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紳士の嗜み

出張先の夜は長い。
君は仕事を終えた後、支店の同僚たちと夕食を共にし、それから居酒屋へ移動して軽く飲んだ。
そしてその店先で解散となり別れたのだが、時計を見るとまだ九時前だった。

君はよく知らない地方都市の夜の街路をほろ酔い気分で駅前に向かって歩いた。
とはいえそれほど飲んではいないので、意識ははっきりしている。
夏の夜はもちろん暑いが、昼間よりはマシだった。
やがて宿泊先であるビジネスホテルが前方に見えてきた。
明かりのついている窓は、それほど多くない。
君は目についたコンビニに入り、水を一本買って、店先で飲んだ。
そして冷たい水を飲みながら、これからどうしようか、と思った。
しかしいくら夜が長いといっても、こんな田舎町に風俗はない。
もしかしたらデリくらいはあるかもしれないが、変態M男である君の性的欲望に合致するようなSM系は望めないだろう。
それに、仮にデリを呼ぶにしても、どこか別のラブホテルに入らなければならない。
泊まっているビジネスホテルはシングルだし、エントランスを入ってすぐのところにフロントがあるので、女の子は来られないだろう。
つまりいくら暇でも女の子と遊ぶ系統の暇つぶしは難しそうだった。
では、どこか別の店で飲むか、とも考えるが、駅前には全国どこにでもある居酒屋チェーンくらいしかなさそうだ。
そんなところで一人で飲むくらいなら、ビールとつまみを買って部屋でテレビでも見ながら飲んだ方が気楽で安上がりのように思えた。

半分ほど水を飲み、何気なく君が視線を道路の先へ向けると、城址公園への案内看板が目に入った。
そういえば、この街にはもう石垣しか残っていないが城跡があって公園になっている、と支店の誰かが言っていたことを唐突に思い出した。
昼間、営業車の窓から石垣を見た記憶もある。
なかなか立派な石垣だった。
その時、公園は二十四時間開放されているから早朝にでも散歩に行ったらどうですか? と勧められた。
駅からだと歩いて十分ほどとのことだった。

君は水を飲み干すと、城址公園へ行ってみることにして、ペットボトルをゴミ箱に捨ててから、コンビニの前を離れた。
携帯電話の地図アプリで場所を確認し、歩き出す。
地図によれば、多くの町がそうだが、この街も城跡周辺は官庁街になっていて、市役所や裁判所や法務局や図書館などがあった。
君は駅前から続く幹線道路を外れ、城址公園へと向かった。
次第にささやかな賑やかさが薄れていき、やがて官庁街へと入っていった。
当然ながら夜のこの時間ともなれば、街路にはほとんど人影がない。
ビルの窓もあらかた消えているし、通り過ぎる車の数もかなり少ない。
前方に、石垣が現れた。
その手前には堀が続いていて、公園へ入るためには、しばらくその堀に沿った道を行かなければならないようだった。
辺りは、静まり返っていた。
ビルはあるが、人の気配がまるでない。
もっとも、道路には街灯がちゃんと灯っているので、道は暗くはなく、治安的な不安は感じない。

やがて、大きな図書館があり、その先に、城址公園へと繋がる橋が見えた。
その橋を渡ると、広大な公園内に入れる。
こんな時間だから、周囲には誰もいない。
図書館も閉まっていて、エントランスは暗く、昼間なら自転車がずらりと並ぶであろう駐輪場も、ガラガラだ。
さすがに軽く汗をかいた。
先ほど水を飲んだばかりだが、また喉が渇いてきた。
君は自動販売機でコーラを買うと、図書館前の植え込みの縁に座ってそれを飲んだ。
ハンカチで額に滲む汗を拭い、通りを見渡す。
当たり前のことだが、お堀に沿って高い石垣が続いている。
地図によると、この近くの橋を渡ると三の丸で、遊歩道が二の丸や本丸を巡っており、天守台の裏にもう一箇所この公園の出入り口があるらしかった。
ただ、そちらから出てしまうと、駅前へ戻るのにかなり遠回りになってしまうから、君は園内を巡った後はまたここへ戻ってくるつもりだった。

コーラを半分ほど飲んだ時、歩道を一人の女性が歩いてきた。
この近くに勤めている人なのか、夏の夜のこの時間でもきちんと上着を着てシックなタイトスカートを履いている。
ヒールの靴音が無人の街路に響いている。
足元に目を遣れば、かなり踵の高いパンプスを履いている。
そのせいもあるだろうが、結構大柄な女性だった。
多分自分より背が高いだろうな、と君は思った。
と、その瞬間、君の中で変態M男の血が不意に覚醒し、こんな時間にあんなきちんとした格好をしていたら、パンティとかストッキングなんかは相当良い塩梅に熟成されているのだろうな、と想像してしまった。
そして、出張先という若干現実感の薄い場所にいるという気持ちの開放感からか、普段の君なら絶対にできないような行動への衝動が、グイッと頭をもたげた。
それは、あの女性に履いているストッキングを売ってもらおう、と思ったのだ。
本当はパンティが良いが、いきなりそれでは警戒されてしまうだろう。
だから、怪しまれないように丁寧に声をかけ、最初はストッキングの買取という商談を申し出るのだ。
無論、断られたら潔く撤退する。
不審がられたり、怪訝そうに嫌がられても、もちろん深追いはしない。
君は紳士だから、嫌がる相手に無理強いするつもりはさらさらない。
うまくいったら、パンティも頼んでみてもいい。
ただ、ストッキングは脱いでしまっても特に問題はないかもしれないが、下着となると、やはり替えが必要だから、その分ハードルが高くなりそうだった。
いずれにせよ、まずは声をかけてみなければ、何も始まらない。
それに、商談の内容が内容だから、相当丁寧に、十分に誠意を示して接触しないと、変質的な不審者として通報されてしまうかもしれない。
君は紛れもなく変態だが変質者でないし、紳士だから、その嗜みは大事にしたかった。
ただ、君は座ったまま女性の姿を視界の隅に捉えつつ、商談を持ちかけるとしても一体いくらを提示したらいいのかよくわからなかった。
そもそも女性のストッキングの値段を知らない。
安いものなら五百円くらいだろうか。
高いものは、全く見当がつかないが、五千円くらいだろうか。
下着なんかは、数百円から、ブランドものだと何万とかしそうだけれど、ストッキングは不明だった。
もしかしたら何万もする高級ブランドのパンストとかあるのかもしれないが、なんとなく君は買取価格として「五千円」という金額を設定した。
とはいえ、ストッキングなんて、おそらくは千円未満だろうとは思った。
しかしそれはあくまでも「新品」の場合だ。
着用済みなら当然のことながらプレミア価格となる。
かといって「一万円」はさすがに高すぎるように思った。
もっとも「五千円」でも十分に高いような気はしたが、それでも、あまりに安すぎる提示では売ってもらえないかもしれない、という杞憂があった。
例えば「千円」なんて言ったら、逆に「バカにしてんのか」と怒りを買ってしまう恐れがあった。
それ故の妥当額が「五千円」なのだった。
決して安くはないが、高すぎることもない。
否、モノによっては定価の十倍くらいとなって高すぎるかもしれないが、着用済みであることを考慮すれば、それくらいの値段設定は仕方のないことのように思えた。
あとは、声をかけるタイミングだった。
女性はまさに今、君の前を通り過ぎようとしていた。
君は彼女をずっと観察していたが、女性はこれまで一度も君の方を見てはいない。
君は素早く周囲に視線を走らせた。
幸い、彼女以外、誰もいない。
さすがの君でも周りに誰かいてはとてもではないが声をかけられない。
単なるナンパならともかく、話の内容が内容だから、当人以外には聞かれたくない。
その点、今は絶好のチャンスだった。
君は腹を括った。
普段暮らしている街だったら、絶対にこんなことはできないが、非日常的な知らない街という開放感が君の背中をぐっと押した。

君は立ち上がると、まだ中身が三分の一ほど残っていたがコーラのペットボトルをゴミ箱に捨て、彼女へと接近した。
自分も立ってみると、改めて女性の背の高さが実感できた。
ヒールのせいもあるだろうが、確実に君より頭の位置が高い。
スカートから伸びる、ストッキングに包まれた脚は決して太くはないが逞しさを感じる。
君が女性の斜め前方から接近すると、女性がようやく君の存在に気づいて、つと視線を向けた。
しかし無論、足は止めない。
ただ、その顔貌に警戒の色のようなものも特には浮かばなかった。
単なる冷めた目、それが君に向けられ、マゾの君はそれだけでペニスを固くさせてしまった。
その彼女の目に映る君は多分、植え込みの樹木と同じレベルの存在感でしかないようだった。

君は極度に緊張していて、心臓の鼓動が俄かに激しくなったが、それを必死に抑えると、爽やかな笑顔を彼女に向けて、言った。
「こんばんは」
すると女性は、(この人、知り合いだっけ?)みたいな若干当惑した雰囲気を漂わせつつ、足を止めて曖昧な会釈を返した。
「突然、声をかけて驚かせてしまったら、すみません」
君は丁寧に頭を下げた。
女性は何も言わず立ち止まっている。
不審な思いはあるだろうが、怯える様子はない。
おそらく、どう見ても君は自分より小さくて非力そうだし、何かおかしな行動に出られたら大声でもあげればいい、みたいな多少の余裕が、女性にはあるようだった。
実際、彼女は強そうだった。
間近で対峙すると、君は体格の良さに圧倒された。
もしもプロレスや相撲をしたら、確実に負けるだろう、と思った。
そんな君の気弱なムードを感じたのか、女性は自らの優位性を身に纏うように君を睥睨しながら、訊いた。
「何か用ですか?」
それは丁寧な口調だったが、威圧感があった。
もの言いこそ穏やかだが、その言葉は、翻訳すれば「何の用だ? あ?」みたいな響きを内包していた。
君はゴクリと生唾を飲み込み、平静を保つ虚勢を張ろうとしたが、ついマゾとしての本性が滲みでてしまいモジモジしながら、言った。
「すみません、あなたがとても魅力的だったので、つい声をかけてしまったのです」
「は? ナンパ?」
そういうことをする人間からは程遠い君の雰囲気に、女性はあからさまに苦笑した。
「い、いいえ、そうじゃないんですが……あ、いや、ある意味、そんなものかもしれないですが……」
「何なのよ」
早くも女性は完全に君より優位な立ち位置を確保しながら、君を見下ろした。
「もしよろしければなのですが……」
君は勇気を振り絞ってそこまで言い、いったん言葉を切って呼吸を整えてから、思い切って願望を口に出した。
「今履いていらっしゃるストッキングを、あのう……売っていただけないでしょうか」
「はあ?」
女性は腕組みし、小首を傾げて君を見据えた。
君はどっと汗が噴き出すのを感じながら、せわしなく唇を舐め、恐る恐る彼女を見上げた。
そして哀願するように、切なさを瞳に宿しつつ、更に言った。
「ですから、えっと、突然で不躾だとは重々承知しているのですが、是非とも今お穿きになられているストッキングを売っていただきたいのです、どうかよろしくお願いいたします」
君は紳士的にそう述べ、深々と頭を下げた。
いっそこの場で土下座して懇願しようかとも思った。
しかしいきなりそんなことをしたら余計に話がややこしくなりそうだったので、まるで神社の拝殿で神様に参拝するときのように頭を真摯に下げ続けた。
「朝から穿いているこの安物のパンストを買うの?」
女性の降り注ぐ声に君は顔を上げ、現金にも声音を弾ませて応えた。
「はい!」
そのキラキラと輝く君の目を見て女性は無遠慮に嘲笑い、言った。
「もしかして、変態?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「でも、こんな暑い日だし、当然爪先とか蒸れてグチョグチョで、多分臭いし、なのにそういうのが欲しくて買うって言うんでしょ? しかも見ず知らずの女から」
「あ、はい、まあ……」
「正真正銘の変態じゃん、それ」
笑いながら女性は詰問を続けた。
君は俯き、小声になって陥落する。
「確かに……そうかもしれません……」
君は地面を見つめて、ほぼ無意識のうちに既にガチガチに硬くなっている股間を手で覆った。
そんな君の仕草に気づいて女性が訊いた。
「え、何? もしかしてこんなことでチンコ勃ってんの?」
女性の戸惑うような、しかし完全に呆れきったその声に、君は小さく頷いた。
「すみません……」
「すっごい、初めて見たわ、完全無欠の変態、ていうか、もしかしてM男?」
「はい……すみません……」
消え入るような声で肯定し、謝罪しながらも、君は素早く周囲の気配を伺った。
こんな場面をもしも誰かに見られたら、と想像すると、気が気でなかった。
幸い、周囲は相変わらず無人だった。
そのことに君は少しだけ安堵した。
そんな君の態度を面白がるように、女性は一歩前へ踏み出て君に近づくと、下を向いている君の顎に手をかけて上を向かせ、まっすぐ君の目を見つめた。
君は蛇に睨まれた蛙のような心境でオドオドと目を泳がせた。
女性はふっと表情から感情を消すと、そんな君を冷徹に見下ろし、いきなり君の頬をビンタして、言った。
「で、買うはいいけど、ここで脱げって?」
「えっと、いえ、あのう、その……どうしたらいいでしょうか……」
そこまで考えていなかった君はしどろもどろになりながら思案を巡らせた。
確かに、こんなところでストッキングを脱ぐなんて、シチュエーション的に不自然すぎた。
かといって、君にはどうしたらいいかわからなかった。
もともと小心者の君は完全にパニくった。
すると女性は呆れたように肩を竦めながら言った。
「どっちにしても、いつまでもこんなところにはいられないから、ちょっとついていらっしゃい」
「はい」
女性が歩き出した。
君はその後に続いた。

やがて女性は橋を渡って城址公園に入った。
そしてしばらく遊歩道を進み、じきに石垣の陰のような暗い場所へ道から外れると、街灯の光の届かない闇で足を止めた。
女性は、大きな石に腰を下ろし、脚を組むと、君に向かって顎をしゃくった。
「正座」
「はい」
君は何の躊躇もなく地面に正座をした。
女性は君の顔の前にパンプスの爪先を突き出してブラブラさせながら煙草に火をつけた。
「で、何だったっけ?」
わざとらしく女性が訊き、君は答えた。
「はい、今お穿きになられているストッキングを売っていただきたいです」
「ああ、そうだったわね」
「それで、いくらで?」
君は問われ、緊張しながら金額を提示した。
「五千円で、いかがでしょうか」
「五千円?」
女性が聞き返した。
君は、低すぎたか、と戸惑いつつ、小さく頷いた。
「ていうか、五百円の安物だよ、しかも、もういつ捨てようかと思っているくらい散々履き古したボロ、それを五千円で買うの?」
「はい!」
君は背筋を伸ばしてはっきりと買取の意思を主張した。
「でもさあ、こんなもん買ってどうすんの?」
女性は蹴るようにしてパンプスを脱ぐと、ストッキングの爪先を君の鼻の前に突きつけた。
足を包む肌色の生地が魅惑の光沢を湛えて妖しく艶めく。
君はごくりと生唾を飲み込み、高らかに宣言する。
「オ、オナニーします」
「オナニー? こんなもんの臭いを嗅ぎながらシコシコするの? ド変態だね」
女性は更に爪先を鼻に接近させる。
豊潤な芳香がツンと漂い、君の理性が大きく狂う。
つい鼻をクンクンとさせてしまい、そんな仕草を女性が笑う。
「くっさいでしょ」
女性は咥え煙草のままそう言うと、徐に爪先を君の鼻に強く押し当てた。
たまらず君は腰を浮かすと、その女性の足の踵を両手で大事そうに支え、自らいっそう強く鼻を足の裏の指の付け根の柔らかい部分に押し付けて掃除機のように香気を吸引した。
生温かい湿り気に、半眼になりながら陶酔する。
「す、素晴らしい香りでございます」
そう口走りながら、貪欲に匂いを嗅ぐ。
やがて蕩けた目を女性に向けながら、哀願する。
「お願いします、このままオナニーさせてください!」
「はあ? 何言ってるの? 買って、持って帰ってするんじゃないの?」
「はい、もちろん買わせていただいて、持って帰ってもしますが、今ここでもしたいのです、したくなったのです、こうして香りを直に嗅がせていただきながらシコシコしている姿を見ていただきたいのです!」
君は必死だった。
「お願いします!」
そう食い下がると、その必死さを女性は笑った。
「まあ、勝手にすれば」
「ありがとうございます!」
君は歓喜を爆発させながらズボンのチャックを下ろそうとした。
すると女性が言った。
「面倒くさいから下は全部脱いじゃえばいいんじゃない?」
「そうですね、はい!」
君はその提案を受け入れ、ズボンとパンツを脱ぎ捨てると、改めて膝で立ち、左手で女性の足を持って臭いを貪りながら、完全に熱り勃っているペニスを右手で握った。
「それでは、失礼いたします!」
君はあくまでも紳士然とした態度は崩さず、丁寧にもう一度頭を下げて謝意を示してから、女性の爪先に鼻を埋め、猛然と扱き始めた。

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