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路上の死角

小腹が空いた君は、もう夜中に近かったが、財布と電話だけを持って自宅から五百メートルほど離れたところにあるコンビニまで出かけた。
もうすっかり秋で、午前零時に近い夜の空気は快く冷えていた。
寒くもなく、暑くもなく、ちょっとだけ涼しい、ちょうどいい気温だった。

住宅街の中を歩いて幹線道路から一本入った場所にあるコンビニに近づくと、暗い周辺でその一角だけが白く光っていた。
それはまるで闇夜の海に浮かぶイカ釣り漁船の灯りのように見えた。
漁船の光にはイカが、コンビニの光には人間が引き寄せられる。
チェーンのロゴマークが夜の中に浮かんでいて、店の前の駐車スペースが街灯の光に照らされている。
君は歩道を離れ、コンビニの建物に近づいていく。
駐車場に車は一台も停まっていなかったが、代わりに、車止めにしゃがんで談笑しているギャルの二人組がいた。
それぞれピンクと黒のジャージを着ていて、背中や胸元やパンツのサイドなどに派手な刺繍が施されている。
ピンクには銀、黒には金の刺繍だった。
ふたりとも金色に近い茶髪で、ジャージの足を開くようにしてたむろしている。
君はコンビニの建物へと向かいつつ、さりげなくそのふたりに視線を送り、(あのジャージの股間の匂いを嗅ぎたい)と切に思った。
ふたりともそのジャージは結構履き込まれている感じだったから、股間に顔を突っ込めばきっと素敵な香り包まれるだろう、と夢想した。
ジーンズやスカートやスラックス等よりスウェット素材のほうが良い匂いが籠っているイメージがある。
だから君はつい物欲しげな目で彼女たちの下半身を見てしまう。
勿論、恐る恐る、控えめに、チラ見するだけだ。
ふたりとも、煙草を吸いながら地面にぺっぺっと唾を吐いている。
それを見て君は、素敵だ、と思う。
願わくば全裸で彼女たちの前に跪き、四つん這いになって、地面の唾を啜りたい、そしてその姿を嘲笑われたい、と思った。
しかし、そんなことできるはずがなかった。
君は正真正銘のドMで変態だが、気弱で行動を起こす勇気など全く持ち合わせてはいない。
いつも淫らな状況を夢想しては、せっせと自慰に励むだけだ。
そんなことを考えながらチラチラと彼女たちのほうを盗み見しつつ歩いていると、不意にピンクのジャージの女の子と目が合ってしまい、君は慌てて視線を外した。
一瞬にして緊張の針が大きく振れた。
君は何気ない風を装って平然とコンビニのドアへと足を進めた。
視界の隅でピンクのジャージの女の子が隣に座る黒いジャージの女の子に何か言っている様子があったが、怖いのでそちらを見る勇気はなく、君はそのまま素知らぬふりで入店した。

君はコンビニに入ると、棚の間を歩きながらしばらく(何にしようか)と思案したが、結局コロッケサンドとコーヒー牛乳を選んで、レジで精算を済ませた。
ビニール袋に入ったそれを受け取って店を出ると、駐車場に彼女たちの姿はなかった。
先ほどまでふたりがいた場所に視線を送ると、地面には唾の溜まりと吸殻が散乱していた。
君は、さすがに唾を啜るのは無理としても、あの吸殻を手に入れたい、と思った。
しかし駐車場は店内から丸見えだし、出入りする客の姿もあるし、仕方なく断念した。
そうとう後ろ髪を引かれたが、君は諦め、コンビニを離れた。

君は、まっすぐ自宅へは戻らず、ちょっと回り道をすることにして、小さな児童公園に向かった。
気持ちの良い夜なので、そこのベンチでコロッケサンドとコーヒー牛乳を食べようと思ったのだ。
君はコンビニの袋をブラブラさせながら、暗い街路を歩いていく。
やがて公園が前方に見えてきた。
樹木が道路にせり出すように茂っているので、その周辺はいちだんと暗い。
入り口に一基だけ街灯があるが、もうすぐ切れそうで、チカチカ瞬いている。
君はその公園の入り口へ向かって歩いた。
すると暗がりに、人影があった。
フェンスに凭れるように、ふたりの女の子がいた。
それはコンビニにいた女の子たちだった。
派手なピンクと黒のジャージを見間違うはずがない。
道路を歩いている君を、彼女たちは無遠慮にじっと見つめている。
君はその視線をひしひしと感じつつ、恐怖を覚えた。
もう公園に立ち寄るのはやめて、このまま通り過ぎようと思った。
本当なら踵を返して方向転換をしたかったが、それではあまりに不自然なので、君は彼女たちのほうを見ないようにして早足で歩いた。
そして無事に彼女たちの前を通り過ぎ、ほっと胸を撫で下ろして緊張の糸を緩めた瞬間、女の子のひとりが言った。
「おい、さっきコンビニでうちらのほうをチラチラ見てたろ」
君は足を止め、声が震えてしまうのを必死に抑えつつ、彼女たちのほうを見てこたえた。
「いいえ、べつに見ていませんけど……」
「しらばっくれんじゃねえよ」
ふたりが君に近づく。
道には他に誰もいない。
君は恐怖で硬直してしまっていた。
「カネ出せよ、カネ。うちらの見物料だ」
ピンクのジャージの女の子が詰め寄り、君は路上から死角になる位置まで追い込まれた。
しどろもどろになりながら首を振る。
「お金は、ないです……」
すると黒いジャージの女の子が君の手からコンビニの袋を取り上げ、言った。
「はあ? 金なくて、どうやってこれ買ったんだ? あ? おめえ、ナメてると『痴漢だ』って大声出すぞ」
「そ、そんな……わかりました」
理不尽な請求だったが、君はふたりの迫力に気圧されて財布を取り出した。
そしてたいして入っていなかったが、ふたりの諭吉や三人の英世を引き抜いて差し出した。
小銭は残ったが、紙幣はすっかりなくなった。
完全に君はビビっていた。
しかし同時にM男の血が沸騰していて、ズボンの下では貧相なペニスが固く勃起していた。
その勃起によって、ズボンの股間が膨らんでしまっていた。
黒いジャージの女の子がそれに気づいて、呆れたようにせせら笑った。
「おめえ、カツアゲされてんのになんでチンコ勃ってんだよ」
「マジ? ありえねえだろ」
ピンクのジャージの女の子が驚いたように言い、いきなり無造作に君のペニスをズボンの上からむんずと掴んだ。
「うわっ、ガチガチ、なんだこいつ」
「M男じゃね?」
ふたりはげらげらと笑っている。
その笑い声やセリフによって、君の中で理性の箍が外れた。
次の瞬間、君は恥も外聞もなく、懇願していた。
「ぼく、おっしゃるようにM男なんです、どうかそのお金でぼくをいじめてください」
「マジかよ、こいつ」
「でも、面白そうじゃね?」
口々に女の子たちは言い合い、ピンクのジャージの女の子が君に向かって唾をペッと吐きかけた。
「じゃ、暇だし、いじめてやるよ、その代わり、何されても反撃すんなよ、逆らったら殺すぞ」
冷たい目で君を睨む。
「はい、絶対に逆らいません、宜しくお願いします」
君は、このチャンスを逃してなるものか、とM男特有の浅ましさのようなものを隠そうともせず、頭を下げた。

それから君はふたりの女の子たちにまるで連行されていくように、近くのラブホテルへ向かった。
ホテル代は女の子たちが、「おまえ、金ないだろ、うちらが出してやるよ」と恩着せがましく言って、支払った。
尤もそれはもともと君の金だったが、君に反論する権利などなく、「ありがとうございます」と礼を述べた。
部屋に入ると、女の子たちは並んでベッドに座り、君はコロッケサンドが入ったコンビニの袋を財布や電話と一緒にソファに置いてから、ごく自然に彼女たちの足元で跪いた。
そして改めて、告白する。
「変態M男のぼくを、どうかいじめてください」
「つうか」
黒いジャージの女の子が煙草に火をつけて、君をいきなり蹴った。
「とりあえず全部脱いで裸になれよ、変態なんだろ、おめえ」
「あ、すいません」
君はそそくさと服を脱いだ。
そして全部脱ぐと、股間を手で隠して正座した。
「手、どけろ」
ピンクのジャージの女の子が君の頬をビンタした。
「すいません」
君は手をどけた。
勃起した仮性包茎のペニスが跳ねるように直立する。
それを見てふたりは手を叩いて笑う。
「何もしないうちからこいつ勃ってるよ」
「しかも皮被り」
「いかにもドMって感じ」
「キモいわ、マジで」
君は両手を腿の上に置いて背筋を伸ばし正座しながら、視線を床に落としていた。
口々に罵られて、自分よりはるか年下の女の子たちにまるで叱られているようなその構図に、Mとして激しく昂ぶっていた。
「つか、なんで勃ってんだよ」
黒いジャージの女の子にまじまじと顔を覗き込まれながら訊かれ、君はオドオドしながら小声で答えた。
「Mなので……」
そう答える君に、黒いジャージの女の子は強烈なビンタを浴びせた。
派手な音が響いて、君はふらつく。
しかしすぐに体勢を立て直して、ひれ伏し、礼を述べる。
「ありがとうございます」
「こいつ、殴られてありがたがってるよ」
そう言ってふたりはいっそう面白がって次々にビンタを炸裂させた。
「どれだけ殴っても文句ひとつ言うことなく、やり返してくることもなく、逆にありがたがってくれるとか、ストレス解消にコイツ最高だわ、ちょっと、というかかなりキモいけど、この際我慢するわ」

ひとしきりビンタが続き、やがて殴り疲れたのか、女の子たちは手を止め、君に訊いた。
「ところでおまえ、童貞?」
君は頬を赤く腫らしながら、首を横に振った。
「えっと、いちおう、違います」
「一応って何だよ」
「えっと、その……」
「はっきり説明しろよ」
黒いジャージの女の子が君の頭を足で蹴る。
「すいません」
君は喉がカラカラに渇いていたので唾をゴクリと飲み込み、言った。
「一度だけソープランドに行ったことがあって……」
「は? おまえ、もういい歳だろ? いくつだよ?」
君はそう問われ、嘘をついたり無意味な見栄を張っても仕方ないので、ほんとうの年齢を告げた。
すると女の子は呆れたように訊いた。
「その歳で一度?……しかも素人童貞?」
「え、ええ、まあ」
恥ずかしさで真っ赤になりながら照れたように君が肯定すると、ふたりの爆笑が降り注いだ。
「まじすげーな、筋金入りの変態なんだな」
「すいません……」
君は返す言葉もなく、俯いた。
そんな君にピンクのジャージの女の子が不思議そうに尋ねる。
「つうか女とヤリたくねえの?」
「やりたいです」
君は即答した。
「じゃ、やればいいじゃん」
「でも、相手が……」
バツが悪そうに君が答えると、黒いジャージの女の子がすかさず言った。
「だよなー、見た目がこれで、中身が変態ドMじゃ、みんなキモがっておまえとなんか寝るわけねえわな」
「はい……」
「で、長年右手が恋人か?」
「はい」
「つか、おまえの場合右手は永遠の恋人だろ」
黒いジャージの女の子が言い、ふたりは手を叩いて大笑いした。
ありえないくらい屈辱的な状況だったが、悲しいかな変態M男の君は、いったんは少しだけ萎えかけたペニスを、興奮して再びいっそう更に固くさせてしまった。
ピンクのジャージの女の子が君の興奮など意にも介さず訊く。
「女の体に触ったのはそのソープの一回だけ?」
「いいえ」
君は妙に胸を張って即座に否定した。
「どういうことだよ? 電車の中で痴漢でもしてんのか?」
「いいえ、そうじゃないです」
君は首を横に振り、説明した。
「ソープは一回だけですが、ヘルスとかSMクラブとかへは行っているんで、触ったことは、一応あるのです」
「SMクラブ!?」
ふたりは声を揃えて上げた。
その反応に、君は顔から火が出るほどの羞恥心を覚えながら、「まあ……はい……」と頷いた。
変態M男の君にとってSMクラブは全く非日常的な場所ではないが、ノーマルの人にとってはやはり相当特殊な場所なのだろう、そのことを君は彼女たちの反応によって改めて認識させられた。
ピンクのジャージの女の子がM男の生態に興味津々といった風を隠しもせずに訊く。
「じゃああれか、『女王様~』とか言って縛られたり鞭で打たれたり『調教』されてんのかよ?」
「はい、そうです」
「超ウケるー、だったら今、うちらを女王様だと思ってちょっと『調教』の『御挨拶』とかしてみろよ、するんだろ? 御挨拶」
「はい」
君は改めて姿勢を正すと、きちんと正座し、それから両手を床につき、ゆっくりと上体を前に折ってひれ伏した。
いつも女王様の前でしているように、手は八の字に置き、体を小さく丸める。
「女王様、本日の御調教、よろしくお願いいたします」
額を強く床に押し付け、更に体を丸める。
その仕草に、女の子たちは感心したように、しかし同時に心底から小馬鹿にしたように、言う。
「うわー、きもー、本当にこんなことをしている奴がいるんだな、この世に」
「確かに、すごいわ、おまえ最高」
黒いジャージの女の子が呆れたように言い、君は居心地の悪さを覚えつつも頭は床につけたまま、礼を述べる。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「べつに褒めてねーよ」
君の後頭部を踏んで女の子は即座に否定した。
「つか変態っていうけど、具体的にどう変態なの? よくある足フェチとか?」
君はしばし思案し、こたえた。
「もちろん足も好きですが、基本的には匂いフェチです、蒸れたおみ足はもちろんのこと、腋とか股間とか、汗の匂いが好きで……あと使用済みのパンティとか靴下とかにすごく惹かれます」
「パンツなんて臭いだけだろ」
ピンクのジャージの女の子が苦笑した。
「それがいいのです」
君はそう言い切り、更に言った。
「あとは、お聖水をいただいたり、罵倒されながらオナニーを見ていただいたり……それくらいです」
「それくらいって……十分だろ」
黒いジャージの女の子が呆れたように言い、訊いた。
「聖水って、もしかして小便?」
「はい」
「飲むの?」
「はい、いつもいただいています」
「うちらのも飲みたい?」
「はい!」
君は目を輝かせて即答した。
「じゃあ、風呂場に行って洗面器持ってこい」
黒いジャージの女の子がそう言い、ピンクのジャージの女の子が彼女に「まじ?」と笑いながら訊く。
「面白そうじゃん」
「まあね」

君は「失礼します」と頭をさげると、バスルームへ走り、すぐに洗面器を持って戻ると、再び彼女たちの前で跪いた。
すると黒いジャージの女の子はすでにジャージのパンツとパンティを下ろしていた。
「漏れそうだったんだよね」
そう言うと、洗面器を跨いで腰を落とし、いきなり放尿した。
黄金色の液体が湯気を漂わせながら股間の茂みの奥の亀裂から勢いよく迸り出る。
強いアンモニア臭が立ち込める中、君はじっとその様子を凝視している。
清冽な噴出がしばらく続き、跳ねた雫が洗面器の周囲に散って、間近で正座している君の膝にも降りかかる。
やがて放尿を終えた女の子は、自分の脱いだパンティで股間を拭うと、それを放り捨て、君に命じた。
「飲め」
「ありがとうございます!」
黄金色に輝く聖水は白く泡立っている。
君は洗面器を持ち上げ、ぐびぐびと喉を鳴らして一息に飲み干した。
アンモニア臭が鼻を突き抜け、苦味が喉を締め付けたが、君はたちまち完飲した。
「すげー」
ふたりはそれを見て感嘆の声を上げた。
「美味かったか?」
放尿を終えた女の子が苦笑しながら訊いて君は満足げに頷く。
「はい、ストロングな苦味としょっぱさの絶妙なハーモニーが素晴らしくて、とても美味しかったです」
「解説すんな」
苦笑して下半身丸出しのまま女の子は、君が空になった洗面器を床に置くと、自分のパンティを拾い上げた。
それは先ほど股間を無造作に拭ったために一部が聖水で湿り、クロッチにはべっとりと分泌物が付着している。
女の子はその部分を君に見せつけた後、「欲しいんだろ?」と含み笑いを漏らしながら、それをまるでプロレスの覆面のように君の顔に被せた。
そして「いかにも変態らしい、いい格好だわ」と言いながら、クロッチの部分が君の鼻から口元にかけて密着するよう位置を調整し、命じた。
「ほら、見ててやるから、オナニーしてみろ」
「ありがとうございます!」
君は生々しいパンティの至福の芳香に包まれながら、猛然と自慰を開始した。
布地に染み込んだ芳醇な香りに陶然となりながら、猛々しく怒り狂う変態ペニスを激しくしごきあげる。
そんな浮世離れした君の様子を見てピンクのジャージの女の子が「凄まじい……」と呟きながら笑う。
自分のおしっこを飲ませ、自分のパンツを与えた黒いジャージの女の子が、吐き捨てるように言う。

「女の汚れた臭いパンツの匂いを嗅いで一生ひとりでシコシコしてろ、クソ変態!」

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