イン・ザ・フルーツバスケット

津山章は自宅アパートの八畳間の畳の上で仰向けに寝転がり、木目の天井を見つめていた。頭の後ろで手を組み、二つに折った座布団を枕代わりにしながら、ぼんやりとしている。

夕方。

黄ばんだ斜光が、レースのカーテンを透かして差し込んでいる。安普請の古い二階建てのアパートだが、日当りだけは良い。ベランダに面した八畳間のガラス戸から流れ込む陽は、繋がる四畳半の台所と、その先にある玄関口まで明るく照らす。

殺風景な部屋だ。八畳間には、片方の壁にシングルベッド、もう一方の壁に勉強のための机や本棚やカラーボックス、テレビが載ったチェストなどが置かれ、部屋の真ん中に低いテーブルがあって、その上にはノートパソコンが載っている。

章は、一流とはいえない私立大学の経済学部に籍を置く二十一歳の学生だ。成績は、お世辞にもそれほど良いとはいえない。しかし、勉強は得意ではない が、真面目な性格だ。酒も飲まないし、サークル活動もしていないから、遊びらしい遊びも知らず、交友関係は広くない。ある意味では、面白味のない人間とい えるかもしれないが、敵らしい敵はいないし、あんがい平和な学生生活を送っている。ただ、二十歳を越えた成人男性として、遊びらしい遊びを全くしてきてい ないから、かなりの奥手だ。今まで付き合った異性はいない。もちろん童貞だし、キスすら経験がない。それでも、いわゆる「キモオタ」的な風体ではない。色 男ではないが、章自身は「まあ普通」と思っている。実際に、学校で女子学生と話をすることくらいはある。しかし、その先はない。要するに、純情すぎるの だ。

とはいえ、純情だからといって純真なわけではない。むしろ、章の頭の中は常にオンナのことではちきれんばかりで、汚れきっている。二十歳を越した童 貞にありがちなことだろうが、性欲には抑え難いものがある。しかし、かといって女の子を誘う度胸はないし、風俗へ行く勇気も金もないから、その欲望は内へ 内へと向かい、専ら自己処理に終始している。

そのため、部屋には様々なDVDやエロ本が溜まっている。もっとも目に触れる部分に出しっ放しにはしていないが、ひとたび押し入れの片隅に隠したダンボール箱を開ければ、そこには大量のディスクと本がある。最近では、オナホールにも手を出してしまった。

それにしても、ひとりで悶々と過ごしている期間があまりに長過ぎる弊害か、章の性欲は、少々歪んでしまっている。女性の足や腋といったパーツや汗な ど体液に対するフェチ的な欲望が強いし、性的な対象年齢が、下は十代の半ばから上は五十代の後半までと実に幅広いのだ。しかし、同時に奇妙な現象も発生し ている。対象年齢の幅は広いのだが、真ん中、つまり自分と同じ年頃の異性には殆ど惹かれず、空洞があるというか、ドーナッツ化現象が起きており、要する に、中高生やおばさんには惹かれるが、同年代を含む二十代の学生やOLやグラビアアイドルなどに全く惹かれないのだ。しかも、章には元々マゾ的な資質があ る。といっても、もちろん本格的なSMプレイの経験はないから、ビデオや本で妄想を膨らますくらいがせいぜいだ。それでも、女王様的な女性を見れば、跪き たくなるし、苛められたくなってくる。もっとも、フェチも源流を辿れば、間違いなくマゾの資質に繋がっている。

綺麗な女の子を見た時、むろん「ヤリたい」という気持ちは湧くが、「足や腋を執拗なまでに舐めたい」或いは「舐めさせていただきたい」という限りな くM的でフェチ的な妄想が膨らんでしまう。だから自室に溜め込んでいるDVDやエロ本も、ジャンル的には著しく偏っている。普通のAVは、全く無い。すべ てが、フェチかマゾ、若しくは熟女物といったマニアックな系統ばかりだ。

基本的に、経験が絶対的に不足している故か、章は受け身が好きなのだった。責めたいと思っても、責める術を知らない。よって、対象が中高生であろう と、綺麗なおばさんであろうと、玩具のように弄ばれたいという願望が異常に強い。なので、中高生といっても、ただ単に可愛いだけのようなおとなしい感じの アイドル的な女の子には興味がない。あくまでも、自分よりも年下なのに経験が豊富な、ちょっと気の強そうな女の子に、時には小馬鹿にされながらも責められ たいのだ。逆に、年上のおばさんが対象の場合は、リードされながら翻弄され、その肉体に溺れたいと考える。自分でも、厄介な嗜好だ、と章は思っているが、 性欲は理屈ではなかなか説明がつかないので、どうしようもない。もっとも、唯一の救いは、ロリコン的な衝動がないことだ。中高生もロリコンに含むなら否定 は出来ないが、少なくとも、小学生には全く惹かれない。だいたい中高生といっても、子供っぽいタイプはパスなのだ。

それでも、たとえば授業のない平日の昼間から自宅の明るい部屋でDVDやエロ本のグラビアを見ながら自慰に耽ると、その最中はまだ良いが、出した後 に強烈な虚無感に襲われる。とくに、SMのビデオやグラビアで犬か豚のように扱われることを夢想しながら果てた後は、冷静さを取り戻した瞬間、どうしよう もなく絶望的な気分になってしまう。自身の性器をティッシュで拭い、開き放しのグラビアや、テレビの画面で再生を続けるDVDの映像などが目に入れば、正 直なところ「何をやっているんだ、俺は」という気持になる。中でも、尤も酷く落ち込むのが、いわゆる「トイレ」系のシチュエーションだ。最近の章の興味は スカトロ系統にも向けられており、しばしば女性の黄金や聖水をネタにして自慰に耽るのだが、そういうネタの時の射精後の虚無感には相当なものがある。大袈 裟な表現になるかもしれないが、二十一にして既に人間として終わっているような感覚に捕われるのだ。ただし、そう感じるのも、射精後のせいぜい数分の間だ けだ。出した精液の処理を済まし、エロ本なら閉じ、DVDなら再生を止めてディスクをデッキから出し、秘密のダンボール箱の中にしまい終えれば、そのうち に絶望感は薄らぎ、気づけば夜にまた同じようなシチュエーションで自らの性器を擦っていたりする。

ちなみに今日は、一時間ほど前に学校から帰ってきて、早速抜いた。オカズはネットで落とした十代援交ギャルのヌードだ。章のパソコンには大量の画像 ファイルが保存されていて、元来の生真面目さから、ファイルはナンバリングし、きちんとジャンルごとにフォルダで分類し、更に細かくタグを付けて管理して いる。章にとってそのフォルダは秘密の宝箱だ。だから、そのフォルダ全体にパスワードを設定して厳重に管理している。エロ本やDVDやオナホールが隠して ある押し入れの中のダンボール箱と同じく、もしも他人に見られたりしたら、まず間違いなく「ド変態」の烙印を押されてしまうから、念には念を入れて保管し ているのだ。

そして今、章は軽く脱力しながら夕暮れの光の中で寝転がっている。壁に掛けた時計を見ると、もうすぐ午後五時だった。今日はこのあと。六時ちょっと過ぎから出掛けなければならない。バイトがあるのだ。

七月第一週、梅雨の合間の晴れた夕暮れだ。ここ数日は、天気がよい。しかし、気温が高く、蒸し暑い。津山章はアパートを出て私鉄の駅へと歩きながら強く差し込む西日に目を細めた。早くも額にうっすらと汗が滲んでいて、時々ハンカチで拭う。

バイトは、高校生の家庭教師だ。週に三日、一回二時間、数学と英語を高校二年の女子に教えている。時給は三千円で、直接契約のため中間マージンを抜かれていないので、かなりおいしい。

バイト先の家は、私鉄の各駅停車で十五分、駅の数でいえば七つ先の駅で降り、そこから徒歩で約十分のところにある、郊外の住宅地の中の一軒家だ。生徒の名前は、中野真里という。父親は単身赴任中で、母親の広美とふたりで暮らしている。

一流大学生でもない章がその家で家庭教師をすることになったきっかけは、少々変わっている。最初、章は引っ越し屋のバイトで、その中野家を担当し た。直線距離にして約二十キロ離れた場所の賃貸マンションから中野一家がその家に引っ越しする際、章が作業要員のバイトを勤めた。そしてその時、高校生の 真里は不在だったのだが、母親の広美が引っ越しに帯同していて、作業の合間の雑談の折、大学生だという話をしたら、「よかったら、うちの娘の家庭教師を やってくれないか?」と話を持ちかけられたのだ。もちろん、当初はやんわりと断った。なぜなら、家庭教師の経験なんてなかったし、そもそも二流の大学に通 う身だから、人にモノを教えるなんて無理だと思ったのだ。しかし、母親は、「うちの娘はお世辞にも出来が良い子ではないし、何も一流の大学を目指している わけでもなく、とりあえず勉強する時間さえ習慣になればいいから、一回二時間程度で週に三日ほどお願いできないかしら?」と言い、「時給は三千円出すし、 あなたは見た感じ良い人みたいだから、よければ来てもらいたい」と付け加えた。

正直な話、貧乏学生の章にとって、時給三千円は相当魅力的だった。単純に計算するだけで、週六時間の拘束で一月に八万ほど稼げそうで、こんなにおい しい話はそうそうないだろう、と思われた。引っ越しのバイトみたいに肉体労働のうえに拘束時間が長いわけでもないし、心はかなり傾いた。しかし、それで も、何せ経験がない話なので、「引き受けたいが、正直、教える自信があまりない」と素直に言った。すると、母親は快活に笑いながら「いまどきなんて正直な 子なの。ますますあなたに来てもらいたくなったわ」と言い、「ひとまず勉強する習慣をつけさせたいだけだから、難しく考えなくていいし、あなた自身が数年 前に覚えたことを教科書にそって説明してくれるだけでいいの」と迷う章の背中を押し、章は受諾した。

そうして次の週から、章は中野真里の家庭教師を始めた。それが約一ヶ月前、五月の終わりのことだ。バイトが決まると、交通費として私鉄のプリペイドカードももらえたし、ときどきは夕食も出た。

しかし問題は、勉強を教える相手である高校二年生の中野真里だった。彼女が、そうとうなタマだったのだ。いわゆる今時の遊び人風ギャルで、生真面目 さだけが取り柄のような章とはまるで水と油だった。真里は親に押し付けられて仕方なく嫌々勉強しているという態度を隠そうともせず、章のことは「センセ」 と茶化したように呼び、ウブといってもいい章を挑発しては遊んでいる感じだった。勉強を教えている最中でも「彼女いるの?」とか「もしかして童貞?」とか 「おっぱい触ったことある?」とか平気で訊いてくるし、わざと露出の激しいホットパンツやミニスカートを穿き、体にピッタリと張りついたTシャツなどを着 て章の反応を面白がっていた。もちろん、その都度章は平然と聞き流して冷静さを装ったが、内心ではドキドキしっ放しだった。何せ、真里はそうとうかわいい 女の子なのだ。しかも経験豊富で、派手で、スタイルも良い。そんな彼女が、ノートの間からコンドームを落として反応を観察し、挑発してくるのだ。章にとっ て、密室で二人きりになって勉強を教えるその時間は、拷問に近い感じだった。手を伸ばせば簡単に届く場所に、ぱつんぱつんに張り詰めた太腿や、たわわに隆 起するバストがあり、部屋には女の子の甘い匂いが充満していて、そんな状況の中、真里は絶対に手は出せないことを見越してわざと扇情的な態度を取るのだ。

しかも困ったことに、魅力的なのは、彼女だけではなかった。真里の母親である広美も、かなりの美人だったのだ。もともと章は熟女系のジャンルも好き なタイプだったので、四十代前半の広美も、充分その範疇だった。広美は、まさに脂が乗り切っている女盛りの雰囲気で、高校生の真里とは別種の魅力に溢れる 女性だった。学生時代はバレーボールの選手で、現在でも地元のママさんバレーに参加していて、そういう女性だからか大柄で体格がよく、ほどよく肉付きが豊 満で、胸と尻のボリュームが素晴らしい。もちろん、デブではない。身長が172センチあるから、痩せては見えないが、太っている感じはない。そして何よ り、とにかく美人なのだ。章はたまに、雨降りの夜などに中野家から最寄りの私鉄駅まで彼女に赤いホンダのフィットで送ってもらえるのだが、そのたかが五分 程度の道のりで、いつも緊張してしまう。ふたりきりの狭い密室空間が、理性を狂わせるのだ。彼女がハンドルを握り、その隣の助手席に章は乗り込みながら、 ついつい床の暗がりへ続く脚のラインに見とれてしまったり、漂う香水の甘い匂いにクラクラとなってしまう。広美がそんな章の心情に気づいているかどうかは わからない。ただ、彼女も娘の真里と同じで、なぜかいつも肌の露出度が高い服を着ていることが多く、章は目のやり場に困ってしまうのだった。しかも、彼女 の場合は、年齢的なものか娘の真里より体全体になんともいえない絶妙な丸みがあり、その柔らかそうな肉感は、ただすぐ近くのそこにあるだけで、童貞の章を 翻弄するには充分すぎるほど刺激的だった。章はふたりきりの車の中で何度となく、おもむろに抱きつき、そのまま豊かな胸の谷間や股間に顔を埋めたくなる衝 動に突き上げられ、その都度必死の思いで堪えた。そしてそんな夜は、自宅アパートに着くなり、彼女をオカズにして抜くのだった。

実際、最近の章は、真里や広美を想像して自慰に耽ることが非常に多い。バイトの前には、なるべく一回抜いてから出掛けることにしている。そうしない と、溜まった状態で中野家を訪れるのは危険なのだった。もっとも、予め一回抜いておいても、家へ行き、刺激的な肢体を目の当たりにすれば呆気なく簡単に妄 想が肥大し始めるのだが、抜かないよりは抜いてから出掛けた方がマシな気がするのだった。

今日はたまたまネットで落とした画像で自慰を済ませたが、バイトに出掛ける前は、真里を妄想の対象にすることが多い。M気の強い章は、たいていの場 合、真里に小馬鹿にされたり罵られたりしながらも必死にその体に縋りつき、邪険に扱われながらも童貞を奪ってもらう場面を想定して抜く。ちなみに母親の広 美を対象にする場合は、少し違う。苛められるのではなく、優しく包み込まれるようにリードされながら抱かれるシチュエーションが得意のパターンだった。

前方、なだらかに続く坂道の先に、私鉄の駅が見えてきた。章は額の汗を拭き、ポケットの中で列車のプリペイドカードを軽く握った。

列車を降り、家路を辿る人たちに交じって住宅街へ向けて歩いていくと、十分ほどでやがて真里と広美の住む一軒家が見えてくる。それほど大きくはない が、二階建ての新しい家だ。章は腕時計をちらりと見る。午後六時五十分。ちょうど十分前だ。襷掛けにしたショルダーバッグをきちんと掛け直し、玄関へと近 づく。瀟洒なこじんまりとした鉄製の門があり、その脇にガス燈を模した門灯が灯っている。まだ周囲は完全に夜にはなっていない。夏至は過ぎたが、陽が長い 時期なのだ。

門灯の下にあるインターホンを押すと、少し間を置いて声が聞こえた。

「はい」

真里の声だ。いつもはたいてい母親の広美が答えるのだが、と思いながらも章は、マイクに向かって言った。

「津山ですけど」

「どうぞ。ドアも開いてるから」

どこか素っ気ないような返事があって、マイクが切れる。章は門扉を開いて石段を五段上がり、芝生に続く飛び石を辿って建物の玄関へと歩み寄る。リビングに灯が入っていて、それ以外の部屋は暗い。

玄関のドアを開き、「こんばんは」と廊下の先へ向かって声を掛ける。すると、リビングのドアが開いて、真里が現れる。

「センセ、いらっしゃい」

白いホットパンツにピンクのタンクトップという挑発的なファッションだ。靴下を履いていない爪先には水色のペディキュアが塗られている。タンクトップの肩にブラの紐が見えない。おそらくノーブラなのだ。

「お邪魔します」

章はスニーカーを脱いで廊下に上がった。真里が「今日はママ、留守なんだよね」と言いながらキッチンへ向かい、「飲み物、コーラでいい?」と訊いた。章は、「はい」とこたえ、「どこへ行ってるの?」と真里の背中に問いかけた。

「バレーの練習で小学校の体育館。八時頃には帰ってくるらしいけど。ああ、飲み物持っていくから、先に部屋へ行ってて」

「わかった」

白いホットパンツの尻を名残惜しげにちらりと見て章は階段へ向かった。階段は廊下の突き当たりにある。その手前の右手に、トイレや、浴室と繋がって いる洗面所兼脱衣所のドアがある。その前を通過し、階段を上がると、二階には三部屋あり、廊下の最も手前が真里の部屋だ。その隣は空き部屋で、突き当たり が母親の寝室だ。

真里の部屋に入ると、いつものように若い女の子特有の甘い香りに包まれる。広さは十畳の洋室で、セミダブルのベッドやドレッサーや勉強のための机が あり、チェストの上にミニコンポと液晶テレビが載っている。部屋の真ん中に低いテーブルがあり、スリープさせた白いノートパソコンがある。

勉強のための机の上は、まるで物置き場だ。雑誌やCDのケースや様々なものが所狭しと占拠している。押し入れの前に、制服がハンガーに掛けられてい る。もう衣替えが過ぎているので、その制服は夏服だ。白い半袖のブラウスにグレーのミニスカートという組み合わせだ。まだ真里が来ていないから、章は一 瞬、その制服を抱きしめて匂いを嗅ぎたい衝動に駆られたが、かろうじて自制し、鞄を肩から下ろして白い絨毯が敷き詰められた床に置き、低いテーブルの前で 胡座をかいた。窓が開け放されていて、涼しい風が吹き込んでいる。

やがて階段を上がってくる足音が聞こえて、真里が部屋に入ってきた。コーラのグラスをふたつ持っている。そして、それを「どうぞ」と言いながらテーブルに置くと、そのテーブルを挟んで章の正面に胡座をかいて座った。

「ありがとう」

暑い初夏の夕暮れの道を十分歩いて喉が渇いていた章はコーラを一息に半分ほど飲んだ。真里も飲み、髪をかきあげる。

「暑いよね」

「まあね」

そう答えながら章はノートや筆記具や参考書の類いを鞄から取り出す。真里がノートパソコンを床に下ろしてテーブルの上にスペースを作る。

今日の科目は数学だ。週三回のうち、二回が数学で一回が英語を教えることになっている。真里が、「なんかダルいな」と言いながら鞄を引き寄せ、中から教科書とノートを取り出す。胸の谷間が嫌でも目に入り、章は慌てて視線を逸らした。

「数学さ、宿題があるんだよね」

「じゃあ、先にそれからやる?」

「つうかさ、全然意味わかんねえし、こんなもん」

そう言いながらノートの間からプリントを抜き、テーブルの上へ捨てるみたいに置く。章はそれを覗き込む。しかし、見れば、たいした問題ではない。少なくとも、前回の授業の時に教えたことさえわかっていれば解ける問題だ。

「でもこれ、このまえやったことじゃないか」

「そうだっけ?」

「ちゃんとやれば、解けるよ」

「それがめんどくせえんだよ」

真里は片膝を立て、シャープペンを手の中でくるくると回す。テーブル越しに、むっちりとした量感の太腿が誇示される。ホットパンツの裾が極限まで短 い感じなので、片膝を立てるとその中の下着まで覗いてしまう。今日の彼女の下着は薄いピンクの縞模様のようだった。もちろん、凝視するわけにはいかないか ら、全然見ていない振りを装ったまますぐに視線は外す。章は彼女に教科書を開かせ、辛抱強く復習に入っていきながら、問題にひとつひとつ取り組んでいく。 自分で解けば話は早いのだが、何せ相手には全く解く気がないのだから、骨の折れる作業だ。それでも、互いにテーブルに屈み込めば、そのぶん体は接近し、真 里からそこはかとなく漂う香水の香りを嗅ぐことは出来て、それだけのことでも章には嬉しかった。

しかし、ふつうにさっさと解いていけば十五分程度で終わりそうな宿題のプリント一枚を片付けるのに約五十分掛かった。一事が万事このような感じだか ら、勉強は全く捗らない。しかも、プリントが終わって、ようやく本来予定していた項目に移行しようとしたら、真里は勝手に「ちょっと疲れた、休憩」と宣言 して、シャープペンを放り出し、全く勉強とは関係ないことをニヤニヤしながら訊いてきた。

「センセさあ、こんなに暑くてさ、目の前に薄着の女の子がいたりすると、やっぱムラムラとかしてくんの?」

「はあ? 何のことだ?」

「だってさ、オンナいないんでしょ?」

含み笑いを漏らしながら上目遣いで真里は章を見た。そしてわざとらしく脚を投げ出すようにして組む。

「関係ないだろう」

「いや、きっと寂しいんだろうなと思って。やっぱひとりで処理すんの?」

「勉強してるんだぞ、今は」

「そんなにムキにならなくてもいいじゃん」

「なってない。というか、そんな話はどうでもいいから、続けようよ。バイト代貰ってるから、勉強してくれないと立場が無いんだよ」

若干弱気になりながらそんな会話を交わしていると、階段を上がってくる足音が響いて、ドアが開いた。

「ただいま」

母親の広美が帰宅したのだった。バレーボールの練習を終えてそのまま帰ってきたらしく、ジャージにTシャツといういでたちだ。首に青いスポーツタオ ルを掛け、髪を後ろでまとめていて、なんとなく頬は上気し、額にうっすらと汗が光っている。よく見れば、Tシャツも汗ばんでいるようで、いつになくセク シーに見えた。

「こんばんは、津山さん。この子、ちゃんとやってるかしら?」

「ええ、まあ」

全然ちゃんとやってはいなかったが、章は曖昧に答えた。真里が振り向いて、「ちゃんとやってるわよ」と適当なことを言う。

「悪いけど、ちょっと今からシャワーを浴びてくるから、その後でサンドイッチでも持ってくるわ。津山さん、夕食はまだでしょ?」

広美が訊き、章は「ええ」と答えた。こういう食事の提供にありつけるのも、家庭教師がおいしいバイトである理由のひとつだ。一人暮らしの貧乏学生である章にとって、一食分でも浮くのは本当に助かる。

「おいしいローストビーフがあるの。食べていって」

「ありがとうございます」

素直に章がその申し出を受けると、広美は「それではまた後で」とドアを閉め、階下へと下りていった。それを機に、勉強を再開した。しかし章の心は、 バスルームに向いてしまっていた。今頃、あの広美が裸になってシャワーを浴びている。そう考えると、その光景が脳裏に浮かび、身悶えそうになってしまっ た。あの汗ばんだTシャツ、そして体に密着し続けた下着。そんな衣類への憧れも募り、章は激しく「脱衣籠を漁ってその温もりに触れたい。そして出来れば匂 いを嗅ぎたい」と思った。もっとも、頭の中ではそう考えても、態度には全く出さなかった。果たして理解しているのかどうか甚だ怪しいものだったが、章は真 里を相手に、涼しい顔をして数式の解き方を説明し続けた。

その後、どうにか勉強は進み、八時半を過ぎた頃、再び広美が部屋へやってきた。シャワー後のためか薄手のワンピースに着替えていて、トレイの上にサ ンドイッチとオレンジジュースを載せている。広美はテーブルの所まで来ると、いったん腰を下ろし、サンドイッチの皿とジュースのグラスを置いた。サンド イッチは章の分だけだったが、ジュースのグラスはふたつあった。広美が屈みながら腰を下ろした時、開いたワンピースの胸元に、たわわなバストの谷間がくっ きりと現れて、章は生唾を飲み込みそうになってしまった。真里が「あたしのサンドイッチはないの?」と唇を尖らせながら訊き、広美は「あなたはこの後で夕 食でしょ」と窘めた。

サンドイッチは、おいしそうだった。フランスパンを使っていて、ローストビーフがたっぷりと挟まれている。皿の上にはそれが二本も載っていた。これだけのボリュームがあれば、充分夕食になる。

「じゃあ、わたしは下でDVDを観てるから、帰る時に声を掛けてくださいね」

広美が言い、章は「はい」と頷いてから、「いただきます」とサンドイッチに手を伸ばした。

「ちゃんと勉強しなさいよ」

真里に向かって広美はそう言い、真里が面倒臭そうに「はあい」と答えると、部屋を出てドアを閉めた。

「うまそうだね」

章のサンドイッチを見て真里が言う。章はサンドイッチを頬張りながら、「うまいよ」と答える。実際に、そのサンドイッチはおいしかった。昼に学食で カツカレーを食べて以来、何も口にしていなかったから、よけいに腹に沁みた。そして一個目を食べ終わり、二個目に手を伸ばしかけた時、食べている様子を ずっと見ていた真里が我慢しきれなくなったように「ちょっとちょうだいよ」と言った。

「夕食が食べられなくなるんじゃないの?」

「大丈夫よ、一口でいいから」

「だけど、切れないじゃん」

「いいから、そのままちょうだい。センセが口をつける前に齧るわ」

「わかったよ……」

章は手に持っていたサンドイッチを真里に差し出した。彼女はそれを受け取ると、がぶりと齧りついた。固いフランスパンを噛みちぎり、咀嚼しながら、サンドイッチを章に返す。

「うまいね」

悪びれもせず真里は言い、章は肩を竦めながら、しかし内心では「間接キスだな」と喜びながら、残りを食べた。どうせならローストビーフと一緒にたっぷりと唾も挟んでくれればいいのに、とさえ思っていた。

やがて食べ終わり、オレンジジュースを飲んでいると、九時に近くなった。章は、今日はもうここまでだな、と思いながら、尿意を覚えたので「ちょっと トイレへ」と立ち上がった。真里がすかさず「今日はもう終わり?」と訊いた。章は「そうだね」と言いながら部屋を出て階下へと向かった。

階段を下りると、一階はひっそりと静かだった。母親の広美はリビングでDVDを観ると言っていたが、ドアは固く閉じていて、音声も気配もまるで聞こ えなかった。章はそのままトイレへ向かって廊下を歩いた。スリッパを履いていないし、靴下を履いているので、足音は全くしない。

そうして廊下を行くと、トイレの手前のドアが開いたままになっていた。中の明かりは消えていたが、浴室に繋がる洗面所と脱衣所を兼ねたスペースのド アだ。それを見た瞬間、章の内部で邪な衝動が湧き起こった。もしかしたら、脱衣所の籠には、先ほどシャワーを浴びた広美が脱いだ衣服、はっきり言えば下着 類があるかもしれない、と考えてしまったのだ。そして、いったんそう考えだすと、もう駄目だった。誘惑が理性を押し潰し、章は素早く周囲を窺った。相変わ らず、誰もいない。リビングのドアは離れているし、閉まっているから、脱衣室に入っても気づかれるおそれは多分無い。階上の真里も降りてきそうな気配はな い。それだけを確認すると、章は音もなく素早く脱衣所の中に侵入した。もっともそこには洗面台もあるから、もしも広美や真里に見咎められれば「手を洗って いた」という言い訳も可能だ。

明かりが消えていて、わざわざ点けることは出来ないが、廊下の光が流れ込んでいるので、内部はそれほど暗くない。章は胸の高鳴りを覚えながら、脱衣 籠に近づいた。すると、思った通り、先ほど広美が身に着けていたジャージのズボンが見えた。章はごくりと唾を飲み込みながら、それをそっと捲った。その手 は緊張のあまり小さく震えていて、心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしていた。

それでも、勇気を振り絞ってジャージをどけると、その下に、T シャツがあった。生地に触れると、汗のせいか湿っている。たまらず章は屈み込むと、そのTシャツを両手でそっと持ち上げ、顔を埋めて深呼吸した。汗の混 じった甘ったるい広美の体臭が馨しかった。急いでTシャツを広げ、脇の部分にも鼻先を押し付けて吸い込み、その一段と湿っている部分を咥えると、まるでエ キスを啜るように、唇を窄めて吸った。

その後、更に籠を漁った。すると、青いスポーツタオルがあり、それはたっぷりと汗を含んでいて、持つと、湿っていて重かった。章は、そのタオルを広 げ、顔を覆った。広美の汗を顔面全体に感じながら深呼吸する。湿ったタオルの肌触りは最高だった。美人は汗の匂いすら魅力的だった。

そして、一番下に、ブラジャーとパンティが押し込まれていた。どちらも揃いのデザインで、色はベージュ、素材はつるつるしていてたぶん化繊だ。ブラ もショーツも全体に銀色で何か花を象ったような複雑な模様の刺繍が施されているが、それほど新しいものではないらしく、ところどころ解れていたりする。お そらくスポーツの際は、二軍落ちというか、傷んでも構わない下着を選択し着用しているのだろう。章は震える手でそのパンティを手に取った。それはまだ温か く、全体的に汗を吸い込んでしっとりと湿り気を帯びている。章にとってこのパンティは、生まれて初めて生で見る、そして無論初めて手に触れた、女性の着用 済み下着だった。その感動が、章の全身を電流のように駆け抜ける。

ごくりと唾を飲み込み、章は薄暗い空間の隅でパンティを広げながらじっとクロッチ部を凝視する。その部分には、くっきりと秘部の形状をした沁みが付 着していた。顔を近づけて匂いを嗅ぐと、生々しく官能的な芳香が鼻を突いた。それは、汗とおしっこの残滓と、性器内部で分泌された蜜が絶妙に配合された匂 いだった。ジーンズの中でペニスが激しく勃起する。もっとも最初のジャージのズボンに触れた時点で勃起していたが、このパンティによって限界まで完全に反 り返った。

心臓が激しく脈打っていた。手も震えている。もしもこの瞬間を広美や真里に見られたら何の言い訳もできない。その恐怖感が全身を駆け抜け、気づくと、章はそのパンティを小さく丁寧に折り畳んで自分のジーンズの右前のポケットに押し込んでいた。

急いで洗濯物を元の状態に戻し、脱衣所から出た。依然として、廊下は無人で、誰かが近づいてくる気配もない。章は高鳴る胸の動悸を必死に抑えなが ら、トイレに飛び込んだ。そして心の中で何度も「落ち着け」と念じながら呼吸を整え、おしっこをしようとジーンズのジッパーを下ろしてペニスを引っ張り出 したが、まだ勃起が全く収まっていなくて排尿は不可能だった。

結局、排尿は断念し、そのままトイレを出た。若干勃起は収まりつつあったが、心臓の鼓動はまだ落ち着いていなかった。章は廊下を歩きながら、ジーンズの股間部とポケットの膨らみを隠すためにポロシャツの裾を引っ張るようにして長く前へ伸ばした。

それでもどうにか気持ちを鎮めながら階段を上がり、真里の部屋へ戻ると、既に彼女はすっかり勉強道具を片付けてしまっていて、何やら携帯電話を弄っ てた。そして戻ってきた章をちらりと見遣ると、「もう終わりでしょ?」と言い、章は壁の時計を確認して、「ああ」と答えた。いつのまにか時刻は九時を過ぎ ていた。もしかしたらトイレにしては長過ぎると不審がられているかも、という疑念が湧いて不安になったが、真里は気にも留めていない様子だ。依然として内 心の緊張は続いていたが、どうやら真里には気づかれていないようだった。そう思うと章は少しだけ安心できて、自分のノートや参考書や筆記具をショルダー バッグにしまい、残っていたジュースを全部飲み干した。

「それじゃあ、また明後日」

携帯でメールを打っているらしい真里に章は言い、立ち上がった。真里が携帯のディスプレイから目を離さないまま、「お疲れ」と答えた。

「グラスと皿は、ぼくがお母さんに持っていっておくよ」

「よろしく」

相変わらず章の方を見もしないで真里は言った。

グラスと皿を載せたトレイを持って章は部屋を出、階段を下りた。そしてリビングのドアをノックし、中から広美の「はい」という返事が聞こえてから「失礼します」とドアを開け、ソファで寛ぎながら映画を観ている広美に、「ごちそうさまでした」とサンドイッチの礼を言った。

「いいえ、どういたしまして」

テレビの画面から目を離して章を見つめながら広美は微笑み、立ち上がると、側に来てトレイを受け取った。並んで立つと、章より広美の方が背が高いの で、なんともいえない圧迫感がある。しかも今夜の場合、章には彼女の下着を黙って失敬したという負い目があり、余計にプレッシャーを感じた。シャンプーか ボディソープか不明だが、なんとも甘い香りが体から漂っている。

「あら、もう九時。終わりね」

壁の時計を見て、広美が言う。もちろん、目の前いる男のポケットの中に自分の脱いだ洗濯前の汚れた下着が押し込まれていることなど、彼女は全く知らない。

「ええ」

章は平静を装いながら頷いた。

「ご苦労様」

「はい。では失礼します」

「気をつけて帰ってね」

「はい」

答えて軽く会釈し、章がリビングを辞すと、玄関まで広美がついてきた。そして三和土で靴を履き終えると、広美が笑顔のまま言った。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

一刻も早くこの場から逃げだしたい気持ちを抑えながら章は普通に挨拶を交わし、ドアを開けて外へ出た。そして背後でドアが閉まり、飛び石の上を渡っ て石段を下り、門扉を開けて表の通りに出ると、ようやく大きく息を吐くことが出来た。しかし、無人の街路に出て歩きだし、ポケットの中身を意識した瞬間、 たとえようのない恐怖心と、今更ながら「なんてことをしてしまったんだ」という後悔に似た感情が湧いた。ポケットの上から下着を押し込んだ膨らみにそっと 触れる。恐怖と後悔は確かにあった。それでも今この瞬間に限れば、早く家に帰って思う存分このパンティの感触を楽しみたい、という邪悪な気持ちの方が遥か に強かった。

章は、夜の暗い街路を、私鉄の駅に向かって足早に歩いた。

気ばかりが急いて知らないうちに早足で歩き続けたせいか、駅から自宅アパートに辿り着く間に、章はびっしょりと汗をかいてしまった。いつもなら、バ イトの帰り道はたいてい夜遅くまで開いている書店やコンビニなどに立ち寄ってから帰宅するのだが、もちろんどこにも寄らず駅に着くと真っすぐ自宅へ向かっ た。

電車の中でも歩いている最中も、頭の中は脱衣籠から抜いてきてしまった広美の下着のことで一杯だった。いつまでもポケットの中に突っ込んでおくのは どうかと思ったので、中野家を出てすぐに歩きながら素早くポケットからショルダーバッグの中へ移した。もちろん、少しでも鮮度が失われると勿体なかったの で、ティッシュで包んだ。

そうしてアパートの自室へ辿り着くと、何はともあれ、章はバッグの中から下着を包んだティッシュを取り出し、テーブルの上へ置いた。しかし、すぐに それを開こうとはせず、ひどく汗をかいていたので、そのまま浴室へ行き、着ていたものを全部脱いでシャワーを浴びた。もちろん一秒でも早く広美の下着を楽 しみたい気持ちは強かったが、汗塗れのままより、髪や顔や体を洗ってすっきりしてからの方が存分に味わえるような気がしたのだ。

浴室に入ると、頭からシャワーの湯を被り、髪、顔、体、の順番で綺麗に洗って汗を流した。いつまのにかペニスの先端からは透明な液が溢れていたので、その部分も綺麗に洗った。とはいえ、この後の行動を考えれば、また汚れることは目に見えていた。

手早くシャワーを終えた章は浴室を出ると、バスタオルで頭や体を拭ってそのままそれを腰に巻いて台所へ行き、冷蔵庫から冷たいお茶のペットボトルを出して大きなグラスに注いだ。そして、そのペットボトルを冷蔵庫に戻してから、グラスを持って奥の八畳間へと移動した。

お茶を半分ほど一息に飲んでからグラスをテーブルに置き、床に胡座をかき、ついに念願の物体に手を伸ばす。この時点で既にバスタオルの下で性器はカチカチに固くなっている。章は充分その体の変化を自覚しながら、物体を包むティッシュを広げた。

薄暗い脱衣所で見た広美のパンティが白い蛍光灯に照らされて出現する。明るい場所で見れば、傷みが目立った。レースになっている縁取りや刺繍はかな り解れているし、布地自体も擦り切れそうになっている部位がある。しかし章にとっては、その使用感すら愛おしかった。このパンティがついさっきまであの美 しい広美の臀部を包み込み、股間部分に密着していたのだ。そう思うと、もういても立ってもいられなくなった。手に持てば、湿り気が布地全体に及んでいて、 クロッチの部分を広げれば、魅惑の黄ばんだ沁みが蛍光灯の明かりを撥ねながらクリーム色の生地に亀裂を浮かび上がらせている。

章はパンティを広げたまま両手で持つと、ついに満を持して顔の前まで運んだ。すると、俄に生々しい芳香が鼻腔を突き抜けた。じっと目を凝らして観察 すれば、沁みはとろりとぬめっているようで、クロッチ部の布には数本の陰毛が絡み付いている。尻を包んでいた部分を見れば、何やら薄茶色の変色も確認でき た。章は、まずその尻を包んでいた部分に鼻の先を宛てがい、そのまま芳ばしい匂いを大きく吸い込んだ。顔全体をパンティで被うようにすると、湿った生地の 感触と芳醇な香気が絶品だった。章はそのまま鼻先をクロッチ中央まで移動させ、沁みの部分に密着させた。そして一層強くパンティの内側に顔を押し付け、口 を閉じて鼻だけで呼吸しながら、その動物的で官能的な匂いを堪能した。更に、舌を尖らせてその先端を沁みに浸し、執拗に舐めた。

もう限界だった。章はそのままおもむろにパンティを頭に被ると、腰の部分のゴムを顎に引っ掛けるようにして、まるで覆面のようにクロッチ部分で顔を被い、もどかしげにバスタオルを剥ぎ取り既にいきり立っているペニスを握った。

「あああ広美さま〜」

無意識のうちに章はそう口走りながら猛然と扱き始めた。汗とおしっこと分泌物が入り交じった生々しい匂いに包まれながら半眼になり、鼻を鳴らして胸 一杯に香気を吸い込む。そして、顔全体を被うような、汗が染み込んで湿る生地の感触に酔い痴れながら、体を横に倒して若干背中を丸め、猛スピードで手を上 下させた。

それはおぞましい姿だった。しかし章にとっては夢のような状況だった。章は広美の生の匂いに包まれながら、その世界に耽溺した。やがて壮絶な射精の衝動がせり上がってきて、章は「広美さま〜」と悶えるように口走ると、そのまま派手に精液を噴出させた。

射精を果たすと、章は覆面のように頭にパンティを被ったまま、暫く放心状態に陥ったみたいに床に丸まっていた。胸の激しい鼓動が沈静に向かい、呼吸 がだんだん落ち着いてくる。やがて章は体を起こすと、緩慢な動作でティッシュの箱に手を伸ばし、数枚をまとめて引き抜き、ペニスを拭った。ついでに、床に べっとりと着地している精液も拭い、それを丸めてゴミ箱に投げ捨てると、ようやくパンティを頭から外した。

なんだか疲労感が普段の自慰の数倍だった。しかし充実感も、比べものにならないくらいだった。ただ、それらと比例するように、虚無感も甚大だった。 いつになく章は射精後の後ろめたさを自覚した。人として、何か一線を越えてしまったような気がしたのだ。今までだって何度なく女性の使用済み下着を夢想 し、実際にその想像で数限りなく抜いてきた。しかし、今夜は夢想ではなく現実だった。紛れもない事実として、本物の使用済み下着が、それも日々憧れを募ら せている中野広美の尊い布地の実物が手の中にあった。しかも、入手の手段がイリーガルで、こっそりと盗ってきたという罪悪感のおまけ付きだ。

射精を果たしたことで少しずつ冷静さを取り戻してきた章は改めて、もしかしたらとんでもないことをしてしまったかもしれない、と怖くなってきた。あ の家へは、この先も行かなくてはならないのだ。もしも盗ったことがバレたらどうなる? その想像は、気の小さい章を深く悩ませた。自分でしたことなのに、 そして尋常ではないくらい楽しんだくせに、今になって章は激しい後悔の念に捕われた。だいたい、冷静になって考えてみれば、女性二人しか暮らしていない家 でパンティだけが紛失し、その間に訪れた男性が章しかいなかったら、疑念は一身に降り掛かって当然だった。だから章としては、どうか紛失に気づかないでく れ、いや、もしも気づいても、その行方について深くは探求しないでくれ、と祈るように思うしかなかった。

章は手の中のパンティをそっとテーブルの上に置いた。つるつるの生地が天井の蛍光灯の光を艶かしく反射する。章はそれを見つめながら、盗った証拠は 残していないのだから、もしも何か訊かれても絶対に惚け通そう、と固く誓うように思い、はだけてしまっているバスタオルを持つと、立ち上がって改めて腰に 巻いた。そして台所の流しの引き出しからジップロックのビニール袋を持ってくると、広美のパンティを丁寧に畳んでその中にしまい、きちんと密封してから ベッドの枕の下へ滑り込ませた。本来なら押し入れの奥のダンボール箱の中にしまうべきなのだが、どうせ今夜中に最低でも後一回は使いそうだし、当分はヘ ビー・ローテーションで酷使しそうだったから、容易くいつでもすぐに取り出せるよう枕の下を選んだのだった。

翌日の夕方。

章は平均的な一日を過ごし、大学から帰ってきた。雨こそ降らなかったが、どんよりとした曇りの日で、一日中ひどく蒸し暑かった。それは、そろそろ夜 になろうとしている午後六時になっても同じで、アパートの部屋もムシムシとしていた。章はたまらずエアコンを稼働させた。そして、夕飯は何にしようかな あ、と漠然と考えながら床で寝転んで寛いでいると、不意に、テーブルの上に置いてあった携帯が鳴りだした。

端末に手を伸ばして取り、明るく光るディスプレイを見ると、そこには『中野真里』という文字が表示されていた。

真里? いったい何の用だ?

昨夜、母親の下着を盗んできたという心の負い目があるので、一瞬にして章は警戒してしまった。一応電話番号は教えてあったが、これまでに一度として 真里からかかってきたことはない。しかし、出ないわけにはいかない。下手に居留守なんか使ったら、余計な詮索を誘引してしまいかねない。

章は覚悟を決めて応答ボタンを押し、いたって普通の口調で言った。

「もしもし?」

すると、何がおかしいのか、けらけらと笑いながら真里が答えた。

「あ、出た」

「そりゃあ、出るよ。どうしたの?」

章はベッド凭れて座り、訊いた。もしかしたら、明日の都合が悪くなって家庭教師を断ってきたのかもしれない、と思ったりもしていた。しかし、違った。

「いや、あのさ、今、センセの家の近くの駅にいるんだよね」

「なんで?」

全く予想していなかった展開に戸惑いながら、それでも平静を装って章は重ねて訊ねた。

「なんでっつうか、そこへ遊びにいこうと思って」

「来なくていいよ、こんなところ。何もないし」

「っていうか、行くことはもう決めてるし。コンビニで弁当も買った。どうせ夕ご飯まだでしょ?」

「まあ夕飯はまだだけど」

「で、とりあえず今からそっちへ行くんだけど、道がわかんないんだよね。教えてくれる?」

全くもって真里の行動の意図は読めなかった。なぜ突然、わざわざ弁当まで買ってここへ来るのか。しかも、昨日下着を盗ったばかりというこのタイミングで。

「こっちから駅へ行くよ」

「いや、それはいい。こっちが行くから。っていうか、あたしがそこへ行くと何かまずいことでもあるわけ?」

「いや、別に何もないけど」

「だって女がいるわけでもないんでしょ? あ、そうか、エッチなビデオとか出しっ放しで片付けるのが面倒臭いとか?」

笑いながら真里が言い、章は否定した。

「そんなことないけど」

「だったら、いいじゃん。道を教えて」

「わかったよ」

どうやら何を言っても絶対に来るつもりのようだったので、章は観念して駅からこのアパートまでの道順を口頭で説明した。といっても、道順は、至って シンプルだ。交叉点も二回しか曲がらないし、そのポイントにはどちらもコンビニと郵便ポストというわかりやすい目印がある。そして最後にアパート名と部屋 の番号を伝えた。

「駅からだと、歩いて何分くらい?」

真里が訊き、章は「十分もかからない」と答えた。

「わかった。じゃあ、今から行く」

「はいはい」

「っていうか、電子レンジくらいあるよね? 弁当、温めてもらってないんだ」

「あるよ」

「それなら、いい」

そこで一方的に通話が切れた。章は端末を閉じると、それをテーブルに置いた。そして、改めて部屋を見回した。基本的に誰かが来るということがない部 屋なので、散らかり放題だ。掃除機をかけたのも、一ヶ月くらい前だし、エロ本の類いだけはちゃんとしまっているが、脱いだ服や雑誌や本などは床に散乱して いる。

「このままじゃまずいな」

章は独り言を呟き、急いで片付け始めた。何せ、猶予の時間は十分ほどしかない。雑誌や本はまとめて積み上げ、衣類は適当に畳んでタンスに収めた。台 所までは手が回らないので、とりあえず居間である奥の八畳間だけ掃除機をかけ、エアコンを動かしていたが念の為に窓を開け放って空気を入れ替え、ベッドや カーペットの部分にファブリーズを振り撒いた。かなり急いで作業をしたので、章は汗をかいてしまった。それでも、一通りなんとか格好がつくと、窓を閉め、 洗面台で顔と手を洗った。そして居間に戻り、一息吐いていると、じきにチャイムが鳴った。

「はい」

と答えながら章は立ち上がり、玄関まで行き、ロックを解除してドアを押し開いた。

「来たよ」

ニヤニヤ笑いながら真里が入ってきた。手にコンビニの袋を提げている。相変わらず派手なファッションだ。黄色い地に大きな赤い花の柄が描かれたノー スリーブのワンピースに、足元は素足にピンクのクロックスを履いている。スカートの丈は短く、惜しげもなく脚線美を露出している。章は視線の置き場に困惑 したまま、「まあ、どうぞ」と彼女を迎え入れた。

「おじゃましまーす」

おどけたように、そして含み笑いを遠慮なく振り撒きながら、真里はクロックスを脱ぎ、台所と繋がっている廊下のようなスペースに上がった。彼女が部屋に入った瞬間、香水の甘い柑橘系の匂いが強く漂った。

「あ、涼しい」

狭いアパートで、奥の八畳間から台所、そして玄関まで仕切りがないので、エアコンの冷気が全体的に行き渡っている。真里は台所を抜けながら、「ふうん」と物珍しげに周囲を見回している。

「こういうところに住んでたんだ」

「まあね」

「とりあえず弁当買ってきたから、温めてね。ハンバーグだけど、いい?」

「うん。代金は?」

「そんなもんいいわよ、あたしの奢り」

「そっか。ありがと」

高校生の女の子に奢ってもらうのもどうかと思ったが、押し問答をしても仕方ないので、章はコンビニのビニール袋を受け取ると、ひとまず台所のテーブルに置いて奥の八畳間に入った。

「適当に座って」

章はテーブルの前の床に置いた座布団を示しながら真里に言った。真里はぺたんと座布団の上に座り、尚も部屋を見回している。

「そんなにジロジロ見るなよ」

章が言うと、真里は「女にモテない一人暮らしの寂しくて侘しい大学生の部屋って、やっぱ興味あるじゃん」と更に見回し、「まあ、アニメのキャラのポスターやフィギュアがないだけ、ギリギリセーフかもね」と笑い、「何か飲み物、ないの?」と訊いた。

「ジュースでいい?」

「ビールは?」

「酒はない」

「つまらん。まあ、ジュースでいいよ。何があんの?」

章は台所へ行き、冷蔵庫を開けて答える。

「コーラか、アップルジュースか、お茶」

「弁当食べるから、お茶でいいわ。っていうか、腹減ったから、早く弁当を温めてよ」

「はいはい」

そう答えながら章は電子レンジにハンバーグ弁当を入れてタイマーをセットし、その間に、お茶をグラスに注いで真里に渡した。そして、まず一個目が温 まると、それを真里の前に置き、続いて自分の分も温めた。台所から居間を覗くと、真里は勝手にテレビを点け、さっさと食べ始めている。そして、「ここのハ ンバーグ弁当はあんがいイケるんだよね」と言った。

じきに二個目も温まり、章はそれを持って居間に戻った。真里の対面に座り、弁当のラップを剥がす。いつのまにか真里は長い髪をゴムを使って後ろでま とめていて、弁当に屈み込んでいるので、開いた胸元に谷間が覗いていた。章は一瞬、柔らかそうな胸だな、触りたいな、と思ったが、すぐに視線を逸らし、弁 当に集中した。真里は、そんな章の視線に気づいているのかいないのか、時々「あっつーい」と言いながら胸元をパタパタと扇いでいる。そしてその度に香水の 香りが漂ってくる。

「クーラー入れてるから、涼しいだろ?」

ハンバーグを食べながらそう章が言うと、真里は「歩いてきたからまだ暑いんだよ」と面倒臭そうに言った。

「っていうか、梅雨時ってムシムシしてて最悪じゃん?」

「まあね」

やがてふたりほとんど同時に弁当を食べ終わり、章は空の容器と箸を台所へ運んだ。分別ゴミの関係で、プラスティックの容器は簡単に水で流してから専 用の袋に捨てる。そして、真里が使った箸はそのまま台所の引き出しの中にしまい、自分の箸だけを普通のゴミの袋に捨てた。その時、奥の居間から真里の声が し、見ると、こちらを向いていた。

「ねえ、灰皿ねえの?」

まさか箸を別にしまったところは見られてないよな? と思いながら、章は「ない」と答えた。章は全く煙草を嗜まない。

「でも、もう火つけちゃったよ」

「ちょっと待って」

章は空き缶だけをまとめているゴミ箱の中からトウモロコシの缶詰の空き缶を取り出すと、水で洗い、それを居間へ持っていってテーブルに置いた。

「これ使って」

「わかった」

真里はその空き缶の縁に煙草を軽く当てるようにしてトントンと指先で叩き、灰を落とし、ふうと大きく煙を上空に向けて吹いた。そして正面に座った章をまじまじと見つめる。

「しかし、酒は飲まない、煙草も吸わない、そして女もいない。なんか楽しいことあんの? パチンコとかするの?」

「しない」

「じゃあ、学校とバイト以外、何してんの?」

「ほっとけよ」

お茶を一口飲んで章は素っ気なく言った。そんな様子を見て、真里は煙草を指に挟みながらケラケラと笑う。

「拗ねるなよ」

「拗ねてなんかないよ」

「そうかな?」

意味深な笑みを浮かべながら真里は煙草をトウモロコシの空き缶の中で突つくように消し、立ち上がった。

「ちょっと、トイレ貸して」

「ああ、台所の横のドア」

「っていうか、聞き耳立てたり覗いたりすんなよ?」

「しないよ」

まるで頭の中を見透かされているみたいだったが、即座に章は否定しておいた。もちろん言われるまでもなく、出来ればドアに張りついてその音を聞いたり、もしも可能であれば覗きたい気持ちはありすぎるほどあったが、流石にそんなことは言えない。

「でもなあ、溜まってる男って何するかわかったもんじゃないからな」

そう言いながらも真里はリモコンでテレビのボリュームを上げ、部屋を出てトイレに入った。そして、当たり前のように音消しのための水を流した。

おしっこだったのか、すぐに真里は出てきて、再び同じ位置に腰を下ろした。章はリモコンでテレビの音量を通常のレベルに絞った。真里が新しい煙草に火をつけながら言う。

「ところで、どう?」

「どうって、何が?」

章は質問の意図が分からず、訊き直した。すると真里はくすくすと笑った。

「だーかーらー、どうって訊いてんだよ」

「意味わかんないよ」

「わかんないの?」

じっと章の目を覗き込むように真里は見つめた。その視線に、章は動揺した。そんな章の心情を弄ぶかのように、真里が何気なく言う。

「そっか、わかんないのか」

「うん」

章が頷くと、真里は煙草の灰を落とし、煙を細く吐き出してから、わざとらしく大きく溜め息をついた。

「うちのママがさ、昨夜から変なことを言ってんだよね」

「えっ?」

章は「うちのママ」、そして「昨夜」という言葉に、どきりとしたが、それを表には出さなかった。真里が探るような視線を向けて訊く。

「何て言ってるか、想像つく?」

章は内心の動揺と不安をひた隠しにしたまま「いいや」と首を横に振った。もちろん「何て言ってるの?」と墓穴を掘りそうなことは言わなかった。

「なんかさ、ひとりで騒いでいるのよ。昨日穿いてたパンツが無くなってるって」

章は瞬間的に鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。完全にバレていた。しかし、自分が盗ったという証拠はないはずだ。だから落ち着け、平然として いろ。そう強く自分に言い聞かせる。しかし、残念ながら真里はそんなに甘い女の子ではなかった。次の瞬間、真正面からじっと章を見つめて、単刀直入に斬り 込んできた。

「盗ったでしょ?」

咄嗟に章は「は?」と恍けた。すると真里は全てを見透かしたように笑いながら「は、じゃない」と否定し、続けた。

「あのさ、冷静に考えてみなよ。昨日ママがバレーから帰ってきてシャワーを浴びて、夕食の後に洗濯を始めるまでの一時間くらいの間に、どうしてパン ツだけが無くなる? センセが帰った後、あたし達は夕ご飯を食べて、それからすぐママが洗濯をしようとして『パンツだけが無くなってる』って気づいたの。 一緒に脱いだジャージやブラはそのままあって、パンツだけが無くなってるのよ? そんなこと、ありえないでしょ? で、その間に家に出入りしたのは? ま さかパンツだけがひとりで脱衣籠から歩いて出ていくわけがないし、全部一緒に脱いで一緒に籠に入れているのだからママの勘違いというのはありえない。もち ろん、籠の周囲に落ちてないかどうかは確かめたし、あたしがそんなものを隠す理由は全く無い。ということは、どうなる? 昨夜、うちに出入りした他人は、 センセしかいないんだよ? しかも、トイレに行くとか言って、ママがシャワーを浴びた後に一階へひとりで行ってるよね?」

章は、何か反論しなければ、と思ったが、すぐには適当な言葉が見つからなかった。それでも黙っていたらますます状況は不利になると考え、無理やり言った。

「よくわかんないけど、それでもお母さんが何か勘違いしてるんじゃないの? 確かにトイレは行ったけど、ぼくは盗ってなんかいないよ」

「あくまでも認めないつもり?」

「だって」

章がそう言いかけると、真里は途中でそれを遮った。

「じゃあしょうがない。警察へ言うわ」

「警察!?」

章は驚いて声をあげてしまった。

「いくら何でもパンツ一枚でそれは大袈裟なんじゃないの? 大体盗られたという証拠があるわけでもないし」

しかし真里は平然と首を横に振った。

「ううん、パンツ一枚でも窃盗は窃盗で立派な犯罪だし、センセが盗ったんじゃなかったら誰かが勝手に家の中に不法侵入してるってことだし、証拠は警 察が調べれば脱衣所で指紋が出るかもしれないし、何より女二人で住んでいる家でこんな事があるなんて怖い話だから、警察に言うよ。正直、センセが盗ったな ら盗ったで、別に大騒ぎするつもりは無かったし、むしろ全然知らない誰かが知らないうちに家に忍び込んでるよりはよっぽどマシだと思ったんだけど。ママの 盗られたパンツだって、別に高級品ってわけじゃないし、というよりボロボロで近々捨てるつもりのものだったらしいし」

真里はそう言うと、もう一度章を見つめた。

「ほんとにセンセが盗ったんじゃないの? 警察に言ってちゃんと調べてもらっていい?」

章はカラカラの喉に無理やり唾を流し込みながら、真里の視線からそっと逃れた。どう考えても警察はまずい。脱衣所のドアや籠には、調べれば自分の指 紋がベタベタとついているはずだ。トイレにしか行っていないと言ってしまった手前、警察の介入後ではどんな言い訳も通用しないだろう。そして何より、真里 が言う通り確かに窃盗は犯罪だ。たとえ用済み間近の古びたパンツ一枚でも、黙って持ってきた、即ち「盗んだ」という事実は消せない。

こうなったら、素直に謝った方がいいように思われた。そして、なんとか母親には黙っていてもらい、真里の胸の内に留めておいてもらえるよう頼むのだ。

そう腹を括り、章はおもむろに土下座して額を床に擦り付けた。

「ごめんなさい」

すると今度は真里が「は?」と恍けた。

「盗ってないんでしょ? 何で謝ってるの?」

煙草を吹かし、平然と真里が言う。章は額を床に擦り付けたまま、気持ちを振り絞るようにして更に言葉を繋いだ。

「こめんなさい。つい出来心で……」

「だから、何を謝っているのか、はっきり言えよ」

真里がおもむろに脚を伸ばして、素足の裏で伏せる章の頭を小突いた。章はその屈辱に耐えながら、そして泣きそうになりながら、声を震わせて叫ぶように言った。

「と、盗りました。ぼくがお母さんのパンツを盗りました。どうか、許してください」

章は必死になって謝った。すると、突然真里が楽しそうに大声で笑った。

「ははは、やっと白状したか。んなことは最初からわかってんだよ。センセ以外に盗る奴なんかいるわけねえじゃん。それに、たかがパンツ一枚で警察なんかにいちいち言うわけねえし」

そう言うと、真里は章の頭から足をどけた。

「もういいから、顔を上げなよ」

それはきわめて普通の口調で、章はなんとなく狐に摘まれたような気分でゆるゆると上体を起こし、探るような視線を真里に向けた。

「そんな泣きそうな顔してんじゃねえよ。べつにパンツ一枚で騒ぎたてやしねえよ。だから、最初から『どう?』って訊いてんじゃんか。もちろん早速使ったんだろ?」

「は、はい……」

上体は起こしたもののまだ正座の姿勢は保ったまま、章は曖昧に頷き、上目遣いで怖ず怖ずと訊いた。

「許してもらえるんですか?」

「ははは、許すも許さないも、もう盗っちまってんじゃんか」

章は僅かな可能性の光明に縋るように、更に訊いた。

「お母さんには内緒にしていてもらえますか?」

すると、真里は「それはどうかなあ?」と章の揺れまくる困惑と心配を弄ぶように言った。

「まあ、そのへんはセンセの気持ち次第だね」

「ぼくの気持ち?」

意味がわからず、章は訊ねた。

「センセがあたしの言う事をよく聞く良い子になるって言うなら、黙っててあげてもいいし」

「でも、お母さんが探求を諦めなかったら?」

「っていうか、ボロボロの古いパンツ一枚でしょ? よく分からないけど、どこかいっちゃった、で済むわよ。別に今だってセンセの事を疑っているわけではなくて、どこいっちゃったのかしら? って感じだし」

その言葉を聞いて、章は少しだけ安堵した。いったい真里がどんな事を言ってくるのか想像もつかなかったが、とりあえず母親に黙っていてもらえるなら、首の皮一枚のところでなんとか助かったような気がしたのだ。

「それで……具体的にぼくはどうすれば……」

章がそう言うと、真里はニヤニヤと笑いながら「そうね」と煙草を消して思案する振りをした。

「とりあえず、あたしの命令は絶対に聞く事。一回でも反抗したら、すぐにママに言う。それと、まず手始めとして、これからあたしの事は『様』付けで呼ぶように。まあ、家でママの前とかでは付けなくてもいいけど、基本的には『真里様』と呼ぶように、わかった?」

「は、はい……」

「もちろん、言葉遣いは今みたいな敬語ね。わかった?」

「わかりました」

章は軽く握った両手を正座の腿の上に置きながら答えた。すると、真里がすかさず訂正した。

「そうじゃないでしょ? こういう場合は『わかりました、真里様』って言うの。言いなさい」

「わかりました、真里様」

章は素直に言い直した。それを聞いて真里は満足そうに微笑んだ。

「それじゃあ、改めて訊くけど、あたしの言う事は何でもちゃんと聞くわね」

じっと章を見つめて言い、章は力なく頷いた。従うより、選択肢はないのだ。

「はい、聞きます。真里様」

「よろしい」

わざとらしく真里は大きく頷き、新しい煙草を咥えると、「火」と言った。章は一瞬、「えっ?」と戸惑ったが、すぐに火をつけるように命じられている のだと気づき、正座のままずりずりと移動すると、テーブルの上のライターを点火して「失礼します」と言いながら真里が咥えている煙草の先端に炎を近づけ た。真里は火を移すと、煙を容赦なく章の顔に吹き付けながら「もっとちゃっちゃっと動きなさい」と言って、いきなり章の頬をビンタした。章は咄嗟の事に吃 驚したが、むろん反抗的な態度は微塵も見せず、俯き、「はい、真里様」と項垂れた。そして真里は煙草を吹かしながら、とんでもないことをさらりと言った。

「じゃあ、とりあえず裸になってもらうかな」

「えっ!?」

章は予想外の命令に目を見開いた。

「聞こえなかった? 裸になれって言ってるの。もちろんパンツも脱いで、マッパ。ほら、早くしなさい」

「で、でも……」

章が躊躇していると、真里はまた頬を強く張った。

「言う事は何でも聞くんじゃなかったのかよ」

「は、はい、すいません」

章は観念して腹を括った。

「童貞のチンコを見てみたいんだよ」

真里が笑いながら言い、訊いた。

「童貞なんだろ?」

章は俯いて、こくりと頷いた。確かに、女の子は知らない。知らないどころかキスの経験すらないし、体に触った事もない。頷いた章を見て真里は大笑い しながら、「はい、ぼくは童貞です、とちゃんと言えよ」と促した。章は控えめに盗み見るように目だけを真里に向けながら、その通りに言った。

「はい、ぼくは童貞です」

真里が手を叩いて大受けする。章は俯きながらその笑い声を聞いていた。屈辱的だった。まがりなりにも勉強を教えている年下の女の子の前で童貞である 事を宣言するなんて、確かに真里に苛められ辱められる場面を想像してひとりで孤独に抜いた経験は数限りなくあったが、現実となるとその屈辱感は相当なもの だった。

「それじゃあ、さっさと脱いで。その童貞のチンコ見せろ」

「はい」

章は覚悟を決めてまずは一枚だけ着ている半袖のポロシャツを脱いだ。そしてジーンズのベルトを緩め、ボタンを外し、ジッパーを下ろす。真里が煙草の灰を空き缶の中に落としながら言う。

「座ったままじゃよく見えないだろ。ちゃんと立って脱げよ」

「はい」

章は立ち上がり、そのままジーンズを下に落とした。中は、トランクスだ。既に靴下は帰宅した時に脱いでいる。しかし、ここで困った事態に直面した。 もともとM気が強い章だったので、この真里の前で裸になって性器を晒すという状況に、ペニスが固くなりつつあったのだ。もちろんその様子は、トランクスの 上からでも充分に視認でき、すかさず真里が笑って言った。

「あれ? なんか大きくなってね?」

「すいません」

反射的に章はトランクスの上から両手で股間を隠した。それでも足元のジーンズからは脚を引き抜いた。

「隠すな。っていうか、さっさと脱げ」

「はい」

章は手をどけると、トランクスを下ろした。その瞬間、目を瞑ってしまった。抑えを失った勃起が、飛び跳ねるように露出し、真里が遠慮なく爆笑した。

「うわっ、無意味に立ってるし。ていうか、なんで勃起してんだよ。わけわかんねえよ。それに何そのチンコ、半分皮被ってんじゃねえか。包茎かよ。ははははは」

思わず章は再び手で股間を隠す。もう顔だけではなく全身が羞恥心で真っ赤だった。

「手をどけろって言ってるだろ。ほら、手は体の横!」

真里がテーブルの下で脚を伸ばして章の向こう脛辺りを蹴った。

「はい、すいません」

章は腕を体の横にぴたりとつけて直立した。いきり立ったペニスだけが突き出している。真里がテーブルをどけて接近し、座ったまま間近から章のペニスをまじまじと鑑賞する。

「これが童貞のチンコか。しかも仮性ホーケイ」

そう呟き、章を見上げて訊く。

「で、このショボい皮被りのチンコをしょっちゅうひとりでシコシコと擦ってるんだ?」

真里が親指と中指で輪を作り、ペニスに近づけると、その指を弾いた。爪の先が章の辛うじて露出している亀頭を直撃し、思わず章は小さく飛び跳ねた。

「は、はい……」

章は小声で肯定した。もうここまできたらどんな抵抗も無意味に思えた。

「ペースは、もしかして毎日? ていうか、週平均何回くらいシコってんの? 正直に言いなさい」

章は唾を飲み込み、かさかさに乾いてしまっている唇を舐めて、申告する。

「たいていは毎日で、たまに一日に何回も、です」

「てことは、一週間で七回以上?」

「ええ、まあ」

「さすが童貞は絶倫だな。日数より回数が多いって。ていうか、シコり過ぎて皮が伸びて包茎なんじゃねえの?」

「すいません」

もう章は完全に項垂れたままだ。真里が、テーブルに座って脚を組み、下からそんな章の顔を覗くように見上げながら更に訊く。

「オカズは?」

「えっ?」

「だから、何で抜いてるのか訊いてるの。ママのパンツ以外で、普段使ってるもの」

「あ、えっと、エロ本とか、AVとか……」

「それ、どこにあるの?」

「えっ?」

章は気まずそうな顔でちらりと真里を見た。

「どうせ隠してあるんでしょ?」

「ええ、まあ」

「だったら、出しなさい。全部、今ここに。ハタチ越えた童貞が何で抜いてるか、すげえ興味あるし」

「わ、わかりました」

本当は死ぬほど開示はしたくなかったのだが、もしもここで「そんなものはない」と否定しても、おそらく家捜しされてしまいそうだったし、いったん否 定した後で出てきたら、そのときにはどんな事態になるのか想像しただけで怖かったので、章は仕方なく押し入れの襖を開け、中からダンボール箱を取り出す と、依然としてテーブルを椅子代わりにして座っている真里の前に置いた。

「この中に詰まってんの? エロ宝箱かよ?」

呆れたように真里は笑い、「出して並べてみ」と命じた。

「はい」

章は真里の前で正座し、ダンボールの蓋を開けると、中身を外に出していった。様々なカテゴリのエロ本、DVD、そしてローションやオナホールを順番に陳列していく。

「なんかすげえ」

苦笑しながら真里がエロ本やDVDのパッケージを手に取って見ていく。エロ本は、フェチ物、M男物、ギャル物、そしてスカトロ物があり、DVDの状 況も似たようなものだった。真里がM男向けのグラビアを捲りながら「足舐めてるよ」と笑い、スカトロ雑誌を開いて「おいおい、ウンコ食ってるよ」と大受け した。

「おまえさあ、マジでヤバくね? 女の足舐めたり、ウンコ食ったりしてえの? フツーのエロ本やビデオが殆どねえじゃん。ていうか、バリバリのM男じゃんか」

「は、はい……」

穴があったら入りたいくらいの強烈な気恥ずかしさを覚えながら章は力なく答え、俯いた。

「そのくせ、このオナホとローションは何だよ。わけわかんねえよ。だって童貞なんだろ? キスはした事あんの?」

「ないです」

「もしかして女の子の体を触った事もない?」

「はい……」

「じゃあ、女のマンコも生では見たことねえの?」

「ないです……」

「そのくせ、一丁前にオナホでシコシコかよ。ていうか、M男のくせにマンコにチンコ突っ込みたいなんて生意気じゃね?」

「すいません」

「ていうか、ハタチ越えた童貞の趣味って、マジでわけわかんねえよ」

真里は気ままにエロ本のページを捲ったり、DVDのパッケージを眺めたりしながら溜め息を吐いた。

「変態過ぎるだろ、このレパートリーは。どうせムッツリスケベなんだろうなと想像はしてたけど、ここまで変態とは思ってなかったぞ?」

「本当にすいません」

「ぼくは変態M男です、って宣言してみ」

真里が笑って促す。章は恥ずかしさの極地で肩を震わせながら、「ぼくは変態M男です」と言った。それを聞いて真里は大笑いし、更に面白がって訊く。

「ぶっちゃけ、あたしでオナったこと、あるでしょ?」

章の目を覗き込んで真里が訊き、章が「すいません」と項垂れると、その顔の前に素足の爪先を突きつけた。甘酸っぱい香りがふっと匂い立ち、章は口を閉じてついつい鼻だけで呼吸をしてしまう。

「もしかして、この足とか舐めたいわけ?」

真里がそう言いながら足の指をくねくねと動かした。

「ていうか、あたしの足を舐めるところを想像して抜いてたりするのかよ? マジでキメえ」

章はごくりと唾を飲み込んで唇をしきりに舐めながらその爪先を凝視し、触れようと手を伸ばしかけた。すると、真里はその章の胸元を蹴り飛ばした。

「舐めさせるわけねえだろ。触ろうとするな、変態。キモいわ」

「すいません……」

一通り検品を終えると、真里は次の命令を出した。

「じゃあ、次はパソコンの中身だな。どうせエロ画像とか溜め込んでんだろ? 見せてみ」

「はい……」

章は勉強のための机の上にあるノートパソコンを持ってきて真里に手渡した。真里がそれを受け取り、膝に置いてディスプレイを開く。するとパスワード を掛けないままスリープにしてあっただけなので、すぐにデスクトップが立ち上がった。幸い、デスクトップピクチャーは設定してなかったので、真里はそれを 確認して「つまらん」と言い、「エロ画像はどこにあんの?」と訊いた。

「ピクチャのフォルダの中に『hottie』というフォルダが……」

章がそう答えると、真里はトラックパッドを指先でなぞってそのフォルダを見つけ、ダブルクリックした。しかし、そのフォルダにはパスワードが掛けてあるので展開せず、その旨を警告するメッセージが出た。

「パス掛けてんのかよ」

真里が呆れたように言い、「パスワードを教えろ」と迫った。章は「『エロエロファイル群』をローマ字で」と答え、「eroerofairugun」 と説明した。「馬鹿丸出しだな」と真里は苦笑しながらその通りに打ち込み、エンターキーを押すと、今度はフォルダが展開し、その中にずらりと『フェチ (足)』とか『フェチ(腋)』とか『スカトロ(黄金)』などと細かくジャンル別に分類されて並ぶフォルダ群が出現して歓声を上げた。

「おまえ、すげえ整理してんじゃんか。何なんだよ、この情熱は」

適当にフォルダをダブルクリックして中身のファイルのサムネイルを見、時にはそれを気紛れに開きながら真里は「センセ、マジですごいよ、あんた」と 言った。もちろんそれは決して尊敬したり褒めていたりする口調ではなく、明らかに侮蔑か軽蔑の響きを内包していて、章は跪いたまま、ただ身を固くしてい た。部屋にはエアコンが効いているのに、緊張と恥ずかしさで章はいつの間にか汗をかいていた。

「そういえば」

真里はパソコンの操作を中断し、章を見た。

「うちの脱衣所からパクったママのパンツはどこにあんの? さっきのエロ宝箱の中にはなかったじゃん」

章は近くにあったティッシュの箱に手を伸ばし、適当に数回、紙を引っ張ると、それで額の汗を拭ってから答えた。

「えっと、それは……」

昨夜からずっと広美のパンティは枕の下にしまったままだった。結局、昨日の夜のうちに二回、今朝一回の合計三回、あの下着を使って抜いていたし、今 夜もこんな事がなければ当然のように使用するつもりだったから、いちいちダンボール箱から出す手間が掛からないように、当分は枕の下を定位置にするつもり だったのだ。何より枕の下に入れておけば、眠っているときもその存在を近くに感じられて嬉しいし、もしかしたら初夢を見るみたいに、夢の中でも良い思いが 出来るかもしれないという期待もあった。

「どこにあんだよ」

すぐに答えない章に若干苛つきながら真里が訊いた。章は座ったまま横向きに体を伸ばすと、ベッドへ腕も伸ばし、枕の下を弄ってビニール袋に入った広美のパンティを抜き出した。

「ここです」

しっかりと密封されているその状態を見て、真里は体を仰け反らせて笑った。

「超厳重保管体制じゃんか。なんだよそれ、ジップロック? ぎゃははは。センセ、いくらなんでも必死過ぎね? ていうか、押し入れの中のダンボール 箱といい、パソコンの画像といい、そのパンツといい、ほんとマメだよね。なんか情熱の方向性が間違ってる気はするけど、感心するわ」

「すいません」

「いや、別に謝んなくていいし」

「はあ」

「で、これ使ったの? って、使ってるに決まってるか」

笑いながら真里が言い、章は俯いた。

「すいません」

「昨日の夜パクって、今まで何回使った? 正直に言ってみ」

章は正座して身を固くしたまま唇を忙しなく舐め、小声で答えた。

「三回です」

「はあ?」

真里が呆れたような声を出す。

「ちょっ、昨夜パクって、まだ二十四時間も経ってねえぞ?」

「すいません……」

「ていうか、マジで相当溜まってんだな。どう考えてもシコシコし過ぎだろ。センセの趣味はオナニーか」

手を叩いて真里ははしゃぎ、そのままついでに章の頬を張った。章はそうされても当然何も抵抗は出来ず、ただひたすら屈辱に耐えていた。

「それで、これを使う場合は、やっぱママのマンコを舐めたいとか思ってやってるわけ?」

小首を傾げて章の顔を覗き込みながら真里が訊き、章はこくりと頷いた。

「でもさ、センセってバリバリの童貞じゃんね。それもキスすら経験のない今時天然記念物レベルの。生のマンコだって実際に見た事はないんでしょ? なのにマンコ舐めるところを想像したって、その先のやり方とかわかんの? セックスってどうやってやるか知ってる?」

「よくわからないです……」

消え入りそうな声で章は答えた。しかし内心では、もしかしたら真里が「じゃあ教えてやろか」と言う展開になるかと少しだけ期待してしまっていた。尤も、世の中はそんなに甘くなかった。次に真里が命じたのは、流石の章でも激しく躊躇してしまう命令だった。

「それじゃあ、とりあえず、これを使ってどうやってシコシコしたか、再現してみせて」

「えっ!」

章は驚いて顔を上げ、冗談だろう、と思いながら縋るように真里を見た。しかし、真里は本気だった。

「え、じゃなくて、今からココで実際にシコシコしろ、と言ってるの」

「で、でも……」

章は真剣に躊躇した。いくら何でも、それは酷い。自慰なんて人前でする事ではないし、確かに章はM的な妄想として真里の前でオナニーをして馬鹿にされるという状況を想定して自慰に耽った事があったが、脳内の妄想と現実は話が別だ。

「そ、それは、ちょっと恥ずかし過ぎます。すいません、どうかそれだけは許してください」

章は恥も外聞もなく額を床につけて懇願した。その後頭部を真里が裸足の足の裏で踏み、屈み込んで顎に手をかけると、そのままぐいっと持ち上げて章の目を間近から見つめた。

「あのさ、あたしの命令は何でも絶対に聞くんじゃないの?」

「そ、それはそうなんですが……でも……」

章は怯えきった目で真里の顔を覗き見しながら言った。そんな章の頬を真里は勢いよく張った。

「でも、も、ヘッタクレもないんだよ。あたしがヤレと言ったらやるんだよ。だいたい、もう既にギンギンに勃ってんじゃんかよ。興奮してんだろ? 変態包茎マゾ野郎!」

そう言って真里は章のペニスを爪先で踏みつけた後、更に往復ビンタを容赦なく何発も連続で炸裂させ、その度に章は大きく首を左右に揺らした。あまり の痛さに、目には涙が滲んだ。章はしゃくり上げながら、「すいません、すいません、やります!」と叫んだ。真里がようやく手を止め、言う。

「最初から素直に言う事を聞けばいいんだよ」

「はい、すいません」

「じゃあ」

真里はパンティが入ったビニール袋を正座している章の股間に放った。

「やれ」

「はい」

章はビニール袋を手に取り、開封すると、パンティを中から摘み出した。真里が「ちゃんと真剣にヤレよ」と念を押し、章は「はい」と答えながら、ゆっ くりとその折り畳まれているパンティを広げ、クロッチ部に鼻先を押し付けると大きく息を吸い、続いておもむろにそれを頭に被った。

「被るのかよ」

真里が足をバタバタさせて笑う。そして、笑い過ぎで目に涙を滲ませながら「ちょっと待て」と言い、携帯電話をポケットから取り出すと、章の姿をカメ ラに収めた。章は恥ずかしくてたまらなかったものの、真里の前でパンツを頭に被って自慰を強制されるというこの異常な状況と、布地から漂う広美の生々しい 匂いによって、もう何も考えられなくなっていた。真里の軽蔑の視線が章の中のM性を強く刺激し、一層昂りながら、章はペニスを扱き始める。真里は角度を変 えながらその姿をカメラに収めていく。

そのうち章の腰が無意識のうちに浮き上がった。章は膝で立ちながら、激しく茎を擦り上げていく。呼吸は「はあはあはあはあ」と乱れ、目は陶酔のあまり半眼となり、淫らに体をくねらせながら時折「あああ」とよがった。

「ちょっ、マジ超キモいわ」

真里が身を乗り出して笑いながら章の頬をビンタした。章は張り飛ばされて体を揺らしながら「すいません」と謝罪したが、手は止めず行為を続行した。

「本気でやってる……まじすげえ。ていうか、ヤバい」

呆れたように呟きながら、真里は何度も携帯のカメラのシャッターを押した。写真を撮られている事にはかなりの抵抗感があったが、章はもう自分で自分を制御する事が出来ないくらいこの異常な状況に耽溺してしまっていた。

そして、じきに章は呆気なく射精した。その寸前、いやらしい腰つきがヒクヒクと痙攣したみたいになり、章は「あ、い、い、イク」と呻いて、そのまま華々しく放出した。咄嗟に真里が体を避けた。その傍らを白い液が放物線を描いて飛んだ。

「うわ、出たっ」

声を上げながらテーブルから避難して立った真里は、なんとか精液の直撃を免れた。章がパンティを頭に被ったまま、ぐったりと座り込む。真里が立った ままその前に来て、顎に手をかけて前を向かせ、章の目を覗き込んだ。その視線に、章は壮絶な羞恥心を喚起させられ、怯えた目を怖ず怖ずと向けた。

「センセ、あんたマジですごいわ」

瞳を覗き込んだまま真里が笑いながら感嘆の声を漏らす。もちろん、尊敬しているわけではない。ある意味感動しているのかもしれなかったが、侮蔑の意 味合いが強い。章は包皮と亀頭の間に精液の残滓を付着させたまま恐る恐る真里に視線を向け、乱れた呼吸を整えながらなんとか小声で「すいません」とだけ言 葉を発し、深く項垂れた。

気が重かった。章は雨の中、傘を差して中野家への道を歩きながら、改札口を出て以来もう何度目かわからない溜め息を漏らした。雨脚は強いが涼しさは全くなく、蒸し暑い。

足取りも重い。できることなら、今日は家庭教師のバイトを休みたかった。しかし昨夜、真里の前で破廉恥な自慰を晒した後、帰っていく彼女に「絶対に 明日のバイトは休むなよ。休んだら、速攻で全部ママにバラすから」と念を押されていたから、絶対に休むわけにはいかなかった。それでも、昨夜みたいなこと をしてしまった後で、家庭教師など勤まるのだろうか、と考えると、章は全く自信がなかった。おそらく真里はこれまで以上にあからさまに小馬鹿にし、まとも に勉強なんかしない気がした。

真里が帰っていって冷静さを取り戻すと、自慰を晒した事ももちろん充分に恥ずかしかったし、後悔の念が湧いたが、それより携帯で写真に撮られてし まった事が怖くてたまらなくなってきた。今の時代、デジタル画像はクリックひとつでインターネットで全世界に公開されてしまう。真里がネットで公開すると 言ったわけではないし、いくら何でも人には見せないし悪用もしないから安心しろ、と言っていたが、それでもデータがある限り、コピーは無限に可能だし、絶 対に流出しないとは言い切れない。何せ、顔までバッチリと写ってしまっている画像なのだ。そんなものが、たとえごく一部の人にでも公開されてしまったら、 もう終わりだ。知り合いの目にでも触れた日には、間違いなく変態の烙印を押され、到底これまでと同じようには接してもらえなくなるだろう。別に大層な社会 的地位があったり、是が非でも守らなければならないような名誉があったりするわけではなかったが、昨夜真里に晒した歪んだ性癖を開示し、認知されて生きて いくのは辛そうだった。それに、真里は「母親には黙っておく」と言っていたが、本当にそうしてもらわないと真剣に困る。もしもパンティを盗んだことが持ち 主である母親にバレたら、間違いなくバイトはクビになるだろうし、それは仕方ない事だとしても、「下着を盗んだ破廉恥な男」として認定され、心底から嫌悪 され、軽蔑されるのは人としてダメージが大き過ぎそうだった。脱衣籠から洗濯前の下着を盗み、尚且つそれを使って自慰をしたと当の本人に知られてしまうこ とは、たとえば駅のエスカレーターで女子高生のスカートの中を手鏡で覗いたことを知られるより、人として恥ずかしい事態だ。今のところ、そのことを知って いるのは世界で真里ひとりだから、まだ耐えられる。でも、母親本人に知られたら……その場面を想像すると、章は絶望的な気分になってくる。

いくらゆっくり歩いても、真里の家へ向かっている限り、目的地はだんだん近づいてくる。チノーズの裾は既に濡れてしまっていて、そのことも憂鬱な気分に拍車をかける。傘を打つ雨の音がかしましい。温い雨と湿った不快な空気のせいで、額や背中にじんわりと汗が滲む。

やがて前方に真里の家が見えてきた。雨天のせいか、いつもならまだ明るい七時前の時間でも、周囲はもう薄暗い。家の明かりは、リビングだけに灯っているようだった。真里の部屋がある二階部分に明かりは見えない。

章は門扉の前に立つと、一度だけ大きく息を吐いて呼吸を整え、ハンカチで汗を拭ってから、インターホンを押した。すると、すぐに内部で受話器が取り 上げられ、「はい」と母親である広美の声が聞こえてきた。その声を聞いて、章は緊張した。と、同時に、散々使ったパンティとその匂いが脳裏に甦って、心臓 がきゅっとなった。それでも、なんとか勇気を振り絞って、「津山です」と言った。

「玄関のドアの鍵も開いてるから、そのまま中へどうぞ」

即座に返ってきた母親の声は普段と全く変わらない感じだった。もしも真里が約束を破って告げ口していれば、おそらくもう少し違う声音になるだろう。章はそう思い、とりあえず今のところ真里は約束を守って下着泥棒の件は母親に伏せていてくれるのだな、と判断した。

「お邪魔します」

マイクに向かって言い、「どうぞ」という言葉を聞いてから門扉を開いた。いつものように石段を上がり、飛び石を辿って玄関へ向かう。石の表面が濡れ ていたため、スニーカーのゴム底が滑り、章はもうちょっとで転んでしまいそうになったが、どうにか踏み止まって玄関の軒下に滑り込んだ。傘をすぼめ、壁に 立てかけてドアのノブを捻る。母親が言っていた通り鍵は開いていて、章は「こんばんは」と奥に向かって声を掛けながら家の中に入った。そして三和土でス ニーカーを脱いでいると、母親がリビングのドアを開けて出てきて「いらっしゃい。雨だから、濡れて大変だったでしょう」と労いの言葉を言った。

「すごい雨ですね」

話を合わせる感じで章は答え、廊下に上がった。広美がすぐ前に立っていたが、下着を盗み、それを使ったという心の負い目があるため、まともにその顔 を見ることはできなかった。しかし、それとなくそのスタイルの良さと、いつになく艶っぽいファッションは素早くチェックした。今日の広美は、ひどく丈の短 いデニムのスカートを穿いて、ダークグレーの地に、何かのロゴマークらしいピンクの大きな柄がプリントされたTシャツを着ている。大柄な体躯を包むTシャ ツもスカートもまるで体に張りつくようなジャストサイズなので、豊かな胸の膨らみや尻のボリューム、そして逞しさすら感じる肉感的な脚のラインまで、誇示 するかのように強調されていた。しかもブラジャーを着けていないのか、バストの膨らみの先端には乳首らしい突起がうっすらと浮き出ていた。素足の爪先を見 ると、全ての足の指の爪に赤いペディキュアが塗られている。そんな広美と向き合うと、その迫力に、ついひれ伏しそうになってしまう。章の身長は167セン チだから、172センチの広美との身長差は、数値の上では5センチなのだが、女性の方が高い場合はなぜかもっと差があるように感じられてしまう。しかも広 美は、出るところは大胆に出て、くびれるところはしなやかにくびれているメリハリの効いた体格だから尚更だった。そんな広美が、廊下に上がった章を見下ろ す格好になりながら言う。

「津山さんには悪いんだけど、いま、真里は病院へ行ってるの。もうすぐ帰ってくると思うんだけど」

「そうなんですか」

章は答え、訊ねた。

「風邪か何かですか?」

「ええ、たいしたことはないんですけど」

「そうですか。でも、だったら、戻っても勉強なんか無理じゃないですか?」

「どうかしら? 私も今日はお休みにしてもらった方がいいかもと思って、『どうするの?』って訊いたんですけど、本人は『勉強はする』と言っていて」

「そうなんですか」

章はそう答えたものの、内心では(どうせ何か別の企みがあるんだろ)と思いながら、「それなら大丈夫なんですかねえ」と付け加えた。

「ええ。でも帰ってくるまで、よかったらこちらで冷たい飲み物でも、どう?」

広美はそう言い、ひとまず章をリビングへと誘った。章は、広美と二人きりになることに一抹の躊躇があったが、断るのも不自然だし、ひとりで真里のい ない彼女の自室で帰りを待つというのも、それはそれで変な気がしたので、素直にその申し出を受け、広美の後に続いてリビングに入った。章より背が高い広美 の後ろ姿は、思わずむしゃぶりつきたくなるくらいの圧倒的な存在感で、章はスカートに包まれた尻の動きに目を奪われた。

ダイニングキッチンと繋がっている広いリビングには、緩くエアコンが効いていた。その人工的に冷やされた湿度の低い空気に包まれた瞬間、ずっとじめじめとした雨の中を歩いてきていたので、なんだか生き返ったような気がした。

「ソファに座って楽にして」

そう広美に促され、章は「はい」と答えながら革張りのゆったりとしたカウチに腰を下ろした。すぐ隣の座面が、今まで広美が座っていたのか、僅かに窪 んでいた。章は広美の目を盗んで、その座面に手を伸ばし、掌で触ってみた。すると、やはりそうだったらしく、座面はほんのりと温かかった。そして、誰もい なければこのまま突っ伏して頬擦りするのにな、と悔しく残念に思った。隣のキッチンから広美が訊く。

「アイスティーでいい?」

「はい。すいません」

章は答え、ようやくその時になって肩に掛けていたショルダーバッグを外して床に置いた。すぐに広美が側に来て、「どうぞ」とガラス製の低いテーブルにアイスティーのグラスを置いた。ストローが差してある。

「いただきます」

章はグラスを持ち、ストローを咥えてアイスティーを飲んだ。甘みが抑えられた、すっきりとしたアイスティーだった。広美が自分のアイスティーのグラ スを手に持ちながら、斜め向かいに置かれた独り掛けのソファに腰を下ろした。脚を組み、ストローを咥える。章は、視界の隅で揺れる広美の爪先と、ほんの少 し視線をずらせば嫌でも目に入る肉感的な太腿が気になって仕方なかった。部屋にはエアコンが効いていて涼しいはずなのに、じんわりと汗をかく。テレビもラ ジオもオーディオも点いていないため、部屋は恐ろしく静かだった。微かに外の雨音だけが響いていて、ふたりきりの空間の沈黙が章を緊張させた。広美は、手 の中でグラスを弄びながら、ソファの背にゆったりと体を預けて時々脚を組み替えている。その度に、短いスカートの奥が見えそうになって、ついつい章は盗み 見してしまいそうになるものの、ぐっと堪えた。

やがて、広美はグラスをテーブルに置いた。グラスとテーブルのガラスが触れて涼しげな音が小さく響き、再びソファに凭れかかった広美が、言った。

「ねえ、章くん」

普段であれば「津山くん」と呼ぶのに、なぜか広美は「章くん」と言い、章はその微妙な変化にすぐに気づいたが、とくに気には留めない調子で「はい?」と視線を向けた。すると広美は優しげな笑顔で真っすぐ章を見つめながら、訊いた。

「こんなこと訊いてはいけないかもしれないけれど、章くん、彼女とかいるの?」

「あ、い、いや、その」

章は全く想定外だったその質問に戸惑いながら、照れたように頭をかき、「いないです」と苦笑した。

「えっ? そうなの?」

驚いたというか、意外だというような顔で広美が言い、更に訊ねた。

「あんまり女の子には興味が無いのかしら?」

「いえ、そんなこともないんですけど」

章はバツの悪そうな苦笑を浮かべながら答え、意味もなく鼻を擦った。

「でも、今は彼女がいなくても、以前はいたんでしょ?」

そういう話題はもう止めてくれ、と思いながら章は「いや、ま、その」としどろもどろに曖昧な言葉を発した。彼女と呼べる存在など、これまでにひとり としていたことがないが、見栄を張って肯定することも、正直に否定することも、どちらも恥ずかしい気がして、何も言えなかった。

「もしかして、ゲイってことはないわよね?」

軽い調子で笑いながら広美が訊き、それについては即座に章は苦笑しながら否定した。

「それは、ないです」

「そうよね」

広美は微笑み、アイスティーのグラスに手を伸ばすと、ストローを咥えて飲んだ。章も、話がひとまず落ちたところで、安心しながらアイスティーに口をつけた。しかし、話はまだ終わりではなかった。広美がグラスを両手で包み込みながら章を見つめる。

「でも、彼女がいないと寂しいんじゃないの? 若いんだし」

「ええ、まあ、でも、そんなには……」

「そう?」

小首を傾げた後、いったん前のめりになってグラスをテーブルに置き、再びソファの背に凭れかかりながら、広美が脚を組み替える。グラスをテーブルに 置くために屈んだ際、Tシャツの胸元にたわわなバストの谷間がくっきりと覗いて、つい章は瞬間的に見入ってしまった。その視線に気づいたのか、広美が悪 戯っぽい笑みを浮かべた。章は慌てて俯き、ストローからアイスティーを啜った。

「ねえ、章くん?」

体の向きを斜めにしてソファの肘掛けに寄りかかりながら、章との距離を少し詰めて広美が言った。

「はい?」

唇からストローを放し、章は広美を見た。広美は薄く口を開き、舌の先を覗かせて下唇を舐めてから、じっと章を見つめて訊いた。

「章くんは、もう女の子を知ってるの?」

「えっ? あ、お、女の子ですか?」

俄に緊張し、章は声を震わせながら身を固くした。どうしてそんなことを訊くのだ? と思いつつ、しかしどう答えたらいいのかわからなかった。

「そう、女の子」

章の瞳から視線を逸らさず、微笑を浮かべたまま広美が訊く。章は目を瞬き、唾を飲み込みながら、言葉を絞り出した。

「いや、その、あの……」

すると、広美は微笑のまま「まだ童貞なの?」と首を傾けて訊き、章が曖昧に首をこくりと下に向けると、笑顔を広げながら「かわいいのね」と言ってソファの背に上体を預けた。

「そう、まだ女の子は知らないんだ」

依然として章からは視線を外さずに広美は呟き、章は何も言えないまま視線をそっと逸らすと、背筋を伸ばして硬直した。そんな章に、広美が柔らかい口調で言う。

「そういえば、面白いものがあるの」

ようやく話題が変わるかと安心しながら章は、再び広美を見た。広美が、「これなんだけどね」と言いながらスカトーのポケットから携帯電話を取り出 し、立ち上がると、空いている章の隣に腰を下ろした。香水の香りが強まり、章はますます緊張しながら視線をどこに向けたらいいのか迷いつつ、仕方なくテー ブルに置いたアイスティーのグラスを意味もなく見つめた。

「ねえ、これ、見てみて」

広美が章に身を寄せ、携帯電話を開いた。肩が触れて、吐息が耳元をかすめ、章の緊張は極限に達した。それでも、どうにか理性を保ちつつ、章はその携 帯電話のディスプレイに目を遣った。そして、次の瞬間、驚いて「あっ」と素っ頓狂な声を上げながら反射的に体を仰け反らせてしまった。ディスプレイに映っ ていたのは、昨夜真里が撮影した、広美の下着を頭に被って自慰をしている自分の姿だったのだ。

「すいません!」

章は弾かれたようにソファから立ち上がると、そのまま床で正座し、頭を下げて絨毯に額を擦り付けた。真里が言っていた「言う事を聞くなら母親には言 わない」という言葉は、完全に嘘だったのだ。母親に黙っていてくれると言うから何でも命じられるままに従ったのに……そう思いながら、しかし抗議する相手 はここにいないし、いずれにせよ全てバレているのなら今更何を申し開きしても無意味なので、章としては謝るしかなかった。許してらえるかどうかわからな かったが、誠意は示さなければならない。

「謝らなくてもいいのよ」

優しい声音で広美が囁き、足元で跪いている章を見下ろした。むろん、章は顔を上げることができず、その気配を感じただけだ。

「で、でも、本当にすいません!」

額を絨毯に埋めたまま章が必死に言うと、広美が何気ない口調で訊いた。

「この、章くんが被っているものは何?」

章は、またしても「すいません」と謝った。その様子に、広美は軽く笑った。

「謝らなくてもいいのよ。これは、もしかしてわたしの下着?」

頭上から降り注ぐその言葉を聞きながら、章は小さく頷き、「すいません。本当にすいません」と繰り返した。ただ、そう口では言いながら、視界の隅にある広美の素足の爪先を時々盗み見ていた。

「いいから、もう頭を上げて。そして、ここに座って。別に怒ってるわけじゃないの」

幼い子供をあやすように広美は言い、今まで章が座っていたソファを手で示した。章はおどおどしながらようやく顔を上げ、「座って」と再度広美に笑顔 で促されて、のろのろと立ち上がると、同じ位置に腰を下ろした。しかし、すぐ至近距離にいる広美の顔を見ることはできなかった。視線は床に落としたまま だ。そんな章の太腿に広美が手を添え、更に体を接近させると、耳元に唇を寄せて息を吹きかけるようにしながら囁く。

「こんなおばさんの下着で興奮してくれるの?」

章は完全に硬直したまま、「すいません」と俯いた。しかし、その極度の緊張状態とは裏腹にチノパンの下の性器は、広美の接近の気配と漂う香水、そし て何より脚に触れられた彼女の掌の感触によって完璧に勃起してしまっていて、その肉体的変化の様子はチノパンの上からでもはっきりと認識できた。

「わたしの下着、どうだった?」

「あ、い、いや、その……」

「昨日だと、バレーの練習でたっぷりと汗をかいた後だから、すっごくヤラしい匂いがしてたでしょ?」

「は、はい……い、いえ……」

「でも、そんな臭いパンティで興奮しちゃったの?」

「は、はい……すいません……」

「見た感じは真面目そうなのに、エッチなのね」

太腿に触れられた広美の手が少しずつ移動し、その股間の膨らみに到達した。

「あら?」

広美が含み笑いを漏らしながらそっとズボンの上から陰嚢を掌で包み込み、そして茎を軽く握る。章はじっと息を詰めながらその感触に酔い痴れつつ、す ぐ間近にある広美のTシャツの胸元に視線を張りつかせていた。更に広美が体を寄せ、その膨らみが、二の腕の辺りに押し付けられた。ブラジャーの感触はな く、弾むような柔らかさを感じた。

「すごい、カチカチ。こんなおばさんでもいいの? わたし、章くんの倍以上年上のおばさんよ?」

何度も執拗に性器を撫で回しながら広美が言い、妖艶な笑みを浮かべて下から章の顔を覗いた。章は怖ず怖ずとその目を見返し、「嬉しいです」と小さく頷いた。広美が、ペニスに触れていない左手を自分のバストに添え、下から持ち上げるようにしながら章を見つめる。

「女の人のおっぱい、触ったことある?」

「な、ないです」

章は声を震わせながら小刻みに首を横に振り、誘うように自分の胸を揉む広美の手の動きを一層見つめた。

「触りたい?」

茶化すように笑いながら広美が訊き、章はこくりと頷いた。

「素直ね」

息を耳たぶに吹きかけながら広美は囁き、そのまま舌先を尖らせて章の首筋をつうと舐めた。その瞬間、章の中で何かが切れた。章はおもむろに「ああ広 美様」と小さく叫ぶと、彼女の体に覆い被さって押し倒した。背中に両手を回してしがみついた後、大きな胸を両手で弄って揉みしだき、その谷間に顔を埋め る。やはりブラジャーを着けていなかった広美のバストは、Tシャツの上からだったとはいえ、童貞の章にとっては充分に夢のような感触だった。そして、T シャツの裾に手をかけてもどかしげに脱がそうとした時、広美が「ちょっと待って」といったん章の体を持ち上げて身を引いた。

「は、はい……」

章は戸惑ったが、動きを止め、体を起こした。広美が長い髪をかきあげながらソファに座り直し、言った。

「ねえ章くん、わたし、お願いがあるの」

「何ですか?」

「わたしね、いろんなことをしてくれる従順なワンちゃんが欲しいの。章くん、わたしの犬になれる?」

どういうことかよく分からなかったが、バター犬みたいなものかと思いながら、章は「はい、なれます」と即答した。すると、広美は「そう、良かった」 と微笑み、「じゃあ裸になって、これを付けて」とソファのクッションの間から布製のリードが取り付けられた革製の赤い首輪を抜き出して章に示した。

「わかりました」

章はそう言うと、その場で立ち上がり、服を脱ぎ始めた。まずポロシャツを脱ぎ、ベルトを外してチノーズを下ろし脚を引き抜いた後、靴下を剥ぎ取り、 トランクスに指を掛けた。しかし流石にそこで一旦動きが止まった。この状況で自分だけが裸になることが、やはりどうしても恥ずかしかったのだ。それでも、 「犬が服を着ていたらおかしいでしょ?」と広美に言われて、章を意を決すると勢いよくトランクスを脱ぎ捨てた。そうして見事に勃起している仮性包茎のペニ スを晒しながら、ソファに座る広美の足元で跪いた。

「半分皮被ってるんだ。章くんって、ほんとにまだ子供なのね」

広美が笑いながら首輪を章の首に装着した。そしてリードの端を握り、ソファの背凭れと肘掛けの角に背中を預けると、「おいで」とリードをくいっと引いた。

「あああ広美様ー」

章は跪いたまま、まずは広美の尻に両手を回して抱きつき、そのままずりずりと上方へと移動して胸を揉んだ。そして広美のTシャツの裾を首元までまく り上げ、あらわになった生のバストを執拗に揉んだ。その柔らかさは、章にとって未知の感触だった。広美が章のペニスに手を伸ばして優しく擦りながら「おっ ぱい、吸いたい?」と訊き、章は間近で乳首を見つめながら「はい」と頷いた。

「吸って」

広美が赤ん坊に乳を与えるように胸の膨らみを自分で揉んで章に突きつけながら言い、章はそのピンク色の乳首にむしゃぶりついた。章は、母親以外の女 性の乳首を初めて吸った。とはいえ、その母親の乳首は記憶にないから、実質的には生まれて初めての乳首といってもよかった。広美はリードを短く持ったまま 章の頭を抱え込み、脚を広げると、そのままがっちりと章の体を絡めとった。章は両手を広美の背中に回してしがみつきながら狂ったように乳首を吸った。そし て、背中に回した両手を離して両方の乳房を同時に包み込み、その吸い付くような肌の質感に感動すら覚えながら執拗に揉み、交互に乳首を吸って広美のバスト に溺れた。

「おっぱいがそんなに好きなの?」

章の髪を撫でながら広美が訊く。章は乳輪に舌を這わせ突起を口に含みながら「はい」と言った。

「おいしい?」

「はい。おいしいです」

「ふふふ」

「すごく柔らかくて夢みたいです」

章は呪文のように呟きながら、ひたすら広美の乳房に挑んだ。胸をソフトに鷲掴みしながら揉み、同時に指先で乳首を摘みながら、唇を窄めて乳首を吸い、軽く噛みながらきゅっと吸い上げる。

「ああっ」

喘ぎ声を漏らしながら広美が章を抱えたまま仰け反った。章はそんな広美の大柄な体にしがみついていた。その様子はまるで、巨木に止まる蝉のようだっ た。章はもどかしげにTシャツをもっと捲り上げ、そのまま広美の腕を上へ持ち上げると、腋の下に鼻先を押し込み、舌を伸ばしてその柔らかい部分を舐め上げ た。広美が「くすぐったい」と笑いながら言い、「そんなところまで舐めたいんだ?」と訊いて、章が頷くと、自分でTシャツを脱ぎ捨ててソファの横へ捨て、 大きく腕を振り上げて頭の後ろへ回しながら腋を晒した。

「舐めなさい」

「ありがとうございます」

章は両手で胸を揉みつつ、顔を広美の腋に埋めて執拗に舐めた。汗をかき始めている広美の腋はしっとりと湿っていて、容易く章を狂わせた。章は肌に突 きつけた鼻先を滑らせ、舌で繊細な皺を辿った。やがて、広美が腕を下ろした。そして章の顔に両手を添えると、「ねえ、ワンちゃん?」と言いながら、章を押 し上げるようにして体から引き放した。

「キス、したことある?」

章はすぐ間近で美しい広美の顔と向かい合いながら小声で「ないです」と正直に答えた。

「きて」

広美が眼を閉じ、唇を薄く開いて突き出す。章はその唇を強く吸った。広美が舌を出して章の口の中に侵入させた。そして手では章のペニスを握りながら、舌を口の中で縦横無尽に動き回らせ、章はその熱い感触に我を失いながら必死に舌を絡めた。やがて広美が章の肩を押して訊く。

「アソコ、見たい?」

「はい、見たいです」

もう何も隠す事などないので、章は素直にそう言った。

「じゃあ、そこに跪いて」

広美が章の体に絡めていた脚を解き、股を開いてその真下に章に座るよう促した。

「はい」

章はいったん後退し、広美の股の間で跪いた。開いたスカートの奥に、黒いレースのパンティが覗いていて、思わず章はその部分に顔を埋めた。鼻先をク ロッチの部分に強く押し当てて密着させ、クンクンと匂いを嗅ぐ。温かい芳香が章を包み込んだ。章は目を閉じてその香気を堪能しながら、なんていい匂いなん だ、と陶酔した。

「脱がせて」

「はい」

章は緊張で指先を震わせながら、太腿に掌を這わせて下着の腰の部分まで滑らせ、紐のように細くなっているその部分を左右同時に摘んだ。広美が座面か ら尻を浮かし、章はするりとその下着を脱がせた。濃密な陰毛が目に飛び込んできた。広美は足で蹴るように下着を脱ぎ捨て、スカートをたくし上げると、少し 腰を前方へずらしながら大きく脚を開き、左手でその間へと章の頭を引き寄せながら、右手の人差し指と中指を使って自らの股間の陰毛を掻き分け、亀裂を広げ てみせた。

「どう? もう濡れてるわ」

章は息を詰めてその部分を凝視した。ネットの無修正画像などでは見たことがあったが、女性の性器を生で、しかもこんな間近で見るのは生まれて初めてだった。ごくりと生唾を飲み込み、心の中で、本当に牡蠣か鮑みたいだ、と感動しながら、怖ず怖ずと訊いた。

「舐めてもいいですか?」

「いいわよ、おいで」

微笑みながら広美が章の頭を両手で抱え込み、ぐいっと自らの股間に引き込んだ。章はそのまま股間に顔を埋め、臀部に両腕を回して抱きつきながら亀裂 に吸い付いた。どこがどうなっているのかさっぱりわからなかったが、章は無我夢中でとにかくその部分の柔らかい肉を吸った。舌を亀裂の中へ差し込み、ひた すら舐め上げていく。広美が腰をひくつかせながら、両手で章の頭を抱え込んでぐいぐいと自分の股間に押し付ける。

「おいしい?」

熱い吐息を漏らしつつ声を弾ませながら広美が訊く。章は尻を撫で、すべすべとした肉感的な太腿に執拗に掌を這わせつつ一心不乱に性器をしゃぶり続け ながら「おいしいです」と夢見心地でこたえた。そして章は、かなり長時間にわたって性器を執拗に舐めた後、つと顔を上げ、広美に訊ねた。

「あのう……お尻の穴も舐めてもいいですか?」

「そんなところまで舐めてくれるの?」

「はい、ぜひ舐めたいです」

「本当にエッチなワンちゃんね。いいわよ」

広美はそう言うと、ひとまず章を下がらせ、自分もソファから下りた。そして章に背中を向けて床に膝をつき、ソファの座面に突っ伏すようにし、首輪のリードを引いた。

「舐めて」

尻を突き出し、章に命じる。章は、膝をついたまま広美の尻の双丘を両手で広げ、その肉感を掌で確かめながら、じっとその部分を見つめた。今まで舐め 続けていた性器は陰毛の茂みの奥でドロドロに溶けていて、きゅっと締まった綺麗なアヌスが、本当に菊の花のように亀裂の上部に咲いていた。章はまず何度も 尻の膨らみに頬を寄せたり、唇や舌を這わせたりした後、谷間の莟にそっと口づけをした。その瞬間、広美の体がぴくりと跳ねた。章は、莟の周囲の強張りを解 かすように尖らせた舌の先で花片を入念に辿り、皺の一本一本に沿って舌の先端を滑らせた。その動きに合わせて、広美は腰をくねらせ、まるで生き物のように アヌスが収縮を繰り返す。やがて章はその莟の中へ舌を差し込んだ。

「ああ」

広美がソファの座面を抱えるように掴んで背中を反らせた。しかし章は舌を引き抜かず、必死に吸い付いたままむしろ貫こうとでもするかのように更にぐいっと押し込み、小刻みに上下左右自由に動かしながら苦い肉の壁を激しく擦った。

「ああっ」

一層広美は喘いでアヌスを窄め、章の舌を強く咥え込んだ。章は豊かな尻のボリュームを両方の掌で揉みしだきながら、野性的な香りが匂い立つその谷間 に顔を埋め、柔らかい尻の肉で顔を挟んで量感と肌の質感と体温を頬に感じながら、アヌスと舌先に全ての意識を集中させた。顎の辺りに擦れる陰毛の感触が心 地良かった。

と、その時、突然背後でドアが開いて、真里の驚いたような声がリビングに響いた。

「何やってるの!?」

章は心臓がひっくり返るほど吃驚しながら、弾かれたように広美の尻から顔を上げ、その声の方を見た。真里と目が合い、章の内部で困惑と羞恥心が激し く交錯した。しかし、広美はなぜか平然としていて、ソファを抱くようにして尻を向けたまま、つと首だけを擡げて回すと、真里に向かって「おかえり」と言 い、すぐに、勝手に中断した章を咎めるように首輪のリードを強く引いた。

「誰が止めていいって言ったの? 休んじゃ駄目でしょ」

半ば振り向きながら章を見て広美は言い、再度リードをくいっと引いた。その動きで章はバランスを崩し、咄嗟に体を捻って床に手をついたが、顔面を広美の尻の谷間に埋めてしまった。狼狽えながら慌ててまた体を起こす。そんな章を見て、真里がけらけらと笑う。

「おまえ、ショボいチンコ丸出しで首輪なんかつけて、何やってんだよ」

そう言いながら真里は章の傍らに来ると、戸惑っている章の後頭部を掌で叩いた。

「しかも、ママのどこを必死に舐めてんだよ」

「すいません」

反射的に謝りながらも、何かおかしい、と章は感じた。こんな風に娘が突発的に母親のこういう場面と遭遇してしまった場合、反応はもう少し違うものに なるのではないか、と思ったのだ。少なくとも、母親の相手を笑うより先に、ぷいっと怒って部屋から出ていってしまうか、母親を問いつめるか、章に対して怒 りを爆発させそうなものだ。なのに真里は、部屋から出ていこうとはしなかったし、母親にも何も言わず、章に対しても怒るのではなく、嘲笑を浴びせた。

だいたい、母親の反応も変わっている。娘に見られても平然と「おかえり」と言い、相手にそのまま続きを求めるなんて、どう考えても一般的な態度では ないだろう。娘の家庭教師とこんな事になっているのだから、普通だったら慌てふためいて状況を取り繕おうとしたりするものなのではないか。章は広美の突き 出された尻に手を置いたまま困惑し続けた。流石に性器が萎え始めている。真里が、そんな章の尻を蹴り上げる。

「ほらマゾ犬、続けろよ」

「えっ? で、でも……」

章が躊躇していると、広美がまたリードを引き、尻を揺らした。

「早くして」

「は、はい」

大きな白い桃のような尻を章は改めて両手で支え、真里の視線をひしひしと感じながら、屈み込んで広美のアヌスに吸い付いた。しかし、先ほどまでのよ うにはどうしても集中できなかった。ただし、ペニスはげんきんなもので、肉に埋まり、芳ばしい莟に舌を這わせた瞬間、呆気なくそそり立った。

いつの間にか真里がデジタルカメラを構えて、角度を変えながら写真を撮っている。それに気づいた章は行為を中断して顔を上げ、「や、やめてくださ い」と懇願した。しかし、広美はリードを引いて続行を命じ、真里は「うるせえ、ちゃんとやってろ」と章の尻を蹴って却下し、脱ぎ捨てられていた章のチノパ ンからベルトを引き抜くと、それを鞭のようにして背中に打ち据えた。

「やれよ」

「はい……」

章は諦め、広美の尻に集中した。真里は面白がって何度も章の背中や尻をベルトで打ち、写真を何枚も撮った。やがて真里は章の髪を掴んで引き上げた。そして、間近から目を覗き込んで、命じた。

「このままオナれ」

それを聞いて、広美が体を捻って章を見た。

「いいわよ、舐めながらイキなさい」

「は、はい……」

章は膝で立つと、左手を広美の尻に置き、その谷間に突っ伏して莟に口をつけ、左手と唇で体を支えつつ、右手でペニスを握った。

「ほら、さっさとシコれ」

真里が、浮き上がった章の尻を足の裏で押し、章は広美の尻の間に顔を密着させながら、ペニスをシゴいた。広美の性器は蜜で溢れていて、章の顔はベトベトになった。そんな章の後頭部を真里が踏んで押し付け続けた。章は不自然な体勢のままひたすらペニスを擦る。

最初のうちこそ真里の存在が気になって仕方なかったが、匂い立つ広美の股間の香りと肉の感触、そして莟の奥に滑り込ませた舌触りに、呆気なく雑念は 消えた。章は広美の尻に没頭した。真里はそんな章をベルトで打ち、「おまえ、まじスゲーわ」という声も響いたが、章はもう惑うことなく、広美の体の官能に 溺れた。ベルトで体を打たれながら尻の穴を舐め続けて自慰をする、というこの異常で歪んだ状況が、章の興奮を激しく加速させていた。

広美は眉間に皺を寄せて快感を享受し、章は首輪のリードを引かれつつ息を弾ませながら広美の尻に挑んで猛然と性器を擦り、真里は笑いながらベルトを打ち、呆れながらカメラのシャッターを切り続けた。

やがて章は射精の衝動に貫かれた。ペニスを擦る手のスピードが加速し、腰が浮き上がる。章は左手を広美の腹へと回してがっちりとその下半身にしがみ つき、強く股間に顔を押し付けながら一層速くペニスを扱いた。そして、「あ、あ、も、もうイキます」と切れ切れに呟いて、そのまま射精した。ペニスの先端 から白い液が噴出し、斜め前方の床に着地した。章は射精を果たした瞬間、ぐったりとなりながら汗ばむ広美の大きな背中に突っ伏した。精液に塗れた手を自分 の太腿になすり付け、はあはあと乱れた呼吸を整える。広美がゆっくりと体を起こした。章は身を引いた。広美はそんな章に微笑み、そのままソファに凭れるよ うにして床に座った。脚を開いて投げ出し、リードを持ったままその手も床に置く。そして、跪いたまま項垂れている章に、訊いた。

「入れたかった?」

すぐ側に真里がいるので、章は即答できず、言い淀んだ。すると真里が横から章の頭を平手で叩いた。

「答えろよ」

「あ、すいません」

章はちらりと真里に目を遣って謝罪し、広美に言った。

「はい……」

「童貞喪失はお預けになっちゃったわね」

広美は茶化すように笑いながら言い、スカートの裾をもどかしげに直すと、脱ぎ捨ててあったパンティに手を伸ばして摘まみ上げ、それを章に差し出した。

「今日の記念にこれもあげるわ」

そう言い、章が受け取ると、首を小さく傾けながら重ねて訊いた。

「使う?」

章はストレートにそう訊かれて、一瞬だけ激しく戸惑ったが、手の中の布の温もりに、すぐに真っ赤になりながらもこくりと頷いた。今更、どんなに取り 繕ってみせてもまるで意味はない。そんな感慨に耽っていると、真里がようやくカメラをしまい、章の肩口を軽く蹴って章を現実に引き戻した。

「とりあえず自分が出したその汚いものは自分で拭けよ」

「はい」

章はガラスのテーブルの下の棚にあるティッシュの箱から数枚ティッシュを引き抜いて床に屈み込み、四つん這いになりながら摘むようにして穢れを取っ た。ついでに、そのまま上体を起こして自分のペニスも拭いたが、亀頭の表面と、それを包む皮の間に紙のカスが付着してしまった。しかし、それを取ろうとし たら、真里に止められた。

「そのままでいいよ。その方が変態らしくていい。ていうか、ちょっと待て」

「はい……」

章は項垂れながら、言われた通り動きを止めた。真里が章の股間にカメラを構えて屈み込み、至近距離から何枚もペニスをアップで写真に撮った。章は、 撮影が終わると、さすがにそろそろ裸でいることが恥ずかしくなってきたので周囲を見回してトランクスを探した。広美が、「シャワー浴びてくるわ。汗かい ちゃった」と言って立ち上がり、リードを離すと、一度だけ章の頭をそっと撫でてリビングから出ていった。章はトランクスを見つけ、手に取った。しかしすか さずそれを真里が奪った。

「まだ穿かなくていいし」

「はい」

章は頷き、手持ち無沙汰な様子で正座した。真里とどんな話をすればいいのかわからなかったし、服を身に着けることが許されないなら、することもな かった。息苦しいような沈黙がリビング内を支配していた。まだ窓の外では雨が降り続いているらしく、室内の物音が絶えると、雨の音がよく聞こえた。真里が ソファに身を沈め、煙草を咥えた。章はテーブルの隅にあったライターを取り、その煙草に火をつけた。

「どうぞ」

しかし真里の返答はなかった。真里は黙って冷ややかに一瞬だけ章を見遣った後、火を移し、そのままソファの背に凭れかかると、煙を中空に向かって吹き上げた。章は、沈黙が辛くなって、何か言わなければと思い、恐る恐る真里に声を掛けた。

「あのう、体の調子はいかがですか?」

「あ?」

煙草を唇の間に挟んだまま片方の眉だけ吊り上げて真里が章を見下ろす。

「いえ、病院へ行ったとお母さんから聞いたもので」

「ああ」

真里はそう呟くと、背もたれから体を起こし、テーブルの上の灰皿に屈み込んで煙草の灰をトントンと落とした。

「あれ、嘘だから」

「え?」

どういう意味かと思い、章は思案した。すると真里は言葉を付け足した。

「だーかーらー、全部嘘なの。病院なんか行ってないし、ずっと上の部屋にいたの。もちろんママも承知」

わけがわからず、章は困惑した。全くもって話が見えてこなかった。だから、そのまま言った。

「すいません、よくわからないのですが……」

「あのね、要するにね」

真里は体を乗り出して膝に肘を置き、章を覗き込むようにして言った。

「昨日センセの家で超楽しいことしたでしょ? で、帰ってきて、もちろんすぐに全部ママに話したわけよ。そしたらママも『楽しそう』と言って、今日 の計画を立てたの。つまり、ママの場合はあたしみたいにセンセを馬鹿にして苛めたいわけじゃなくて、何でも言う事をペットみたいにしたいと考えたわけ。だ から、全部計画の上のことなの。ママがセンセを誘惑して犬にさせたのも、あたしが途中で現れたのも、全部」

「はあ」

母と娘が結託してひとりの男を弄ぶなんて簡単には信じられない話だったが、信じるより仕方無さそうだった。そうしないと、突然真里が現れても平然と していた広美の態度に説明がつかないし、真里の反応も同じだ。ただ、姉妹ならあり得そうな話だったが、母娘で構築する計画には思えなかった。娘に自分の裸 を見られるだけでなく、男を弄んでいる場面を見られて平気な母親像というのが、うまく想像できなかった。もちろん、それを目の当たりして平気でいられる娘 の神経も理解できなかった。

「ちなみに、センセがパンツを盗った事は、センセが帰っていってすぐにママは気づいてたし、昨日あたしがセンセの所へ行ったのも、そしてママのパン ツをネタにして苛めたのも、ぜーんぶ計画のうち。ただ、センセがパンツをこっそりとパクっていく事までは仕組んでたわけじゃないから、センセの大胆で破廉 恥なパンツ泥棒という行為は偶然というか、ハプニングだけどね。まあ全ての発端はセンセがママのパンツを盗った事だけど、厳密に言うなら、盗られた直後に ママが気づいてこの計画が始まったって感じね」

真里がそこまで言ったとき、リビングのドアが開いて、シャワーを終えた広美が戻ってきた。大きなバスタオルを体に巻いて胸元から腰の下までを簡単に 隠しただけのセクシーな格好だった。広美はそのままソファまで来ると、真里の隣に腰を下ろして脚を組んだ。すると、床に跪いたままの章には、パスタオルの 奥の股間が丸見えになった。章は瞬間的に生唾を飲み込んで凝視してしまったが、すぐに視線を外した。

「あのね、章くん」

広美が微笑みながら言う。

「おかしな母娘だと思ってるんでしょ? でもね、わたし、実はこの子の生物学上の親じゃないのよ。真里は今の旦那と、彼の前の奥さんとの間にできた 子で、血の繋がりがないの。だから、仲はそのへんの親子より良いくらいなんだけど、母と娘というより、姉と、歳の離れた妹って感覚なの」

「はあ」

章はそう言われて、ようやくなんとなく理解できたような気がした。実の母と娘でないなら、こういう状況も、かなり特殊だとは思うが、ないこともないかもしれない、という気がした。

「まあ、いずれにせよ」

広美は脚を組み替え、悠然と笑みを浮かべた。

「章くんは、私たち共有のオモチャね。わたしは章くんをペットにして遊ぶし、真里は真里で、たぶん苛めて遊ぶんじゃないかしら?」

真里がその言葉を浮けて、ニヤニヤと笑いながら章に訊く。

「嬉しいだろ?」

「はい」

章は膝に握った手を置いて背筋を伸ばし、答えた。広美が満足げに頷き、真里と顔を見合わせて笑う。そして、再び章を見下ろして、訊く。

「章くん、明日は何か用事ある?」

「えっと、明日は、午前中は授業がありますが、午後からは何もないです」

「じゃあ、二時頃くらいからは、暇?」

「ええ、たぶん一時過ぎには帰ってくると思います」

「だったら、明日の二時過ぎに、真里と二人で章くんのお家に行ってもいいかしら?」

「え? ええ、はい」

二人揃って何をしにくるのだろう、と不安な気はしたが、拒否できる雰囲気ではないので、章は頷いた。

「二時なら大丈夫ですが……何かあるのですか?」

「それは、明日のお楽しみ」

広美が意味深に笑みを浮かべ、真里は「楽しみに待ってろ」と軽く言った。

「わかりました」

本心としてはふたりが来る理由を強く知りたかったが、訊いても答えてはくれなさそうだったので、章は諦めた。

「折角だから記念写真でも撮りましょうか」

広美はそう言うと、ソファから立ち上がった。真里も腰を上げ「おまえも立て」と章の髪を掴んで引っ張り上げた。

「は、はい」

引っ張られるまま章も立ち上がり、広美の隣に並んだ。広美が、そんな章のペニスを、リードを手首に引っ掛けた右手で握って持った。その手の中で章の ペニスはたちまち勃起し、広美が小さく笑う。いったん真里が距離を取って離れ、デジカメをテレビの上に置いて構図を検討した。そして「ママ、もうちょっと 右に寄って」などと指示を出し、やがて思うようにフレームに収まったのか、「いくよ?」と言うと、セルフタイマーでシャッターを押した。

真里は、急いで広美と間で挟むように章の隣に来ると、その髪をぐいっと引っ張った。広美は章のペニスを持ったままだ。真里が「顔、背けるなよ」と言い、章がカメラを見つめたまま「はい」と答えた瞬間、フラッシュが瞬いてシャッターが切られた。

真里が章の髪から手を離してカメラの回収に向かい、広美も章のペニスを離した。すぐに真里はカメラを持って戻ってきて、ふたりはソファに並んで座ると、ディスプレイを覗き込んで写真を確認した。

「超いい感じ」

楽しそうに真里が言い、広美も「ほんとね」と笑っていたが、まだ立ったままの章はそれを見せてもらえなかった。その代わり、広美に「ちょっと、こっちへおいで」と手招きされ、「お座り」と命じられた。

章が床で正座すると、広美が前屈みになりながら首輪に手を伸ばし、「そろそろこれは取ってあげる」と言った。その時、体が接近してボディソープの良い匂いが漂い、バスタオルで抑えこ込まれた胸の隆起が迫って、章は完全に勃起してしまった。

それを見て真里が「勃ってるし」と笑い、そのペニスを爪先で軽く蹴った。

翌日の午前中の講義を章は結局欠席した。正確に言えば、朝起きられずに寝坊してしまったため、欠席せざるを得なかったのだ。

昨夜の疲労が尋常ではなかった。結局、広美と真里の前で射精を果たした後、店屋物のカツ丼をごちそうになり、十時頃に広美の運転する赤いフィットで 駅まで送ってもらって帰宅したのだが、シャワーを浴びて横になると一気に疲れが出て、しかしどうしても広美の体の感触が忘れられず、胸の柔らかさや尻の弾 力、更には性器やアナルを思い出しながら自慰をしてしまい、その後、まるで電池が切れたみたいに眠った。そして、普段であれば八時前には起きるのに、無意 識のうちに目覚まし時計のアラームを止めてしまったらしく、自然に目を覚ましたのは午前十一過ぎだった。

カーテンを開けると、昨日の雨はすっかり上がり、完璧な晴天だった。気温も上昇していて、まだ昼前だというのに室内はムシムシとしてきていた。睡眠 時間だけを考えれば十時間以上は眠っていたが、疲労感が全く抜けていなかった。ずっと緊張状態を保ったまま不自然な体勢を多く取っていたからか、腰や背中 だけでなく、二の腕や脹脛や太腿の裏側なんかが強張っていて、筋肉痛が酷かった。頭もぼんやりしていたし、なんだか体がだるく、章はベッドを出てからも、 暫く床に座ってインスタントのコーヒーを飲みながらぼんやりしていた。

しかし、ふとした瞬間に思い出すのは、生まれて初めて触った女体の感触だった。信じられないほど柔らかくて、温かくて、肌はすべすべとしていて、こ の世のものとは思えなかった。しかも、その相手は、密かに憧れていた広美なのだ。その広美を抱きしめ、乳房を揉み、乳首を吸い、キスをし、脚に触り、性器 やアヌスに直接口づけたなんて、実際に体験した事でありながら未だに信じられない気がしてならなかった。

やがてコーヒーを飲み終えた章は、シャワーを浴びた。それから短パンとTシャツを着て、台所でトーストを焼き、ベーコンエッグを作って食べた。

あっという間に食べ終わると、そのうちに十二時になった。今日は、何のためか知らないが二時過ぎに広美と真里が一緒にここへ来るらしいので、これから二時間、中途半端な空き時間になりそうだった。

仕方なく章は食器を洗って片付け、部屋の掃除に着手した。先日、真里が来た時に奥の八畳間だけは適当に掃除機をかけたりしたが、今日は、台所やトイ レも掃除し、八畳間もちゃんと整理整頓した。窓を全開にして作業したが、一時近くになって一通り終わった頃には、汗塗れになってしまっていた。章は、久し ぶりに綺麗になった自室を見回し、窓を閉めてエアコンを稼働させると、もう一度シャワーを浴びて汗を流した。そして、出てくると、Tシャツだけは替えて、 テレビを点けた。しかし平日の昼間のテレビは退屈で、すぐに消した。

あと一時間。時計を見て章はそう思った。ひどく落ち着かない気分だった。本でも読もうかと思ったが全く集中できそうになかったし、いっそ自慰でもし て退屈を紛らわせようかとも思ったが、一応二時過ぎと言っていただけで、正確に「二時」という約束を交わしたわけではなかったから、もしもその行為の真っ ただ中に彼女たちが現れたら最悪だったし、そもそもそんなことを考えながらでは行為に集中できないし、断念した。

結局、章は近くのコンビニへ出掛け、ジュースやお菓子類を買った。念の為に、ビールも仕入れた。章自身は飲まないが、もしかしたら広美や真里が飲む かもしれないと考えたからだ。もちろん、行き違いにならないよう、携帯電話は持って出た。しかし、すぐに買い物を済ませてアパートに戻るまで、携帯は鳴ら なかった。部屋の固定電話も確認したが、留守電も入っていなかった。買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまい、お菓子を台所の机に置いて時計を見ると、午後一時 四十分だった。

あと二十分。ますます章は落ち着かない気分になってきた。意味もなく狭い室内をそわそわと歩き回り、本棚の中の本の並びを整えたり、勉強のための机の上を整理したり、電車で来るのか車で来るのかわからなかったが、窓から外の通りを覗いて彼女達の姿を探したりした。

やがて、二時になった。章はコーラを飲んで、彼女たちの到着を待った。しかし、十分過ぎても、二十分過ぎても、彼女達は来なかった。章は何度もトイレでおしっこをし、部屋の中で立ったり座ったり窓辺に寄ったりしながら落ち着かない気分で過ごした。

そして二時二十五分を過ぎた時、ポケットの中に入れていた携帯電話が鳴った。急いで取り出してディスプレイを確認すると、「中野真里」の文字と電話番号が点滅していた。章は応答ボタンを押し、端末を耳に当てて「もしもし」と言った。

「あたしだけど」

真里の声が聞こえて、章は「はい」と答えた。

「あのさ、もうセンセの家の近くにいるんだけど、このへんにコインパーキングってある?」

「一番近くだと、アパートの裏の道にありますが、今、正確にはどこですか?」

「どこっつうか、もうアパートの前に着いたよ」

章はそう言われて、携帯を耳に当てたままベランダに通じるガラス戸を開けて外の通りを見た。すると、赤いフィットが見えて、助手席に座る真里がこちらを見ていた。章がベランダに出ると、真里が気づいて手を振った。章はこくりと頭を下げ、携帯で喋った。

「今から、下りていきます」

「わかった」

通話が切れ、章は端末を机の上に放り出すと、玄関へ行って鍵を持ち、シャワーサンダルを穿いて廊下に出た。一応ドアを施錠し、通路を歩いて階段で一階へ下り、フィットの運転席側へ回った。章に気づいた広美がガラスを下ろした。

「こんにちは」

章は言い、広美は微笑を返した。

「こんにちは。で、駐車場はどこ?」

章は窓に屈み込み、説明した。

「この先の、そこの十字路を左へ曲がって、すぐの道を右へ曲がると左手にあります。手前に郵便局があるんで、簡単にわかると思います」

そう説明していると、「あたしは降りるわ」と言って真里が助手席のドアを開けて出てきた。

「じゃあ、車を置いてくるわ」

広美はそう言うと、ガラスを上げ、車を出した。真里が章の側に来て、「元気?」とニヤニヤしながら訊いた。章はその意味深な笑みに戸惑いながら「は い」と頷いた。今日の真里は、ハイビスカスの花の柄が派手にプリントされたブルーがベースのキャミソールのワンピースを着ていた。足元は革製のサンダル だ。相変わらずスカートは短く、肩まで露出した胸元と手首に金のアクセサリーが光っている。

「しかし、あっついなー」

眉を潜めながら真里が言い、掌を顔の前でぱたぱたと揺らした。そうしてふたりでとくに会話もなく立っていると、やがて広美が歩いて戻ってきた。広美 は、脚にぴたりと張りついているような白いスリムのジーンズを穿き、鮮やかなピンクのサマーニットを着ていた。そのサマーニットはタートルネックのノース リーブで、胸の膨らみが、むっちりとした尻と一緒に、歩く度に揺れている。

「すぐにわかりましたか?」

声が届く距離まで広美が近づいてから章がそう訊くと、彼女は「ええ」と答えた。

「それじゃあ、狭くて汚いところですけど、どうぞ」

章はふたりの先に立って歩きだし、アパートの階段を上った。そして廊下を突き当たりまで進み、鍵を使ってドアを開けた。

「どうぞ」

ドアを開けて廊下で支えながら、ふたりに言った。先に真里が中へ入り、広美が続いた。三和土が狭いのでひとりずつサンダルを脱いで台所に上がってから、章も中に入り、ドアを閉めた。

「おっ、ちゃんとクーラーが効いてるじゃん」

真里が奥へと進みながら声を上げ、章は先を行くふたりの背中に向かって言った。

「狭いところなんで申し訳ないんですけど、適当に座ってください」

実際、ベッドやら机やらテーブルやら本棚やらテレビやらが置かれている八畳間に大人が三人も入ると、ひどく狭く感じた。それでも、低いテーブルの前 で、ベランダを背にして広美が座り、その角を挟んだ隣に真里が腰を下ろしてベッドに凭れかかった。章は立ったままふたりに、「飲み物は何がいいですか?」 と訊いた。すると真里が「何でもいい」と答えた。

「オレンジジュースでいいですか?」

「いいよ」

章は台所でオレンジジュースを用意し、まず二人分をテーブルへ運び、自分の分を持って八畳間に入った。そして、台所に背を向けながら、広美と向き合 う位置に座った。胡座でもいいかと思ったが、一応正座した。テレビもオーディオもついていないので、変な沈黙が生まれた。エアコンのモーター音だけが微か に響いている。章は、自分のジュースを飲みながら、広美と真里、どちらへともなく訊いた。

「それで、今日は……?」

すると広美は微笑を浮かべ、真里と目を合わせた。その真里も笑う。そして広美はジュースのグラスをテーブルに置くと、章を見つめた。

「何だと思う?」

訊かれても全く見当もつかなかったので、章は正直に「わからないです」と答えた。その時、真里がおもむろに、凭れていたベッドの枕の下を弄り、その下から、ふたつのビニール袋を取り出して笑いながら母親に見せた。中身はもちろん広美の下着だ。

「ほら、これ。言った通りジップロックでしょ? 早速昨日の分も保存してるし」

章は、しまった、と思いながら、俯いた。掃除をしている時に、ちゃんとしまっておこうと考えていて、つい忘れてしまった。広美がそのビニール袋を見て含み笑いを漏らしながら「大事にしてくれてるのね」と言った。

「すいません」

章は顔を真っ赤にしながら俯いた。

「まあ、それはともかく」

広美はそう言うと、傍らに置いたバッグの口を開け、中から、ケースに入った一枚のCDを取り出してテーブルに置いた。それは、何の変哲もない市販のCDだった。プラスティックのケースとディスクの色はパープルだったが、ラベルの類いは何も貼られていない。

「ところで、パソコンはあるでしょ?」

「はい」

「インターネットは使える?」

「ええ、大丈夫ですけど」

何なのだ? と警戒しながら章は答えた。広美はその答えを聞いて「よかった」と言い、ひとまずそのCDのケースを脇にどけて両肘をテーブルについた。そして指を組み合わせ、その部分に顎を載せる。

「真里に訊いたんだけど、なんか素敵な宝箱を持っているんですって?」

いきなり話が変わり、章は、きっと雑誌やDVDや玩具が詰め込んであるダンボール箱のことを言っているのだろう、と思いながら「は、はい……」て答えてから、ちらりと真里を見た。彼女は視線を斜め上方へずらせて唇をアヒルのように尖らせていた。

「じゃあ」

広美が言い、顎の下で組み合わせていた手を解くと、首を傾けた。

「ここに出して、そして全部床に広げて、見せてくれる?」

「はい……」

それは、決してそう頼んでいるのではなく、命令に違いなかった。だから章としては、望まれれば従うしかないのだった。

「でも、その前に」

広美が付け加えた。

「とりあえず、裸になりましょうか。昨日みたいに」

微笑みを崩さないまま広美にそう促され、章は「はい」と頷いた。真っ昼間から自分の部屋で自分だけが裸になる事にはかなりの抵抗があったが、拒否は できなかった。それでも、さすがに一点だけ、今はレースのカーテンが弾かれているだけのベランダに通じるガラス戸を示して「そこのカーテンは閉めてもいい ですか?」と彼女の慈悲に縋るように訊いた。意外に昼間のレースのカーテンは部屋の中をちゃんと隠すが、それでも不安だったのだ。

「いいわよ」

広美は頷き、立ち上がると、自ら斜光カーテンを弾いた。章も立ち、壁のスイッチで天井の蛍光灯を灯した。真里は、「このテーブル、ちょっと邪魔だ な」と言ってテーブルの端を持つと、そのままずりずりとテレビが置かれているチェストの方へとずらし、自分はベッドに腰掛けた。そうしてぽっかりと出現し たスペースで、章は服を脱いでいった。広美も真里と並んでベッドに座り、章は二人の前に立ってまずTシャツを脱ぎ、短パンを下ろし、トランクスも脱いだ。 ペニスはこの状況だけで既に勃起している。章は真っ赤になりながら足元に落ちた短パンとトランクスから脚を引き抜き、股間を手で隠しながら直立した。

「だから、手で隠すなよ」

真里が座ったまま脚を伸ばし、章の太腿の裏側を蹴った。

「すいません」

章は股間から手をどかした。亀頭の半分くらいは包皮に隠れていたが、そのペニスは既にこの異常な状況だけで若干首を擡げ始めていた。そんな章のペニスを見て、真里が嘲るように笑った。

「なんで、何もしてないのに勃ってんだよ」

章は、さりげなく亀頭を包む皮を剥きながら、「すいません」と謝った。真里は、こっそりと皮を剥いた章の行動に気づき、爆笑した。

「しかも、わざわざ、さりげなく剥かなくてもいいんだよ」

広美もつられて小さく笑った。章は真っ赤になりながら小声でもう一度「すいません」と頭を下げた。

「そんなことを気にするくらいなら、しっかりチンコしごいて、ちゃんと勃たせろよ」

「はい。すいません」

章はそう答えると、急いで右手でペニスを握り、シゴいて完全に勃起させた。

「それでいいんだよ」

真里が満足げに頷き、そんなふたりの遣り取りを微笑ましく見ていた広美が、章に言った。

「ねえ、早く宝箱を見せて」

「はい」

章は押し入れの襖を開けると、中からダンボール箱を取り出して、床に置いた。そして跪いて箱を開け、中身を床に並べていく。大きさもジャンルもまち まちなエロ本類、DVD、ローションのボトル、そして箱に閉まってあるオナホール……それらを種類ごとに分けて列にして並べた。

「ほんとにすごいわね」

広美が呆れたように苦笑し、章がすべてを並べ終えてその列の向こうで正座すると、雑誌を手に取ってはページを捲り、DVDのケースを持ってはパッケージを確認していく。隣で真里が楽しそうに言う。

「マジですごいレパートリーでしょ。ほら、これなんか人間便器だって」

排泄物を口一杯に頬張っている男の顔が大きくプリントされたDVDのケースを示して真里が笑う。

「ウンコ食ったり、おしっこ飲んでんのよ、ヤバいって」

広美がそのパッケージを章に見せて訊く。

「こういう趣味があるの?」

「すいません」

章は小声で言い、深く項垂れた。更に真里がいろいろなエロ本やDVDを手に取り、母親に提示してはいちいち説明する。

「これなんかバリバリの女王様。縛られて鞭打たれたり、跪いて足の指を舐めたり。かと思えば、ギャルのハメ撮りがあって、こっちは熟女物。見て、 『素敵な隣のおばさん、ボクの童貞を奪ってください』だって。このおばさん、ママより年上だよきっと……っていうか、これだけいろんな種類がありながら、 普通のAVが皆無ってすごくない? そのくせ生意気にオナホなんかがある」

真里が苦笑しながらオナホールの箱を開け、中から取り出したシリコン製のホールを母親に手渡す。

「なんか、すげえ生々しいし」

「ほんとね」

広美も笑い、「ここに入れて使うの?」とオナホールの挿入部分を章に示して訊いた。章は視線を上げる事すらできず俯いたまま、もう本当に消え入りそ うな声で「すいません」と呟いた。広美が「童貞くんなのに」と軽やかに笑い、章は耳まで真っ赤になった。その反応をまじまじと観察した後、広美は「じゃ あ」と言いながら床に並ぶ雑誌やDVDを見下ろし、「そうね」と呟いて、先ほどの人間便器のDVDとM男向けのグラビア雑誌を拾い上げると、ベッドから腰 を上げてそれを章に手渡し、再び座って脚を組んだ。

「そのままこの宝物が並ぶ前で正座したまま、右手でそのDVDを、表のパッケージをこちらへ向けて持って、左手でその雑誌の表紙をこちらに向けて持ってみて。顔はしっかり上げてね」

「はい」

決してそうしたいわけではなかったし、なぜそんなことをするのかすらわからなかったのだが、従うより他に選択肢はなく、章は言われた通りにした。す ると、広美が更に「もっとオチンチンがよく見えるように、膝で立ってみて」と言った。章はもちろんそれにも素直に従い、エロ本とDVDを手に持ったまま腰 を上げると、膝で立ち、いつのまにかまた亀頭を半分隠しつつあったペニスの皮を再びこっそりと剥いて若干前方へと突き出した。

「これでいいですか?」

「わざわざ剥かなくてもいいけど、いい感じよ」

広美は苦笑いを浮かべながら頷き、「でも、やっぱりこれを付けないと」と言って鞄から昨日と同じ赤い首輪を出すと、それを章の首に装着した。そして「本当に良く似合うわ」と微笑みながらリードを持ってベッドに戻り、言った。

「それじゃあ、ちょっと写真を撮ろうね」

「しゃ、写真ですか?」

章は自分の格好を省みて、こんな姿を写真に撮られてしまうのか、と思いながら声を上げた。広美が不思議そうに首を傾け、章を見つめる。

「嫌なの?」

「い、いえ……別に嫌というわけでは……」

そう章がしどろもどろになりながら答えていると、真里がポケットに手を突っ込みながら立ち上がった。そして中から、小さくまとめた細くて赤い紐を引っ張り出し、章に見せた。

「今日は更にこれも付ける」

真里はそう言いながら章の目の前まで来ると、解いた紐を伸ばし、ニヤニヤと笑った。章は、何をするんだ? と警戒しながらその紐を見つめ、真里を見上げた。すると、真里は面白半分に章をビンタし、命じた。

「そのショボいチンコの余ってる皮、ぎゅっと絞って完全に包茎にしてみ」

「は、はい」

死ぬほど恥ずかしさを感じたものの、章は素直に茎の根元を握ると、そのまま真里に見下ろされながら皮を絞るように前へと押し出した。すると簡単に、ただでさえ余り気味の包皮によって亀頭は完全に隠れた。

「これでいいですか?」

「ああ。そのままにしてろよ」

真里はそう言いながらしゃがみ、皮の上から亀頭のカリの部分に紐を巻くと、きつく縛った。紐は二メートルほど余り、真里はその端を持つと二三度引っ 張って簡単に解けないかどうか確認してから、「よし」と呟いて紐の端を持ったまま母親の隣へ戻った。そしてその紐をくいっくいっと引っ張りながら「象の鼻 みたい」と笑った。

章は、広美に首輪のリードを、真里にペニスを縛った紐の端を持たれながら膝で立っていた。真里がその姿を見て「すげえ変態丸出し」と嘲笑い、「どう せなら、ママのパンツも使った方がいいな」と言って、紐の端を適当に自分の手首に巻き付けて固定すると、枕の下から抜き出してあったふたつのビニール袋の うち最初に章が脱衣籠から盗んだ下着の方のジップロックを開け、中からパンティを指で摘みながら取り出した。そして、それを章に投げた。

「これ、昨日と同じように、覆面みたいに被れ」

「はい……」

章はパンティを被り、クロッチの部分で顔を覆うようにして位置を調節しながら、脚を通す部分から目を出した。それを見て広美が「なんか……すごい変態チック」と笑った。その隣で、真里がデジタルカメラを構えた。

「じゃあ、さっきみたいに本とDVDを持って」

「はい」

章はエロ本とDVDを持ち、先ほどと同じ姿勢をとった。真里が章のペニスに繋がる紐の端を手首に巻いたままカメラを構え、構図を探るようにディスプレイを覗く。

「動くなよ?」

真里が言い、やがてアングルが決定すると、「ママ、撮るよ?」と母親をちらりと見て言った。広美が頷き、首輪のリードを引いた。真里も紐を引き、包茎状態のまま縛られたペニスが前方へ引っ張られた。

次の瞬間、フラッシュが瞬いてシャッターが切られた。真里は、すぐに紐を手首から外し、その端を床に捨てながらディスプレイを母親に向け、撮った画 像を見せながら「これでいい?」と訊いた。広美が「うん」と答え、章と繋がっている首輪のリードをくいっと軽く引っ張って言った。

「もう手は下ろして楽にしていいわよ」

「はい」

章は手を下ろし、持っていた雑誌とDVDを床に置いた。

「頭に被っているものも取っていいわよ」

苦笑しながら広美が付け加え、章は下着を取った。そしてビニール袋にしまい、それをベッドに置いた。広美が言う。

「それじゃあ、写真も撮ったし、そろそろパソコンを用意してくれる?」

「はい」

章は立ち上がり、紐をペニスに付けたまま机へ行き、ノートパソコンを持った。広美の手許から首輪に繋がるリードが一杯まで伸び、ペニスに縛り付けら れたままの紐が床を這う。真里が、床に陳列されているDVDや雑誌の類いを適当にどけ、テーブルを元の位置に戻して、「ここに置いて電源入れて」と言っ た。

「はい」

章はテーブルにパソコンを置くと、その前で正座した。裸のままだったので服を身に着けたかったのだが、広美も真里もそれについては何も言わなかった ので、首輪を装着した全裸のままパソコンの画面が立ち上がるのを待った。その章を挟むように、広美と真里が肩を寄せるようにして座る。両側から香水の匂い が漂ってきて、章は軽く勃起してしまった。やがてOSが起動し、広美が訊いた。

「もうインターネットには繋がってる?」

「はい、大丈夫です」

章は無線LANの電波状況を示すアイコンを確認して答えた。

「じゃあ、ブラウザを立ち上げて、今から言うアドレスへアクセスして」

広美はそう言うと、鞄から手帳を取り出してページを開き、「いい?」と章に問い、章がブラウザを起動して「はい」と頷くと、HTTPから始まるインターネット・アドレスをアルファベットで一字ずつ告げた。章はその通りにタイプしていき、ジャンプした。

すると、ブログサービスのログインページが表示された。それを横から広美が覗き見て確認し、更に言った。

「そこのアカウントとパスワードのところに、それぞれこう入れてログインして」

広美は再び手帳を見ながら、アルファベットの文字列を告げた。章はその通りに入力し、ログインのボタンをクリックした。するとブラウザが「アカウン トとパスワードを記憶させますか?」とダイアログを出し、横から真里が「もちろん」とくすくす笑いながら言った。章は「記憶する」をクリックして、ログイ ンした。

画面に会員専用のページが表示された。そこには、「こんにちはakiraさん」とメッセージが出ていた。章は、何なのだ、これは? と思いながら、 そこに示されている「akira」という文字を見た。こんなサービスのアカウントを作った覚えなど無い。そう困惑していると、広美が軽い調子で言った。

「とりあえず、そこの『自分のページを見る』をクリックしてみて」

「はい」

章はカーソルをそのボタンに合わせ、クリックした。別のタブが開き、ブログページが表示される。それを見て、章は思わず「あっ」と声を上げてしまった。そんな章の反応に、広美と真里は顔を見合わせて微笑した。

そのブログには、まだ記事がひとつもなかった。ページは、ブログによくありがちな平均的な2カラムのレイアウトで、左側にサイドバーがあり、右側が メインのエリアになっている。章が驚いたのは、そのブログのヘッダー部分に記されたタイトルとサイドバーの小さなプロフィールのエリアだった。タイトル部 分には『変態発情奴隷犬のリアルな日常』と書かれ、そのすぐ下にブログの説明文として『変態M男、年中無休で発情中!』と記されていた。プロフィールの部 分には、先日真里に自室で撮られた、広美の下着を頭に被っている自分の顔が貼られてあった。真里が隣から、「アドレスをよく見てみ」と言い、章はブラウザ のアドレス欄を確認した。すると、ブログサービスのドメインの前、サブドメインの部分が『hentaidoreiken-akira』となっていた。広美 が微笑を崩さないまま優しく言う。

「章くんのためにアカウントを作って登録しておいてあげたの」

「はあ」

どう答えたらいいのかわからず章は曖昧に頷いた。その頭を真里が叩く。

「ありがとうございます、だろ?」

「あ、すいません。ありがとうごさいます」

わけがわからないまま章はひとまず慌てて頭を下げた。広美が言う。

「このブログはまだ非公開になっているけど、テンプレートだけは作っておいてあげたの。どういうことかわかる? これは、章くんの日記スペースな の。章くんはこれから、自分の変態的な日常をここに記録するのよ。もちろん、最初の記事ができた時点から全世界に公開。どう? 楽しそうでしょ?」

「はあ」

章は絶望的な気分になりながらそのページを眺めていた。プロフィールの顔写真は小さく、しかも目許にはモザイクが掛けられていて、一応プライバシー には配慮がされていたが、ハンドルは「akira」でアルファベット表記だが紛れも無い本名だし、簡単な自己紹介の欄には「某私立大学に通う21歳の破廉 恥な変態犬・アキラです」と書かれていた。真里が笑う。

「感動のあまり無口になっちゃってるし」

広美が、呆然となっている章の顔を横から覗き込む。

「これから章くんは毎日必ず、ここに日記を書くの。学校名とか本名は伏せていいけど、そしてもちろんわたしたちのことは仮名にするんだけど、ちゃん と本当のことを綴るの。でも、だからといって、何食べたとか、何買ったとか、そんなことを書くんじゃないわよ。内容は、エッチなこと。たとえばわたしたち とどんな事をしたか、とか、ひとりでこの部屋にいる時にどんなことを考えたか、とか、オナニーをしたなら、その回数、オカズ、その他、全て正確に記して、 一日一回は必ず更新する事。街で綺麗な子と擦れ違って瞬間的にどんな事を考えてしまったかとかについて書いても楽しそうよね。毎晩わたしたちがチェックす るし、アクセス状況とかはわたしたちも知りたいから、パスワードを変えたり、ブログ自体を勝手に削除したりしちゃ駄目よ」

「はい……」

「そしてもちろん、画像がたくさんあった方が楽しいから、これをあげるわ」

広美はそう言うと、先ほど鞄から取り出したCDを章の前に置いた。

「このディスクの中には、昨日と一昨日の章くんの画像がたくさん入ってるから、遠慮せずに使って。心配しなくても、オチンチンと目許にだけはモザイクを入れておいてあげたから」

「はあ……」

「それと、一番最初の記事は、『どうしてこのブログを書く事になったか』という内容で書く事。きっかけは、何と言ってもわたしの下着を盗んだ事だか ら、正直に「パンティを盗んだ」と書くのよ。そして、盗んだときの状況、気持ち、手に入れた下着をどう使い、使用感はどうだったか、全部ちゃんと詳しく書 くの。ちなみに、わたしと真里の名前は、ブログ上では『エミ』と『アイリ』にして。歳とかはとくに隠さなくてもいいわ。とにかく、世間バレしない程度に」

「はい……」

「それで、その最初の記事に添える画像は、さっきここで撮った画像を使って欲しいから、あとで家に帰ったら目許とオチンチンにモザイクを入れて、メールで送るわ」

「わかりました」

全然わかりたくはなかったし、できれば拒否したかったが、そう答えざるを得なかったから章はそう答えた。真里が、「なんか、あんまり嬉しそうじゃな いな」と章の顔を覗き込み、至近距離から見つめる。章はその視線にドキドキしながら、「そんなことないです。嬉しいです」と首を振った。

「そうだ、今度チンコの周りの毛、全部剃るから」

「えっ?」

驚いて章は真里を見た。

「だってその方がより変態チックでいいじゃんか」

「そうですけど……」

章はそう答えながらも、そんなところの毛を剃ってしまったら、人前でパンツが脱げなくなる、と思った。尤も、女性とどうこうという話ではなく、これ から夏本番になるから海やプールへ行く機会があるかもしれないし、温泉やサウナなどへも行かないとは限らないから、更衣室や浴室で、もしも人にそんな状態 の股間を見られたら、と思うと、どうにも気が引けた。しかし、真里に命じられたら、それを拒否できる権利など章には無かった。

広美が、残っていたジュースを全部飲み干して、ベッドに座った。そして「おいで」とリードを引いて章を足許に呼び、章が彼女の前で跪くと、首輪を外した。

「それじゃあ、わたしたちは帰るから、ブログの下書きでも書き始めなさい。画像はなるべく早くメールで送るから。それで、今晩中、というか、夜中の十二時までには最初の記事をアップロードしなさい。寝る前に確認したいから」

「はい……」

「そのオチンチンを縛ってる紐は、わたしたちが帰ってから自分で外しなさい」

「はい」

章は、広美の足許で正座したまま頷いた。広美が立ち上がり、真里も一緒に腰を上げる。

「そうだ、オナニーしたら、その使ったティッシュを携帯で撮って載せるようにね」

真里が言い、章は「わかりました」と項垂れながら答えた。そして、ふたりを見送るために自らも立ち上がり、ペニスから紐を垂らしたまま、二人の後に 続いて玄関へと向かった。もしかしたら昨日のように広美の体に触ることができるか、それが無理でもせめてふたりの前で射精できるかと期待していたのだが、 どうやらそういう展開は無いらしく、内心では少々落胆していた。裸になり、勃起させられ、首輪を付け、性器を紐で縛られ、写真を撮られてそれで終わりなん て、まるで蛇の生殺しのようだ、と感じていたが、むろん抗議の声などあげられるはずがなかった。

「それじゃあ、変態M男くん、さよなら」

広美が狭い三和土でサンダルを履いて言い、ドアを開けた。真里も、「じゃあね」と笑った後、何気なく「ちゃんとブログを毎日更新できたら、ウンコは 嫌だけど、そのうちオシッコくらいなら飲ませてやるかもね」と付け足して、母親に続いて部屋を出た。そして、章がふたりに「お気をつけて」と言うと、広美 と真里は手を振り、すぐにドアは閉まった。

呆気ない別れだった。章は裸でその場に突っ立ったまま遠ざかる足音を聞き、その音が絶えると、奥の八畳間に戻ってとりあえずペニスを縛っている紐を解き、トランクスを穿いた。紐は適当に巻いてベッドの上へ放った。

テーブルの上に、ふたりが直接口を付けた空のグラスが二つ置かれたままだった。章は、そのグラスを片手で一つずつ持ち、観察した。どちらのグラスにも、うっすらと口紅の跡が付いていた。章は、まず広美のグラスを舐め、続いて真里のそれも舐めてから、台所の流しへと運んだ。

パソコンの前に戻って胡座をかき、画面を見ると、まだブラウザが開いたままで、ブログサービスにログインした状態を保っていた。章はいったん別タブで開いていたブログを閉じ、それからログアウトしてブラウザを終了した。

視界の隅に、広美が置いていったCDのケースがあった。章はそれを手に取ると、ケースを開き、ディスクを取り出してパソコンに入れた。ドライブを開くと、中にはふたつのフォルダがあった。フォルダ名として、それぞれ昨日と一昨日の日付が付けられている。

章はまず、一昨日の日付のフォルダをダブルクリックして開いた。すると、携帯のカメラから転送された画像のサムネイルがずらりと並んだ。ひとつひとつ見ていくのも面倒臭かったので、章は一度すべてのファイルを選択し、スライドショーで開いた。

真里と二人だけの時に彼女だけが写真を撮っていたのだから、当たり前の話だが、すべての画像には章だけが写っていた。もちろん十二分におぞましい姿 ばかりだった。第三者のような視点から、たとえば広美のパンティを覆面のように被って自慰をしている自分の姿を見るのは、なんとも変な感じだった。むろ ん、恥ずかしさは強烈に感じた。しかし、M男として、そういう辱めに感じてしまっているのも事実だった。

一昨日の画像はそれほど枚数があるわけでもないので、すぐにスライドショーは先頭に戻った。章はいったん閉じ、昨日のフォルダを展開した。すると、 サムネイルでざっと眺めただけでも、単純に画像の枚数は倍以上あった。しかも、昨日の画像の場合は、広美の姿も一緒に多く写っている。中には、いつのまに 撮ったのか、広美のアヌスを執拗に舐めている顔がかなりアップで撮られていて、その白い尻の丸いラインに惹かれた章は、画像をクリックして開いた。アング ル的に、もしかしたら広美のアヌスや性器も写っているのではないか? と期待したのだ。しかし、その期待は裏切られた。残念ながらアヌスや性器にはモザイ クが掛けられていた。もっともモザイクは、尻に接近している章の目許にも掛けられていたから、文句は言えなかった。

章はいったん画像を閉じ、先ほどと同じようにフォルダ内のファイルを全て選択してスライドショーで開いた。様々な場面が全画面表示で流れていく。そ れを見ているうちに、脳裏に広美の体の記憶が鮮やかに甦ってきて、その感触、温もり、匂いなどを思い出しながら、章は完全に勃起してしまった。

そして、まるでトドメでも刺すように、最後にもっとも強烈な画像が現れた。それは射精した後に三人一緒に並び、セルフタイマーを利用して撮った画像 だった。首輪を着けた全裸の章が、シャワーを終えてバスタオルを巻いただけの広美と、服を着たままの真里に挟まれながら立っている。しかもその画像の中の 章は、広美にはリードと一緒にペニスを、真里には無造作に髪を掴まれていて、余裕の笑みを浮かべている女性二人の表情と、オドオドとした気弱そうな目をぎ こちなくカメラに向けている章の表情の対比が鮮やかだった。

章はスライドショーを停止させ、その画像だけをデスクトップに大きく表示した。よく見ると、この画像にだけはどこにもモザイクが掛けられていなかった。広美の手から少し覗いている亀頭も、そのままだ。

ということは、さすがにこの画像はインターネット上に公開しなくてもいいということだろうな、と章は思った。いくら何でも、自分達の顔までしっかり と写っているこのような画像を、誰に見られるかわからない、不特定多数の人間の目に触れるオンライン上に置けと命じるつもりはないだろう。そんなリスクを 彼女たちが冒すとは思えない。

しかし、見れば見るほど、なんとも魅力的な構図だった。章はその画像を眺めながらふと、籠盛りのフルーツの中に身を投じている自分を想像した。真里 と広美はまるで固い苺と熟れきったパパイヤのようだった。そして自分は、そんな刺激的で蠱惑的な果実に挟まれ、埋もれながら、ただその魅力と薫陶に酔い痴 れている、そう感じたのだった。

たまらず章はトランクスを下ろした。そして、腰を浮かせてその画像をじっと見つめると、既に熱く滾りながら反り返っているペニスを右手で握った。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。