学園の朝

学校法人白百合学園、白百合女子高等学校では、毎週月曜日の朝七時五十分に、学園全体会議が招集される。これは特別会議室で行われる、学園の指針を示す重要な会合で、メンバーは校長以下教職員全員と、学園運営委員会と呼ばれる生徒会の幹部五人である。

学園運営委員会とは、実質的にこの白百合学園を動かしている生徒会の上部組織である。委員長は、理事長の愛娘である三年A組の高瀬彩名で、彼女が全権を理事長から委任されている。高瀬彩名は生徒会長も兼任していて、この学園のすべてを手中に収めている。校長ですら彼女の決定には逆らえない。高瀬彩名はこの白百合学園の絶対権力者であった。本来ならば、校長や教頭などという肩書や役職など必要ないのだが、市の教育委員会やPTAなどに対して対外的な体面を取り繕うためだけに一応名称だけ存在している。が、しかし、学園内に於いては何の権限もない。高瀬彩名を頂点とするピラミッド構造の最底辺を形成する一般教職員と同等の扱いである。

白百合学園は、創立十年にも満たない新興の女子校で、歴史こそまだ浅いが、環境はどんな名門にも劣らない。一学年にクラスは四つしかなく、その一クラスも三十人編成となっているから、入学は狭き門となっていて、偏差値も高い。そして何より、最大のセールスポイントは、他に類を見ない施設の豪華さと充実度だ。白百合学園は丘陵地帯にかなりの敷地を有し、校舎も石造りのヨーロッパ風で、瀟洒な門を潜ると大きな噴水があり、校舎や体育館や図書館やコンベンションホールやプールやテニスコートや陸上のトラック等が、緑の中に点在している。それはさながら高級リゾート地を思わせる景観だ。各施設の移動には、専用のモノレールを使う。しかしそのモノレールに乗れるのは勿論生徒だけで、教職員の乗車は厳禁となっている。

ちなみに、この白百合学園には、職員室や準備室といった教師のための空間は存在しない。いや、あることはあるのだが、それらの使用は、教育委員会の視察や授業参観日といった特別な日でない限り、禁じられている。ならば、普段教師達はどこで過ごすのかというと、基本的には常に廊下待機だ。どの教室にもドアの脇に円椅子が置いてあり、教師はそこで授業開始を待つのだった。そして授業のない教師は、校舎の外に設えられた教職員専用のスペースで過ごす。そこには一応雨を凌げるように屋根はあるが、壁はない。知らない人が見れば、それは公園の四阿のようであるが、教師達にとってはこの学園内で唯一寛げる貴重な場所だった。粗末なものではあるがとりあえず机はあるし、授業の準備をするのにはさして不都合はない。昼休みには、全員がここに集まって食事をすることが義務付けられている。

学園全体会議は、敷地のもっとも奥まった場所に建つ、総ガラス張り六階建てのコンベンションホールの六階にある特別会議室で行われる。このコンベンションホールには、二階と三階に第一から第五までの会議室があり、四階には音楽室や視聴覚教室といった特殊な教室が並び、五階に生徒達のためのレストランや喫茶室があり、六階が特別会議室となっている。一階は、一部が五階まで吹き抜けとなったロビーで、大理石張りのエントランスは豪奢を極めている。

そのエントランスに足を踏み入れると、正面に四基のエスカレーターがあり、そこを上がったところが第一会議室のロビーとなっている。第二から第五の会議室は三階で、二階は第一会議室が占めている。さらにそこから上層階へ上るには、エスカレーターの他にエレベーターがあるが、当然教師達がそれらを利用することは許されていない。エスカレーターもエレベーターも生徒専用で、教師は非常階段を使わなければならない。特別会議室へは、一階から直通のエレベーターで行く。ロビーの奥に専用のエレベーターホールがある。しかしそれを利用できるのは生徒会幹部に限られている。

第一会議室は、座席数こそ五十足らずだが、国際会議にも対応できるほど立派なもので、同時通訳の装置やインターネット接続のディスプレイが各席に完備されている。第二から第四の会議室はごく普通の会議室で、そこではしばしば、いかがわしいビデオの上映会などが催され、主に生徒達のレクリエーションのために使用されている。そして第五は、生徒会専用の会議室だ。

六階の特別会議室は、第一会議室の設備をそのまま凝縮したような、学園運営委員会の中枢で、そこで開かれる学園全体会議は、教職員が委員会に招集されるという形になっている。この会議室の一番の特徴は、その特殊な構造にある。広さは畳の数にして三十枚分程度だが、学園の全景を見渡せる大きな窓ガラスを背にする、一段高くなった場所に学園運営委員会の幹部五人の席が横一列に並んでいるだけで、あとは何もない。つまり、そこに召集される教職員に席はないのだ。彼らは、壁を背にぐるりと立たされるか、もしくは床に正坐だ。

そして壁には『白百合憲章』と呼ばれる教職員心得が、額に入れて掲げられている。それは、次のような文面である。

教職員は生徒達の従順な下僕である。

教職員は生徒達の前に於いて、清廉潔白の証として、常に全裸で行動する。

教職員は生徒達の与えるすべての折檻を悦びとするものである。

教職員は生徒達の慈悲によって生かされていることを知るべし。

教職員は生徒達の奴隷として、如何なる時も、その命には絶対服従である。

ここに書かれているとおり、学園内に於いて教職員に衣服の着用は認められていない。そのため、登校してきた教師は、門の脇にある『清廉館』と呼ばれる小屋で着てきた服を全部脱いで、裸になってから門を潜る。ちなみに、この白百合学園の教職員は男性に限られている。女性はひとりもいない。それによって絶対的な女尊男卑の世界が完全に確立されているのだ。そして、その構造が外部へ漏れることはない。なぜなら、教職員には緘口令が敷かれているし、もしそれを破れば、これまでの校内に於ける破廉恥な行為の数々が写真やビデオとして残されているため、それらをばらまかれることになるからだ。実際、何か起これば、直ちにその写真やビデオがNHKやCNNへ渡るシステムが構築されている。もっともそんなことになれば、たちまちその教師の人生は破滅を迎えることが明白だし、公表したところで恥を晒すだけで何の益もないので、誰も口外などしようとはしない。過去にも誰一人としてその禁を破った者はおらず、それは白百合学園の誇りでもある。

もうひとつ、この白百合学園には、世間に誇れる立派な記録がある。それは、創立以来、ひとりの中退者も出していないという事実だ。一度入学した者は、必ず卒業まで在籍する。これは、他の高校だと一クラスにつき一人乃至二人は中退しているという統計結果が得られている今の時代の傾向からしても、瞠目に値する。そのため白百合学園は、何も内情を知らない教育委員会によって、県の教育モデル校に認定されてもいるのだ。

学園全体会議が開かれる朝、教職員は全員、午前六時半には登校し、『清廉館』で服を脱ぐと、全裸になってコンベンションホールのエントランスや会議室の清掃準備に取り掛かる。大理石の床や柱を雑巾で丹念に拭き、磨きあげ、シャンデリアの埃を払い、玄関の車寄せから専用エレベーターまで赤絨毯を敷く。無論、会議室の窓も拭かなければならないし、机の上も綺麗にして、花瓶に新しい花を活けなければならない。そして、七時三十分には、赤絨毯の両脇に、校長と教頭を除く教職員が二列に分かれて整列し、登校してくる学園運営委員会のメンバーを出迎えるのだった。

幹部達は、それぞれ学園から貸与されている高級外車で登校してくる。それを玄関の車寄せで出迎え、ドアを開くのは校長の仕事だ。だから校長は準備が整い次第、車寄せに立って、直立不動の姿勢で高級外車の出現を待つ。

午前七時二十五分。すべて受け入れ態勢が整った。吹き抜けのシャンデリアは煌々と輝き、赤い絨毯は、玄関のドアを開け放った先の車寄せから、幹部専用エレベーターまで、真っ直ぐに敷かれた。勿論、皺は弛みはどこにもない。その両脇に、総勢三十人の全裸になった教職員が整列して待機する。

五十三歳の校長は、気持ちを引き締めて車寄せに立った。朝日が植え込みの緑を輝かせていて眩しい。校長の醜い中年太りの体に、朝の透明な日差しが当たっている。ただでさえ色白の弛んだ腹が、より一層白く見える。

彼の股間には、陰毛がない。剃り跡が青々としている。これは先週、会議の最中に委員会の許可なく性器を勃起させてしまったことに対する懲罰だった。校長は会議の途中、高瀬彩名の太腿に興奮していまい、不覚にも勃起してしまった。それは、ちょうど彼女の前に正坐して、教職員全体の士気の低下を叱責されている時だったので、余計に彼女の怒りを買ってしまった。校長は、その場で剃毛を受け、一週間その状態を保つように厳命された。だから、校長は毎朝登校前に股間を丁寧に剃り上げてくる。

先週のあの朝以来、校長は、妻との夜の勤めも敬遠している。風呂も一人でこそこそと入る。なぜなら、どうして陰毛を剃っているのか、妻に説明ができないからだった。学園の規律はたとえ身内の者であろうと口外はできないし、もしその規約がなくとも、勃起した罰として陰毛を剃られたなんて、男として情けなく、とてもではないが死んでも人になど言えるはずがなかった。

七時三十五分。最初の幹部の車が現れた。シルバーメタリックのジャガー。それは二年C組、墨田ひとみの車だった。校長は車が停止すると同時にドアを恭しく開け、「おはようございます」と深く頭を下げた。墨田ひとみは校長の顔をちらりと一瞥して「おはよう」と言い、颯爽と中へ入っていった。中からも教師達による挨拶が響く。しかし彼女はもうそれにはいちいちこたえず、さっさと専用エレベーターに乗り込んだ。続いて、ダークグリーンのBMWで三年D組の沢木美枝が現れた。校長以下教職員は、律儀に同じ手順で迎える。次に金色のキャデラックで二年A組の小菅恵が登校し、間を置かず、黒塗りのメルセデス・ベンツが車寄せに横付けされた。その車からは、一年B 組の高瀬愛香が降りてきた。彼女は高瀬彩名の妹である。そして最後、七時四十七分に、真っ白のロールス・ロイスが車寄せに滑り込んできた。これは、特別仕様のストレッチリムジンで、窓ガラスには黒いフィルムが貼られている。

「おはようございます」

校長は緊張した面持でドアを開いた。中から、高瀬彩名がすっと長い脚を出し、次の瞬間、風のようにしなやかに降り立った。白百合学園の気品ある制服に身を包んだ、身長百七十五センチのゴージャスな肢体が、朝の光の中に凛然と立つ。その姿は、神々しさすら漂わせている。その場の空気がたちまち緊迫する。高瀬彩名は、傍らに立つ校長に、そちらは見ないまま「手!」と命じた。校長はおずおずと、しかし素早く、両手を皿のように揃えて高瀬彩名の前に差し出した。すると彼女は、その掌へ、口の中のガムを吐き出した。そして、まるで何事もなかったかのように平然と、優雅に、赤絨毯の上を大股で颯爽と歩き出す。赤絨毯の両脇に整列する教師達が、声を揃えて「おはようございます!」と挨拶し、体を四十五度まで折って深々と頭を下げる。その前を、高瀬彩名は、正面を見据えたまま歩いていく。超ミニのスカートから伸びる形の良い脚が、一歩一歩繰り出される度に、教師達は憧れとも尊敬ともつかぬ畏怖の感情を抱く。このお方こそが我々の運命を司る女神様なのだ――誰もが何の矛盾もなく心からそう思ってひれ伏している。

その頃、六階の特別会議室では、教頭が、登校してきた幹部達を席へと案内し、コーヒーや紅茶などを出していた。そして一階では、高瀬彩名がエレベーターに乗り込み、その扉が閉じられるのを見届けてから、全員が階段へと走り出した。高瀬彩名が教職員の入室を命じるまでに、全員が六階の会議室前のロビーに揃っていなくてはならない。その時間的猶予は三分しかない。だから、誰もが必死の形相で階段を駆け上がっていく。一応、猶予は三分ということになっているが、運が悪いと、二分もしないうちに呼ばれてしまうことがあるので、のんびりはしていられない。遅れることは厳禁だった。というより、それは絶対に許されることではない。また、ひとりの失敗は全員の連帯責任となるから、もしも揃わなかったときは、相当な覚悟が必要となる。

どうにか一分四十七秒で全員がロビーに整列した。ドアは閉じられているが、会議室内からは監視カメラでロビーの様子が見えているので、だらしない格好はできない。全員が姿勢を正して、入室の許可を待った。しかし校長をはじめとする中年の教職員は、日頃の運動不足が祟ってか、今にも酸欠で倒れそうで、大きく肩で息をしている。それでもまだ二十代や三十代の職員は元気なもので、整列しながら髪の乱れを整えたり、髭の剃り残しをチェックしたりしている。この日のために、教職員は全員、陰毛を切り揃えている。生え放題は見苦しいということで、教職員には週に一度の陰毛のカットが義務付けられているのだ。

全員がロビーに揃って五十一秒後、会議室の中から入室を促す高瀬彩名の声が、天井に取り付けられたスピーカーを通して聞こえた。

「入室を許可します。全員、速やかに入りなさい」

校長は唾をごくりと飲み込み、ドアノブに手を掛けた。

「失礼いたします」

校長を先頭に、教頭、続いて三年、二年、一年の順番で各学年のクラス担任が入り、その後に音楽や美術や保健体育など専門教科担当の教師が入室する。そして最後の教師がドアを閉め、全員が、幹部生徒の前で一列になって整列する。この時の姿勢は決められている。教師達は頭の後ろで手を組み、直立不動だ。着席の許可が与えられるまでそうしていなければならないし、勝手に手を下ろしてもならない。このようにして、まず全員が体で、生徒に絶対服従であることを表現するのだ。これは一種の隷属の儀式である。こうやって無抵抗であることを自ら表現することで、教師達は奴隷という己の身分を再確認するのだった。

幹部達は優雅に脚を組み、煙草を吸っている。そのうち、手元の書類に目を落としていた墨田ひとみが、つと視線を上げ、その書類を隣の高瀬彩名に手渡して、何やら耳元で囁いた。高瀬彩名は何度も小さく頷き、ざっとその書類に目を通すと、コホンと咳払いをしてから、教職員を見回して言った。

「みなさん、おはよう」

「おはようございます!」

教師達は声を揃えて大きく挨拶を返し、頭を下げた。そのどの顔にも、あの書類は何だ? という不安の表情が浮かんでいる。それを見透かしたように、墨田ひとみが言った。

「今日は悪いけど、そのままずっと立っていてもらうわ。いま委員長にも見せたけれど、許されざる由々しき事態が起きたの」

教師達の間に動揺が広がる。いったい何が起きたのだろう? 全員が幹部達の次の言葉を、固唾を呑んで待った。

「ここに、興味深い報告が届いているの」

高瀬彩名が数枚の書類を掲げて見せ、それをトントンと机の上で揃えた。そして、ゆっくり脚を組み替えながら、言った。

「現代国語担当、一年A組担任、秋野優一。二十九歳、独身。おまえに関してよ。秋野、前へ出なさい」

「は、はい」

突然名前を呼ばれた秋野は、明らかに怯えながら進み出た。他の教師達が、おまえ何をやらかしたんだ? という非難めいた目で彼を見つめる。秋野はなぜ自分が呼ばれたのか、その理由が全くわからなかった。だから幹部の前に出たものの、戸惑いの色は隠せず、視線を床に落としたり、幹部達の顔色を伺ったり、と落ち着きがなかった。

その様子を見かねて、沢木美枝が厳しい声で叱責した。

「秋野! 気を付けをしなさい!」

「も、申し訳ございません!」

秋野はビクンと反応し、手を頭の後ろから下ろして体の横に揃えると、ピンと背筋を伸ばした。高瀬愛香の口から無遠慮な嘲笑が漏れる。秋野は彼女のクラス担任だから、普段教壇で教鞭をとっている男が集中的に叱られているこの光景が、おかしくてたまらないようだった。秋野は、そんな風に笑われても何一つ反論できない自分が恨めしかった。これでは教師としての威厳も何もあったものではない。もともとこの学園にそんなものは存在しやしないが、自分のクラスの生徒の前でこういう姿態を晒しては、もはや権威は地に落ちたのも同然だった。高瀬愛香は、教室に戻ったらこの光景を吹聴することだろう。そうなれば、いまと同じことをホームルームでもさせられことは必然だった。そして、たとえそうなっても、秋野にはそれを拒否することなどできないのだ。

教師達全員が、高瀬彩名の次の言葉を待っている。書類が小菅恵の手に回され、彼女はそれを読むと軽く肩を竦めた。そして、その後、隣の高瀬愛香に渡した。沢木美枝はもう既に概要を把握しているようだった。高瀬愛香は書類を読み終えると、煙草の煙をゆっくりと吐き出しながら姉の高瀬彩名にそれを返し、心底から呆れたような表情を浮かべて呟いた。

「これは最悪だわ」

その一言によって、教師達の間に緊張が走った。教師ひとりの失態は、全員の連帯責任なのだ。誰もがそのことをよく承知しているからこそ、高瀬愛香の呟きは、絶望的な響きを伴って彼らの耳に届いた。

「秋野、おまえは二十九にもなって彼女の一人もいないのね。嘘をついても駄目、ちゃんと全部調べ上げてあるのだから。ってことは、あっちのほうも相当溜まっているはずよね。秋野、おまえはどうやって性欲を発散してるの?」

立ち尽くしている秋野の目をじっと見つめて高瀬彩名は訊いた。大きくて聡明で美しい瞳が、全裸の秋野を捕らえて離さない。秋野は生唾を飲み込み、それから小声で、意を決して答えた。

「オ、オナニーです……」

「えっ? 何? よく聞こえなかったわ」

高瀬彩名が小首を傾げてみせる。秋野は顔に血を昇らせて真っ赤になりながら目をきつく瞑り、もう一度同じことを言った。

「オナニーです!」

大爆笑が幹部達の間で広がる。教師達はその爆笑をまるで自分のことのように受け止めていた。妻子ある者はともかく、独身の教師は多かれ少なかれ秋野と似たようなものだった。こんな学園生活に染まってしまうと、なかなか普通の恋愛などできるものではない。こういう質問は、全体会議だけではなく、ホームルームでも頻繁にされる。その場合、独身なら専らオナニーであると正直に答えなければならない。たまには風俗にもいくだろうが、やはり主な手段は自慰が圧倒的だった。妻帯者ならば、性行為だが、どちらにせよ生徒に性欲の発散方法を訊かれて正直に答えるのはかなり恥ずかしい。妻とのセックスを公言することは、ある意味マスターベーションの告白より卑猥である。なぜなら、具体的にそのときの格好などを想像されてしまうからだ。いまのように全裸で立たされている、男としての威厳など何もない者が、家へ帰れば、妻と呼ばれる女性を組み敷き、盛んに腰を振っている光景なんて、出来の悪いコントのようで、憐れですらある。実際に数週間前のこの会議では、性欲処理の方法を訊かれてセックスと答えた四十三歳の社会科教師が、ダッチワイフを相手に実践をさせられた。それはおぞましい光景だった。衆人環視の下、その社会科教師はビニールの人形を相手に愛の言葉を囁き、執拗な愛撫を披露し、やがて挿入して腰を使った。

彼女達は、教師達を辱めるために、このようなことを頻繁に行う。だから今も、殆どの教師はこの後、秋野がここでオナニーをさせられるだろうと思った。しかし高瀬彩名は鼻でフンと笑っただけで、それを命じはしなかった。その代わり、書類を手にして、さらに質問をした。

「ここにおまえのこの一週間の行動が細かく記されているのだけど、これによると、先週の金曜日の夜の行動にちょっと問題があるわね。金曜日の夜、おまえはどこへ行って何をしたのか、よく思い出してごらん。その次の日は土曜日で、学校は休みだったわね。その夜、おまえは何をしたのかしら? 一昨昨日の夜のことよ、もう忘れたのかしら?」

忘れるどころか、秋野は瞬時にその夜の自分の行動を思い出していた。金曜日、学校を辞してから、秋野は自分の車で隣町へ行った。秋野はしばしばその町まで足を伸ばして、その町の外れにあるアダルト書店へ行く。それは彼にとって、月に一度のささやかな楽しみだった。隣町といって県境を越えるので、自分を知る者はいないだろうというのが、彼がその町まではるばる遠征する理由だった。やはり一応は教師という立場上、この町でエロ本やアダルトビデオを購入するのは、どこで誰が見ているかわからないから、やめておいたほうが無難だ。

金曜日の夜、秋野はいつもの店で、三冊のエロ本と二本のビデオを購入した。そのどれもが、女子高生モノと呼ばれるジャンルのものだった。あの夜に入手した本とビデオは、週末の間、フル稼働で役に立った。実は、今朝も起きがけに、その本のグラビアで抜いてきたばかりだった。会議の日は、必ず当日の朝、抜いてくることにしている。それは、会議中に勃起しないための、彼なりの予防手段だった。一度抜いておけば、そうそう勃起はしないだろう、というのが秋野の狙いだった。

「ねえ秋野、思い出した?」

高瀬彩名が優しく訊く。秋野は、隠し通すことなど無理だとわかっていたので、こくりと頷いた。

「はい」

「そう。じゃあ、何をしたか言いなさい」

もう言うしかなかった。秋野は覚悟を決めて、金曜日の夜の行動を述べた。

「僕はあの夜、車で隣町まで行ってエロ本とエロビデオを買いました。すみません。どうしても新しいズリネタが欲しかったのです」

そこまで言って秋野は唇を噛んだ。すると、高瀬彩名は優しい口調のまま、秋野を咎めた。

「私達はおまえがそういうものを買ったこと自体を責めているわけではないの。問題は、おまえが買った本やビデオの内容なの。さあ、言いなさい。おまえはどんなジャンルの、どういうタイトルの本やビデオを買ったの?」

そう訊かれても、秋野には、ジャンルはともかく、それらのタイトルまでは思い出せなかった。だから彼は正直にその旨を伝えた。

「申し訳ございません。ジャンルは、あのう、そのう……女子高生モノなのですが、タイトルまではどうしても思い出せません」

「あら、そう? じゃあ教えてあげるわ。そうね、まずはビデオのタイトルからいこうかしら。ええっと、ビデオのタイトルは……ああ、あった、いやねえ、何これ、まあいいわ、いくわよ。一本目、タイトルは『女子高生連続レイプ』、もう一本が『コギャルクイーン、変態男を成敗』、で、次はエロ本ね。えっと一冊目は『コギャル女王様の人間便器、黄金の誘惑』、次が『女子高生スペルマパック写真集』、そして最後が、あらあ、これはすごいわね、タイトルの後の説明文が強烈、『幸福の瞬間。セーラー服女王様写真集。完全永久保存版。ルーズソックスから立ち昇る強烈かつ崇高な芳香に変態M男悶絶。足舐め奴隷の恍惚。目くるめく快楽と陵辱の狭間に揺れる哀しきマゾの性』。この五タイトルよ。なんかこうやって読み上げていくだけの眩暈がしてくるわね。ねえ、いったいこの節操の無さは何? SとMがゴチャ混ぜじゃない? いったいどういうつもりでこういうものをおまえは買ったの? 私達によくわかるように説明しなさい」

そのタイトルの羅列を聞いている間に、秋野の剥きだしのペニスはムクムクと勃起をはじめていた。美しい高瀬彩名の口から人間便器だの変態M男だのといった単語が飛び出して、秋野はすっかり興奮してしまった。無意識のうちにその股間を手で隠していた。それを高瀬愛香が目ざとく見つけ「その手をどけなさい」と命じた。秋野は仕方なく手をどかした。すると、完全に反り返ったペニスが弾むように出現した。

「おまえ、何おっ勃ててんだよ。自分の置かれている立場がわかってるの?」

墨田ひとみの叱責が飛んだ。高瀬姉妹はニヤニヤと笑っている。小菅恵と沢木美枝は軽蔑しきった目で冷ややかに秋野を見据えている。

「も、も、申し訳ございません!」

しかしその言葉とは裏腹に、ペニスの硬度は増していくばかりだった。もはや打つべき手はない。秋野は、自分に注がれている同僚教師達の視線が痛かった。彼らは無言だったが、その目は明らかに秋野を非難していた。こんな場面で勃起なんかしやがって、これで全体責任は決定だ――彼らの目はそう言っていた。

「もうその汚いチンポはどうでもいいわ。それはそのままでいいから、早く説明しなさい」

高瀬彩名が先を促す。秋野は舞い上がった頭の中で、混乱する思考をまとめようとした。しかし、自分でもうまく説明はできそうになかった。確かに、購入したエロ本やビデオには筋が通っていない。五本のうち二本はSだが、三本はMだった。ただ、はっきりしているのは、秋野にとって女子高生とは憧れの対象である、ということだった。憧れであるからこそ、時にはそれを汚したくもなるし、また時にはなりふり構わず跪きたくもなるのだ。秋野は、しどろもどろになりながら、どうにかその思いを言葉に置き換えて説明し始めた。

「自分にとって女子高生様とは常に憧れの対象であって、時々それをメチャクチャに汚したいという衝動に駆られる反面、しかし、やはり自分はそんなことのできる身分ではないとすぐに悟って、無性に跪かせていただきなるのです。自分など、女子高生様のお慈悲にお縋りすることしかできない卑しい人種だとわかってはいるのです。で、ですから、僕は、女子高生様を崇め奉りながら、その素晴らしいお体に舌でご奉仕させていただきたいだけなのです。勿論、セックスなどという挿入行為などおこがましくて、滅相もございません。僕はただ舐めさせていただくだけで充分幸せなのでございます。ぼ、ぼ、僕は、そんな変態マゾなのでございます! お願いいたします、彩名様、そして幹部の皆様、こ、こ、こんな自分にどうかご慈悲を!」

秋野は意味不明なことを喚き続けた。時々本当に、目の前で涼しい顔をしてふんぞり返っている、このお高くとまった小娘どもをまとめて犯してやりたい、と思うことはある。だが、すぐに、そんなことができるはずがない、と自分の立場を思い知り、結局のところ、その足の指を口に含ませていただきたい、と願ってしまうのだ。いつもその堂々巡りだった。犯したい、でもできない、ならば跪こう、そして苛めていただこう、それこそ悦びだ……そんな風に秋野の夢想は輪廻転生を繰り返す。それは永遠に抜け出せないメビウスの環だった。

ふと気がつくと、秋野はその場で土下座をしていた。額を床に擦りつけ、必死に詫びていた。体がワナワナと震えている。それは甘美なる屈辱の極みゆえのことだった。しかしその屈辱感は、決して不服なものではなかった。この美しき支配者達の前で全裸を晒して跪くこと、それこそが、秋野にとってはかけがえのない悦びだった。秋野は、こうして跪くことができて、純粋に嬉しかった。

「もういいわ。おまえの気持ちはよくわかった。でも、罰は罰として、全員に受けてもらうわ。たとえ頭の中での一瞬のことでも、私達を犯そうだなんて、決して許されることではないし。そういえば、おまえ達に連帯責任をとらせるのって随分久しぶりね。この頃、どうもみんなちょっと弛んでいるみたいだから、ちょうどいい機会だわ。すっごい偶然なんだけど、昨夜、愛香がとっても楽しそうなお仕置きを考えてくれたの。早速今日それを実行できるとは思っていなかったけど、試してみるわ。ところで、誰か私に何か言いたいことがある人はいる?」

高瀬彩名が教職員全員をゆっくりと眺め回して訊いた。もっとも彼女が一度決めたことに対して文句などあろうはずがなかったし、また、たとえ不満があったとしても、それを口にすることなどできるわけがなかった。だから全員が彼女の提案を受け入れ、首を横に振って不服の無いことを伝えた。それを見て高瀬彩名は満足げに頷き、腕時計をちらりと覗いて呟いた。

「いま八時十分か……もうそろそろ生徒達が登校してくる時間ね。それじゃあ、五分後に全員、校門前に集合しなさい、そこで今日のお仕置きがどういうものか発表するわ」

高瀬彩名がそう言い終ると、幹部達は立ち上がった。墨田ひとみが、まだ立ち尽くしたままでいる教師達に向かって、強い口調で言った。

「おまえ達、いま委員長が言ったことが聞こえなかったの? 五分後に校門前に集合よ。急ぎなさい!」

その言葉に、教師達はオロオロしながら退室を始めた。秋野は最後に特別会議室を後にした。彼の勃起は、教師達の列の最後尾について非常階段を駆け下りていくときも、依然としてガチガチに硬度を保ったままだった。この後、果たしてどんなお仕置きが待っているのか、それは誰にもわからず、教師達は階段を二段飛ばしで走り下りていきながら一様に、その不安に慄いていた。

白百合女子高等学校の開門は午前八時二十分である。教師達はコンベンションホールを出ると、全速力で校門へ向かった。全員がそこへ辿り着いたのは、五分後ギリギリの八時十五分だった。

この校門は、最寄りの私鉄駅前から続く一本道の終点となっている。しかし人家からは遠く離れているから、校門から見えるのは、木立が茂る中を蛇行しながら伸びる石敷きの坂道だけである。その坂道は、白百合学園の私道で、遊歩道として整備されている。校門がある場所は、白百合学園の敷地に入ってかなり進んだ位置にあるので、学園関係者以外がむやみに入り込んだり、覗き込んだりはできないよう設計されている。勿論、通学用遊歩道の入り口には、ガードマンが二十四時間常駐するゲートがある。

教師達がほうほうの体で校門に到着した時には、既に幹部の五人は煙草を吸いながら待っていて、全員が揃うと、高瀬愛香が、教師達は舗道を挟んで二列に分かれ、向かい合うようにして整列するよう命じた。その移動の間に、秋野は首からボードをぶら下げられた。それには『わたしはこんな本やビデオで毎晩オナニーしています』という文章と、その下に、先ほど会議室で読み上げられた本やビデオのタイトルが、黒いマジックでデカデカと列記してあった。

秋野と校長が、ふたつの列の先頭、つまりもっと校門に近い位置に立ち、教師達はその後ろに並びながら、次の命令を待った。幹部達は、校門を背にして立っている。高瀬彩名が一歩前に出て、腕を組むと、無言のまま教師達を睥睨した。その強い視線に、教師達はたちまち萎縮する。沢木美枝が「気を付け!」と一喝し、教師達が姿勢を正すと、ようやく高瀬彩名が口を開いた。

「それでは今日のお仕置きを発表するわ。今日はね、みんなで一斉にオナニーしながら生徒達の登校を出迎えるの。どう? 楽しそうでしょ? 言っておくけど、手を抜くのは駄目よ。何回射精してもいいから一所懸命シコりなさい。勿論、朝のご挨拶は、生徒ひとりひとりにきちんと言うのよ。つまり、おまえ達は生徒に向かって、おはようございますって言いながらシコシコするっていうわけ。わかったわね。私達はそこのベンチに座って見ているから、しっかりやりなさい。さあ、そろそろ生徒達がやってくるわよ。準備はいい? 最初の一人が校門を潜ったところからスタートよ」

「あっ、生徒が上がってきたわ」

嬉しそうに小菅恵が声を上げた。そして幹部達はベンチへ移動を始めた。教師達の間に緊張が広がる。やがて、最初の生徒が校門を潜った。その生徒は一瞬、ずらりと並ぶ教師達の姿に目を丸くしたが、すぐに事情を飲み込んで、おかしそうにニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「おはようございます!」

教師達が声を揃えて発し、一斉にオナニーを開始した。登校してきた生徒は、目の前で繰り広げられる異様な光景に、ケラケラと笑い転げている。その間にも、生徒達は続々と登校してきた。教師達は全身に嘲笑を浴びながら、一心不乱にペニスを擦った。

女子校の朝は、噎せ返るような十代特有の甘酸っぱい匂いに満ちている。よく笑い、よく喋る生徒達は何の屈託もなく、暗い影など微塵もない。彼女達の前では政治も文学も宗教もイデオロギーも全く無力である。短い制服のスカートから伸びる健康的な太腿、よく履きこまれたローファー、ルーズソックス、白いセーター、派手な携帯電話、柑橘系のコロン、プラダのバッグに揺れるキティのキーホルダー、無防備な色気と発育の良いボティライン、子供の顔に大人の体……彼女達はまるで悪戯好きの小悪魔のようだ。とても眩しい。かわいらしくて気まぐれで、無邪気で時には残酷で、笑いながらビンタが張れる。

「おい秋野、おまえなんて本見てセンズリこいてんだよ。ちょっと、この三番目のタイトルを口に出して言ってみろよ」

数人の一年のグループが秋野を取り囲むようにして立ち、あっけらかんと笑いながら促した。秋野は、自分の首に下がるボードを見て、タイトルを読み上げる。無論、右手では性器を擦り続けている。

「コ、コギャル女王様の人間便器、黄金の誘惑です」

震えながらそう答えると、グループのリーダーらしき女の子が、勃起している秋野のペニスをローファーの底でグリグリと踏みながら、さらに突っ込んで訊いた。

「人間便器って何だよ。それに黄金って、いったい何のこと? ほら、答えろよ」

彼女は、それが何を意味するか知っているが、あえて秋野の羞恥心を煽るためにわざとそう訊いたのは明白だった。しかし秋野は歯を食い縛ってペニスを踏むローファーの快感に耐えながら、しどろもどろになりつつ、素直に答えた。

「はい、人間便器とはその名の通り、自分の口を便器として女王様にお使いいただくことです。そして、黄金とは、ウ、ウ、ウンチのことでございます」

ギャハハハハハハハハ。周囲で大爆笑が沸き起こった。

「ってことは何? おまえ、ウンチ食ったりオシッコ飲んだりしたいのー? キモーい」

「バッカじゃなーい」

「ウンチ食うんだって、最低―」

「っていうか、ありえないよね、普通に」

「ありえなーい」

「全く、おまえ、生きる価値ねーよ」

様々な罵声が情け容赦なく秋野に浴びせられる。

「てめえ、調子こいてんじゃねーぞ、変態! ほら、もっとその貧相なチンポを真面目にシゴけよ」

「は、はい。も、申し訳ございません」

秋野はさらに激しく右手を動かした。グループのひとりが、笑いながら秋野の頬にビンタを張った。

「ありがとうございます!」

秋野は礼を述べ、猛然とシゴき続ける。

「ほら、ちゃんとウチらの目を見てシゴきな」

「はい!」

秋野は言われたとおり、生徒達の顔を見ながら右手を動かし続けた。そんな秋野を冷ややかに見下ろしながら、生徒のひとりが吐き捨てるように言う。

「マジでやってるよ、このバカ」

彼女達は、秋野を取り囲みながら、ほとほと呆れ返ったように腕を組んで、変態マゾ教師という奇妙で滑稽な動物をじっと凝視している。秋野は、その視線の呪縛の中で、息を荒くし、やがて華々しく精液を噴出した。

「あっ、こいつ、もう出しやがった。汚ーい」

秋野の真向かいでは、校長が、通り過ぎていく生徒達の餌食になっていた。校長は道行く生徒すべてからことごとく唾を吐きかけられて、全身唾塗れになりながら必死にシゴいていた。しかし、生徒達は誰一人として足を止めない。ただ通りすがりに、ペッと唾を吐いていくだけだ。唾に被われた校長の白い体が、朝の光を浴びてキラキラと輝いている。

そろそろあちらこちらで一回目の射精が始まっていた。誰かが射精する度に、その周囲で歓声が上がる。

やがてホームルーム開始五分前を告げるチャイムが鳴った。それを合図に、離れたヘンチで一部始終を観覧していた高瀬彩名が立ち上がり、ハンドマイクを使って、このオナニーショーの終了を告げた。すると、生徒達の間から軽い不服のブーイングが起こった。高瀬彩名は、それを窘めるように、「続きはホームルームで楽しんでね」と語りかけ、皆にもう教室へ入るよう促した。

生徒達は素直にそれに従い、教室へ向かいだした。まるで潮が退くように舗道から生徒達の姿が消えていく。学園の生徒は、決して高瀬彩名に逆らわない。しかしそれは、彼女を怖れているからではなく、心から信頼しているからだった。確かに白百合学園は高瀬彩なの絶対支配下にあるが、恐怖政治は行われていない。皆が自由奔放に学園生活をエンジョイしている。生徒達にとって高瀬彩名は横暴な専制君主というわけではなく、キリスト教に於けるイエス、イスラム教に於けるマホメット、仏教に於ける釈迦のような存在である。

生徒達の姿があらかた校門から消えると、教師達はようやく一息ついた。舗道には、放出した精液の染みが点々と付着している。高瀬彩名は、疲れきっている教師達に優しく微笑みかけながら近づき、ひとりずつ愛のビンタを与えていった。もうすぐイきそうという寸前で自慰を中断させられた者には十秒の猶予を与えて、射精を許可した。そして全員にビンタを与え終わると、舗道の中心に立ち、憐れな仔羊達を見回して言った。

「今日のお仕置きはこれでおしまい。さあ、全員早く教室へ行きなさい。ホームルームが始まるわよ」

「はい!」

教師全員が声を揃えてこたえた後、校長が教職員を代表して一歩前へ進み出た。そして、お仕置きの礼を述べた。

「彩名様はじめ、幹部の皆様、本日は、いたらない私どもにありがたいお仕置きを与えてくださったこと、心より感謝いたします。これを肝に銘じまして教職員一同、皆様の奴隷としてなお日々一層精進していく所存でございます。どうか、今後ともご指導のほどお願い申し上げます。今日は本当にありがとうございました」

「ありがとうございました!」

校長の言葉とお辞儀の後、他の教職員も同じように頭を下げた。その動きには、僅かな乱れもない。まるで鍛え抜かれた軍隊のそれのようだった。高瀬彩名が、最後に秋野を見て、言った。

「秋野、明日、例の本とビデオを持っていらっしゃい」

「はい!」

秋野は、背筋を伸ばして返事をした。その時、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

午前八時五十分。白百合学園の一日の始まりである。

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