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桜色の舗道

大学病院の裏手の道に桜並木が続いている。
月が明るい夜、その通りに人気は少ない。
桜は、満開の時期を微妙に過ぎて、花びらが散り始めている。
病院の建物は、消灯時間を過ぎているため、ほとんどの窓が暗い。
明かりのついている窓も見えるが、それらの窓の灯はおそらく一晩中消えないのだろう。

私鉄の駅前から続く病院裏の舗道は、知る人ぞ知る密かな桜の名所なのだが、単なる狭い道のため公園等と違って樹の下でシートを広げて宴会をしたりできないので、花見の客はいない。
そもそも桜の樹自体は、病院の敷地内にあって、とうぜん花見は出来ない。
だから見事な並木になってはいるのだが、厳密には舗道からだとフェンス越しの桜になる。
しかし、桜を静かに愛でるという意味での花見なら、なかなかのスポットだ。
舗道側の上空へ枝が大きく張り出しているため、桜のトンネルのようになっている。
その様子は、昼間も圧巻だが、夜間も悪くない。
舗道の街灯が、たまたま夜間照明のような役割を果たして、花をライトアップしている。

君は私鉄の駅でいつもの列車を降りて、病院裏のその通りをひとりで歩いている。
もう23時に近い時間のため、道は閑散としている。
一方通行の車道を通る車もなく、歩道には君の他に、前方を女性がひとり歩いているだけだ。
女性は、駅からずっと一緒だ。
同じ列車から降りて、同じ方向へ歩いている。
当初は他にも人がいたが、いつのまにかいなくなった。
もしかしたら後方にはいるかもしれなかったが、わざわざ立ち止まって振り返るのも怪しい行動なので、その有無はわからない。
前方の女性が歩きながら煙草に火をつけた。
煙の匂いが夜の中を流れてくる。
女性は歩きながら時々指を弾くようにして灰を落としている。

君は適度な距離を置いてその後ろ姿を追いながら、心密かに彼女が煙草を道端にポイ捨てすることを期待している。
もしも捨てられたら、もちろん拾うつもりだった。
幸い他に人影はないし、ついに誘惑に負けて振り向いて確認してしまったが、後方にも誰もいない。
たまに車が通るが、やり過ごせば問題ないだろう。
携帯灰皿を使われたら拾うことは無理だが、おそらくそんなもの持ち歩いてはいないだろう。

舗道は、路面に散った花びらがびっしりと落ちていて、月の光を浴びながら桜の色に染まっている。
散り始めてからまだ雨は降っていないので、風が吹くとその花びらは踊るように小さく舞う。

女性は二十代の半ばか後半くらいで、勤め帰りのようだ。
改札を抜ける時にチラリと容姿を確認したのだが、そうとうな美人だった。
それも愛嬌のある感じではなく、冷たい感じで、その雰囲気も変態M男の君にとって、心ときめくことだった。
茶色のストレートの長い髪が、歩調に合わせて微かに揺れている。
ミニスカートにブラウス、薄手のカーディガン、そして踵の高いパンプス。
スカートの裾から誇示するように伸びるストッキングの脚が街灯の光を受けて蠱惑的に艶めいている。
煙草の匂いと一緒に、香水の芳香も漂ってくる。

後ろについて歩いていると、どうしても尻の丸みに視線を奪われてしまう。
スカートに窮屈そうに包まれて丸みを帯びたボリュームが肉感的だった。
君は、抱きついて顔を埋めたい! と切に願う。
突進し、膝をつきながら下半身に抱きついてあの尻に顔面を押し付けることができたなら、どんなに素敵だろう、と夢想する。
勤め帰りのこんな時間だから、きっといい匂いがするに違いない。
スカートの中には、どんなパンティを穿いているのだろう。
勢いよくスカートを捲り上げてパンティをむんずと下ろし、そのまま脚の間の中空で留めたパンティのクロッチに鼻を埋めるのもいい。
きっと時間的にも良い按配に熟成された円やかな滑りと香気を堪能できるだろう。
無論、生の尻にむしゃぶりつくことは外せない。
肉の丘をかき分けて割れ目を鼻先で押し開き、顔を埋めながら、舌先で執拗にその谷間を舐めたい。
アヌスに舌先を捻じ込んでピストンし、もちろん性器もしゃぶり尽くす。
女性は快感のあまりきっと立ってはいられないだろう。
しかしたとえ女性が腰砕けになろうとも、君はスッポンの如くいったん尻に食らいついたら簡単には離れない。
仮に女性がしゃがみこんでも、君は吸い付き続け、尻の肉感に溺れ貪り続ける。
汗ばむ女性の尻は、最高だろう。
暖かくて、香ばしい匂いを生々しく放つその魅惑の肉は、君を捉え続けるはずだ。

しかしいうまでもないことだが、すべてが妄想で、現実に実行できることではない。
この世の誰よりも小心者の君が、そんな大胆な行動に出られるはずがない。
君が自らの衝動をさらけ出し、それに従うことができるのは、SMクラブでのプレイの時間内だけだ。
人一倍気弱でマゾの君に、現実の世界に於いて歪んだ欲望を具現化する勇気や行動力は一切ない。
君にできること、それはせいぜい想像するだけだ。
今のように見ず知らずの女性の尻を密かに見続けながら破廉恥な妄想の翼を広げる、それくらいが精一杯だった。
そもそも、百パーセントありえないことだが、もしも君が今のような一連の妄想を実行に移すことにして、女性の尻に抱きついたとしても、呆気なく反撃されるのがオチだろう。
喧嘩などしたこともない貧弱な君より女の子の方が強いはずだ。
だから、確かに尻には埋もれたいし、パンティも欲しいし、女性の臀部ほど魅惑的な肉はないと思うが、すべては夢だ。
対価を支払わずに君が女性の体に接することなどできやしない。
故に、具体的に今の君にできることは、女性による煙草の吸殻のポイ捨てを待つことだけだ。
もちろんM男的には、捨てられた吸殻を拾い上げた際にその瞬間を女性に見咎められ、「何してんだ?」と詰問される展開を望む。
そして「てめえ、キモいんだよ」と胸倉を摑まれ、ビンタされ、顔に唾を吐かれたりすれば、最高だ。
しかし、実際には、怖い。
だから、もしも吸殻が捨てられた際には、彼女には気付かれず、そっと拾ってポケットにしまいたい。

やがて、女性がついに煙草を捨てた。
女性はわざわざ踏み消すこともなく、ただ道端に落とした。
やはり携帯灰皿など持ってはいなかった。
その瞬間、君は息を飲んだ。
少し歩みを緩めて更に女性との間に距離を取り、その後ろに続く。
そして地面の花びらたちに埋もれるようにまだ燻っている吸殻のところまで達すると、さりげなく周囲に誰もいないか確認し、人も車もいないことを充分に確かめてから、そっとその場で腰を落とした。
女性の後ろ姿が、そのまま背中を見せて遠ざかっていく。
君はしゃがんで靴の紐を結び直すふりをしながら、爪先で吸殻の火種だけを消すと、素早くその吸殻を拾い、手のひらに包んだ。
その短くなった煙草のフィルターは若干噛み潰され、微かに湿りながらうっすらと口紅の赤色に彩られていた。

君は立ち上がり、吸殻を包んだ手を何気なく上着のポケットに入れた。
そしてポケットの中で吸殻をリリースして再び手を出した。

(とうとう美人の吸殻をゲットしたぞ!)

体と心の深部から歓喜が沸き起こり、炸裂した。
君は桜色の舗道を歩き出しながら、早く家に帰ってこの吸殻を舐めながらオナニーをしたい、と胸を昂らせた。

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カテゴリー:金の鎖、銀の鞭
  1. あきら
    2016/04/2514:06

    はじめまして!
    もう十数年貴方の文章に接してきました。
    私はもう十分な年齢に達してるにもかかわらず、貴女の文章に非常に、興奮し心を
    一つにしてしまう、シチュエーションに出会うのことができる数少ない機会なのです。
    新しい文章に接する度にときめきながら、読まさせていただいてます。
     残念ながらすべての貴方の表されるシチュエーションや、結末に心を奪われるものではないのですが、貴方のテリトリーの多様性には驚くばかりです。
    僕の性癖がマイナーなのか、人間的に狭量なのか、よくわからないのですが、まだ性的な
    修行(実践)が足りなくて未開発なのかもわかりません。
    勇気はあるのですが、そういう場面を作り出す能力にかけてるみたいですね。
    勿論社会環境の中で、自分が生きてる環境を壊す勇気はまったくないので、自ずと限られるのでしょう、先に述べた勇気とは、対女性に対する勇気ということで、後の勇気はぬくぬくと生きてる環境を壊す勇気はないということです。
     貴殿にはまったく興味のないことでしょうから、読み飛ばしていただけると幸いですが、私の性癖なのか、性格なのか、人間性なのかよくわかりませんが、常に興奮してる状況は、上下関係の逆転があります。それは文章でも画像でも同じです。それがただ単に年齢、体、雌雄、社会の中の秩序の順位、だけではなく、それらが二重三重に逆転してるほうがより深い興奮を呼び起こすみたいです。例えば学校の教師と女生徒、勿論年齢、教師と生徒、これが、より深い興奮は例えば男性老教師と女生徒、あるいは、屈強な老教師と華奢な女生徒、ベテランで美しい女性教師と女生徒、社会的に高い地位の老人とヤンキーネーチャン、よく貴殿の小説に出てくる場面です。
     というわけで、私の一番のお気に入りは”卒業”です。
     他にも多々あります。が今日のところは初めてのコンタクトをとふと思い少しコメントしてみました。国語力がちせつなので、上手く書けないのが残念です。
     何の見返りもなく楽しむ場を与えてくれる貴殿の努力と情熱に脱帽するとともに、感謝。感激して楽しみにここ十年来しております。 ありがとうございます。
                             
      古木 さま

                              あきら

    • nk
      2016/04/2619:23

      こちらこそ初めまして。そして、こんなネットの絶海の孤島のようなサイトでありながら、いつも見ていただいているとのこと、ありがとうございます。
      長いコメントだったのでどこからどうレスしたらいいか迷いますが、読んで思ったことをつらつらと書いてみます。

      まず、なんといっても、こちらの書いているものが全て受け入れられるなんてことは、なくて当たり前だと思っています。むしろ何を書いても受け入れられるとか、百人が読んで百人から支持されるとか、そんな状況はなんだか胡散臭い宗教のようで、それはそれで気色悪いです。

      次に、「勇気」は、多かれ少なかれみんなそんなものではないかと思います。いっときの感情の高揚で自分の社会的な環境を壊すなんてアホですし、そういう衝動を発散するというか中和したり誤魔化したりする意味でも映像や文章など「フィクション」というものがあるのではないかと思っています。また、SとかMとか関係なく、対異性に於いて何かしらアクションを起こす際にはいつでも勇気は必要で、しかしそうわかっていてもなかなか思い通りには行きにくいものかと感じます。頓珍漢なことを言っていたらすみません。

      そして、「関係性の逆転」については、むしろ多少なりともそれが存在しないと「お話」として成立しないのでは、と思っています。

      あと、見返りなんてものは、求めないほうが無難だろうと常々思っています。見返りには責任と義務がもれなく付随してきそうですし、そうなると「書きたいものを書きたい時に書きたいように勝手に書く」という自由の保持が難しくなります。しかしだからといって、もし批判的な人がいたとしても、「嫌なら見るな」という姿勢は嫌いです。「嫌ならまあ仕方ないですね」と思うだけです。

      そういうわけで、こんなスタンスなのでいつまで続くかわかりませんが、よろしくお願いします。

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