エンジェル・ビート

毎朝、毎朝、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に揺られて、佐橋智治は会社へ通っていた。郊外の建売住宅には、妻と三歳になる娘がいる。智治は現在三十五歳で、妻は二つ年下だ。ふたりは五年前に社内で出会って、三年半前に結婚した。多少子供の年齢と合わないところもあるが、この頃ではそんなに珍しいことではない。

智治は毎日午前六時前に起床し、六時半には家を出て、駅まで二十分かけて歩き、六時五十二分の上りに乗る。そして一時間半その列車に揺られた後、都心のターミナル駅で乗り換え、さらに環状線に十五分乗って、ようやく会社の最寄駅へと辿り着く。改札口から吐き出される頃には、すでに疲れている。秋や冬はまだマシだが、夏は最悪だ。ただでさえ小太りの智治は、ぐっしょりと汗だくになってしまう。家の近くの駅から乗る一時間半の電車は座れるからいいが、その後の環状線が地獄だ。殆ど身動きが取れない。

しかし、ある日、その生き地獄が天国へと変貌を遂げた。それは、ひとつの刺激的な出来事がきっかけだった。

その日は、六月中旬の、蒸し暑い梅雨の日だった。朝からしとしとと温い雨が降り続いていて、車内はいつも以上にムシムシしていた。暑いうえに、梅雨の時期特有の湿気が人々の体温でさらに不快度を増し、背広の下のシャツは汗で張り付くほどだった。智治は窮屈な姿勢のまま苦労してハンカチを取り出して、額や首筋の汗を拭った。自分の体温で眼鏡が曇っていた。智治はそれもついでに拭いた。

列車が駅へ着く度にドアが開いて、乗客の出入りはあったが、車内の人数は一向に減らず、それどころかさらに増えていった。智治はドア周辺の広くなった場所の中央付近で、吊り革に掴まることも出来ないまま、周囲の人に押し潰されるようにしてどうにか立っていた。車内アナウンスがまるでカウントダウンのように駅名を告げていき、降りるべき駅へと近づいていった。智治はそれを祈るような気持ちで聞いていた。

汗を拭き終わって、智治はハンカチをズボンの尻ポケットに戻した。と、その時、ちょうど列車が急カーブに差し掛かって大きく傾き、人々が互いにぶつかり合うように揺れた。

その拍子に、智治の手が、偶然すぐ前に背を向けて立っていた女子高生の尻に触れた。それは柔らかい感触で、瞬間、智治は自制心を失った。どさくさに紛れて茶色の髪の香りを嗅ぎ、尻に触れた手を動かして双丘を撫で回した。女子高生の髪からは仄かにシャンプーの匂いがし、白いシャツからは微かに甘い汗の匂いがした。それは一服の清涼剤のようで、智治は暫しその香りを楽しんだ。尻の感触も申し分なかった。最近は風俗へも行っていなかったし、妻以外の女性の体を触ったのは、本当に久しぶりだった。智治はもっと長い時間触っていたかったが、あまり執拗にすると、痴漢で声を上げられるかもしれなかったので、適当なところで切り上げた。残念ではあったが、それ以上続ける勇気はなかった。

このようにして、智治は通勤地獄の中に、密かな楽しみを見つけた。毎朝苦しいだけだった満員電車が、一日にして薔薇色の空間へと変わった。以来、智治は、そのイケナイ遊戯にすっかりはまってしまった。しかも行為は日に日に大胆になり、この頃は、スカートの上からではあるが、尻の割れ目に沿って中指を這わせたり、時には固くなった性器を押し付けたりした。いつかスカートの中に手を入れて下着の触感を味わったり、直にアノ部分に触れたいと思っているが、まだそこまでのことは出来ずにいた。

ターゲットは女子高生に限らず、時には果敢にОLや女子大生にも挑んだ。智治は大柄な女性が好みなので、だいたいそういう女性を選んで触った。智治の身長は男性としては小柄な一六八センチなので、少し背の高い女性が流行の厚底サンダルやハイヒールを履けば、簡単に彼のストライクゾーンとなる。が、智治は慎重な性格なので、毎日乗る電車を微妙にずらしたり、車両を替えたりして、なるべく目立たないように気を配った。加えて、誰かひとりを毎日狙う、ということもしなかった。たまたま同じ子を触ってしまったことはあったが、そんなのは稀で、智治は基本的に違う人を触るようにいつも心掛けていた。さらに、大胆に触りはしても、必ず短時間でやめるようにしていた。それは、もし反撃に遭った場合、常に偶然だという言い訳が出来るように、という理由からだった。それほど智治は小心で、勇気のない痴漢だった。一睨みされれば、すぐに萎縮してしまう。実際に何度か危ない時があった。その時は、警察か駅員に突き出されたらと思うと怖くて、心臓がバクバクしたし、本来下降りる駅ではない駅で逃げ出すようにして下車した。そんなことがあってから、智治はさらに用心深くなったが、一度覚えてしまった悦びを簡単に忘れることは不可能で、きっぱりとやめることは出来なかった。だから随分慣れてきた頃でも、細心の注意を払って行為に及んだ。ヤバいことがあると、さすがに二三日は自重するが、気が付くとまた手を出しているから、全く懲りない智治であった。

「行ってくるよ」

智治はそう妻に言って玄関を出ると、傘を開き、しとしとと細かい雨が降りそぼる家の前の道に出た。月曜日の朝はただでさえ憂鬱なのに、雨とは全く嫌になるな、と思いながら智治は歩き出した。週休二日の彼にとって、連休の後の月曜日は辛い。体は休日の疲れを引きずっているし、気持ちは今日から始まる一週間のことを考えるだけで萎えてくる。通勤だけで往復五時間も掛かる。その時間を冷静に考えたら、それは相当なプレッシャーとなる。

季節はもう秋で、早朝の空気は引き締まっている。まだそんなに寒くはないが、雨が降っているせいか、頬に触れる空気は冷たい。智治は右手に傘を差し、左手にブリーフケースをブラブラとぶら下げながら駅へと向かった。傘に当たる雨音が、静かな住宅街に、はっきりと聞き取れる。

駅に着き、定期で改札を抜けると、いつもの定位置に立って列車を待った。周囲の顔触れも毎日同じだ。しかし一度として言葉を交わしたことはない。

ほどなく列車がホームに入ってきて、智治は乗り込むと、ベンチシートの一番端に座ってブリーフケースから推理小説の文庫本を取り出した。大きな欠伸をしてから、ページに視線を落とす。文庫本は、どうせ通勤の途中で時間潰しに読むだけだから、会社の近くの古本屋でまとめて購入することにしている。なんせ一週間で三冊は読めてしまうから、いちいち新品を買っていたら、ただでさえ少ない小遣いをなんとか遣り繰りしている身としては、かなりの財政圧迫となる。だから智治は、昼食代や煙草代、そしてたまには同僚と酒を飲む金も必要ということもあって、あまり負担にならないようにと、一冊百円とか二百円の文庫本を買うことにしているのだった。

智治は動き出した窓に雨が当たって斜めに流れるのを時々見遣りながら、別にたいして面白くもない小説を読んだ。そんな気構えで行を追っていくから、五分もしないうちに瞼が重くなってきて、結局十分ぐらい読んだだけで眠ってしまった。朝が早いから、ちょっとでも気を抜くと、すぐに眠くなってくるのは仕方のないことであった。

再び目を開けた時、列車は満員になっていた。通路にも立錐の余地がないくらい人が立っている。勿論シートもぎっしり埋まっている。智治は居住まいを正して、膝の上に伏せて持っていた文庫本をブリーフケースにしまった。腕時計を見ると、降りるべき駅はもうまもなくだった。

ターミナル駅は、雨のせいか薄暗く、それでいていつもより大勢の人達が行き交っていた。智治は押し出されるように列車を降りると、環状線へと向かう人の流れに乗って混雑するホームを移動した。階段を下り、通路を通って環状線のホームへと再び上がると、ちょうど列車が入ってきて、どうにか乗り込むことが出来た。

これから十五分、全く身動きのとれない時間が始まる。智治はドア周辺の一番中央付近まで押し込まれて、そのまま何にも掴まることも出来ないまま、周囲に支えられるようにして立った。雨の日独特の匂いが車内には満ちていて、ムッとしている。天井で扇風機が回っているが、あまり役には立っていない。朝、家を出る時は肌寒かったのに、車内は汗ばんでくるくらい気温が上昇している。

すぐ目の前に、智治の身長と殆ど変わらない制服姿の女子高生がいた。後ろ姿なので顔は見えないが、鼻先に触れるくらい近い栗色の髪からは、いい匂いがして、智治はまたしても悪い病気がムクムクと頭を擡げてくるのを自覚した。たちまち股間が膨らんでくる。さりげなく右手の傘を、ブリーフケースを下げている左手に持ち替えてまとめて持つと、利き手の右手をフリーにした。周りから挙動不審に思われないように女子高生から視線を外して斜め下に落とすと、いつでも臀部を撫で回せるよう右手を尻から数センチの位置に定めて、タイミングを計った。と、その時、列車が大きく揺れて、図らずも右手で触れるよりも早く固くなった股間をその豊かな双丘に押し付けてしまった。柔らかい感触がズボン越しにでも伝わって、気付くと、智治の性器は女子高生の尻の割れ目にぴたりと嵌ってしまっていた。手はお尻ではなく、短いスカートから伸びる素足の太腿に触れていた。智治の性器はその感触でさらに硬度を増した。栗色の髪が鼻先を掠めて、智治は大きく鼻腔を広げてその香りを楽しんだ。これがあるから、満員電車も捨てたものではない、と思った。普通の生活では絶対に触れられない十代の少女の体に、それもただ触るだけでなく、どさくさに紛れて性器を宛がうことが出来るのだ。まるで夢を見ているようだった。智治はしばしその感触に酔いしれた。

が、しかし、それに浸っていられるのも、僅かな間だけだった。列車はすぐに態勢を立て直して、元の状態に戻った。ここで深追いをすると失敗する。智治はそのことを知っているから、名残惜しかったけれども、すっと体を離した。手のひらで尻を触れなかったのは残念であったが、太腿に直に手のひらを這わせられたのだから、まあこれで良しとしよう、と智治は自分に言い聞かせて、おとなしく手を引っ込めた。きっとこうすることで女子高生も、今のは不快な感触ではあったが偶然のアクシデントで、故意の痴漢行為ではない、と判断するだろう。いや、是非ともそう判断して欲しい。智治はそこまで考えてふと、人の隙間に見えたドアのガラスに目を遣った。すると、外が雨で薄暗いのでガラスには車内の様子が反射していて、股間を押し付けた女子高生の顔が見えた。一瞬目線が合った。智治はさりげなく視線を外した。さすがにじっと見つめあえるほどの厚かましさは、残念ながら持ち合わせていない。ちらりと見た彼女は、えげつないギャル系ではないが、なかなか派手な顔立ちの、可愛い女の子だった。

智治は改めて女子高生の後ろ姿をまじまじと観察した。背は高い方だろう。よく見ると、スポーツでもしているのか、がっしりとした体格をしている。肩幅もあるし、制服の袖に隠れてはいるが、腕も逞しい感じだ。同じように、これもあくまでも想像だが、胸も大きそうだ。そして視線を下に向けると、つい今しがた性器を押し付けたばかりの尻は、かなりのボリュームで、短いスカートから伸びる脚も若干太めで、またそれが十代の女の子っぽくて素敵だった。つまり、一言で言えば、むしゃぶりつきたくなるような体だ、ということだ。智治は後ろから抱きついて両手で胸を揉みしだきながら尻に股間を押し付けて腰を振りたい衝動に駆られたが、さすがにそれはぐっと我慢した。その代わり、こんな女の子の全身をペロペロと舐め回すことが出来たら、きっと楽しいだろうなあ、と想像した。この年頃の女の子は新陳代謝が活発だから、こんな日だと、腋や股間はじっとりと蒸れていい匂いがするだろうなあ、とか、パンティにはもう沁みなんかが付着しているのかな、とか、白いルーズソックスも足裏を見れば汗と脂で黒ずんでいたりするのだろうなあ、と次々に卑猥な想像の翼を広げた。

そんなことを考えているうちにも列車は走り続け、やがていつもの駅に到着した。智治は破廉恥な妄想を断ち、未練がましく女子高生の背中を見つめながら、大勢の人と一緒に下車した。ほとんど自動的に足を踏み出し、地下への階段を下りていく。いつのまにか股間の勃起は治まっていたが、女子高生の髪の匂いは未だに鼻腔の奥深くに記憶していた。

改札を抜けて駅前広場に出ると、憂鬱な雨が降り続いていた。智治は傘を差し、会社へ向かうために、気持ちを社会人モードに切り替えて雨の中を歩き出した。

会社に着いて、エレベーターでビルの五階にある事務所に入り、窓を背にした自分の席に座ると、パソコンのスイッチを入れた。起動する間に智治は女子社員の淹れてくれたお茶を啜りながら日経を読み、煙草を一本灰にした。課長が家族旅行で休暇を取っていて不在なので、心なしか課内の雰囲気も弛緩している。智治もそれに乗じて同僚と軽く談笑しながらお茶を飲んだ。それでも、九時になると同時に新聞をラックに戻して、まず社内メールをチェックした。

誰も真剣に読みはしない社長の訓示メールや、総務からのお知らせメールを読み飛ばしていく。会社では、ITだか何だか知らないが、一応社員ひとりひとりのデスクにコンピューターが設置されている。しかし智治は、この状況をあまり歓迎はしていなかった。なぜなら、個人的に社内の誰かにメールを出すのは厳禁で監視されているらしいし、インターネットにも接続出来ないように設定されているからだ。外部に接続出来るのは、課長以上に限られていて、暗証コードを入力しないと使えない。以前に、誰かが暗証コードを使ってインターネットを使用したことが電話料金の請求から発覚したことがあって、大問題になった。結局犯人は分からなかったらしいが、それ以来、一段と管理が厳しくなった。もしインターネットが使えるなら、アダルトサイトも閲覧し放題なのだが、残念ながらそうはいかない。

メールのチェックを終えてから、智治は今日のスケジュールを開いた。コピー機の販売会社で個人向けメンテナンス担当である智治は、今日も三軒の予定が入っていた。三年前までは営業であったが、成績がぱっとしないのと、あまり外交的とはいいがたい性格から、異動の打診があった時、まるで渡りに船とばかりにメンテナンス部門に移った。元々機械いじりの方が商売より好きだったので、智治にとってメンテナンスの仕事は天職だった。時間は割と自由になるし、仕事は常に一人で動くから、誰にも気兼ねすることがない。これが法人担当だと、いろいろと気遣いが必要かもしれないが、個人ユーザー相手は気楽なものだった。

スケジュール表によると、今日の予定は午前中に一軒、午後に二軒となっていた。車でぐるりと回ってくると、ちょうど退社時刻の五時前には戻ってこれそうだった。天気予報によると、今日は一日雨が降り続くらしいし、まだ一週間が始まったばかりの月曜日だから、なるべくなら残業はしたくなかった。

智治はパソコンのキーボードを操作して、今日の訪問先のデータを取った。ユーザーのデータはすべてコンピューターに入っている。お客様カードというデータベースに、ユーザー名や住所や電話番号とともに、機械の製品番号や購入時期、それに過去の修理履歴まで入力されている。智治はそれを探してプリントアウトし、デスクの上で充電を終えていた会社から貸与されている仕事用の携帯電話と一緒に、ブリーフケースにしまった。修理道具や作業の時に着用するジャンパー等は、いつも車に積んだままなので、出掛けるときはブリーフケースひとつでいい。

さて、そろそろ行くか。独り言を呟きながら壁のホワイトボードに近寄り、智治はペンを取ると、自分の名前が書かれている予定の欄に、外回り、五時頃帰社予定、と書き込んだ。

雨のために普段より渋滞している都心の道を走りながら、智治は煙草に火をつけた。アクセルとブレーキを交互に踏んで、のろのろとしか動かない前の車の赤く滲むテールランプをぼんやりと眺めながら煙を吐き、ドリンクホルダーに置いてある、会社のロビーの自動販売機で買った缶コーヒーを一口飲んだ。

この調子だと一軒目の十時半の訪問予定には間に合わないかもしれないな、と思いながら、携帯電話を取り出し、書類を繰って、とりあえず訪問先へ連絡を入れておくことにした。車はさっきからほとんど動かないから、電話を使っても運転に支障はない、と判断して、智治はダイヤルボタンを押した。すぐに相手が出た。智治は社名を告げ、丁寧な口調で交通事情を説明して、少し約束の時間に遅れるかもしれない旨を伝えた。幸い、相手もすぐに承諾してくれた。智治は礼を言って通話を終えた。

携帯電話を助手席のシートに放り、大きな欠伸をした。相変わらず渋滞はひどく、解消する兆しすら見せていない。先の信号は青なのに、車列は全く動かない。雨は一定の勢いを保って静かに降り続いている。

智治は今日の予定を頭の中で反芻しながら、ルートを思い浮かべ、どこで昼食にしようかと思案した。外回りの楽しさは、好きな時に好きな所で休憩が取れることだ。仕事さえきちんとこなせば、どこで何をしていようと誰にも分かりはしない。どこかで寄り道をして多少時間が掛かったとしても、道が渋滞していたと言えばそれで通る。実際智治は、仕事中にファッションヘルスへ行ったことだってあるし、パチンコやマンガ喫茶なんていうのは日常茶飯事だ。ただ、風俗店へ立ち寄った場合気を付けなければならないのは、石鹸の匂いを残さないことだ。そのため、そういう時は、石鹸を使わずに体を流してもらう、という小技が必要となる。

今日は雨が降っていて鬱陶しいし、朝から女子高生に触れて、気分的には風俗に行きたい気分だが、今日の訪問先は微妙に方向が散らばっていて時間的にあまり余裕がなさそうだし、道がこんなに混んでいては、普通に回っても結構時間が掛かってしまいそうだったから、潔く諦めることにした。

それにしても今朝の女子高生は可愛かったなあ、と智治は思った。あの髪の香りとお尻の感触が忘れられない。今頃あの子は何をしているのだろう。時間的に見て、もうとっくに学校に着いて授業を受けている頃だろう。今朝痴漢に遭ってチンポ押し付けられたのよキモーい、なんてクラスメートに告げたりしているのだろうか。ああ、こんなことならもっと大胆に触っておけばよかった、と今更ながらに智治は地団駄を踏んだ。思い出しただけで股間が固くなってくる。

少し車が流れ出した。智治は煙草を消して、ブレーキペタルから足を浮かせた。

一軒目の修理が思いのほかてこずり、昼食をファミリーレストランの日替わりランチで軽く済ませた後、急いで二軒目へ回った。依然として雨が降り続いていて、道路はどこもかしこも混雑していた。そのため、全く時間の予測がつかなくて、休憩どころではなかった。二軒目の訪問予定時間は一時であったが、ロードマップで探しながら辿り着いた時には、二時に近かった。もちろん、事前に電話を入れておくのは怠らなかった。それが功を奏してか、待っていた初老のご主人の機嫌は悪くなかったが、コピー機の修理が難敵だった。結局その場では直らず、持ち帰ってサービスセンターへ回すことにして機械を預かった。オフィス用のカラーコピー機なんかだと大きいうえに重くて、とてもではないが会社のバンでは運べないが、家庭用なら荷台に積み込むことが可能だった。智治は後部の荷台にコピー機を積み終わってから、腕時計を覗いた。すると、既に三軒目の訪問予定時間である三時までもう三十分を切っていた。どんなに飛ばしてもここからだと四五十分は掛かるから、またしても遅刻は避けられそうになかった。

智治は運転席に納まってから携帯電話で三軒目の訪問先に連絡を入れた。すると奥さんが出て、こう言った。

「こんな天気ですから遅れるのは仕方ありませんし、別に構いませんけど、私は出掛けてしまいますので、その代わりに娘に居るように言っておきます」

「申し訳ございません。なるべく早くお伺い致しますので」

智治は丁寧に詫びを入れて電話を切った。エンジンを掛け、車を発進させながら、この先の所要時間を計算してみた。これから三軒目の訪問先まで約一時間を要するとして着くのが三時半。それから修理に一時間掛かるとして終了が早くて四時半。それから会社に向かうと、ちょうど夕方のラッシュに巻き込まれそうだから、到底五時には戻れない。スムーズにいって帰社は六時前になるだろう。

ああ、残業かあ。智治は溜息をついた。書類をまとめるのは明日に回すとしても、退社は六時を過ぎそうだ。そうなると、乗換えがうまくいっても、家へ帰り着くのは九時前後だ。月曜日からこれでは、本当にしんどい。しかし、この不況下では転職もままならないし、家族を食べさせていかなくてはならない以上、愚痴ばかりを零していたって仕方なかったから、智治は気持ちを切り替えて運転に集中した。

一方通行に苦労しながら、ようやく三軒目の訪問先に辿り着くと、智治は急いでジャンパーを羽織り、ツールボックスを持って車から降りた。この辺りは、中流よりやや上の部類に位置する住宅地で、訪問先の家もなかなか立派な一戸建てだった。

智治は玄関のチャイムを鳴らし、はい、と返ってきた若い女性の声に、社名を告げた。どうぞ、という声に、お邪魔致します、と言って鉄製の扉を開けて母屋の玄関へと進んだ。

玄関先に応対に出てきたのは、先程の電話で奥さんが言っていた通り、娘さんらしき女子高生だった。智治は社員証を提示して身分を明らかにし、玄関で靴を脱ぎながら、ドギマギしていた。というのも、彼女は典型的なコギャルで、しかも智治好みの大柄な女性だったからだ。コギャルといっても、ブスなヤマンバメイクではなく、少しヤンキーがかった美少女系だ。金色の髪をアップでまとめていて、もう季節は秋だというのに、太腿を剥き出しにしたジーンズのホットパンツを履き、上にピンクのパーカーを着ていた。身長がかなり高い。智治よりは完全に高くて、おそらく一七〇は越えている。いくら冷静さを保とうとしても、目は自然と太腿に行ってしまう。逞しくて素敵な太腿だ。しかも裸足で、爪には毒々しい黒のペディキュアが塗られている。智治はそんな彼女に導かれて奥へ通された。

「コピーの修理だよね。だったら機械は二階。父親の部屋にあるの。なんか紙が詰まっちゃったらしいわよ」

素っ気なくそう言う彼女の後ろについて廊下を進み、階段を上がった。目の前で、先を行く彼女の豊満なヒップが揺れ、肉感的な太腿が躍動する。甘い柑橘系のコロンが漂う。智治は縋りつきたい欲求をぐっと堪えながら階段を上がった。

「この部屋。私、下にいるから、終わったら言って」

一枚のドアの前で振り向き、そう言うと、彼女はさっさと踵を返して戻っていった。わかりました、と答えながら智治は、涎が垂れそうになっていたのを正して、その後ろ姿を見送ってから、ドアに向き直り、開いた。

その部屋は、父親の書斎だった。広さは六畳ほどで、パソコンが載った大きなデスクと本棚が壁の一面を占め、反対側の壁に寄せて置かれたサイドボードの上にコピー機があった。智治はコピー機の前にしゃがみ、前面のボディを外した。

それにしても今の子は、今朝の女子高生に勝るとも劣らない、美味しそうな体だったなあ、と思いながら智治は仕事に取り掛かった。

症状としては典型的な紙詰まりで、それは修理とも呼べないくらい簡単な作業だった。手順に従って部品を外していき、くしゃくしゃに絡まっている紙を慎重に引き抜いていく。こんなのは目を瞑っていても出来るくらいだったから、智治は機械的に手だけを動かしながら、頭の中では今の女の子の下半身のことばかり考えていた。

歳はいくつくらいだろう。十六か七というところか。それにしてもたまらない下半身の量感だった。太腿の張りも素晴らしくて、きっと手で触れば、つるつるしているのだろう。ああ、あの太腿に触りたい。舐めたい。そしてどさくさに紛れてホットパンツの股間に顔を突っ込んで思いっきりアノ部分の匂いを嗅ぎたい。果たして、どんな匂いを漂わせているのだろうか。いかにも十代の女性らしく、甘酸っぱい、蒸れたような、饐えたような香りだろうか。一度でいいから生の女子高生の匂いを胸一杯に吸い込んでみたい。その夢想は、朝の女子高生に対して抱いた思いと同じだった。

結局今日は女子高生に始まり、女子高生で終わるのだな、と思いながら、智治はすべての詰まった紙を除去することに成功し、デリケートな部分をクリーニングしてから、再び部品を組み込み始めた。そして元通りの姿に戻し、念のために作動させてみると、コピー機は正常に画像を取り込んで用紙を排出した。印刷の色むらもないし、動作もスムーズだった。

「よし」

ひとりで納得して腕時計を見ると、まだ四時まで数分あった。思ったより早く片がついた。今からすぐ帰れば、五時には会社に戻れるかもしれない。

智治は手早く道具をしまうと、サインを貰わなければならない書類をブリーフケースから出して、修理項目の欄にチェックを入れた。

これで今日の作業はすべて完了だった。

書斎を出ると、階下から賑やかな喋り声が聞こえてきた。どうやらさっきの子に友人が訪ねてきているらしかった。智治はツールボックスとブリーフケースを手に持って階段を下り、リビングの扉をノックした。

「あのう、修理の方、終わりました」

そう声を掛けると、内側から扉が開いて、この家の娘が顔を出した。智治は書類を差し出した。

「こちらにサインを頂けますか」

いくら客とはいえ、女子高生に丁寧語を使わなければならないのはバカらしかったが、これも仕事なので、この頃ではその事は考えないようにしている。

「カネは?」

口を半開きにして、人を食ったような態度で娘が言う。それにも智治は丁寧に答える。

「まだ保障期間中ですので、お代は結構です」

「あっ、そう。まあ、とにかく入って」

顎をしゃくって娘が言った。全くナメた態度だ、と智治は少しムカついた。あんまり生意気な態度をとると犯すぞ、と内心で思った。そして、その時の様子を想像した。自分よりも大柄な女子高生を押し倒して、パンティを剥ぎ取り、吸い付くようにして股間を執拗に舐め上げる。こうなったら、とことん恥ずかしい部分を舐めてやる。アソコのみならず、アナルや腋の下や足の指。嫌がる女子高生を辱めながら舐めるという行為は、なかなか魅力的な誘惑だった。ついでに沁みのついたパンティの匂いも当人の目の前で嗅いでやろうか。そして、ああとても臭くていい匂いだ、とでも言ったら、この娘はどんな顔をするだろう、と思った。が、しかし、小心な智治にそんなことが出来る筈もなく、おとなしく彼女の促すままにリビングに入室した。

彼女の友人らしい、同じ年頃の女の子がひとり、ソファに座ってテレビを見ながらポテトチップを齧っていた。智治がリビングに入っていっても、その子は智治の存在を完全に無視して、目はテレビの画面に向けたままだった。斜め後ろから見る格好なので顔は分からないが、服装は、この家の娘と同様のギャル系だ。胸の膨らみを強調するようにぴったりと体に張り付いた黄色のニットに、白いミニスカートを履いている。ストッキングやソックスは着用していない。そのため、健康的な脚が剥き出しだ。ただ、ここへ来るまでは靴下を履いていたのか、足許に白いルーズソックスが丸まって脱ぎ捨てられていた。

「で、どこにサインすればいいの?」

この家の娘が、カーペットの床にぺたりと座り、立ったままの智治を下から仰ぎ見て聞いた。智治は書類に屈んでスペースを指先で示しながら答える。

「こちらにお願いします」

そう言って体を起こした時、ソファの女の子がおもむろに、何気なくこちらを向いた。そして、その顔を見て、智治は心底から驚いた。なんと、その女の子は、今朝電車の中で痴漢をした女子高生だったのだ。慌てて視線を逸らし、気付かれないうちに退散しようと智治はじっとサインが終わるのを待った。心臓がバクバクと脈打った。横顔に向けられる無遠慮な鋭い視線を感じながら、どうか今朝の痴漢だとは気付かないでくれ、と祈るように願った。

「これでいい?」

サインを終えたこの家の娘が書類を差し出して聞いた。智治は確認もそこそこに奪い取るように受け取ると、結構です、と言ってブリーフケースにしまい、では失礼いたします、とリビングの扉のノブに手を掛けた。背中にはびっしょりと嫌な汗を掻いていた。一秒でも早くこの家から出たかった。室内の二人に背を向け、ドアを引いた。ふう、どうやら気付かれずに済んだようだ、と胸を撫で下ろしながら廊下に一歩踏み出す。と、その時、後ろから声が掛かった。

「ちょっと待ちなよ」

それは、最も恐れていた今朝痴漢をした女の子の声だった。智治は一瞬、振り切って飛び出そうとも思ったが、それでは余計に不信感を抱かせるし、身元も来た時に社員証を示してしまっているから、ここでおかしな行動を取るわけにもいかず、おずおずと足を止めて振り向いた。

「な、何でしょうか」

無意識のうちに声は震え、ついつい、どもってしまった。そんな智治の前に、ソファに座っていた件の女の子がつかつかと歩み寄ってきた。そして、正面から覗き込むようにマジマジと智治の顔を見つめ、智治がドギマギしながら視線を床に落とすと、女の子は開きかけていた扉を閉め、床に足を崩して座っているこの家の娘の方を振り返って大きな声で言った。

「やっぱりこいつだ、間違いない」

この家の娘が首を傾げて聞く。

「何がこいつなの?」

「ほら、さっき真紀にも話したじゃん。今朝、痴漢に遭ったっていう話。人のケツに勃起したチンポを押し付けてきやがった痴漢、こいつなのよ。このイヤらしい顔、間違いないわ」

「えー、マジー? この真面目そうな奴が夏美に痴漢した犯人なのー?」

そう言って真紀と呼ばれたこの家の娘も面白がって立ち上がり、智治の正面に立った。大柄なふたりの女子高生に詰め寄られて、智治は俯いたまま、ますます動けなくなった。何か言わなければ、きちんと反論しなければ、痴漢だと認めてしまうことになる。そう焦れば焦るほど言葉は出て来ず、内心では心臓が停まるほど緊張しているというのに、頭の中では、今朝痴漢をしたこの女の子の名前はナツミというのか、どんな字を書くのかな、なんてふざけたことを考えていた。つまり、この絶体絶命の状況下で、智治はもう正常な思考を巡らすことが出来なくないくらい混乱しているのだった。

「どうなのよ、お前、今朝、夏美に痴漢したの?」

真紀が智治のネクタイを掴み、ぐいっと捻り上げた。そしてニヤニヤ笑いながら、ぞっとするほど冷たい目で智治を見下ろした。

「オラ、何とか言えよ」

容赦なく降り注がれるふたりの鋭い視線に晒されながら、智治は最後の抵抗で、イヤイヤするように否定した。両手からツールボックスとブリーフケースが落ちる。

「い、いえ、違います。痴漢なんてしてません」

しかし残念ながらその声は、情けないくらいに弱々しかった。まともにふたりの顔も見られないままに、智治は小声でこたえ、首を横に振ったが、こんな反論の仕方では自らそうだと認めているというのと同じだった。案の定、ふたりもそのように感じて、智治の否定を肯定として受け取ったらしく、直接の被害者である夏美が、いきなり智治の頬をビンタした。パッシーンと乾いた音がリビングに響いて、それを見た真紀がケラケラと笑う。夏美がそんな真紀から智治のネクタイを受け取って、智治の真正面に立つと、残酷さを湛えた大きな瞳でじっと智治の怯えきった目を見据えた。

「この痴漢野郎、ナメんじゃねえぞ。会社に言いつけてやろうか?」

「そ、それだけは勘弁してください」

智治は消え入りそうな声で懇願した。そんなことを口にすれば完全に痴漢行為を認めたことになるのに、既に智治は何も冷静には判断出来ない精神状態であったから、そこまで考えが回らなかった。

「勘弁してくださいってことは、痴漢しやがったってことだな」

夏美にそう言われて智治はようやく自分の失言に気付いたが、もう既に時遅しだった。智治は自ら墓穴を掘って、なおかつ進んでその中に落ち込んでいったのだった。

「こういう全女性の敵には、ちょっとお仕置きをしてやらないと駄目だな。お前、覚悟しなよ」

その真紀のセリフが、女子高生ふたりによるリンチの幕開けとなった。智治はいきなりネクタイを掴まれたまま夏美に投げつけられて、だらしなく床に転がった。仰向けになったところに、真紀が胸の上にどすんと腰を降ろして、キラキラと目を輝かせて笑いながら壮絶な往復ビンタを何回となく浴びせた。たちまち智治の頬が赤く腫れ上がっていく。

夏美も真紀も大柄で恐ろしく力が強く、情けないことに智治は全く歯が立たなかった。智治の足許に回った夏美が、智治の足首を持って足を大きくVの字に開き、電気按摩をした。その感触に、智治は思わず快感のうめきを漏らした。やわらかい女子高生の足の裏で刺激されて、図らずも性器が固くなっていくのを感じた。それを目ざとく感じた夏美が、さらに刺激を加えながら呆れたように言う。

「うわー、こいつ、マジで変態。こんなことされて、だんだん固くなってるー」

「ウッソー?  信じられなーい。マジー?」

真紀が智治の胸の上で上体を捻りながら夏美に聞き、確かめるために、智治の股間を触った。

「ウワー、本当にカチンカチン。こいつ、もしかしてマゾなんじゃないの」

マゾ? 智治はその言葉を聞いて、頭の中が激しく混乱した。マゾって、SMのマゾのことか? 智治は自分がマゾだなんて、これまで考えたこともなかったから、真紀にそう言われて戸惑ってしまった。しかし、その戸惑いとは裏腹に、下半身は本能に忠実に猛々しく勃起していった。もう限度一杯までパンツの中で反り返っている。確かにこんなことをされて感じてしまうなんて、もしかしたら自分は本当にマゾなのかもしれない、と智治は漠然と思った。

「絶対こいつマゾだって。めっちゃ面白―い。こうなったら、とことん苛めて遊んでやろー」

真紀が笑って胸の上でどんどんと跳ね、その度にくぐもったうめき声を漏らす智治の苦しげな顔に、いきなり、ぺっと唾を吐いた。その粘り気のある体液は、智治の顔全体に浴びせられた。顔に唾を吐きかけられるなんて、智治は生まれて初めての経験だった。これほど屈辱的なことがあろうか。しかも相手は自分の年齢の半分にも満たない女子高生なのだ。そして、さらに驚いたのは、その臭いだった。人間の唾がこんなに臭いものだとは知らなかった。真紀はかなり可愛い部類に含まれるコギャルだが、臭いはその相貌からは想像も出来ないくらい臭かった。智治はたまらず、許してください、と許しを乞うたが、真紀がこの程度で許す筈がなかった。

「何が許してくださいだよ、本当は嬉しいんだろ」

そう言って真紀はさらに唾を吐いた。それを見た夏美が、面白そう、と言いながら前に回ってきて、智治の顔を覗き込むと、真紀と同じように唾を吐いた。

「こいつ唾塗れだよ、最低ー」

ふたりの爆笑が智治を包み込む。それをしゃがんで見下ろしていた夏美が笑いながら立ち上がった。

「唾臭いだろ。もっと臭いものをやるよ、ほら」

夏美はすっと足を持ち上げ、その爪先を智治の口の中に突っ込んだ。凄まじい臭気が智治の鼻腔を突き抜ける。

「おら、女子高生の臭い足だよ。美味しいだろ? ほら、舌を使ってペロペロと舐めな」

智治はもう観念して、言われた通りに舌を足の指の間に伸ばした。すると、ヌルりとした湿り気が舌先を痺れさせ、智治はそのあまりにひどい味覚に、きつく目を閉じて耐えた。自分の意志とは関係なく涙が出てきた。それを見た真紀が、右手で智治の股間を鷲掴みにしながら言う。

「こいつ、チンポをギンギンに勃たせながら、あんまり嬉しくて泣いてるよ、ハハハ」

「そんなに嬉しいのか、お前。じゃあ、もっと舐めさせてやるよ」

夏美がさらに足を押し込む。その間に智治の胸の上から腰を浮かせた真紀が、足許に移動して膝をつき、ズボンのベルトに手を掛けた。

「どれどれ、変態のチンポでも見てやるか」

その言葉に、智治は慌てて体を起こそうとした。さすがにそこまでされるのは堪え難かった。いくらなんでも、この状況で性器を露出させることには抵抗があった。僅かに残されていた最後の羞恥心の欠片が、智治をもがかせたが、その動きを素早く察知した夏美が、口から足を引き抜いて、すかさず智治の上体を起こして背後から羽交い絞めにし、がっちりと拘束した。

「動くんじゃねえよ、変態。お前のチンポを押し付けられたこっちには、それを見る権利ってものがあるんだよ。どうせ、たいしたモノぶら下げてねえんだろ。現役のコギャルがお前の汚いチンポを見てやるって言ってるんだから、有り難く思えよ、バカ」

智治は為す術もなく、ただベルトが外されていくのを見ていた。続いてボタンが外され、チャックが降ろされる。そして、一気にズボンとパンツが一緒に引き摺り下ろされた。まさにビヨーンといった感じで勃起した性器が弾むように飛び出す。

「うわー、反り返ってるよ、こいつ。ギャハハハハハ」

一斉に爆笑を浴びて、智治は真っ赤になった。その性器を露出して注視された瞬間、言い知れぬ興奮を覚えたのは不思議であったが、こんなことをされて勃起している自分の下半身が恨めしいのも事実で、身動きが取れない姿勢で女子高生に勃起を晒しながら智治は、かなり複雑な心境だった。一瞬、家で待つ、愛する妻と娘の顔が脳裏に浮かんだが、すぐに白く眩い闇に掻き消えた。羽交い絞めにされているため、吐息が耳に吹きかかり、背中には夏美の巨大な胸の柔らかい感触と鼓動が伝わってくる。その力強い夏美の生命の躍動を背中にひしひしと感じながら、これは天使の鼓動だ、と智治は思った。残酷で悪戯好きな、ちょっと意地悪な天使。顔中を彩る唾の臭さに夏美の甘いコロンの香りが絡まって、智治の煩悩はチリチリと焦げていく。

「ちょっとシゴいてやるか」

真紀が屹立した智治の性器を握り、ゆっくりと焦らすように手を上下させた。それは絶妙に強弱がつけられていて、智治は無意識のうちに腰を浮かせて喘ぎを漏らしていた。

「あっ、ああ」

「恥ずかしーい。こんな格好で女子高生にシゴかれて、こいつ感じてるよ」

そんな真紀の声に、智治はさらに昂ぶる。背後から夏美の手も伸びてきて、どれどれ、と言いながら加わった。智治はふたりの天使にシゴかれながら、夢見心地だった。羞恥心なんてもうどこかに吹き飛んでしまっていた。夏美も性器嬲りに加わったため、動こうと思えば体を動かしてその刺激から逃れることは可能だったが、智治はされるがままだった。だんだん射精に近づいていく。ふたりのテクニックは、大人顔負けで、プロの風俗嬢並みだった。智治はいつしかその感触に酔いしれていた。

「オラオラ、気持ちいいだろ? いっぱい出してみな。見ててやるから」

笑いながらそう言う真紀。背後の夏美は、いつのまにかシャツの中に手を入れてきていて、きゅっと乳首を抓っていた。智治は半ば目を閉じ、口を半開きにしながら、そのふたつの刺激に身を任せていた。シゴかれているうちに、智治の性器が、ビクンと跳ねた。

「も、もうイキそうです」

智治は声を震わせて言った。と、同時に、ドッピューンと射精した。大量の精液が性器の先端から噴き出し、腹の上に落下した。

「出たー」

ふたりの歓声が湧き起こった。智治は顔を被う唾の臭いと背中越しに伝わる天使の鼓動の中で、生まれて初めて経験した快感の余波に浸っていた。その虹色の波は、何度も緩やかに打ち寄せ、智治の全身を弛緩させていった。

「お前、最低だけど、最高に面白えよ」

やがて夏美が智治の体を離し、ソファに座って煙草を咥えた。真紀も、汚え、と言って手のひらを智治のジャンパーで擦ってから、夏美と同じようにソファに深々と身を沈めて煙草に手を伸ばした。脚を組み、煙草を唇に咥えると、おい、と智治を呼んだ。

「は、はい」

智治はよろよろと真紀の足許に這い進んだ。そんな智治の肩を、夏美が蹴っ飛ばした。力なく智治が背後へ転がる。

「私達が煙草を咥えたら、お前は火をつけるんだよ、バカ」

夏美がきつい口調で注意する。智治は慌てて土下座すると、カーペットに額を擦りつけて、すいません、と謝罪し、失礼します、と言ってテーブルのライターを手に取り、ふたりの煙草に火をつけていった。そして火をつけ終わると、ふたりに煙を吐きかけられながら、犬のようにお座りの姿勢をとった。

智治はまだ精液に塗れた性器を露出したままだったが、もうそんなことは全然気にならなかった。改めて命じられなくても、こうしてふたりの天使に跪くことは、今の智治にとっては、ごく自然で、当たり前の行動だった。何の矛盾もなく智治はふたりの前に跪き、煙草に火をつけた。しかしその時の智治はまだ、それがマゾヒストとしての覚醒の証で当然の反応だということに、確かな自覚はなかった。今、智治は、意識とか理解といった常識の範疇を超越的な跳躍力で凌駕し、本能でふたりの前に跪いたのだった。

広告
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。