ホーム > 金の鎖、銀の鞭 > 歩行者天国のティータイム

歩行者天国のティータイム

三月に入り、日に日に春めいてきた。
まだ風は冷たいが、日差しは角が取れ、ずいぶん柔らかくなってきた。
よく晴れた空が鮮やかに青い。

日曜の午後の歩行者天国は、かなり賑わっている。
ふだんは自動車が行き交う大通りが封鎖され、人々に解放されている。
道端には、いくつかの飲食や物販のテントが出ていて、なかなかの盛況だ。

君はいま、十代の可愛い女の子とふたりで肩を並べて歩いている。
もっとも「肩を並べて」といっても、女の子のほうが大柄で君より背が高く逞しく、しかも踵の高いブーツを履いているから、その肩は君より高い位置にあって、決して「並んで」はいない。
君の隣の女の子が、君を見下ろすようにしながら、若干含み笑いを浮かべて言う。
「うちら、周りからはどう見えているんだろうねえ」
君は俯き加減に歩きながら、地面を見つめて小さく首を振った。
「ちょっと、わからないです」
そんな君の反応を茶化すように女の子は笑って君の肩を叩いた。
「つうか、なんで敬語なんだよ」
「すいません」
君は小声で謝った。
周囲の人に会話を聞かれたくはなかったから、自然と小声になってしまう。
「でも、どう見ても恋人同士って感じはなくね?」
「はい……」
「これだけの年の差だと兄妹も無理があるし」
「ですね……」
ただでさえ女の子の方が頭一つ分くらい君より背が高いので、不釣り合いなのか、人からじろじろと見られる。
加えて明らかに女の子の方が若いのに、男の方が妙にオドオドしているから、それが余計に周囲の興味を引いてしまうのかもしれなかった。
確かに、派手で若く大柄の女子と貧相で地味な君では、カップルとしてあまりにバランスが悪すぎた。
「やっぱ援交っぽく見えるかな?」
「ええ……」
しかしそうはいっても、『援交』ではない。
確かに相手の女の子の名前も年齢も知らず、かなりそれに近いかもしれないが、今日の君は、少し勇気を出して『或るサービス』を利用しているのだった。

そのサービスとは、所謂『JKビジネス』で、対価を払って女の子とデートをし、あとは交渉次第でいろいろできるという、近頃いろいろと問題となっているサービスだった。
君は心臓を捻りあげられるような緊張感の中、その店へ行って好みの女の子を指名し、こうしてデートしている。
もちろんデートだけが目的ではない。
君は女の子にいくつかのリクエストを提示し、すべて承認された。
女の子は君のリクエストをかなり面白がり、乗り気になっていた。
まず君は、ありがちだが、いま着用している下着と靴下の買い取りを希望した。
女の子はそれを聞くと笑って、「ぜんぜんオッケー」と言った。
彼女の話では、たいていの客がパンツや靴下を買っていくらしく、「むしろ、やっぱりか、という感じ」と苦笑した。
そして君は、次にもうひとつのリクエストをした。
「可能でしょうか?」
君は一通り希望を述べた後、伺いを立てるように控えめに訊いた。
「いいよ」
女の子はあっけらかんとこたえ、君は少し拍子抜けしてしまった。
しかし彼女は、「でも」と付け加えた。
「それじゃあまりに普通で面白くないから、最初は『外』でやろう」
「外、で、ですか?」
君は尻込みしながらおずおずと訊いた。
「うん、ていうかぶっちゃけ、そういうことって、パンツの次くらいによくあるのよ、でも、『外』なら初めてだから、楽しそう」
「はあ」
「心配しなくても、ちゃんと二回目は希望通りにしてあげるから、いいでしょ?」
「いいですけど……外でなんて、どういう風に?」
「大丈夫、いいアイディアが浮かんだから」
「はあ」
その後、彼女はアイディアを説明した。
君はそれを聞いて、快く承諾した。
快く承諾というより、それは率先してこちらからお願いしたいくらい魅力的な提案だったので、君は「是非、お願いします」と頭を下げた。
すると女の子は「じゃ、時間がもったいないから行こう」と君を外へ連れ出した。

そうして今、君は若い女の子と歩行者天国を歩いているのだが、正直なところ、この「歩行者天国」は想定外だった。
大通りが封鎖されてこんな風になっているなんて、知らなかった。
女の子も知らなかったらしく、君に笑いながら訊いた。
「こっちから言っておいてあれだけど、こんなに人がいて、いい?」
「ええ、まあ、今日しかないですし……」
「ま、そっちがいいならあたしはぜんぜんいいけど」
女の子はそう言うと、沿道のカフェを示した。
「ちょっとそこで飲み物買ってくるわ」
「はい、じゃあ、お金」
君は財布から千円札を渡した。
女の子はそれを受け取ると、待ってて、と言い残してカフェへ向かった。

君は人の流れを外れ、中央分離帯の傍らに立って、彼女を待った。
リクエストの合計はそうとうな金額になってしまったが、仕方なかった。
対価を支払わなければ、すべて手に入らないのだ。
贅沢は言っていられない。
ただし(女の子にとってはボロい商売だよな)とは思った。
体は売らず、というか売らないどころか触られることすらなく、諭吉が何人かやってくるのだ。

すぐに彼女がプラスティックのコップを持って戻って来た。
「冷たいアップルティーにした」
そう言って、緑色のストローを咥えて中身を飲んだ。
とうぜんお釣りがあるはずだが返ってこず、君の分の飲み物もなかった。
女の子はアイスティーを飲みながら、「冷たくて美味しい」と上機嫌だった。

よほど喉が渇いていたのか、彼女は百メートルも歩かないうちにアイスティーを飲み干し、君に言った。
「ちょっと、おしっこしたくなっちゃったから、そこのトイレに行ってきていい?」
「ええ、はい」
彼女の指す先には、ブティックやカフェなどが入っているファッションビルがあった。
「じゃあ悪いけど、また待ってて」
ビルの前で君は女の子と別れた。
自動ドアの向こうに消えていく女の子を君は見送り、その脇に立った。
もうすっかり春っぽい明るい色の服を着た女の子たちが君の前を行き交っていた。

じきに、女の子が戻って来た。
その手にはまだアイスティーのコップがある。
しかも空になったはずの透明なプラスティックのコップの中に液体が満たされている。
ストローも同じものが挿さったままだ。
女の子は君の前に戻ると、そのコップを差し出し、言った。
「あげるから、飲みなよ」
「あ、ありがと」
コップを受け取ると、それはほんのりと温かかった。
コップの中の黄金色の液体が、降り注ぐ春の明るい太陽光線を浴びて煌めく。
「歩きながら、飲めば?」
「ですね」
君は女の子と並んで雑踏の中を進んだ。
そして歩行者天国の人の流れの中で、手の中の飲み物を飲む。
ストローを咥え、一気に吸い上げる。
独特のフレーバーが口の中に広がり、鼻腔を突き抜ける。
「うまい?」
女の子がくすくすと笑いながら君を覗き込んで訊く。
「はい、おいしいです」
君は小声でこたえ、さらに飲む。
その飲み物は、女の子のおしっこだった。

君が最初に彼女に提案したのは、おしっこを浴びたり直飲みしたりしたいのでホテルへ行きたい、というものだった。
もちろんそれ以上のことは何もしない、と女の子を安心させるために付け加えた。
すると彼女は、「そういう人はいっぱいいるからべつに珍しくもなんともない、見た目は結構ふつーな感じなのに実は変態っていう人、ほんと多いからね、だからおしっこくらいいいよ」とあっさりと快諾した。
しかし、「それではちょっと面白くないから、そっちさえ良かったら」と衆人環視の街中で飲むことを勧めてきたのだ。
とうぜん君は尻込みした。
人前で飲むなんて、無理だと思った。
そもそもどうやって飲むのだ? と訝しんだ。
人前で人間便器になるなんて、さすがの変態M男の君でも無理だ。
すると女の子は、「カフェで飲み物買って、中身を空にしたら、そこにあたしのおしっこをどこかのトイレで入れてくるから、それを飲みながら歩いて、いいでしょ?」
「でも……」
それでも君がたじろぎ決断できないでいると、女の子はさらに言った。
「そうやって飲んでくれたら、追加料金なしでホテルでたっぷりと掛けてあげるし直飲みだってさせてあげるし、大サービスでそっちのベロをトイレットペーパーとして使ってあげてもいいよ」
「本当ですか?」
君は一瞬にして態度を豹変させて目を輝かせて念を押した。
「マジだよ」
女の子は苦笑して頷いた。
「つか、一気に目が輝いてんじゃん」
呆れたように言い、「どう?」と訊いた。
「是非、お願いします」
現金な君はさっきまでの躊躇を微塵もなく吹き飛ばし、その提案を受諾した。
そして浅ましいM男としての本性を剥き出しにしながら、更に貪欲にリクエストを出した。
「その場合、ひとりでシコシコして、それを鑑賞していただくことは可能ですか?」
「それくらいいいよ、いくらでも見てやるって、つうか小馬鹿にされたり嘲笑われたりすると燃えるんだろ?」
女の子はすべてを見透かしたように言った。
君は「お願いします」と頭を下げた。
そんな君に、女の子は言った。
「ただし、ホテル代はそっち持ちだよ」
「もちろんです」

君は、名前も年齢も知らない女の子の抽出されたばかりのフレッシュなおしっこを飲みながら、歩行者天国の人混みの中を歩いている。
「ねえ、どんな味?」
女の子が笑いを堪えて君に訊く。
「ちょっと苦いですが……」
君が控えめに答えると女の子は明るく笑った。
「苦いか、そりゃそうだよな、なんていったってそれは……」
そこまで女の子が大きな声で言った時、君は慌てて止めた。
「どうか、それは大声で言わないでください」
必死に君は懇願した。
「ハズいの?」
「ええ、まあ」
君は俯き、消え入りそうな声で答えた。

「ああ、デカイ声で何飲んでるか叫びてえーわ」
女の子が無遠慮に口に出す。
その声に、すれ違った数人が不意に視線を向けた。
君はそれらの視線から逃れるように地面に視線を落とし、傍らに立つ女の子に言った。
「ほんとに、どうか勘弁してください」
「ははは、はいはい、わかったから、遠慮せずにグビグビいきな」
「はい」
君はストローを咥え、ほろ苦く温い液体を、頬を窄めて吸い上げた。

広告
カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
  1. リンチマニア
    2016/03/12 21:37

    今月も最高に興奮いたしました。女性と男性の立場の違い、性癖を見透かされている描写。gmailのほうにも感想などメール致しました。おヒマがございましたらご一読下さいませ。

    • nk
      2016/03/15 19:46

      コメント、ありがとうございます。メールも、こちらを読んでからチェックしました。メアドは形式的に載せているだけで普段全くチェックしていないので、すみません。そして勝手ですが、個々に返信しだすと対応しきれないので、まとめてこちらで返答させてください。

      メールは興味深く読みました。応えられるかどうかはわかりませんが、面白そうです。ただ、もしかすると、たまたまかもしれませんが、今回結果的に[1]は掠ったのではないか、と感じました。不思議な話ですが。

      いずれにしても、返信が遅くなって失礼しました。これからもよろしくお願いします。

      • リンチマニア
        2016/03/15 23:29

        ご返信ありがとうございます!毎月楽しみにしております。メールをお読み頂き感謝しております。今後ともよろしくお願いいたします。

  1. No trackbacks yet.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。