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レモンキャンディ

昼休みにチェックした天気予報では夕方には雨になるということだったが、午後八時を過ぎた今の時間でもまだ降り出してはいない。
ただ、空気は十分に湿り気を帯びているし、雲は厚く、いつ雨が降り始めてもおかしくはない空模様だった。
君は残業を終えて、帰宅するためにいつもの通勤電車に揺られている。
車内は、もう帰宅ラッシュの時間を過ぎているせいか、そんなに混んでいない。
とはいえ立っている人はいて、シートはあらかた埋ってはいるが、空いているスペースもある。
君は七人掛けのベンチシートの最も端に座って、小さく畳んだスポーツ新聞を読んでいる。
車内は冷房が効いているが、それほど強くはないので、五分前にこの列車に乗り込んだ君はまだ汗が止まらない。
上着はすでに脱いでブリーフケースと一緒に膝の上に置き、タイも緩めているが、額の髪の生え際や首筋には汗が滲み、君はハンカチでそれを拭く。
腹も空いている。
職場を出た後、どこかで何か食べて帰ろうかとも思ったのだが、いつ雨が降り出すかわからないし、給料日前で懐にそんなに余裕もなかったし、自宅に戻れば三日前に作ったカレーがまだ残っているので、まっすぐ帰宅することにしたのだ。

君は新聞の紙面から少しだけ視線をさりげなく外し、向かいの席を見る。
そこには君が乗り込んだ時から、制服姿の可愛い女の子が座っているのだった。
女の子は先ほどまで携帯電話を弄っていたが、今は目を閉じて眠っている。
かなり短いスカートを履いていて、起きているときは足を組んでいたので、そのムッチリとした太腿の肉感に、君はつい引き寄せられてしまった。
しかしもちろんじっと凝視するわけにはいかなかったので、大して興味もないスポーツ新聞を広げて、こっそりと鑑賞した。
そして携帯電話をしまってうとうとと眠っている今、彼女の足は半ば無防備に開いている。
もう少しでスカートの翳りの奥にパンティを覗くことができそうだったが、残念ながらまだそこまで足は開いていない。
もしももっと前方まで進み出て、彼女のすぐ足元で跪いて見上げるようにして覗き込めば見ることができそうだったが、もちろんそんなことができるはずもない。
君はスポーツ新聞の紙面の端からそんな彼女の下半身をちらちらと見つめながら、どんなパンティを履いているのだろう? と夢想する。
何色だろう?
素材はコットンだろうか化繊だろうか?
そして、そのクロッチの状態はどんな塩梅だろう?
ただでさえ蒸し暑いこんな日の、こんな時間だから、朝からずっと履き続けられているならば、かなり素敵な布に熟成されているに違いない。
様々な体液が沁みとなって付着し、湿り気を帯びたその部分はきっと芳醇な香りを内包していることだろう。
ああ、匂いを嗅ぎたい!
変態M男の君は、心のうちで身悶えつつ切実に思う。
そのまま視線で彼女の足のラインを辿ると、太腿の肉感が素晴らしい。
ムッチリとしていて、手のひらを這わせれば吸いつきそうだ。
無論、あの太腿の内側も若干汗ばんでいて、執拗に舌を滑らせ吸いつき、いっそ足の間に顔を押し込んでそのまま強くぎゅっと挟まれれば、きっと夢のような感触だろう。
そしてさらに足を下っていけば、かなり穿きこまれたローファーで完結する手前に、紺色のハイソックスがある。
この靴下も、君の破廉恥な想念を弄ぶ。
あのローファーに包まれた爪先を想うと、君は悶々としてしまう。
パンティ同様、その爪先も湿って蒸れていて、鼻先を押し当てれば魅惑の香気に貫かれることだろう。
その感触は暖かく、漂う香りは媚薬のように君を溶かすだろう。
ズボンの中のペニスがムクムクと勃起する。
しかしそれは膝の上で床と水平に置かれたブリーフケースと更にその上に掛けるように適当に畳んで持った上着によって隠されているため、誰にも気づかれない。
君は別に興味もない競輪のページの角から向かいの席で眠り続ける女の子を盗み見しながら、彼女の足元に全裸で跪き、足の匂いを嗅ぎ、スカートの中に顔を突っ込んでパンティの感触に溺れたい! と激しく思う。

そう心の中で悶絶した時、ふと視線を感じて、君は慌てて周囲を素早く眼球だけを控えめに巡らせた。
すると、少し離れたドアのところに、前の席の女の子と同じ制服を着た女の子が携帯電話を手に持ったまま一人で立っていて、君を見ていた。
彼女は、かわいいというより冷たい感じの美人で、前の席の女の子より若干大柄だった。
そして彼女同様スカートが短いため、誇示される足のラインは神がかっていて、その立ち姿は一瞬にして君を虜にしたが、無遠慮に投げられた視線が恐ろしく、君はすぐに目を逸らして新聞のページを捲った。
適当に捲ると、記事は競輪から競艇に変わった。
どちらにしろ君は全く興味がなかったが、せかせかと小さく畳み、記事を読むふりをする。
もう前方の女の子を見ることすら避けた。
ひたすら気配を殺して紙面に集中する。
しかしどうしてもこちらを見ていた女の子の存在が気になり、しばらくして君はドアの方を慎重に盗み見した。
すると彼女はまだそこに立っていたが、もう君の方は見ておらず、携帯電話の画面を指先でなぞっていた。
ゲームでもしているのか、視線は画面に落とされたままだ。
その姿に君はなぜか安堵し、改めて前の席の女の子へと視線を移した。
すると女の子は依然として眠り続けていたが、いつの間にかどこからか移動してきたおばさんが彼女の姿を半分以上隠すようにして立っていて、もう女の子のムッチリとした足や爪先やスカートに包まれた下半身等を視界に入れることは不可能だった。
(チッ)
君は心の中でおばさんの存在に舌打ちした。
それは身勝手にもほどがある逆恨みだった。

やがて、車内に車掌のアナウンスが流れ、次の駅を告げた。
それは君の下車駅だった。
君は向かいの席の女の子に後ろ髪を引かれつつ、しかしどうしようもないので新聞を畳むと、それをブリーフケースに入れ、上着と一緒に持って席を立った。
するとすかさず、女の子の前に立っていたおばさんが振り向いて、君が座っていたスペースに腰を下ろした。
君はドアへと歩きながら、もう一人の、少し離れた場所に立つ女の子をさりげなく見た。
女の子は相変わらず素晴らしい足を見せつけながら、ドアの脇の壁に凭れて携帯電話を触っていた。

列車が駅に到着し、ドアが開くと、君はプラットホームへと歩みでた。
途端、むっとした梅雨時独特の蒸し暑さに包まれた。
君は湿気にうんざりした表情を浮かべつつ、改札口へと漂流していく。
屋根の間から空を見たが、まだ雨は降り出していない。
しかし地上の光を受けてなんとなく不穏な色に染まる空は一面分厚い雲に覆われながら低い。
君は歩きながらタイをさらに緩めて首元を広げた。

定期で改札を抜け、外に出ると、蒸し暑さが全身を包み、君は額に噴き出した汗をハンカチで拭いながら駅前広場のロータリーを回り込むように歩いていく。
駅から自宅までは徒歩で二十分だ。
バスもあるが、君は歩く。
交通費としてこの駅から自宅までのバスの定期代も計上しているのだが、その分は小遣いに回している。
サラリーマンなら誰でもしているちょっとした生活の知恵、小技だ。

君は駅前を離れ、住宅街の中を歩いていく。
特に何もない、寂れた道だ。
一軒家や比較的小規模な集合住宅が混在するエリアを抜けて、やがてバイパスに出る。
その道は、歩いている人こそ少ないが、車道は交通量が多く、沿道にはコンビニや自動車のディーラーなどがある。
君はバイパスを横断歩道で渡り、広い公園に入っていく。
道路を行くより、公園を横切ったほうが近道なのだ。
木々が鬱蒼と茂る中に遊歩道が巡らされた大きな公園で、昼間ならともかく、桜や梅の花が咲く時期を除いて、夜間はめっきり人気がなくなる。
昼間は、富士山の形をした滑り台やブランコやジャングルジムといった遊具が設置された広いエリアがあるので、親子連れなどで季節を問わず賑わっているが、夜は別だ。
ただし遊歩道には街灯が設置されていて、闇に包まれるということはないので、君は公園を通る。
もしも強盗に遭遇したら、走って逃げればいい。
君は、逃げ足には自信があるのだ。

遊歩道は砂利敷きのため、ザッザッと足音が響く。
君は上着と一緒にブリーフケースを手に提げ、ブラブラと歩いていく。
一応折りたたみ傘は持っているが、ここまできたら使わずに帰り着きたかった。
空を見上げると、鉛色の雲が垂れ込めている。
それにしても暑い。
君は立ち止まり、足元にブリーフケースと上着を置くと、ハンカチで額や首筋の汗を拭った。
その時、後方から、ザッザッという砂利を踏みしめる足音が聞こえてきた。
つとそちらを見ると、顔だけが青白く幽霊のように浮かび上がる人影が近づいてきていた。
携帯電話を操作しながら歩いているため、その画面の光が顔だけを照らしているのだった。
君はその人影を見て、はっとなった。
そこにいたのは、先ほど電車の中でドア付近に凭れながら立っていた女の子だったのだ。
女の子も、君の気配に気づいて、携帯電話の画面から顔を上げた。
そして足を止め、君をじっと見た。
不意に、目が合ってしまった。
女の子は、携帯電話をポケットにしまうと、唇の片方だけを上げてせせら笑うような表情で君を見つめ、言った。

「何だ、さっき電車の中で、うちの学校の子をガン見してた変態か」

いきなりそんなことを言われて、さすがの君もすかさず脊髄反射で反論してしまった。

「変な因縁をつけるのはやめてくれませんか」

大人の余裕を滲ませるように、極めて丁寧に君は言った。
すると女の子は、は? と小馬鹿にしたように言い、つかつかと君に近づいてきた。

「因縁?」
「そうでしょう」
「ふざけんな」
「ふざけてなんかいませんよ」

あくまでも形勢を崩さず君が言うと、女の子は、もう一度ポケットから携帯電話を取り出した。

「あのなー、証拠があるんだよ」

そういうと、女の子は携帯電話を操作して画像をディスプレイに表示すると、その画面を君に突きつけた。
君はそれを見た。
そして愕然となった。
画面には、紛れもなくスポーツ新聞の隅から女の子を見つめている自分の姿がしっかりと写っていた。

「これ、何見てんだよ、あ?」
君は動かざる証拠を突きつけられて、観念した。
「す、すいません……」
女の子が君の正面に立ち、胸倉を掴む。
至近距離で向かい合って立つと、女の子のほうが背が高く、君は捻りあげられて爪先立ちになった。

「パンツでも見たかったのか?」
「い、いいえ」

じっと瞳を見据えられ、君は小さく首を横に振った。
しかし女の子の甘い匂いに包まれ、しかもマゾとして夢のようなこの状況に、君は激しく勃起していた。

「あのなー、変態の分際で一丁前に反論なんかするんじゃねえよ」
「はい、申し訳ございません」
「なあ、もしかしてお前M男?」
君の口調や態度に何かを感じ取ったのか、不意に女の子が聞き、君は思わず、「はい……」と俯いてしまった。
「M男かよー」
女の子があからさまに嘲笑い、おもむろに君の股間に手を伸ばすと、むんずとペニスを掴んだ。
「うわっ、マジでガチガチじゃん、きもー」
そういうと、女の子は君の顔にペッと唾を吐き、「とりあえずお座りしろ、ほら、正座!」と命じた。
「は、はい、失礼します」
君はもう恥も外聞もなくその場で跪いた。
目の前に逞しい太腿がそそり立ち、君は彼女を見上げ、哀願した。

「どうか、お金はお支払いいたしますので、どうかこの太腿様に抱きつかせてください、そしてスカートの中に顔を突っ込ませていただいて、パンティ様の匂いを嗅がせてください、お願い致します!」

「マジ、キメーんだよ、おめえはよ」

女の子は君の懇願を無視してそう吐き捨てると、ローファーの底で思いっきり君の後頭部を踏みつけた。
そしてそのままグリグリと君を地面に押し付ける。
「じゃあ、とっととカネ出せよ」
「は、はい」
君は頭を踏まれて頬に砂利をめり込ませたまま、不自由な体勢ながらなんとか尻のポケットから財布を取り出すと、中から紙幣を抜いた。
しかしながら給料日前の君の財布に諭吉はおらず、英世が四人いるだけだった。
それを差し出したが、女の子は激昂した。
「てめえ、ナメてんのかよ、まじムカついた」
女の子はいきなり何度も容赦なく君をガンガンと力一杯踏みつけ、さらに、頭を庇って身を丸めた君を執拗に蹴っ飛ばした。
「四千円で足を触らせろだのパンツの匂いを嗅がせろだの、ふざけんじゃねえぞ」
「すいませんすいませんすいません」
君は地面に額を擦り付けて必死に詫びた。
しかし女の子の暴行は止まなかった。
女の子は蹴ることに疲れると、君の前でしゃがみ、顎に手をかけて前を向かせると、勢いよくビンタを張った。
パシンッという乾いた音が湿った夜の中に響いた。
「ありがとうございます」
「何がありがとうございますだよ、キモいんだよ、マジで」
女の子は更にビンタを連発した。
「キモ」「いは」「マジ」「でっ」と声に合わせてビンタを四発連続で炸裂させ、そのあと、続けざまに往復ビンタを浴びせた。
君はたまらず泣き出した。
ビンタを受け続けて顔を赤く腫らしながら、その熱を実感していた。
「お許しください」
君は謝罪しながら、しかしマゾの本性が剥き出しになっているため、無意識のうちにズボンのチャックを下ろしてペニスを引っ張り出し、勝手に扱き始めていた。
「何勝手にしこってんだよ、ド変態が!」
女の子の膝が君の顎に命中して、白い光が飛び散った。
その瞬間、君の意識が飛んだ。

次に気づいた時、顔に暖かい液体が降り注いでいた。
目を開けると、女の子が君の顔の上で放尿していた。
霞む視界の中で、女の子の股間の茂みの間から、黄金色の放物線が勢い良く迸り出ている。
満身創痍の君は、再び目を閉じ、もうそのまま横たわっていた。
熱を孕んだ液体が顔面を流れる。
強いアンモニア臭が周囲に立ち込める。
やがて放尿が止み、君は生暖かい溜まりの中でうっすらと目を開いて女の子を見上げた。

「そのまま、死んでろ」

女の子は言い、下着を履き、スカートの裾を直すと、君に向かって口から何かを吐き出した。
それは君の胸の上に留まり、女の子は言った。

「そうそう、さっきの画像だけど、あれ、とっくにネットに上がってるから。『必死な変態痴漢野郎発見w @電車内』って、車内で撮ってすぐ上げた」

女の子は軽やかに笑ってそう言い残し、そのまま立ち去った。
君は体を動かす気力もないまま、地面に横たわって女の子の尿に浸りながら、遠ざかる足音を聞いていた。

やがて君は女の子が胸の上に吐いた物を指先で摘み、顔の前に掲げた。
それは、どうやら舐めかけのキャンディのようだった。
君はそれを口に含んだ。
すると甘酸っぱいレモンの味が口の中に広がった。
ただ、激しいビンタや蹴りのせいで所々口の中が切れているのか、そのフレーバーは鋭い針のように沁みた。

そして、とうとう雨粒が空から落ちてきた。
君は尿の溜まりの中に体を横たえたまま、温い雨に打たれながら、レモンキャンディを口の中で転がし続けた。

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