夢盗人の悦楽

桑原利一は、闇の中で息を潜めていた。狭い、安普請の掘っ建て小屋だ。その小屋は林のように草木が生い茂る広い庭の片隅に建てられていて、壁に一点だけ、縦が二センチ、横が十センチ程度の細長い穴が穿たれている。その高さは、利一がパイプ椅子に座るとちょうど外が覗ける位置にある。真昼の今、その穴から強い光線が小屋の中に細く差し込んでいる。

小屋の中は、ひどく暑い。息苦しさを覚えるほどの猛烈な暑さだ。利一は首にタオルを巻き、水泳用のトランクス一枚という格好でパイプ椅子に座り、団扇をパタパタと扇ぎながら、ときどき覗き穴から外を眺めている。パイプ椅子の脇に小さなテーブルがあり、その上には双眼鏡とデジタル一眼レフのカメラ、そして、一辺が十センチ程度の小型のボックスが置いてあって、その箱の上部には赤い円いボタンがある。

その監視窓から見えるのは、海の家の裏手に設置された女性用の簡易トイレだ。簡易トイレといっても、工事現場やイベント会場に設置されるようなタイプではなく、厳密にいうとプレハブの「トイレ小屋」で、いわゆる「ボットン便所」だ。まだ子供の夏休みは始まっておらず、梅雨明け宣言も出ていないが、海の家は何日か前に今年の営業を開始し、土曜日の午後の浜辺は、真夏ほどではないが、気の早い海水浴客で賑わっている。

傍らのテーブルの上のボタンに手をかけながら、利一は定期的に外を監視している。海の家は、夏場はもちろん海水浴客で賑わい、シーズンオフは、無料で解放される駐車場の管理施設として使用されているため、一年を通じて利用者がいる。そして、男性用は駐車場の近くに派手なFRP製のボックスが無造作に設置されているのだが、女性用はプライバシーなどの点を考慮してか、わざわざ敷地の外れの茂みの中に別に建てられており、その茂みが利一の家の敷地の間際なのだ。

電線は引いてないし、発電装置もないので、小屋の中ではクーラーや扇風機が使えず、利一の全身からは汗が滝のように流れている。首に巻いたタオルも既にたっぷりと汗を含んでぐしょ濡れだ。利一は意識が朦朧としてきそうになるのを堪えながら、なるべく早急に電気を引いて、できればエアコンを、無理ならせめて扇風機か冷風扇を置かなければ、このまま真夏を乗り越えることはできないだろう、と思った。

この小屋は本来、倉庫というか納屋のような役割を担っていたのだが、利一が家の当主となり、ひとりで住むようになってから、改装した。広さは二畳程度で、内部にはパイプ椅子と、深く掘った穴の下に、FRP製のタンクが設置されている。そのタンクに繋がる配管はそのまま地中に掘られた狭いトンネル内へと伸びている。

タンクは、長さが1.5メートル、幅と高さがそれぞれ1メートルという、ちょうど小型の浴槽くらいの大きさで、床から三メートルほどの深さに設置されている。しかし、埋設しているわけではなく、タンクの大きさに合わせて掘った穴の中に置いてあるだけなので、一応、穴全体を隠す蓋としての床板は用意しているが、床板は傍らの壁に立てかけてあって、基本的には常に全容が露出している。そのタンクは棺桶の蓋のように全体的に開くことが可能だ。そして、タンク自体が真空状態を維持できる密封性の高い設計になっているので、上部には、蓋を開くための円いハンドルが取り付けられている。

もちろん、特注だ。これは貯水タンクの名目で購入した。しかし、設置は利一自身が行った。典型的な零細企業だが、祖父の代から続く配管工事の会社を経営している利一にとって、この程度の作業は全然問題ない。今でこそデスクワークが主だが、以前は現場に出ていたのだ。

このタンクは、取引先の伝手を辿ってメーカーに、「雨水を貯めて、水浴するための装置を作りたいのだ」という名目で特別に作ってもらった。そのとき利一は、「自然の雨水で水浴するとリラックス効果が高いし、頭も冴えるんだぞ」と意味不明な力説をし、「水をフレッシュな状態で保ちたいから、内部を真空状態に保てる物が欲しい」と言った。担当者は不思議そうな顔をしていたが、とくに不審がりもせず、希望通りのものを納入してくれた。

市販のものとは違う改良点は、蓋の部分だ。たいていの市販品は、上部に潜水艦のハッチのような小さなドアしか付けられていないが、それとは別に、ガバっと全体的に、ちょうど棺桶のようにも開くようにしてもらったのだ。もちろん、だからといって密封性を犠牲にすることは許されず、その点に関しては簡易トイレの便槽レベルを要求した。

配管部分に関しても、「なるべくたくさん一度に貯めたいから」という理由で、通常よりも太いタイプのパイプを発注し、特別に「水の滑りを良くしたいから」という理由で内部に特殊なコーティングを施してもらった。そのパイプの全長は三十メートルだった。もっとも、べつにそこまでの長さは必要なかったのだが、別注だし、どうせ施工と日々のメンテナンスはすべて自分でやるつもりだったので、予備も兼ねてそれだけ手に入れておいた。

そして一式が納入されると、早速設置に取りかかった。といっても、誰かの手を借りる訳にはいかなかったので、穴掘りから全部自分でこなした。まず、納屋を空っぽにした。そして、一部の床板をめくり、夜や休日を利用しながら、三ヶ月かけてシャベルで地道に穴を掘った。ユンボを使えば楽だろうが、改装について誰にも知られたくなかったので、利一は原始的に人力で掘削した。

穴が完成すると、次は配管工事だった。実際、問題はこの配管だった。労力自体はそれほど問題ではないし、私有地内だけなら簡単なのだが、利一の構想を実現させるには、自宅の敷地の外へもそのパイプを延ばさなければならなかったのだ。そのため、本当なら地面を上から掘り返してその中へ敷設していった方が早いのだが、私有地の外の部分だけは、トンネルのように地中を掘削して進むことにした。

これが想像以上に難工事だった。計算上、パイプの総延長は約五メートル程度で、そのうち自宅の敷地より外の部分の長さはニメートル弱だったのだが、人力で、深い部分から浅い部分へ向けて斜め上へとトンネル方式で掘り進むのは、困難を極めた。しかも、パイプの先端を、数センチ程度の誤差の範囲内で、垂直に設置された目的の配管へ繋がなければならないのだ。それも、ただ繋ぐだけではない。鉄道の分岐ポイントのように、ボタンひとつでパイプを切り替えられるようにしなければならないのだ。

つまり、こういうことだ。利一は、自宅敷地のすぐ近くの女性用簡易トイレから、美人の排泄物だけに狙いを定めて、それだけをこちらのタンクに引き込もうと画策したのだった。そして、水洗など外的な力を利用できないから、自然にこちらのタンクまで滑らせてくるために、パイプは角度を付けた斜めに設置する必要があった。ちなみにこの方法は、流しソーメンのレーンからヒントを得た。傾けて設置された、半分に割った竹の樋の中をソーメンの集合体が流れていく場面を見た時、利一は「これだ!」と思った。

単に排泄物の採取だけが目的なら、もっとも簡単な方法は、人気が絶えた深夜などにそっとそのトイレに近づき、タンクに溜まっているものを取ってくることだ。これなら、簡単過ぎるほど簡単だ。便槽なんてそれほど深いものではないし、何せ茂みの中にあるから、暗くなれば接近は容易だ。しかし、この方法には、致命的な弱点がある。それは、採取自体は簡単でも、どれがだれのものだかわからない危険性だ。いくら利一でも、たとえ女性であってもブスやババアの排泄物には全く興味がないし、そもそも、いくら女性用と謳ってあっても絶対に男は使わないという保証などどこにもない。ブスやババアや男の糞や小便なんて、犬や猫と同等レベルだ。だから、リアルタイムで監視し、選別し、そして採取する必要があるのだ。パイプを繋ぎ、ボタンひとつで経路をコントロールできれば、望むものだけを手に入れることができるという計算だ。

自分でもどうして女性の排泄物なんかに惹かれるのか、利一にはよくわからない。なぜそんなものに興味を持つような人間になってしまったのか、自分のことながら、利一は理解不能だった。幼少時に何かトラウマとなるような劇的な体験があるわけでもない。本当に、ふと気がついたらそのような嗜好になっていた、という感じなのだった。

利一は自宅敷地部分に関しては、地面を大胆に掘り返して進み、その後、トンネル式に着手した。穴の底に腹這いになり、小型のシャベルで地道に少しずつ掘っていった。本来は、パイプを通すだけだから、それほどの直径は必要ないのだが、掘り進むために、自分ひとりが通れるだけの穴は作らなければならなかった。ちなみに、自宅敷地部分も、掘り進めた後は、壁をコンクリートで固めて上から土を盛ってトンネル化し、納屋と直結させた。

そして、トンネル式で掘り始めて二ヶ月近く経った頃、ついにシャベルの先端が目的の簡易トイレの配管に突き当たった。その先端が土の向こうでコツンとFRP素材に触れた瞬間、利一は小さくガッツポーズをしてしまった。実際、その配管部分の素材については、不明だったのだ。もしもコンクリートで固められていたり、石やレンガを積み上げた仕様だったら、接続工事は途轍もなく大変になるところで、FRPであったことに安堵した。

しかし、最大の難関が、このジョイント部分であることに変わりはなかった。穴を開けてパイプを繋ぐだけなら簡単だが、それだけでは駄目なのだ。ボタンひとつで経路変更の制御できなければ意味がないし、業者や管理者に工作が露見するのはまずい。どうしたら良いか。利一は意を決し、真夜中を選んでそのトイレハウスに侵入し、内部構造を詳細に検証した。床に四つん這いになって便器の中に頭を突っ込み、懐中電灯を使ってボットンの部分も調べた。そこは、さすがの利一でも吐き気を催してしまうような、壮絶な状況だった。悪臭はきついし、壁面は、一部はドロドロし、一部はガビガビに干上がっていて、覗いているだけで体中が痒くなってきた。

それでも、体を張った検証の結果、得られたものは大きかった。それまで、いちばん手っ取り早いのは、便器とタンクを繋ぐ部分の一部をそっくりと利一の望む構造の物に取り替えてしまうことで、この方法なら、ジョイント部分を思うように設計することが容易だ、と考えていたのだが、内部は想像以上に老朽化が著しく、その部分だけ新品と入れ替えてしまうと、清掃や回収の際に気付かれる可能性が高いし、簡易トイレ自体が古いものなのに、配管部分だけが新しかったら、利用者が不審に思う可能性も高い、とわかった。だから、取り替え案は、却下だった。

では、どうしたら良いのか。利一はあれこれと考えを巡らせ、結局、もっとも原始的な方法を採用することに決めた。それは、トイレの便器と便槽を繋ぐ井戸のような部分をくり抜き、しかし、完全に外してこちらのパイプと繋ぐのではなく、そのくり抜いた部分の壁面を受け皿として利用する方法だった。つまり、井戸の部分の断面の面積と同じだけ壁面をくり抜き、採取時だけ、ワイヤー制御でそのくり抜いた一部の壁面を蓋にし、便槽への経路を塞いでこちらのパイプへと引き込み、常時は、そのまま壁面として利用するのだ。もっとも、この工事のためには、井戸部分の断面の面積を把握しなければならなかった。適当にくり抜いて、それがあまり大き過ぎれば、上手い具合に経路が絶てないし、小さすぎれば、せっかくの小便や大便が隙間から便槽へとそのまま落ちてしまいかねない。だから、工事に着手する前に、井戸部分の形状や正確な縦×横のサイズを把握しなければならなかった。

利一は、再び深夜の時間を狙ってトイレに潜入した。今度は、懐中電灯の他に、メージャーとメモ帳と鉛筆持参だった。そしてまた前回と同じように床に屈み、便器の中に頭を突っ込んで、形状を確認し、サイズを計測した。その結果をメモ帳に図と一緒に書き込む。前回も同じように頭を突っ込んでいるのだが、実は、その井戸部分の断面の形状が、果たして「円」だったのか「正方形」だったのか「長方形」だったのか、全く覚えていなかったのだ。しかし、今回の調査で、断面は「正方形」だと判明した。その結果に、利一は喜んだ。なぜなら、もしも形状が「円」だったりすれば、湾曲している壁面を「円」にくり抜くのは相当難しいし、それを蓋として利用するのも大変だからだ。その点、「正方形」なら、平面だし、ある程度の誤差があっても、なんとかなりやすい。無論、蓋としての効用も、表面が湾曲している「円」より、よっぽど使いやすい。

すべてのデータ収集を終えた利一は密かに脱出して自宅へ戻り、翌日から具体的な構想を練った。といっても、トンネルはもう到達しているし、後はくり抜くタイミングと、分岐ポイントの工作だけだった。くり抜く事自体は簡単で、一時間も必要ない。しかし、それを扉に加工するには、数時間は必要だ。いったん持ち帰って蝶番とワイヤーを取り付ける必要があるし、それを再び壁面にはめ込み、動作テストもしなければならない。いくらくり抜けて、こちらのパイプと接続できても、扉が上手く作動しなければこれまでの作業も、そしてこのプラン自体、完全に無意味なのだ。

だから利一は、実際に着手する前に、プラスティックのボードをホームセンターで購入してきて、実物大の模型を作り、それに穴を開けて壁面を扉に加工し、パイプの切れ端を使って接続し、ワイヤーで動かしてみた。すると、改めて問題点がいくつか持ち上がった。

ひとつは、扉をどのように設置するかだ。正方形の上辺に蝶番を取り付け、その下辺にワイヤーをセットして、採取時にはその蓋を上へ引っ張るか、それとも下辺に蝶番を付け、内部へ押し込む格好で蓋を落とした方が良いか、だ。実験の結果、分岐の切り替えやすさでは、前者の引っ張るタイプのほうがスムーズに動作した。しかし、この方法には、問題があった。それは、ワイヤーが井戸内部に露出してしまうのだ。溝を作るなりしてその露出を最小限に抑えることは可能だが、完全に隠すことはできない。もっとも、マジマジと便槽の中を覗き込むような物好きな人などそうそういないだろうが、しかし、工作が露見してしまう可能性は低ければ低い方がいいに決まっている。その点、下辺に蝶番を取り付けた押し込むタイプの方法は、ワイヤーの露出が採取時の、蓋をしている時だけに限られる。結局、利一は後者の方法を選択した。

問題の二点目は、「音」だ。トイレ内は静かだし、状況的に、ただでさえ女性たちは神経が過敏になっているだろうから、ほんの僅かでも不審感を抱かれてはならない。最近では、盗撮物のDVDなどが普通に流通しているので、必要以上に周囲を確認する女性も少なくないらしい。とはいえ、まさか便槽の奥まで覗き込む人はまずいないだろうが、変な物音がすれば警戒するだろう。そして、プラスティックのボードでテストしただけでも、案外、音が発生してしまうのだ。しかし、これは、タイミング次第でどうにかなる。要するに、ターゲットの女性がトイレに入る前の段階で経路を切り替えておけばいいのだ。そして、退室した後、蓋を戻す。これで、「音」に関する問題は解決できるだろう。

しかし、事前に予め蓋を落としておくとなると、別の新しい問題が発生する。それは、もしもしゃがんだ女性が何気なく下を覗き込んだ時、思いのほか「底」が近くなってしまう点だ。通常、ぼっとん便所の底というのは、井戸のようにかなり深い位置にあるという認識だろう。それなのに、最初から妙に近い位置に底があれば、不審に思っても不思議はない。それに、問題は、排泄後だ。拭いて落とした紙が、それほど深くない位置で止まってしまっていると、どう考えても不自然だろう。いくら暗渠でも、白い紙は目立つ。いや、むしろ暗いからこそ、紙の白さは目立つに違いない。

この「底が近い」という問題は、利一をかなり悩ませた。もう掘り終えてしまったトンネルは、便座から五十センチほどの位置に到達しているのだ。便器から垂直に伸びる穴自体は三メートルほどあるのだが、「斜めに滑らせて引き込む」という構造上の計算から、それ以上に下の位置で接続はできないのだ。もっとも、現在小屋の中に掘ってあるタンク設置用の穴を更に二メートルほど深くし、トンネルを掘り直せば、もっと下の位置で接続可能かもしれないが、そこまでの気力や体力は利一にない。

便器から便槽の底まで三メートルの深さがあれば、昼間でもまずその下は真っ暗で全く見えないと思うのだが、これが五十センチとなると、どんな具合なのか、さっぱりわからない。小屋内の光源次第だが、かなり微妙だろう。小屋の中に電球はなく、小さな明かり取りの窓があるだけということは確認済みだが、その自然の光だけだと、意外に全く気にならないかもしれないし、明らかに「変」と感じられるかもしれないし、本当にわからなかった。

ただ、そうはいっても、さすがに確認の方法がないのだ。真っ昼間にあのトイレ小屋へ侵入するのは難しい。茂みの中に建っているとはいえ、海の家や道路や駐車場から、おそらく見えてしまっている。だいたい、しつこいくらいに大きく「女性用」と表示されているので、よほどの男でない限り、堂々と近づくのは難しそうだった。利一の自宅はその建物のちょうど真裏に当たるので、こっそりと近づくのは昼間でもそれほど困難ではないが、中へ入ろうとすれば、入り口は正面にしかなく、そちらへ回れば道路や駐車場から丸見えだから、やはり無理なのだった。明かり取りの窓は、海の家からは死角になる壁面の高みに取り付けられているが、小さいうえに、斜めに少ししか開かないタイプなので、そこからの侵入は問題外だ。

でも、一応は確認してみよう、と思い、ある日曜日の午後、利一は散歩がてらそのトイレ小屋周辺を歩いてみた。その時は、まだ海水浴シーズンの前の春先だったので、海の家は閉まっていたが、駐車場には車が止まり、カップルや家族連れが浜辺を散策していて、やはりトイレへの接近は無理だった。しかし、嬉しい発見もあった。海水浴シーズンでもないのに、ドライブの途中らしき若くてかわいい女の子が、そのトイレへ入っていったのだ。ということは、いったんパイプを接続してまえば、夏場だけではなく、オールシーズンで採取が期待できるというわけだ。ドライブと海水浴以外でも、この辺には、たとえ真冬でもサーフィンに興じる人達がやってくる。そして、いうまでもなく、サーファーにはかわいい女の子が多い。

是が非でも完成させるぞ、という思いを一層強くしながら利一は家に戻り、何か良いアイディアはないものか、とプラスティックで作成した実物大のモデルを前にして頭を捻った。そして、やがて、ある事に気付いた。

それは、便槽の底への経路を塞ぐだけではなく、最初から、その蓋となる部分を、角度をつけて斜めで止まるように仕掛けておいて、対象物がそこに留まる前にこちらのパイプへ引き込んでしまえばどうか、という事だった。つまり、その蓋の部分は闇と同化するように偽装しておき、リアルタイムで引き込むのだ。

当初、利一の構想では、ターゲットの女性が事を終えるまで蓋は水平のままにしておき、全部溜まって、女性が退室してから改めてその蓋を更に操作して傾け、こちらのパイプへ引き込むつもりだったのだが、そこにいったん留めておこうとするから「底が近い」と認識されてしまう危険性が高いことに気付いたのだ。最初からリアルタイムで引き込み続ければ、さすがに出している最中に便器の中を確認する人はいないだろうし、そもそも暗くて便器の中は暗渠だろうから、予め蓋の部分を黒く偽装しておけば、事を終えて立ち上がった時にふと下を見て、そこに出した物体や紙が存在していなくとも、とくに不審がられはしないだろう、と思ったのだ。

この感覚は一種の賭けだったが、利一はその錯覚に賭けてみることにした。そして、試しにジオラマ用の紙粘土や塗料を模型屋で買ってきて、プラスティックの実物大モデルを偽装してみた。すると、案外リアリティが出た。それを見て、利一は「いけるぞ」と思った。

ただ、このような偽装を施すとなると、その分、設置の際に時間が必要になる。もちろん作業は深夜に、それも一晩のうちに終わらせるつもりだったが、実際に作業開始から完了までどれくらいの時間を要するのか、ちょっと見当がつかなかった。具体的な工程としては、こうだ。

1、まず、トンネルの先へ向かい、便槽へと繋がる井戸部分に穴を開ける。

2、配管本体の切り口をヤスリで整え、そのくり抜いた部分をいったん持ち帰り、清掃し、紙粘土や塗料で偽装を施し、蝶番やワイヤーをセットする。もちろん、そちらの部分の切り口もヤスリを使って滑らかにしておく必要がある。

3、蓋の部分を持って現場へ戻り、接続金具で取り付ける。

4、ワイヤーによる制御がきちんと動作するかどうか、テストする。これは、現場と納屋の両方で試す必要がある。

5、パイプを分岐部に接続し、自分の敷地内まで、トンネル部分のパイプを繋ぎながら戻る。

6、現場と納屋のタンクの接続が完了したら、最終動作テスト。これは、予めワイヤーを制御するボタンでトイレ内の蓋を実行モードにしておき、実際にトイレ内に侵入して何かを流してみる必要がある。その際のテスト用物体には、紙粘土を使用する。

利一は、実行日こそまだ決めていなかったが、時間的には、深夜の一時から四時の間を予定していた。つまり、三時間ですべてを終わらせる必要がある。もっとも、途中で時間が押してきて、四時を過ぎるようなことになれば、いったんその日は中断するつもりだった。夏に向けて夜明けは早くなる一方だし、明るくなってからでは、いずれにせよ最終的なテストが行えない。この作業は、99%の地雷を除去しても1%でも残っていれば全てが無意味になってしまう地雷除去作業と一緒で、誰かにひとりにでも行動を悟られたら終わりなのだ。世の中には物好きな人がいて、わざわざ夜明けの海を見に来るような人もいる。

だから、利一は全てのリスクを最小限に抑えるため、夏がくる前の、それもあまり天気の良くないウイークデイの深夜に決行するつもりだった。夏になってしまうと、夜中も夜明けもあまり関係なくなるし、夏の前でも、週末はやはり人が増える。よって、梅雨時の雨降りの夜などが理想的に思われた。

そして、全ての準備を終えると、利一は時期の到来を待った。その間、実物と同じ角度に配管を傾け、何度も紙粘土の物体を流して問題がないか確認した。小便に模した水は、まるで問題なく流れた。しかし、紙粘土は、いったん滑り始めれば配管内部に塗った特殊なコーティング材の効果でスムーズに流れたが、時々、そのコーティングが施されていない蓋の部分で止まってしまうことがあった。それは、蓋となる部分の表面に施した偽装が原因かと思われた。

その段階での頓挫は、利一を絶望的な気分にさせた。しかし、ここで諦めては全てが無駄に終わってしまう、と利一は自分を奮い立たせて更に熟考した。角度をもっと急にするか、とも考えたが、それでは抜本的な解決にはならない。おそらく、偽装のために表面に貼り付ける紙粘土が問題なのだ。リアリティを演出するために、その表面は微妙にデコボコしているし、塗料も塗り重ねてある。たぶん、その辺りが留まってしまう原因に思われた。排出される物体の形状、そして質感、たとえば硬度などは様々な筈だから、あらゆる形態に対応することを想定しなければならない。コロコロしたものは流れるが、ベチャッとしたものは留まる、では駄目なのだ。

利一は考え続けた。そして、やがて、ある解決策に辿り着いた。偽装の紙粘土と塗料をギリギリまで薄くし、リアリティの追求を捨ててデコボコもなくし、表面にガラス系のコーティングを施すことにしたのだ。その方法で完全に解決できるのかどうかはわからなかったが、その頃にはもう季節は梅雨に入っていたし、タイムリミットが迫っていた。実際に何度かテストしてみたが、とりあえず引っかかることは無くなった。その結果に、利一は満足した。

しかし、空梅雨のせいか、なかなか理想的な決行日が訪れなかった。せっかく雨が降ってもそれが週末だったりして、そんな夜は物好きなカップルが一晩中駐車場に車を止めていたりした。その様子を利一は自宅から覗きながら地団駄を踏んだ。

一日一日が無駄に過ぎていき、やがて七月に突入した。日に日に暑さが増していき、ときどき梅雨の合間の空が晴れると、気の早い海水浴客が現れ始めた。もう海の家の開店も間近だ。例年、七月の半ばには営業を始めるし、早くも準備が始まっているらしく、清掃や商品の納入が始まった。

その頃には、利一のイライラは頂点に達していた。このままでは、準備万端で後は接続するだけなのに、みすみす最も素晴らしい時期を逃してしまう。夏休みに突入してしまったら、もう秋までアウトだ。どんな時間帯であろうと、この近辺から人影が絶えることはなくなってしまう。

ただし、利一にとっての福音もあった。どういうことかというと、ある土曜日の午後、あのトイレ小屋がシーズンインを前に、大々的に清掃されたのだ。何人も業者が来て、徹底的に掃除をしていったようだった。バキュームカーも来たし、タンクの内側まで完全に洗ったようだった。それを見た時、利一は心底から「助かった」と思った。もしももっと早くに接続してしまっていたら、その部分を発見されてしまうところだった。そして、その配管を辿られたら、ダイレクトにこの家の納屋に辿り着き、そして巨大なタンクを発見され、人生は終わっていた。どういう罪状になるのか分からないが、無罪放免ということは有り得ないだろう。

その作業を密かに見守りながら、利一はふと弱気になり、「やめようか」とも思った。もしもあのような大々的な清掃が定期的に、たとえば年に一度行われるのであれば、その都度接続を解除し、蓋を完全に塞がなければならない。それに、その清掃がいつ行われるか、全く分からないから余計に恐怖感が募る。年に一度かもしれないが、もしかしたら、シーズン終了後の秋口にもう一度行われるかもしれないし、オーナーの気まぐれでその間隔は適当なのかもしれない。常にその恐怖に晒され続けるのは、利一にとっても苦痛だった。

それにしても、あの小汚いトイレ小屋に業者の清掃が入るとは、完全に想定の範囲外だった。せいぜいオーナーかバイトの人間が適当におざなりに掃除をして終わりだと思っていた。もちろん、バキュームカーが定期的に来ることは想定していたが、それはどうせホースを突っ込んで吸い上げて終わりだろうし、その程度なら配管の工作が露見することはない筈だった。

しかし、すべての準備が整い、それなりに資金も投入済みで、そもそも宝の山がすぐ目の前に聳えたっているというのに、この時点での計画中止は、利一にとって痛手が大き過ぎた。もう、本当に後一歩なのだ。数時間の作業で、夢のような日々が訪れるのだ。

結局、その誘惑が恐怖心に勝った。ここまで来てやめるなんて、生き地獄そのものだった。それでも、事が露見することだけは絶対に避けたかったから、利一はとりあえず、採取の時期を「八月一杯まで」と限定した。その後は、どうするか未定だが、ひとまず回路を塞ぐ。そう決めた。夏の繁忙期の間に、業者による大々的な清掃は入るまい。いや、それは決して外部の人間にはわからないが、入らないだろう、という希望的観測だ。しかし、利一は折をみてあの海の家を訪れ、さりげなくトイレの清掃についてオーナーに尋ねてみるつもりだった。さりげなく探りを入れて情報を手に入れることができれば、未来への展望も開けるだろう。後のことは、後で考えればいい。今は、とにかく接続するのだ。利一は、そう決意を固くした。

それでも、工作を発見され、配管を辿られる最悪の事態に備えて、パイプが自宅敷地内に入る位置に、非常手段的に手早くパイプを切り離して、その経路を寸断できるよう新たなジョイント部を加えた。具体的には、敷地の周囲にはブロック塀があり、その外側に沿って細い側溝が巡らされているのだが、数分でそちらへパイプの先端が繋がるようにできる部品を新たに用意したのだ。つまり、通常、配管は直線で敷地内に引き込まれているが、側溝の外側の位置へ別のトンネルを掘っておき、そこで簡単に部品を付け替えて進路を側溝へと向けられるように構造を改造したのだ。その作業は、テストの結果、三分で終わった。実際には、トイレ内部で不審な接続部分を発見されても、そのパイプを辿るためには土を掘り返していかなければならないから、利一の家の敷地へ辿り着くまでに相当な時間を要するはずだ。だから、その間に配管の進路を切り替えるのは、容易と思われた。もっとも、その対処が可能なのは、利一がトイレを監視している時間に限られる。もしも就寝中だったりすれば、おそらくアウトだ。しかし、そこまで考えていたら身が持たないし、いざとなったら不法侵入を盾にして開き直り、その間に対処するまでだ。しかし、たとえば電線から電気を盗むなら執拗に追求されるだろうが、ボットン便所の排泄物を横からかすめ取っていた程度のことで、どこの誰が真剣になるだろう、という疑問もあった。排出したものが便槽の底に溜まっているか、別の家のタンクに溜まっているかの違いでしかないし、むしろバキュームカーの仕事を減らすことに貢献するのだ。その排泄の瞬間を隠し撮りするわけではないし、誰も迷惑はしていない。いや、どこかの誰かが自分の排泄物を密かに入手している、と当の女性が気付けば、それはやはり迷惑をかけているというか、犯罪に近いかもしれないが、気付かなければ、それだけのことのように思える。どうせ、排出したものなのだ。

ただし隠し撮りについては、時期を見て着手してみたいと密かに思っていたのだが、さすがの利一も二の足を踏んでいた。とはいえ、トイレに入る前の女性の姿は写真に残したいと思っていた。やはり、流れてくる物質がどういう人から排出されたものなのか、記録に残したいという気持ちは強い。実際、その流れてくる宝物で、利一はいろいろなことを楽しみたいと画策しているのだが、その際、対象の写真はあった方が何かと都合が良いはずだった。ちょうどトイレの入り口は、納屋からだと見えないが、そこへ近づいていく姿は捕捉可能だった。夏になれば、色とりどりの水着に身を包んだ女性たちが列をなしてそこを通り過ぎていくはずで、その情景を想像すると、利一の胸は弾けんばかりにときめいた。

そうして七月も第二週に入った水曜日の夜、とうとう夕方から激しい雨が降りだし、夜が更けてもその勢いは弱まらなかった。利一は夕方早くに車で雨の中を事務所から戻ると、天気予報をチェックして翌日まで断続的に雨が続くことを確認し、今夜こそ決行だ、と思った。その日は、夕食を簡単に手早く済まし、体力を温存するため、携帯電話の電源を切り、固定電話も留守電に切り替えて呼び出し音をオフにし、風呂に入って目覚ましをセットし、零時過ぎまで仮眠をとった。もちろん、作業道具一式は既にリュックに詰めて納屋の中で用意されている。そしてアラームで起きると、窓の外で降り続く雨の音を聞きながら、部屋の明かりは点けず、その薄闇の中で「やるぞ」と小さく声に出して拳を握りしめた後、冷水のシャワーで気合いを入れた。

寝室でも浴室でも明かりは点けなかった。ずっと薄い闇の中で行動し、汚れても構わないスウェットの黒いジャージに身を包むと、壁の時計を見た。そろそろ午前一時に近かった。腕時計をはめ、時間が狂っていないことを確認し、利一は応接間のガラス戸を開けると、黒いスニーカーを履いて庭に出た。

あたりは完全に静まり返っていて、人の気配はしなかった。篠突く雨が夜を白く煙らせていた。空気は若干冷えていたが、寒さを感じるほどではなく、雨もそれほど冷たくはなかった。

傘は差さずに小走りで庭を横切り、いったん納屋に入った。覗き穴は布で塞いであるので、ランタンを点し、その明かりの下でリュックの中身を確認し、背負った。中には、FRPの配管をカットする特殊なカッターや蝶番の装置やドライバー等が入っている。

利一は、工事現場では必需品であるゴーグルと塵芥用のマスクを付け、軍手をはめ、膝に草野球で使うサポーターを装着すると、ランタンを消し、懐中電灯を点してタンクを設置した深い穴の中へ、立てかけた脚立を伝って下りた。床から穴の底までは三メートルあるため、脚立はタンクの上部にまでしか届いていない。利一は、タンクの上に立つと、その端まで進んで、ぴょんと軽やかに穴の底へ飛び降りた。そして四つん這いになり、懐中電灯で前方を照らしながら、既に敷設済みのパイプを跨ぐようにして狭く暗いトンネルの先へと進んでいった。

すぐに、非常用の分岐点に差し掛かった。ここからは、壁面や地面をコンクリートで固めていないので、雨のせいか、たちまちぬかるみ始めた。それでも、相当固く固めてあるので、崩落の心配は多分なかった。しかし、早くも軍手の手のひらやジャージは泥に塗れ始めた。

トンネルは上へ向けて傾斜しており、一段と狭くなったため、なかなか進みにくい。それでも、やがて垂直に埋め込まれたトイレの配管に突き当たった。そのトンネルの隅には、最後に接続するジョイント部のパイプが置かれていた。

トンネルはぎりぎりのスペースしかないので、利一はそこまで到達すると、苦労してリュックを背中から下ろし、そしてカッターを取り出した。既にその配管には、どうくり抜くべきか鉛筆でガイドの線が引いてあった。

利一はカッターの電源を入れると、その刃先を本体の管に宛てがい、一気にカットした。多少音が発生するが、こればかりは仕方なく、誰にも聞こえていないよう天に祈るより他なかった。人力でカットしていたら、安全かもしれないが、時間がかかりすぎてしまう。しかし、刃先を滑り込ませた瞬間、壮絶な悪臭がそこから漏れ始めて、さすがの利一も吐きそうになってしまった。先日掃除されたばかりなのに、これほど臭うとは、利一も想定外だった。しかも、その臭いは刃先を進めていくにつれ、当然のことだが、弱まるどころか一層強まっていった。

それでも、なんとかほんの数分でそのカットを終えると、いったんその部分を取り外して手許に置いた。その内側の部分は、おそらく掃除しても除去しきれなかったのであろう、まるでワニか象の皮膚のように、長年にわたって蓄積されたあらゆる汚物が固まってこびりついており、酸味を強めたような壮絶な悪臭を放っていた。

利一は、用意していたビニール袋にそれを入れてカッターと一緒にリュックにしまってから、加工用のヤスリを取り出し、麻痺していく嗅覚を自覚しつつ、丁寧にその本体の切り口を整えた。それには十分以上の時間を要したが、この作業を疎かにすると、スムーズに扉が開閉しない。そして、切り口が綺麗になると、ひとまず先に、本体部分の蝶番をセットし、仮止めしておいた。

その頃には、もうすっかり汗だくだった。トンネルは狭いし、通気がよくないし、ホコリも大量に舞っていた。ゴーグルとマスクのお陰で咳き込んだり目が痛む事はなかったが、その代わり、強烈に暑かった。額に浮いた汗が滝のようにポタポタと流れ、ジャージの下は、シャツもパンツも全身が汗塗れになった。

それでも、いったんそこでの作業は、終わりだった。切り抜いた蓋部分をリュックにしまうと、もう背負うことはやめ、それを手に持って引きずるように、利一は前方を向いたまま後ずさり始めた。ずっと這いつくばる格好を続けていたので、膝やら腕やら腰やらが凝り固まってしまったようで、ひどく苦痛だった。

やがて自宅敷地内のトンネルまで戻り、そこからはスムーズにタンクの脇まで帰還した。そこまで戻って漸く体を伸ばすことができるので、利一はマスクとゴーグルを外して何度も大きく深呼吸し、リュックや懐中電灯と一緒にタンクの上へ置くと、思いっきり腰や腕や足を伸ばし、肩を回した。その後、タンクの上へよじ登り、リュックだけを床へ上げておいてから、脚立を上がった。

納屋の床に立つと、利一はランタンを点し、とにかくジャージの上を脱いでTシャツ一枚になった。暑くてかなわなかった。用意しておいたタオルで顔と体を拭い、床に胡座をかき、ペットボトルの水を飲む。あまり時間に余裕はないが、煙草に火をつけて、ゆっくりと吸った。気持ちは急いていたが、休憩しないと体がもちそうになかったのだ。腕時計を見ると、一時四十分だった。

じきに煙草を吸い終え、利一は胡座をかいたまま、傍らのリュックを開けた。中から、とりあえずもう必要のない電動のカッターを取り出して脇に置き、ビニール袋に入っている切り抜いてきた部分を床に出した。そして軍手をはめ、まずはこれを洗い、こびりついた汚れを落とす必要があるな、と思った。正直、これだけ汚れているとは思っていなかったが、一応は削ぎ落とすための道具であるノミを用意していた。

あまりの臭いに顔を顰めながら切り抜いた部分を持ち、ノミを取ると、それらを持って利一は納屋を出た。相変わらず雨は降り続いていたが、傘は差さないまま、ガレージの脇の軒下にある水道の蛇口まで走った。

洗車のために取り付けてあるホースの先のシャワー・トップを直通に切り替え、水を出し、切り抜いた部分をひとまず地面に置き、強い水流を当てた。もちろん、その程度では全く歯が立たなかった。しかし、ある程度濡れて水が汚れに浸透したところで、利一は、その表面にホースの水を当てたままノミの先端を斜めに宛てがい、粘土状になっている汚れの中に突き刺して、勢い良く大胆に削ぎ落とし始めた。ホースの先端を、地面から突き出すように直立している水道管の上部にある蛇口部分に引っ掛けて固定し、水流が直撃するように角度を調節しながら左手で切り抜いた部分を支え、右手でノミを持ってガリガリと削り落としていった。それは意外にベリベリと捲れていき、排水溝にその残骸が溜まっていった。

何分か夢中でその作業を続けた後、あらかた表面が綺麗になると、利一は水を止め、面倒臭いのでホースとノミはそのままにして、綺麗になった蓋の部分だけを持って納屋へ戻った。

また水を飲み、綺麗になった蓋の部分を雑巾で拭いてから、まずはヤスリでその輪郭を小刻みに磨いた。念の為に、パッキン用の黒く細いゴムで蓋の部分全体を囲み、それから擬装用の紙粘土を薄く貼り付けていく。その後、スプレー式の塗料を塗布し、それが乾くのを待った。少しでも早く乾かすために、乾電池で作動する小さな扇風機を用意していたので、蓋の部分を壁に立てかけ、塗料を塗った部分をその風に当てた。

塗料が乾くまでは、残念ながら何もすることがなかった。利一は時計を見て二時三十分過ぎであることを確認しながら、早く乾け、と心の中で強く念じた。

その待っている間、利一はまた水を飲み、煙草を吸った。閉め切られた小屋は、ムシムシと暑かった。断続的に雨の音が響いていて、辺りは静かだった。扇風機の音だけが、やけに大きく聞こえていた。首にタオルを巻いて汗を拭い、一度だけ納屋から出て、庭の茂みでおしっこをした。

そんな時間がじりじりと過ぎ、三十分ほど経った頃、ようやく塗料が乾いた。指先で軽く触れてそのことを確認すると、利一は続いてコーティング材をその表面に、慎重に塗った。なるべくムラを作らず、均等に、そして滑らかに塗ることが肝要だった。そして塗り終えると、塗料のときと同じようにまた扇風機の風を当てて乾かした。

表面に施したガラスコーティングのせいで、その蓋の部分の表面は艶やかに光っていた。その光沢は利一にとって望ましいものではなかったが、コーティングがなければスムーズに流れないのだから、妥協するより仕方なかった。

そして、それがあらかた乾くと、蓋部分の端に、蝶番の器具と、この装置の生命線であるワイヤーの先端を取り付けた。そのワイヤーは、長いまま巻いて置いてある。長さは、後でいくらでも調節できるからだ。

そうして蓋の部分の加工が全て終わると、どうせ泥だらけになるのだからジャージの上は着ず、利一は蓋の部分とドライバーだけを持ってまた穴の中へ入った。ランタンは点けっ放しにしておいた。あとは、この蓋を本体に取り付けて、パイプを接続するだけだったから、それほど時間はかからないはずだった。

タンクの脇へ降り立ち、もうゴーグルは付けず、マスクだけを装着すると、利一はドライバーをポケットに突っ込み、懐中電灯を点けて右手で持ち、左手で蓋の部分を持って四つん這いになった。そして、先ほどと同じようにトンネルを進んでいった。本体に穴が開いたままなので、すぐに悪臭が充ちてきた。

やがて本体に辿り着き、利一は早速蓋を取り付けた。蝶番をビスで止めるだけなので、その作業は簡単だった。ものの数分で終わった。ヤスリで整えた外枠と、蓋の部分の周囲に取り付けたパッキン用のゴムとの噛み合いも問題なかった。

取り付けが完了すると、試しにワイヤーを引いてその開閉具合をテストしてみた。すると、それはとてもスムーズに動作した。いずれはその蝶番の部分に汚れが詰まって動かなくなる懸念はあったが、ひとまず夏の間だけ使ったら封鎖することに決めていたので、一ヶ月ちょっとくらいならおそらく大丈夫だろうと思われた。

利一は簡単なテストを終えると、いったん蓋を通常状態にし、ワイヤーを適度に引っ張りながらトンネルを後ずさった。その道すがら、予め二十センチの間隔でパイプの上部に取り付けておいたガイドとなるフックにワイヤーを通していった。

納屋の地下のタンクの脇まで戻り、ワイヤーをガイドに沿って壁を伝わせながら、利一は自らも穴から出て、そのワイヤーの張り具合に細心の注意を払いながら、スイッチの部分と接続し、後から微調整ができるように少しだけ余らせて、残りをカットした。

ひとまず、これで工事は完了だった。あとは、最終テストだけだった。時計を見ると、もう三時四十五分だった。本当はここらで一服したかったが、利一は休まず、マスクや膝のサポーターを外すと、スイッチのボタンを何度か押してワイヤーが動いているのを確認してみてから、それを引き込みモードにしておいて、今度は黒いジャージの上をきちんと着、テスト用の疑似汚物である紙粘土の塊を持って納屋を出た。

雨は依然として激しかった。もちろん傘は差さず、自宅敷地を出て、息を殺し、周囲を警戒しながら、しかし急いでトイレ小屋の裏側へ回った。草むらを突っ切ったので、たちまち足元だけではなくズボンまでぐしょ濡れになってしまった。

周囲に誰もいないことを何度も確認してトイレ小屋に最接近し、裏から表へと回り、素早くその小屋の中へ身を潜ませた。一応は鍵をかけた。

個室の扉を開け、床に膝をついて懐中電灯を点し、饐えたような臭いに耐えながら利一は便器の中に屈み込み、内部を照らした。すると、黒光りする蓋の部分がちゃんと角度を持って開いていた。そして、横へと続く、自宅のタンクに繋がっているパイプ部分は完全に暗渠と化していた。光線を当てたので表面のガラスコーティングが光沢を放っていたが、それは、そこに蓋があるとわかっているからそう気付くだけで、普通なら全く気付かないであろうレベルの光の反射だった。

いつまでも自分の仕事の成果に感心していても仕方ないので、早速利一は紙粘土の塊を中へ落としてみた。手からその塊を離す時、利一は思わず祈った。

果たして、その塊は、手から離れた一瞬後、音もなく掻き消えていた。その結果に、利一は叫びたいくらいの嬉しさを覚えた。しかし、叫ぶわけにはいかなかったので、その代わり、利一は闇の中で無言のまま大きくガッツポーズをした。

それから素早く懐中電灯を消し、トイレ小屋を出た。もう、用事はなかった。むしろ、一刻も早く納屋へ戻って、蓋を通常状態に戻したかった。

入った時と同じように細心の注意を払いながら小屋を出た利一は、一目散に自宅敷地内へと帰還した。そして納屋に飛び込むと、とにかくはスイッチを操作してトイレ本体の蓋を通常状態に戻し、それから、「うまく流れ着いていますように」と祈るような気持ちでタンクへ下りた。

タンクのハッチのハンドルに手をかけ、生唾をごくりと飲み込んでから、利一は一気にその扉を開けた。すると、中には、今さっきトイレで落とした紙粘土の塊が、底にぽつりとあった。

「よっしゃあ!」

小さな声ではあったが、利一は思わずそう口走り、まるで劇的なシュートを決めたサッカーのストライカーのように拳を握ってその両手を上へ突き上げ、そのまま脱力してタンクの上にしゃがみ込んだ。歓喜の興奮が去った後、利一はようやく時刻を確認した。すると、午前四時数分前だった。

タンクの中から紙粘土の塊を取り出してハッチを閉じ、床へと這い上がると、利一は暑くてたまらなかったジャージを剥ぎ取るようにして脱ぎ、ついでに汗でべっとりと肌に貼り付いてしまっていたTシャツも脱いで、立ったままペットボトルの水をグビグビと飲んだ後、その場に座った。脱いだシャツで流れ落ち続ける顔の汗を拭き、煙草に火をつけた。

最高の一服だった。利一はゆっくりと吹かしながら、ぼんやりと、消臭剤を置いた方がいいな、と思った。既にパイプの先の蓋は閉じられていたが、なんともいえない臭いが納屋の中には滞留していた。

全身が汗だくで、不自由な体勢での作業が長かったため、体中が凝り固まっているようだった。疲労もピークだ。しかも、時刻は四時を過ぎ、七時には起きて、八時前には出勤しなければならなかった。

利一は、後片付けはすべて夜に改めてすることにして、煙草を吸い終えると、ランタンを消して納屋を出た。それでも、脱いだジャージやTシャツだけは予め用意していたビニール袋に詰めて持った。

外に出ると、空が、雨模様ながらも、なんとなく青みがかってきていた。もう夜明けが近いのだった。

母屋に戻ると、利一はそのまま浴室へ直行した。当初から作業後は風呂に入るつもりだったので、湯は沸いていた。脱衣所で裸になり、脱いだ物は先ほどと同じビニール袋に入れた。これも、夜にまとめて洗濯するつもりだった。

浴室に入り、とにかくは全身を入念に洗った。当然、髪も洗った。そして、さっぱりしてから湯船に体を沈めた。全身を伸ばし、何度もジャバジャバと顔を洗った。暖かい湯船に浸かっていると、疲労とともに強烈な眠気に襲われた。ただ、眠くはあったが、変に神経が昂ってしまっていた。

風呂を終えると、利一はトランクスにタンクトップという格好で台所へ行き、良く冷えた缶ビールを一本、グヒグビと一気に飲み干した。汗を掻き、疲れた体に、アルコールが染みわたっていった。そして空き缶を握りつぶしてゴミ箱に捨てると、利一は寝室へ向かい、そのままベッドに入った。目覚ましをセットし、目を瞑った。すると、数分間は瞼の裏側で作業の様子を思い返していたが、いつのまにか泥のような眠りの底へと沈んでいった。

翌日、睡魔と疲労というふたつの強敵と戦いながら出勤し、どうにか無事に一日を終え、利一は定時で帰宅した。雨は、夕方近くになってようやく上がった。

食事は、途中のドライブスルーでハンバーガーを買ってきていた。自宅の居間でそれを食べると、まずは洗濯物を処理し、ガレージ脇の水道付近を洗い、それから納屋へ向かった。

当たり前のことだが、納屋の内部の様子は前夜と何も変わりがなかった。利一は、放り出されたままの工具等を片付け、マスクや軍手はゴミ袋に入れ、再度トンネルに潜って構造の細部を念の為に点検した。どこにも異常はなかった。ワイヤーの具合も問題なかった。

納屋の中が片付くと、母屋からパイプ椅子と小さなテーブルを運び込み、そこに座って覗き窓から外を見てみた。雨上がりの夜の空気は、すっきりと透明で、空には月が出ていて、その月光を浴びながらトイレ小屋の建物が闇の中に青白く浮かび上がっていた。後は、双眼鏡とカメラを準備してここに待機すれば完璧だ、と利一は外の光景を眺めながら思い、監視窓から顔を話すと、目隠しの布を下ろした。

翌日は金曜日で、週末なのでついに実行のチャンスかと思われたが、あいにくどうしても外せない取引先との飲食の予定が入っていた。しかも、二次会だけではなく三次会まで既に予定が組まれており、帰宅は朝方になりそうで、せっかくの週末の夜でありながら、残念ながら小屋の監視は断念せざるを得なかった。

そして土曜日の今日、利一は昼過ぎまで眠った後、二時過ぎから納屋にこもっている。帰宅は朝方の五時に近かったが、ぐっすりと眠ったし、酒は完全に抜けた。体調は万全だ。

空は真夏のように晴れ、気温はぐんぐんと上昇し、まだ夏休み前だが大勢の海水浴客が浜に集まってきていた。利一はその様子を母屋から眺めて期待に充ちた微笑を浮かべた後、水泳用の水着を着て、冷たい飲み物とタオルと双眼鏡とカメラをトートバッグに詰めて持って納屋に入り、来るべきその瞬間を待った。

今、時刻はもう三時に近く、既に利一は汗だくだ。その間に、トイレの利用者は三人いたが、ひとりはおばさんで、あとのふたりは幼児だった。その幼児には美人の若い奥さんが付き添ってきていて、利一は俄に興奮したが、残念ながらトイレを使用したのは子供だけで、お母さんは外で待機しているだけだった。

さすがの利一でも、おばさんや子供に用事はない。監視を開始して約一時間、誰かがトイレに近づく度に双眼鏡を手に外を覗いたが空振りの連続で、暑さのせいもあって次第に利一はイライラしてきた。首に巻いたタオルでしきりに汗を拭い続け、水を飲んで水分を補給し続ける。

七月の日没は遅いが、夕方になれば人は減る。たとえ七時頃まで明るくても、五時にはもう浜は閑散としてしまうだろう。そしていったん暗くなれば、あのトイレ小屋には電気が通っていないので、施錠されることなく一晩中解放されているとはいえ、よほど切羽詰まった人しか使用しないだろう。時計を見て、あと二時間が勝負だな、と利一は思った。

正直に言って、もっと次から次へと利用者がいると考えていた。もっともあと十日ほどで子供の夏休みが始まって、梅雨が完全に明ければ、浜は土日にこだわらず賑わうはずで、その時期まで待てば、実際に次から次へと利用者は後を絶たないだろうが、梅雨の時期でも週末で晴れていれば、もっと利用者は多いと思っていたので、利一はこの結果に、少々肩透かしを食ってしまった。それでもまだ初日だし、焦ることはない。もうすぐまさしく文字通り黄金の季節が到来する。自分にそう言い聞かせた。

暑さに耐えきれなくなった利一は、煙草とライターを持っていったん納屋から出た。外も暑かったが、納屋の中のように狭い密室ではないので、出た瞬間、利一は生き返った気がした。ガレージ脇の水道へ行き、蛇口を捻って勢い良く水を迸らせると、その下に頭を持っていき、被った。ついでに顔や腕や上半身にもジャバジャバと水をかけて手のひらで擦った。

ようやく一息吐くことができ、利一は水を止めると、日陰に腰を下ろして煙草を吸った。そして、ゆっくりと吸い終えてから、再び納屋へ向かった。いくら狂ったように暑くても、ここでやめるわけにはいかない。

利一は自分を奮い立たせながら納屋の中に戻り、何気なく監視窓の外を覗いた。すると、もう半ば諦めかけていたのだが、なんとその時、ひとりの水着姿の女性がトイレ小屋に近づきつつあった。利一は慌てて双眼鏡に手を伸ばし、その女性をチェックした。若くて、プロポーションの良い女性だった。鮮やかなグリーンのビキニを着ていて、陽光を浴びた茶色い長めの巻き髪が金色に光っている。

利一は急いでデジタル一眼レフのカメラを構えると、その女性の顔をアップで撮影し、少し引いて全身像も収めた。そして、ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、ワイヤー制御の赤いボタンを押した。そのボタンを押した一秒後、女性の姿が視界から消えた。トイレ小屋の正面は、納屋からは見えないので、その女性が本当に中に入ったかどうかは、再び姿を見せるまで利一にはわからない。

じりじりと時間が過ぎていく。額から玉のような汗が流れ、利一は何度もしきりにそれを拭った。時計の秒針を睨む。

女性が姿を消して、一分が過ぎ、二分が過ぎた。そして、通過しただけだったのか? と利一が落胆しかけた時、再び女性が視界に出現した。

「よし!」

利一はボタンを押してトイレ内部の本管の蓋を閉じると、弾かれたように椅子から立ち上がり、タンクへ下りた。そして、期待に胸を膨らませながら上部のハッチを開く。

「おっ!」

タンクの底には、黄金色の液体が若干泡立ちながら溜まっていた。その中には、事後処理に使用されたティッシュも、溶けながら含まれている。覗き込むと、強いアンモニア臭が鼻を打った。その瞬間、水泳パンツの下で利一の性器は硬直した。たまらず利一はタンクの蓋を全体的に開けると、その中へ下りた。そして、底面の一面に溜まっている尿を両手で掬い、それを啜る。苦みが舌を刺し、口の中に広がり、強い芳香が鼻腔を突き抜ける。

尿は、大量だった。利一はそれを何度も手のひらで掬っては啜り、更に、全身に塗りたくるように浴びた。利一は陶酔しながらそんな行為を続け、ひとしきり満足すると、もっといけるかもしれない、と新たに希望を抱きながらタンクの蓋を閉じて覗き穴の前に戻った。

すると、神の思し召しか、早くも二人目の女性がトイレ小屋に近づきつつあった。双眼鏡を覗く時間はなかったので、カメラの望遠で焦点を合わせた。今度は、薄い水色の地に白い花模様が描かれたビキニを着た、茶色いストレートの髪の女の子だった。まだ二十歳前のように見えたが、女性の年齢はよくわからないので、断言できなかった。それでも、肉付きの良い、いやらしい肢体の持ち主だった。利一はまた顔と全身を撮影し、手許のボタンを押した。

女性が視界から消え、またしても苦悶の時間がじりじりと過ぎていく。一分、二分、三分……。果たして、今度は残念ながら外れだったか、それとも、小ではなく大なのか。利一は壁に貼り付くようにして穴から外を睨み続けていた。

そして五分以上が過ぎた頃、その女性が現れた。水着のボトムを直しながら、そそくさと浜の方へと戻っていく。その様子を見ながら利一はボタンを押して蓋を通常状態に戻してから、生唾を飲み込んだ。所要時間の長さからして、小より大の可能性が高かった。利一は、ついにこの瞬間が訪れたのか? と狂いそうになるくらいの興奮を覚えながら椅子から立ってタンクに向かった。

祈るような気持ちでタンクの蓋を、今度は最初から全体的に開いた。すると、少し開けただけで、強烈な匂いが内部から立ち昇った。その官能的な香りを嗅いだ瞬間、利一は完全に勃起していた。

完全に蓋を開き、内部を見る。すると、先ほどより尿の量とティッシュが増えていて、その中に、艶やかに光る半固形の茶色い物体が流れ着いていた。茶色というより、それは黄ばんだ明るい茶褐色で、ボリューム感が圧倒的だった。利一はそれを見た瞬間、歓喜の渦に巻き込まれ、殆ど無意識のうちに水泳パンツを脱いで全裸になると、タンクの中へ下りた。足の裏を溜まった尿が浸し、利一は、凄まじい官能臭に酔い痴れながら四つん這いになり、その褐色の物質に顔を近づけた。脳裏に、この物体を排出した、トイレに出入りした女性の顔を、体を思い浮かべ、感慨に浸る。さっきのかわいいセクシーな女の子が、これを出したのだ。そう思うと、身悶えそうなくらいの興奮が利一の内部で爆発した。

利一は、両手を伸ばし、その糞塊を包み込んだ。それは、官能的としか表現できない人智を超えた質感だった。温かく、ねっとりと柔らかく、そして劇的な芳香を放っていた。利一は、その手のひらの中の塊に顔を近づけ、半眼で深呼吸して胸一杯に香気を吸い込んだ後、一気にそれを顔に押し付けた。鼻から口にかけての部分がその物質に被われ、それは顔に押し付けられた瞬間、まるでパイ投げのパイのように形を崩した。

「おおお!」

利一は獣のような咆哮を上げ、そのままムシャムシャと頬張り、更に何度も物体を尿の中から拾い上げては、胸や太腿の内側部分などに塗り付けてその感触に酔い痴れた。そして、やがていっそう多めに掴むと、屹立しているペニスを包み込むように両手で下腹部に盛り、そのまま一気に扱き始めた。

もはや利一は完全に理性のタガが外れ、狂っていた。しかし、この瞬間こそ、長い間夢想し続け、そして憧れ続けていた瞬間だった。この瞬間のために、何ヶ月も夜な夜な土を掘り、ひたすら汗を流したのだ。

利一は、膝で尿の中に立ち、右手でペニスを扱きながら、左手で、その溜まりに溶け出した糞便を何度も掬っては「ああ」と身悶え、まるで子供が泥遊びに興じるように夢中になりながら口元や体に塗りたくり、やがて、タンクの底で仰向けになって全身を糞尿に浸しながら、寝返りを打つように何度もその狭いスペースで窮屈に転げ回った。時々、顔を糞尿の中に押し付けながら、犬のように、尿と、崩れ始めた便の欠片を執拗に啜った。そして、悦楽の泉の中で満遍なく全身を糞尿塗れにした利一は、歪んだ恍惚感の中で射精した。

それは、これまでの利一の人生の中で、もっとも破廉恥で、もっとも濃密な射精だった。

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