幽香

取引先の会社の幹部の奥さんが亡くなり、翌日の葬儀には支店長や本社から社長も来て参列するが、とりあえず今夜の通夜へは君が行くように上司から命じられた。
別にそれは君が重要なポストにあるからではない。
支店長は接待ゴルフだし、社長は物理的に来られないし、そして現在の担当者チームは別の顧客との折衝のため地方へ出張中で、言葉は悪いがたまたま暇で、相手の会社に対してある程度勝手がわかっている君にお鉢が回ってきただけだ。
相手の会社はもう長い付き合いの顧客で、以前、君が担当していたことがあった。
とはいえ、その幹部は知っているが、亡くなった奥さんとは当然ながら面識は全くない。
今回の葬儀の喪主でもある幹部の方は、君が付き合っていた当時は営業統括部長だか何だかそんな役職だった気がするが、現在は常務取締役まで出世しているらしい。
そのため、社葬ではないのだが、会社関係も列席することになっているらしかった。
君は香典を受け取ると、少し早めに退社し、安売りの紳士服店に寄ってブラックタイを買った。
背広はダークスーツだから問題はなかったが、タイがオレンジだったから、さすがにそのままではまずかった。

正直、気乗りがしないなあ、と思いながら、君は通夜の会場である寺の最寄り駅まで列車に揺られた。
まだ夕方のラッシュ前なので、車内は空いていて、ロングシートの真ん中あたりに座ることができた。
当然のことだが、通勤通学の時間帯とは、乗客の層が全然違う。
サラリーマンや制服姿の学生は少なく、大学生くらいの若者やおばさんや初老以上の人たちが目立つ。
外回りの営業マンみたいな人もいるが、少数派だ。
ただ、そのほとんどが携帯電話を取り出して、画面を見つめたり弄ったりしている。
すぐ隣に座るいい歳したおっさんが妙に真剣な顔で一心不乱に画面をスリスリしていたので、君は(一体何にそんなに夢中になっているのだろう)と興味にかられてちらりと覗き見した。
すると、おっさんが熱中していたのは中学生や高校生と変わらないパズルゲームだった。

君は「罪と罰」の下巻の文庫本を読みながら、向かいの席に座る女性を盗み見した。
人妻っぽい雰囲気の三十代くらいの女性で、綺麗な人だった。
普段の君なら、あまりそういう人に興味は惹かれない。
電車の中などであれば、太腿をむき出しにした制服姿の女子学生にまず目がいく。
しかし今日の場合、その層の乗客は見当たらなかった。
だから大人の女性を観察して楽しむことにした。
君はさりげなく女性の左手を確認した。
すると薬指にリングが光っていた。
ということは、既婚者だ。
既婚者ということは、子供があるのかないのかはわからないが、セックスをしていることは確かで、こんな風に電車の中で澄まして座っていても、自宅のベッドでは色々なことを経験しているはずだ。
それを想像すると、君は密やかに勃起してしまった。
素敵な服を身に纏っていても、ベッドでは裸になり、快感を貪っているのだ。
ペニスを咥えたり、いろいろな部分を舐めたり舐められたり、結合してあられもない声を漏らしながら激しく腰を振る。
男は旦那だけか、それとも浮気していて他にも相手がいるのかわからないが、とにかく男を咥えこんでいる。
淫乱な女だ、君はそう思う。
スケベな牝だ、お金を支払わずに女性と触れ合ったことのない変態M男の分際で君はそう思う。
そして、平和で長閑な夕刻の電車の中でふしだらな妄想の翼を広げる。
どんなパンティを履いているのだろう。
陰毛は薄いだろうか、濃いだろうか、きちんと剃って整えているのだろうか。
こんな時期でも腋の毛の手入れはしているのだろうか。
そもそもムダ毛は剃っているのか、永脱しているのか。
セックスの頻度はどれくらいだろう。
フェラチオは好きだろうか。
クンニはどうだろう。
69なんかは日常茶飯事だろうか。
尻の穴でセックスをしたことはあるのだろうか。
オナニーはするのだろうか。
バイブとかローターとか持っているのだろうか。
街中などでタイプの男を見ればチンポを想像したりするのだろうか。
そしてしゃぶりたいとか挿れたいとか考えるのだろうか。
黒いストッキングに包まれた爪先は、どんな香りを漂わせているのだろう。
足の匂いフェチの君は、女性の足元に跪いてヒールを脱がし、両手で足を掲げ持って爪先に鼻を押し付け足の匂いを嗅ぎたい、と激しく身悶える。
携帯電話を弄っている妙齢の女性を盗み見しながら、君は小説なんて実際にはほとんど読んでおらず、たまにページは繰ったが、ストーリーなんて全く頭には入ってきていなかった。

そうして小一時間ほど列車に揺られ、生涯で初めて降りる駅で下車すると、現金で買った切符で改札を抜けて駅前広場に出た。
秋の日はそろそろ暮れ始めていて、風が冷たかった。
地方都市のこじんまりとした駅前は、ささやかな繁華街になっていて、ネオンや電飾看板に光が灯り始めていた。
腹が空いていたので、夕食を食べておこうかと考えたが、遅刻は厳禁だし、ひとまず用事を済ませてからの方が落ち着いてご飯を食べることができるだろう、と思い、このまま寺へ向かうことにした。
駅から寺まではタクシーで行くように言われていた。
駅前広場に立って見回すと、バス乗り場には人の列ができていたが、タクシー乗り場は閑散としていた。
君は客待ちしているタクシーに乗り込み、寺の名前を告げた。
するといちいち住所は言わなくても、運転手はすぐに了解し、タクシーは走り出した。
腕時計を見ると、午後六時少し前だった。
通夜は七時からだと聞いていた。
「どれくらいかかりますか?」
君は運転手に聞いた。
「そうですね、今の時間だと、バイパスがちょっと混むかもしれませんが、それでも十五分もあれば着きます」
運転手が答えた。
君は、ちょっと早すぎるな、と思いながら、「どうも」と礼を述べ、訊いた。
「寺の近くで、時間を潰せるような喫茶店とかファミレスとかって、あります?」
「いやあ、何もないですね、というのもそのお寺は山の方で、店らしいものなんて周りには一軒もありません、お客さん、お通夜か何かですか?」
君の服装からそう思ったのだろう、運転士はルームミラー越しに君を見た。
「ええ、会社関係の方が亡くなりまして」
「そうですか、ところでお戻りはどうされるんですか?」
「特に決めてないですが」
「よかったら」
運転手はちょうど信号待ちで止まると、体をひねって名刺を差し出した。
「帰りの足がなかったら呼んでください」
「わかりました」
君は名刺を受け取ると、それを上着の内ポケットにしまった。

「着きました」
タクシーが止まったのは、なかなか立派な山門の前で、大きな寺院だった。
葬儀の案内を示す看板が出ていて、山門脇の広い参詣者用の駐車場には多くの車が止まっていた。
君は料金を支払ってタクシーを降りると、山門をくぐった。
まだ時間には早かったが、家名を記した提灯が灯り、白と黒の鯨幕が張られ多くの花輪が飾られた境内には、すでに多くの弔問客がいた。
テントが出ていて、受付も設置されている。
会社の従業員らしき人たちが手伝いに来ていて、動き回っている。
もう担当を外れて何年も経つので、知った顔は見当たらなかった。
君は受付に立ち寄り、香典を包んだ袱紗を持ちながら、順番を待った。
そして自分の番になると、簡潔にお悔やみを述べ、袱紗を開いて香典袋を取り出し、手渡した。
それから記帳し、受付を離れた。
通夜の会場は本堂だったが、開始まではまだ時間があった。
こういう場に不慣れな君は、とりあえず電話で上司に到着したことを連絡し、境内を見回した。
大きな寺だったが、時間を潰せそうな場所はなかった。
不謹慎だが、これが火葬場だと、飲み物の自動販売機などが置かれた休憩スペースがあるのだが、寺にはない。
本堂の隣の建物内に親族や参列者のための控え室があって、人の出入りがあったが、知り合いの全くいない君には入りづらかった。
しかし本堂を覗くと、喪主である嘗ての統括部長、現在の常務の姿が見えたので、君は挨拶に向かった。
相手はもちろん君のことを覚えてくれていて、礼を述べた。
そして近くにいた若い女性を呼び止めると、君を控え室へ案内してお茶を出すよう頼んだ。
その女性に、君は見覚えがあった。
今はどうか知らないが、君が出入りしていた当時は会社の受付にいた女性で、君はM男としてその冷たい雰囲気に惹かれていた。
親しいわけではなかったが、言葉を交わしたことはあるし、名前も知っている。
君は会社に出入りしていた頃を思い出し、懐かしさのようなものを感じながら、美人が喪服を着るとこれほどまで壮絶に艶っぽくなるのか、とつい彼女に一瞬だけ見惚れてしまった。
「わかりました」
女性は喪主に愛想の良い返事をして、君を誘った。
「こちらへどうぞ」
君は、ストッキングを履いているだけのむき出しの彼女の爪先にドキドキしながら、言った。
「お久しぶりです、覚えていますか?」
君が名乗って訊くと、彼女は微笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、もちろん」
彼女が先に立って廊下を進むんだ。
やがて「控え室」と手書きされた紙が貼られた部屋があったが、彼女は素知らぬ顔でその前を通り過ぎ、配膳室の傍を通り抜けると、人気のない建物の奥まった部屋まで歩いた。
そして襖を開けて君を中に入れ、襖を閉めた。
そこは大きな座敷机が置かれているだけの六畳ほどの和室で、誰もいなかった。
「ここは?」
戸惑いながら君が聞くと、女性は座敷机に座り、足を組んだ。
机の上に灰皿が載っていて、女性は煙草に火をつけると、煙をふうと吐き出した。
「休憩室、というか喫煙室」
そう言って、女性は足を組み替えた。
「ああ、疲れる」
彼女は気怠げに首を回し、君はどうしたらいいのかわからないまま立っていた。
しかし君の目線はほとんど無意識のうちに彼女の爪先に落ちてしまう。
「そんなに足が好きなの? 相変わらず」
女性がせせら笑いながら爪先を動かし、君は激しく混乱した。
「え? どういうことですか?」
「とりあえず座れば?」
女性が畳の床を顎をしゃくって見せて、君は「は、はい」と頷くと、腰を下ろした。
そして、ごく自然に胡座をかくと、女性は「はあ?」と煙草を咥えたまま眉間に皺を寄せた。
「正座でしょ、普通」
「あ、すいません」
君は即座に反応して、正座に座り直した。
「ったく、マゾ丸出しだね、未だに」
彼女は煙草を吹かして君を冷めた目で見下ろした。
しかしそんな風に言われても、君は意味がわからなかった。
君が変態M男であることは紛れもない事実だったが、彼女にそのことを告げたことはない。
匂わせたことすらない。
会社を担当していた時も、ついそういう目で見てしまうことはあったかもしれないが、隠していたし、それ以上に事態が発展したことは一度としてなかった。
「ていうかさ、丸分かりなんだって」
彼女はそう言うと、君のタイを引っ張ってグイッと引き寄せ、唇の端に煙草を挟んだまま、パシンッとビンタを張った。
それはあまり強くはなかったが、君をマゾとして覚醒させるには充分だった。
「本当は思いっきり叩いてやりたいけど、さすがに今夜、頬を真っ赤に腫らしてたらマズいからね」
彼女はそう言い、君の顔の前に爪先を突きつけた。
奥ゆかしい仄かな香りが君の鼻腔を擽る。
「足フェチのド変態」
短く吐き捨て、君の鼻に足の裏の指の付け根をぐっと押し付けた。
温かくて優しい幽香が柔らかい肉の感触と共に君を翻弄し、君の理性は呆気なく崩壊した。
「ああ、素晴らしいですー」
君は両手で彼女の足を持つと、足の指の付け根に強く鼻を押し付け、暴走する掃除機のように吸引した。
爪先は一日中ストッキングに包まれていても、ずっと靴を履いていたわけではないから、それほど強烈には蒸れておらず、ほんのりと馨るだけだった。
しかし化繊の生地はしっとりと湿り気を帯びていて、君を狂わせるに十分だった。
「もうずっとお行儀よく過ごしてたから、Sの血が騒いじゃってどうしようもないのよ、だからお前みたいなのが、ほんとうに都合がいいの」
タイを引っ張り、彼女は灰皿を煙草でつつくようにして火を消した。
「朝からもうストレス溜まりっぱなし、っていうか、お前ドMでしょ? いじめられて嬉しいタイプの変態でしょ?」
彼女はそう言うと、君が何か言う前に、更に付け加えた。
「言い訳なんかしなくていいし、嘘もつかなくていい、ドMかどうかなんて目を見ればすぐわかるし、お前がうちに来てた時から知ってた、今だって会った途端まず爪先見てたし、どうせ前から足の臭いがどうのこうのだの、いやらしい変態の妄想してたんでしょ?」
完全に図星だったので、君は何も言い返せなかった。
本来、こんな場所なのだから毅然と否定して、社会人としてちゃんとするべきなのだが、実際の君は破廉恥にも猛々しく限界までペニスを勃起させながら美しい女性の足の匂いに陶然としていた。
女性が足を下ろして君から爪先を引き離すと、いきなり体を前のめりになり、むんずと君の股間を掴んだ。
「ほら、こんなにカチカチ、M以外ありえないし」
射るような鋭い視線で見つめられ、君は畳に目を伏せた。
「すみません……」
小声で言うと、顎を手のひらで持ち上げられ、またビンタを張られた。
「目を見て謝りなさい」
「はい、申し訳ございません」
オドオドした目を向けて謝る君を、女性は鼻を鳴らして嘲笑った。

「とりあえず、舐めて」
女性は机から尻を浮かすと、無造作にスカートをたくし上げ、おもむろにパンストとパンティを引き下ろすと、片方だけ足から抜いて、腰を前に突き出しながら股を開いた。
そして君のタイを引っ張って寄せた後、頭を両手でガッツリと掴み直し、自らの股間に君を顔を引き込んだ。
君は選択の余地のないまま、股間の茂みに突っ伏した。
据えたような甘く温かい匂いが君を包み込み、君は舌を伸ばすと、茂みを掻き分けて亀裂に辿り着き、舌先を差し込んだ。
舐めあげ、啜り、吸い付く。
女性の尻に両手を回して体のバランスを保ちながら、フンフンと鼻を鳴らして猛然と舐める。

女性は君の頭を両手で抱え込みながら下唇を噛み締めて、時折、ピクンピクンと腰をひくつかせている。
君はスカートの中から女性に訊く。
「このままオナニーしてもよろしいでしょうか」
「勝手にしなさい」
女性は両足でカマキリのように君の体を挟み込みながら言った。
君は「ありがとうございます!」と股間に顔を埋めたまま礼を述べ、もどかしげにズボンのベルトを外すと、パンツと一緒に下ろした。
そして左手で女性の尻をかき抱いたまま、すでに完全にいきり勃っているペニスを右手で握り、しごき始めた。

女性も君も息を殺して快感を貪っている。
彼女は右足を君の左の肩にあげて載せ、自ら股間を突き出しながらぐいぐいと君の顔に押し付けている。
君は溶け出した花の熱い芯に舌先をねじ込み、擦り上げるように出し入れしたり、小刻みに律動させたり、大胆に舐め上げる。
甘い蜜が滴り出て、君はそれをわざと音を立てて淫らに啜る。
そして、唇を窄めるようにして小さな突起を含み、強く吸い上げ、舌で転がす。
熱を帯びた亀裂から溢れ出る蜜が君の口元をベトベトに濡らし、君は亀裂以外にも、陰毛が茂る股間エリア全体、さらには太腿の内側にも唇や舌を這わした。
呼吸が止まるような静寂と緊張感の中、男女の微かな吐息だけが漏れている。
誰かが、襖一枚で隔てられているだけの廊下を通りかかった。
一瞬、君の動きがフリーズし、無造作に髪を掴んでいる女性の手にも力が込められて、時が止まる。
その間に、君は一本だけ唇の端に引っかかっていた抜けた陰毛をそっと手で取った。
そして、じきにスリッパの足音が遠ざかると、再び君は舌と手を動かす。
凄まじい背徳感が君を突き上げる。
君は左手で女性の豊かな尻を揉みしだき、右手で自らのペニスを擦り、そして舌を縦横無尽にせわしなく動かして彼女の股間を執拗に舐めまくりながら、迫り上がってきた射精の衝動に、股間から顔を上げ、大きく息を吸い込んで小声で申告する。

「あああ、も、もう、イ、イキそうです……」
「まだ、ダメ」
女性が背中を大きく反らし、一層強く君の顔を自らの股間に引き込む。
君は再び敢然と舌先を亀裂に埋め込んでいく。

やがて、遠くから僧侶の読経が聞こえてきた。

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