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インスタント・ウイング

年末年始の休暇の時期が終わって旅行代金が通常並みに下がった頃、君は一週間の休みを取ってひとりでハワイへ出かけた。
格安航空券とホテルを組み合わせて手配し、スーツケースひとつで旅立った。
リゾート地へ男ひとりで出かけるなんて侘しさと紙一重だし、二人旅に比べると割高だったが、君には目的があった。
目的とは、ホノルルのSMクラブを利用することだった。
SMクラブなんて日本国内にいくらでもあるが、君は時々ハワイへ行く。
別にハワイにこだわりがあるわけではなく、アメリカならどこでもいいので、本当はもう少し安く済ませられるサイパンやグアムだと助かるのだが、残念ながら君はサイパンやグアムにSMクラブがあるのかどうか知らない。
だからわざわざハワイまで出かけるのだが、そもそも、なぜ君が海外のSMクラブへ行くのかというと、それはプレイでラッシュ系の合法ドラッグが堂々と使用できるからだ。
以前は国内でも使えたし、アダルトショップやドンキでさえ売られていたのに、いつの間にか違法に指定されてしまった。
だから君は困った。
しかし、かといって、あんなオモチャのようなものをアンダーグラウンドで調達しようとは思わなかったし、だったら使用が合法な場所まで自分で赴けばいいのだ、と君は考えた。
芸能人などがロスやアムスへ行ってドラッグをやるようなものだ。
もちろんそれに比べるとラッシュなんて子供のお遊びみたいなものだが、こんなもので逮捕されるなんてバカみたいだし、仕方なかった。

ホノルルのSMクラブには、日本人の女王様もいるので、言語の問題もなく、その点も君にとってハードルが低かった。
つまり日本国内と変わらない気持ちでプレイができるのだ。
無論、望めば外国人の女王様とプレイすることも可能だが、君は語学力に自信がないので、いつも日本人か、日本語ができる日系人の女王様に調教を受ける。
ロスやニューヨークといった大都市だとネット検索で簡単にクラブが見つかるのだが、さすがに遠いし、日本語が通じるかどうかわからないから、というか多分通じないだろうから、君には難しい。
そういう言葉の問題で、もしかしたらアジアの、例えば香港なんかでももしかしたら君の望むプレイが可能かもしれなかったが、中国語なんて英語以上にわからないから、選択肢から外れる。
また、ヨーロッパに目を向ければ、ドイツやチェコなどいくらでもクラブはありそうだったが、ヨーロッパの言語なんて英語や中国語以上にまるでわからないから論外だった。
だから、君にはハワイが精一杯だった。
それにハワイは君にとって、高校の修学旅行で行った初めての海外だから、他の外国に比べると少しだけ敷居が低かった。

ホノルルのSMクラブは、ダウンタウンの古いビルにあるが、合法なのか非合法なのか、君は知らない。
その存在はネットで検索していて偶然知ったのだが大々的に広告が出ていたわけではなかった。
もしかしたらワイキキあたりにも同様のサービスがあるのかもしれないが、ストリートガールや普通のエスコートサービスのようなものしか君は知らない。
だから、本当なら比較的安全なワイキキから出たくはないのだが、ダウンタウンまで行くしかなかった。
最初、君は勇気を振り絞ってまずはメールでコンタクトを取った。
そして、現地入りしてからは電話で予約したのだが、全て日本語が通じた。
海外で風俗へ行くなんて正直、不安と恐怖感が拭いきれなかったが、日本語で意思の疎通を図れたことが君の背中を押した。
それでも、初めて夜のダウンタウンへ出かけた時は、緊張した。
治安が悪いと聞いていたし、実際、日が落ちると昼間に観光で訪れた時とは街の雰囲気が激変していた。
賑やかな通りも暗く寂しく人気がなくなっていて、ジャンキーなど怪しげな人間がうろうろしていた。
そこはリゾート地ハワイではなく、単なるアメリカのダウンタウンだった。
君はタクシーでビルの前まで乗り付けた。
所持品は、プレイ料金と往復の交通費の現金だけで、余計なものは一切持っていかなかった。
ビルは、エレベーターのない古い三階建てで、入り口の扉の付近のどこにも看板らしきものは出ておらず、どう見ても風俗の店があるようには見えなかった。
それでも、指定された住所には間違いなかったし、君はタクシーが去ると、いつまでも寂れた路上にいるのも怖かったので、思い切ってドアのノブに手をかけて引いてみた。
しかし、押しても引いてもドアは開かず、少しパニックになったが、よく見ると、ドアの脇の壁にインターホンがあり、用事がある人は押すように、とプレートが掛けられていた。
そして注意深くあたりを観察すれば、ドア周辺を捉えるようにセキュリティカメラが設置されていた。
インターホンを押すと、すぐに女性の声が聞こえた。
その返事は英語だったが、さすがにその程度なら君でも理解できたので、君は、予約している日本人ですが、とこたえ、名前を伝えた。
すると、少し待つように言われ、永遠に感じるほどの数十秒後、内側からドアが開けられた。
「いらっしゃい」
恐ろしく背の高い、どことなくクリスタナ・ローケンに似た雰囲気のグラマラスな美人の女性が言った。
君より頭二つ分くらい上空からその声は降り注いだ。
「イングリッシュ、ノー? 話セナイ?」
片言の日本語で金髪の女性は言い、君は申し訳なさそうに頷いた。
「ソーリー」
「オーケー」
女性は軽やかに笑いながら言って、中へと誘った。
ビルの内部は、外観から想像されるものとは全く違った。
ブルーの間接照明が無機質な内装を照らしていて、モダンな雰囲気だった。
しばらく廊下を進むと、広い部屋があり、そこがフロントとロビーになっていた。
革張りのゆったりとソファが置かれていて、カウンターに日系人の女性がいた。
彼女も、外国人の血が入っているからか、かなりの大柄だった。
君をここまで連れてきた女性は「あとはよろしく」と英語で女性に言って、カウンターの奥のドアへ消えた。
「さて」
日系人の女性が日本語で言い、君を見つめた。
君はそれだけのことで極度の緊張状態に陥り、硬直した。
「初めて? よね?」
「はい」
「じゃあ、簡単にシステムを説明しておくわね、了解できたら、お金を払って、プレイ」
「はい」
「事前のメールでも伝えていると思うけど、ここは日本の風俗店とは違うから、所謂『サービス』を期待するなら、やめておいたほうがいい」
「はい」
君は若干の恐怖を覚えながらも、了承して頷いた。

君はその初めての日のことを今でもはっきりとよく覚えている。
しかしプレイ後は、疲労困憊で、まるで虚脱状態のようになってしまい、記憶は曖昧だ。
結局、カウンターにいたのが相手の女王様で、彼女に見送られながらビルを出て、別のポリネシア系の女性が運転する店の車でワイキキのホテルまで送ってもらったのだが、車内では全く会話がなかったし、周りが暗いのでどこをどう走っているのかわからなかったし、気づくと窓の外にアラモアナセンターが見えて、そのままワイキキに入り、ホテルのエントランスの少し手前の路上で降ろされた。
君はチップを渡そうとしたが、彼女は微笑んだだけで受け取らず、走り去った。
プレイは、壮絶だった。
待望のラッシュを吸いながらまさに奴隷として扱われ、君はマゾとしてめくるめく時間を過ごした。
プレイの後、女王様と少し雑談をしたのだが、彼女の話によると、クラブの本店はロスにあり、そこは郊外の邸宅が丸ごとSMの館になっていて、伝説的な女王であるマダムが仕切っているということだった。
彼女も普段はロスにいて、たまにハワイにやってくるようだった。
また会えますか? と訊いたら、タイミングが合えば、と言われた──。

一月のハワイは、そんなに暑くない。
というか、夜ともなると、意外に肌寒さを覚えたりする。
君はホテルを出ると、ワイキキで二番目に賑やかな通りにあるアダルトショップでラッシュを買い、近くにある二十四時間営業のパンケーキのチェーン店に入って、オムレツとパンケーキの夕食をとった。
通りに面したテーブルで、ボリュームのある夕食を食べ、コーヒーを飲む。
考えてみると、アダルトショップだって、最初の時は緊張した。
入り口のドアは開いていたが、なんとなく入りづらく、何度も店の前を往復して、やがて勇気を出して入店した。
しかし、いざ入店したら、肩透かしを食ったような感じになった。
というのも、店員のお兄ちゃんは日本人か現地の日系かとにかく日本語が普通に話せたし、ラッシュ類を求める日本人は多いのか、店内を見回している君にすぐに「ラッシュですか?」と訊いてきた。
「はい」
と答えて、君は何種類かある商品の特徴を教えられつつ、選び、買った。
それでも、ラッシュ=ゲイのイメージがあるので、君は訊かれてもいないのに、もちろんマゾとしてSMプレイで使用するとも言わなかったが、「女の子と遊ぶのに使うんだけど、日本では禁止になっちゃって」みたいなことを話した。
店員もそのことは知っていて、「らしいですね、でも、うちはいつでも買えますから」と言った。
今夜は、その時のお兄ちゃんは店におらず、カウンターの中にいたのは外国人のおじさんだったが、片言の日本語が通じて、何の問題もなく君はあっさりとラッシュを手にした。
ちなみに値段は、いつも普通だった。

君は夕食を終えると、トーチの炎が揺れるワイキキの夜の通りをしばらくぶらぶらして腹をこなした。
南の島の涼しげな夜の風に吹かれながら適当に歩き、目についたABCストアで水を買って、飲んだ。
それから、ギャラリア近くのホテルのエントランスで客待ちしていたタクシーに乗り込んで、ダウンタウンへ向かった。
ドライバーは日本語を話せない人だったが、住所を書いたメモを見せると、すぐに了解した。
クラブはすでに予約してある。
女王様の指名はしていないが、日本語でプレイできる人を、というリクエストは通してあった。
タクシーは混み合う大通りを走り抜け、やがてダウンタウンに入ると、君が知っている限りだが遠回りなどはすることなく、目的地である古いビルの前にタクシーをつけた。
君は代金とチップを支払い、タクシーを降りた。
相変わらず夜のこのあたりは、不気味だった。
こういう用事がなかったら、絶対に近づきたくはない地域だ。
君は、水を一口飲んで緊張を和らげてから、ドアのインターホンを押した。
するとすぐに女性の声が聞こえて、数十秒後、ドアが開かれた。
「ハロー」
ビヨンセに似た褐色の肌の大きな美人が現れて、言った。
ハイビスカスがプリントされたスカートの丈の短いキャミソールドレスを着ている。
剥き出しの太腿が逞ましく悩ましい。
君もぎごちなく「ハロー」と返し、予約している名前を告げた。
彼女は微笑みながら頷き、人差し指を動かして「おいで」と中へ誘った。
ロビーに入ると、カウンターは無人で、ビヨンセに似た女性がそのまま君をソファに座らせてから、自分もその隣に腰を下ろした。
柑橘系の香水の甘い香りが君の鼻腔をくすぐる。
「私でいいかしら?」
その言葉は、見た目の印象とは違い、ほぼ完全なイントネーションの日本語で、君はびっくりした。
「えっ?」
思わず君がそう口に出すと、女性は笑った。
「日本人の人はみんな同じように最初は驚くから面白いわ、私、日系三世なの」
「そうなんですか」
「うん、日本語ペラペラよ」
「はい」
「たとえば、そうね」
女性はそう言い、続けた。
「魑魅魍魎が跋扈するこの世の中で変態と変質者は雲泥の差」
まったく一箇所も引っかかることなく滑らかに一息にそう言って、女性は訊ねた。
「……どう?」
「びっくりです」
君は、素直にその日本語能力に驚いた。
そして、こんな魅力的なビヨンセみたいな女王様に日本語でいじめていただけるのか、と考えたら、それだけで昂ぶってしまった。
「是非、お願いします」
「オッケー」
女性は笑い、君は支払いを済ませた。
その際、「これを使っていただきたいのですが」とラッシュの小壜を差し出した。
「ラッシュね、いいわよ。ガンガンいける?」
「はい」
「今、日本では違法らしいもんね、ここに来る日本のマゾ達の大抵が吸いたがるわ」
「そうなんですか」
「うん、多い」
女性は言い、次の瞬間、ふっと親しげな優しい印象を消して、君をじっと見つめた。
そして立ち上がると、君の前に来て顎に手をかけて上を向かせ、「立て」と命じた。
「はい」
君はマゾのスイッチが入るのを自覚しながら腰を浮かせた。

プレイのための部屋は三階にあり、階段で上がった。
女性が先に立ったので、君の目の前で、短いキャミソールドレスのスカートに包まれた圧倒的なボリュームの尻が魅惑的に躍動した。
部屋に入ると、そこは本格的な調教のための部屋で、壁には様々なタイプの鞭、様々な部位のための枷、様々な形状とサイズのディルド、様々な色や太さの蝋燭など、たくさんの道具が整然と並んでいて、来るたびに君は恐れ慄く。
レンガの壁には磔台があり、部屋のあちこちに三角木馬や檻などが置いてあって、高い天井からは滑車に繋がる鎖が何本も下がっている。
「裸で待っていなさい」
そう言い残して、いったん女王様は別室に消えた。
「はい」
君は部屋の隅へ行って、そそくさと服を脱いだ。
そして全裸になると、女王様が座るための豪奢な椅子の前で正座をした。
十分ほどして、女王様が再び登場した。
黒いボンデージに身を包み、踵の高いブーツを履いている。
その硬質な靴音の響きに、君の緊張は頂点に達した。
フローリングの床に視線を落として身を固くする。
女王様が椅子に座り、脚を組んだ。
君は一瞬だけ顔を上げて女王様を見上げた後、改めてひれ伏す。
「御調教、お願い致します」
女王様は無言のまま君の後頭部にブーツの足を置いた。

君は首輪を装着し、リードを繋いで持たれた。
それから全身に亀甲縛りを施され、その状態で正座をさせられた。
そして女王様は君の目の前の椅子に座って長い脚を組み、ラッシュの小壜を開封し、ティッシュに液体を吸い込ませると、それを華奢なガラス製のグラスに入れ、君の鼻を覆うようにそのグラスをあてがった。
「淫らな豚になりなさい」
女王様は冷徹に言った。
君は口を閉じ、鼻だけでゆっくりとその刺激臭を吸引する。
深く吸い、息を止め、口から吐く。
何度かそれを繰り返すうちに、独特な高揚感が脳を刺激し始めて、君は簡単に興奮状態になっていく。
ペニスが脈打ち、吸引を中断しようとすると、女王様が厳しく律する。
「まだダメ、もっと吸いなさい」
「はい」
君はクラクラとなりつつ、さらに気体を吸引した。
半年以上ぶりのラッシュは耐性がついていないからよく回る。
君は淫乱な豚と化しながら、「ああ女王様ー」と身悶える。
たまらなくペニスに触りたかったが、手も足もロープで拘束されているため、何もできない。
君は膝を揃えたまま腰を浮かし、もどかしげに女王様を見上げる。
女王様はそんな君をせせら笑いながら、ようやくグラスを退けた。
君は美しい女王様の顔を見上げた瞬間、瞬間的な翼を広げて華々しく飛翔した。

「女王様、ビンタしてください、お願いします!」

君は絶叫した。
女王様は笑みを消し、感情のない顔で、壮絶なビンタを張った。
体格が逞しいため、ビンタの威力も強烈だった。
君は呆気なく吹っ飛び、転がった。
女王様は椅子から立ち上がり、床に伏せた君の髪を無造作に掴んで引き起こすと、再び膝で立たせ、さらにビンタを炸裂させた。
今度は髪を掴んだまま往復ビンタを浴びせたので、君は転がることなく、打たれるたびに大きく左右に揺れた。
瞬く間に頬は熱を帯び痺れたが、ペニスはますます熱り勃っていった。
女王様が左手でペニスを握り、右手でビンタを張った。
君は凄まじい快感に弄ばれながら、貪欲に腰を振った。
「勝手に腰振るな、私の手はお前のオナニーの道具じゃない」
女王様は激高すると、君の股間を思いっきり蹴り上げた。
ブーツの硬い甲が君の玉袋の下にバスッとヒットして、君は跳ね上がった。
そのままぶっ倒れ、うつ伏せになった。
息が上がったが、すかさず女王様は更にラッシュを吸わせた。
「ほら、もっと狂え、豚」
「はい」
君は目を閉じ、ラッシュを吸引した。
暗い視界の真ん中に白い光の球が浮かぶ。
もう何か何だかわからなくなった。
気づくと、君は床でうつ伏せになって、まるで芋虫のようにもぞもぞと蠢きながら、フローリングにペニスを押し付けて腰を動かしていた。
「床とセックスしてるの? お前」
女王様が呆れ返ったように笑い、君の頬をブーツの底で踏んだ。
そのまま煙草の吸殻でも踏み消すように、グリグリと爪先を動かす。
「そんなに出したけりゃ、このまま一回出しな、豚」
女王様が命じ、君は朦朧としながらも腰を振りつつ謝意を述べる。

「ありがとうございます!」

君の傾いた視界に、ブーツの爪先が見えた。
女王様が、君のすぐ顔の前の床にぺっぺっと何度も続けて唾を吐いた。
その温かく甘い感触は、君の顔にも降りかかる。

「ありがとうございます!」

磨き上げられたフローリングの床の上で、唾の溜まりが白く光っている。
君は唇を窄めて床の唾を啜り、更に激しく腰を振る。

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