにされているのか? と君は思った。
男はそっと目を伏せ、再び君を見つめた。
「まあ信じる信じないはあなたの自由ですから不要ならば捨ててください、わたしの役目はお誕生日にあなたにお渡しした時点で終わっていますから、後はどうなろうが、わたしには一切関係ありません、では失礼します」
男はそう言うと、帽子をひょいと持ち上げ、背中を見せて歩きだした。
「ちょっと」
君は声をかけたが、男は角を曲がって行ってしまった。

男が言っていた通り、透明人間になりたいとはいつも思っていた。
いた、という過去形ではなく、いる、という現在進行形の願望だ。
透明人間になって、様々な場所の女子トイレや女子校の更衣室や部室等を覗きたいとか、かわいい女の子の一人暮らしの部屋に侵入してこっそりとオナニーに耽っている場面を見てみたいとか、女風呂に入りたいとか、不埒な妄想は大好物だった。
しかしこの壜の中の液体を飲めば透明になれるなんて、とても信じられなかった。
そんなことを思いながら箱の中の壜を見つめていると、再び男の声がした。
「本当ですよ」
男は苦笑していた。
「とにかく飲むなら急いだほうがいいです、チャンスはそうそう巡ってくるものではありませんよ」
顔を上げると、いったんはいなくなった男が戻ってきていた。
試してみるのはいい、でももしかしたら毒かもしれないから、得体の知れないものを安易に口にするのは怖い──君は逡巡する。
すると男は、わかりました、と言いながら、失礼、と君の箱に手を伸ばし、中の小壜を摘まみ上げた。
「用心深い方ですね、まあそれは必ずしも悪いことではありませんが、いいですか、見ていてください」
男は壜のキャップを開けると、壜を少し傾けて中身を数滴だけ自分の手の甲に垂らした。
そしてそれを舐めた。
「ほら、大丈夫でしょう? 何ともありません、ただ、わたしがいま舐めてしまったんで、そのぶん効果の継続時間が減ってしまったと思います、まあ三時間ではなく二時間四十五分ほどと考えておいたほうが安全でしょう、とにかく、好きに使ってください、わたしはもう行きます、それでは」
男は箱の中に壜を戻してそう言うと、踵を返して立ち去った。
すぐに闇に紛れ見えなくなった。
果たして消えたのかどうかはわからなかったが、もう男はいない。

君は壜を見つめ、腕時計を見る。
20:16。
男の言う通りなら、確かに時間はあまりない。
午前零時がリミットなら、残された猶予は四時間弱しかない。
しかしこんな時間から透明人間になって行きたいところがあるだろうか。
急にそんなことを言われても、すぐには思い浮かばない。
女子校のトイレや部室等学校関係はもう閉まっているし、デパートも終わっている。
手っ取り早く試しにトイレを覗いてみるなら駅やカフェやファストフードか? 駅前に戻ればハンバーガーショップやカフェのチェーン店がある。
女湯の場合、スーパー銭湯か大きなスポーツクラブくらいしか思いつかないが、この近くにはない。
車で行くしかないが、どちらも片道三十分以上かかってしまいそうだから、その往復に残された貴重な時間を使うのはあまりにロスが大きく、時間が勿体ない。
せっかくなのだから、どんなに遅くとも九時前には液体を飲み、きっちりと時間を使い切らなければならない。
しかし透明になれるのが本当なら嬉しいが、いかんせん話が急過ぎる。
前もって(誕生日にこういう液体を上げますよ)と教えてもらえていれば充分に計画を立てることができたのに、残り四時間ほどのうち三時間弱しか効果がないなんて、条件が厳し過ぎる。
たとえばかわいい女の子の一人暮らしの生態を観察してみたいと思っても、そんな子がどこに住んでいるのかすぐにはわからないし、室内の観察なんて三時間では全然時間が足りない。
それでも、そのことをうだうだと嘆いていても仕方ない。
時間的な制約があり、それが不動なら、その中でなんとかしなければならない。
だから、ひとまず女風呂は却下だ、と君は思った。
時間をフルに有効に活用するために、これから駅に戻る。
そしてターゲットを物色しよう。
ただ、何をするか決まらなくても、九時近くになったらアテはなくても壜の中の液体は飲む。
零時に効果が切れるなら、逆算して21時がリミットだ。
それ以上遅くなると時間を目一杯使うことができず勿体ない。

ひとまず君は駅へ戻った。
小箱は上着のポケットに入れた。
駅前に戻り、とりあえずカフェに入って落ち着くことにした。
カウンターでコーヒーを買い、テーブルにつく。
周囲には女子が多い。
さりげなくトイレのほうを見ると、けっこう使用者がいる。
腕時計を見ると、21時前だった。
よし、まずはここでいい、そろそろ始めよう。
君はゆっくりとコーヒーを飲み干し、カップとトレイを返却してから、男子トイレに入った。
おしっこをし、手と顔を洗ってから、トイレの中には誰もいなかったが、念のために個室に入った。
便座を下ろしてそこに座り、ポケットから箱を取り出して壜を摘まみ上げ、見つめる。
そして一呼吸おいてから意を決してキャップを取り、中身を一息に飲んだ。
喉がカッと熱くなったが、すぐに治まった。
そしてそれ以外、とくに変化はなかった。
そのまま2、3分待ってみたが、何も感じない。
やっぱり騙されたか──そう思った時、視界の隅にあった自分の手が不意に透け始めた。
(え!?)
みるみるうちに手が透明になり、それが全身に広がっていった。
一気に全身が透明になった。
服も鞄も透けている。
(マジか!)
君は驚きながら個室から出て鏡を見た。
するとそこにはトイレの中の風景があるだけで、自分は一切映っていなかった。
(完全に透けている!)
その時、トイレに人が入ってきた。
君とさして変わらない年頃に見えるその男は、君の存在など完全に気に留めず、すぐ傍らを通り過ぎていき、おしっこをし始めた。
まったく君が見えていないのだ。
(本当に透明人間になっている!)
君は心の裡で歓喜を爆発させながら男子トイレを出た。
その際、漫画みたいにドアをすり抜けることができるかどうか試してみた。
ノブを回して普通に出ることもできたが、あえてドアに向かって突き進んでみた。
すると、するりと体がドアを通過した。
まるで温くて柔らかいゼリーの壁を通るような感覚で、君はトイレの外に出た。
君は喜び勇んで直ちにすぐ隣の女子トイレに入った。
むろんドアはすり抜けた。
中は無人だった。
しかしすぐに若くて綺麗な女の子がひとりで入ってきて、個室に向かった。
ドアの前に立っている君に気づいた素振りはない。
個室のドアが閉まり、中から鍵がかけられた。
しかしそんなもの君の前では無意味で無力だ。
君は悠然とドアをすり抜けて個室に入った。
女の子はスカートを捲ってパンティを下ろし、便座に座った。
そしておしっこを始めた。
アンモニア臭が立ち昇り清らかな水音が響く。
君は女の子のすぐ前に立っていて、狭い密室の空気は濃密だった。
生まれて初めて間近で生で目にする女の子の無防備な放尿姿は崇高で、君の興奮は最高に達する。
君は存分におしっこの匂いを胸に吸い込みながら、女の子の正面でしゃがみ、床に跪いた。
便器の中に屈み込むくらいの勢いで顔を女の子の股間ギリギリまで寄せて、超至近距離から放尿を観察した。
陰毛もおまんこも丸見えだった。
金色の美しい水流が、秘密の亀裂の奥からしなやかに湧出している。
やがて君はたまらずその女の子の股間の下に両手を揃えて差し入れ、おしっこの感触を直に受けた。
その後、手を皿にしておしっこを受け、女の子の目の前でそれを啜って飲んだ。
たまらない背徳感だった。
掌で掬った聖水も、君の体と接触した瞬間に透けるらしく、女の子は全く違和を感じていないようだった。
じきに放尿が終了し、続いて、女の子は気張り始めた。
(黄金だ!)
君は胸をときめかせながらいっそう股間に顔を近づけた。座っている体勢なので肛門は見られなかったが、じきににゅるにゅると若干柔らかめの黄金色に輝く物質が産み落とされた。
強烈な芳香が個室内に充ちた。
たまらず君はズボンとパンツを下ろし、ギンギンに勃起しているペニスをしごき始めた。
はじめは、気張り続けている女の子の顔のすぐ前にペニスを突き立ててしこり、その後、正面で跪き、一心不乱に続行した。
その際、足の間に下ろされたピンク色のパンティのクロッチ部分に鼻先を埋めて深呼吸した。
黄金の塊がぼちゃりと聖水が混じった水の中に落下して、その撥ねた高貴な水が君の後頭部にかかった。
その瞬間、君は射精していた。
濃厚な精液は直線で飛び、便器の側面にべっとりと付着した。

やがて女の子はすべての排出を済ますと、ウォシュレットを使って股間を入念に洗浄し、それから紙で拭いて立ち上がると、パンツを穿いてスカートの裾を整え、水を流した。
君はペニスを露出したまま、女の子より一足先に個室を出た。
すぐに女の子も出てきて、洗面台で手を洗うと、そのまま涼しい顔をしてトイレから出ていった。
香水のいい香りが君の鼻を擽って流れていく。
君は彼女の後ろ姿を見送りながら強烈な恍惚感と脱力感の中にいた。
素晴らしい時間だった。

君は腕時計を見た。
21:33。
余裕を見て、透明でいられる時間はあと二時間ちょっと。
君は精液が付着したまま萎え始めているペニスを露出したまま洗面台に凭れて腕組みし、次はどこへ行って何をしようか、と思案した。
SMクラブと提携しているラブホテルへ行って、他のM男のプレイを覗き見するのも楽しいかもしれない、と思った。
どの部屋でプレイが行われているかわからないが、たとえSMプレイでなくても、いろいろ楽しい光景が見られるだろうから、時間がある限り、片っ端から入っていけばいい。
今の君は何といっても透明人間なのだ。

立ちはだかる障害など、何もない。

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