鏡の壁

目の前の鏡の壁に、全裸の雫石和夫はぴたりと体を寄せた。ちょうど股間のあたりに直径が十センチほどの丸い穴がくり抜いてあり、和夫はそこから勃起しているペニスを壁の向こう側へ突き出した。鏡の感触が肌に伝わってきて冷たい。その鏡はマジックミラーになっているらしい。先ほど、そう聞いた。和夫の格好は、おぞましい。両足を軽く開き気味に立ち、ひしゃけた蛙みたいに両手を広げて鏡にへばりつき、小さい穴からペニスを突き出している。

鏡の向こう側から、複数の女性達の乾いた嘲笑が響いてくる。和夫は頬を鏡に押し付けるようにして密着させながら、その笑い声を聞いた。言い知れぬ恥辱に、顔には血が上り、ペニスは硬度を増して反り返っていく。一段と大きな歓声があがる。何も見えないから、和夫の羞恥心はさらに募った。

和夫が今いる部屋は、広さが二畳ほどで、壁には全面、鏡が張られており、煌々と明るい光に照らされている。そして右耳だけに小型のイヤホンが差し込まれていて、絶えず、向こう側にいる女性達の声が聞こえていた。声はペニスを出している壁の穴からも漏れ聞こえてくるが、イヤホンを通したほうがよく聞こえる。どうやら、女性達は真ん中にハンズフリーの送信機を置き、その周囲で喋っているらしく、いろいろな声が混じっている。その声に、極限にまで欲求不満に陥っている和夫はいとも簡単に興奮してしまっており、さらに、まるで目隠しをされて晒し者になっているようなこの状況が、一層彼の羞恥心を煽っていた。和夫の声は、天井にマイクがあって、それを通して向こう側に筒抜けになっている。和夫は、もじもじと悶えながら、微かに腰をくねらせている。

「やだあ、こいつ身悶えてるわよ。しかも、ほら見て。チンポの先から何か滴らせてるわ。何かしら? ねえ、おまえ、いったい何を垂らしてるの?」

鏡の向こう側からそう問う声が聞こえて、和夫は喉を震わせながらこたえた。

「チ、チンポ汁です」

そのこたえに、嘲るような大爆笑が沸き起こり、和夫の全身から一気に汗が噴き出した。鏡についた手のひらがじっとりと汗ばんでいる。と、誰かの手がペニスに触れられた。和夫はピクンと反応し、その包み込まれるような柔らかい感触に、思わず腰を振ってしまった。

「いやねえ。こいつ、腰振ってるわ」

そう言いながら、見えない相手は調子に乗って軽くそのペニスをシゴいた。そして、余り気味の包皮の先端を指先で摘むと、ピーンと引っ張った。

「包茎よ、ホ・ウ・ケ・イ。最低じゃん。ハハハハハ」

続いて、俄かに手拍子と共に包茎コールの大合唱が起こった。

「ホ・ウ・ケーイ、ホ・ウ・ケーイ、ホ・ウ・ケーイ」

和夫はペニスを摘まれたまま何度も唇を舐め、刺激に悶々としながら、その包茎コールを聞いていた。見えない相手はやがて、和夫のペニスをぎゅっと握ると、そのまま手を先端へ向けてスライドさせ、包皮ですっぽりと和夫の亀頭を隠し、乾いた笑い声を響かせた。

「ほーら、完全な包茎チンポの出来上がり」

屈辱の極致だった。知らない女性、それも、自分よりも年下の女性複数に、いま自分はなす術もなく好きなように弄ばれている……それを考えると、和夫はさらに興奮した。

そうしているうちに、ウィーンというモーター音がして、ピンクローターがペニスにあてがわれた。そしてその上からヌルヌルするコンドームを被せられ、固定される。その刺激に、和夫は堪らず喘いだ。どうやらリモコンで強弱がつけられるらしく、振動は一定ではなかった。時々強くなったり、弱くなったりして、和夫を翻弄する。和夫は無意識のうちに全身を鏡に押し付けていた。出し惜しみされるように寄せては帰す小波みたいな快感がひどくもどかしかったのだ。気がつくと爪先立ちになっていて、嘲笑を嬉しく受け止めながら、ピリピリと痺れるようなマゾヒズムに和夫は全身を支配されていた。

もう恥も外聞もなかった。いったい何人の、そしてどのような女性達に見られているのか、鏡の向こう側の状況はまるでわからなかったが、それが逆に和夫の気持ちを昂らせていた。とてもではないが、いまの和夫の姿は、まともな男性が女性の前で晒す姿ではなく、完全に常軌を逸していたが、しかし、一度火が点いてしまった興奮はどうしようもなかった。和夫の理性は、マゾヒズムの暗い誘惑の前に、既に敗北していた。和夫は三十二歳の社会人としての仮面を脱ぎ捨てて放棄し、本能の赴くがまま己の欲望に対して忠実に従いながら、決して人には言えない部類の秘密の快楽に酔い痴れ、溺れていた。

「よーし、じゃあ、そろそろチンポは飽きたから、後ろを向いて、お尻をその穴からよく見えるようにこっちへ向けなさい」

笑いながらひとりの女性が言い、和夫は命じられたとおり、バイブが装着されたままのペニスを穴から抜くと、後ろを向き、少し腰を落として、ちょうどアナルが穴の位置にくるように尻を突き出した。両手を、曲げた膝に置いて体を支える。

真正面の鏡の壁に、前屈みになって尻を背後へ突き出す自分の姿が映っていて、和夫は赤面した。赤黒く色素が沈着しているペニスにはコンドームが被せられ、その中で卵型のバイブが蠢いている。ひどい格好だった。

「ほら、手で尻を広げなさい、汚いアナルが見えないでしょ」

また命令されて、和夫は両手を後ろに回して尻の肉を掴むと、ぐいっと開いて鏡に密着させた。すると、露わになった尻の割れ目に冷たいトロリとした液体が垂らされ、ビニールの手袋をはめた誰かの指が、アナルを弄り始めた。最初は穴の周囲を優しく撫でるようにその指は動いていたが、次第に大胆になってきて、やがてずっぽりと嵌りこむと、そのまま内部の粘膜を掻き回すように動き出した。和夫は見知らぬ誰かに犯されながら、そのあまりに気持ちよすぎる快感に、殆ど反射的に尻をもぞもぞと捻った。

「き、気持ちいいですぅ」

堪らず和夫は声を漏らした。

「この変態、一丁前によがってるわよ」

楽しそうな女性の声が聞こえた。ふと視線を上げると、正面の鏡に、信じられない格好で後方へ尻を突き出して犯されている全裸の自分がいて、和夫はますます興奮した。横の鏡を見ると、体をくの字に折って押し寄せる快感に堪えている自分がいた。それはもう、知性のある人間の姿ではなかった。まさに動物だった。一匹のマゾ豚……そんな言葉が和夫の脳裏に浮かんだ。節操なくダラダラと透明な汁をコンドームの中で垂らし続けている、そのピンクの股間が卑猥だった。

突然、アナルから指が引き抜かれ、すかさず異物が挿入された。それは極太のバイブレーターだった。ペニスとアナル、ふたつの性感帯を同時にバイブで責められ、和夫は我を忘れた。この狭い部屋で彼はひとりだったが、鑑の向こう側には、破廉恥な姿を見ながら笑っている女性が何人もいる……その認識が、和夫を狂わせていく。ある女性は煙草を吸いながら、またある女性はお酒でも飲みながら、軽蔑の眼差しを投げかけて鏡の中の変態ショーを鑑賞しているのだろう。その屈辱的な想像が、和夫をさらなる倒錯した妄想の世界へと誘った。

約一時間前。和夫は一ヶ月に一度のペースで通っているSMクラブから、プレイを終えて出てきた。60分のMコース。相手は、いつも指名しているレイコという女王様で、ここ半年くらいずっと通っているから、プレイもツボを押さえたもので、和夫は満たされた気持ちで店を後にした。時刻は午前零時に近かった。クラブ前の道路は既に暗く、人気も全く無かった。このクラブ前の道は、昼間から夕方、そして宵のうちにかけては人通りが絶えないのだが、午後十時を過ぎるあたりからぱったりと寂しくなる。だから和夫はその時間を狙って店を訪れる。やはり、クラブのドアを潜るところはあまり人に見られたくないし、まして、出てくるところを見られるのはもっと恥ずかしい。たぶん一発抜いた後だから、妙にすっきりとした顔をしているだろうし、普通のヘルスとかならいざ知らず、SMクラブとなると、あからさまに好奇な目で見られる。それが女の人なら「やだあ、この人、いまここから出てきたってことは、お金を払って苛めてもらったばかりなのね。どんなことをされたのかしら? ヘンターイ」という軽蔑の視線もマゾヒスティックでいいが、男だと最悪だ。実際、一年ほど前に、たまたま土曜日の昼間に来たことがあって、その時、ちょうど店から出たところで同年輩のサラリーマンの一群と鉢合わせしてしまった。あの時はどうにも恥ずかしくてたまらなかった。それ以来、クラブへ行くのは夜の十時以降にしよう、と自分で決めた。

今夜のプレイは、和夫にとって非常に満足できるもので、店のドアを開けて道路に出たときには、全身に充実感が漲っていた。女王様の足の指も充分に堪能できたし、アナルも犯してもらえたし、背中には鞭の跡が残っているし、聖水もたっぷりと頂けた。オナニーも今夜のために三日間我慢していたから、思う存分大量に射精することが出来て、和夫はささやかな幸福の絶頂にいた。

和夫は俯き加減で足早に店の前を離れると、街灯が寂しく灯るだけの狭い道を、地下鉄の駅に向かって歩きだした。店から駅まではほんの数分だ。しかし、地下鉄に乗る前にコンビニに寄ってジュースとパンでも買おう、と思い、和夫は踵を返すと、また店の前の方へ戻った。

ポケットに両手を突っ込んで、つい今しがたのプレイの様子を思い出しては、自然とにやけてくるのを我慢して、和夫はもう一度クラブの前を通って、暗い道を歩いた。昂っている気分を鎮めるために、少し歩こう、と和夫はさらに思い、ファッションヘルスの前を通り過ぎると、直接コンビニへは向かわず、狭い小路へ折れて、アーケードの商店街の方へ進んだ。いくら深夜で人通りが少ないとはいえ、ニヤニヤと思い出し笑いしながら歩いている男というのは気持ち悪い。ちょっと危ない人だと思われてしまうかもしれない……そういう意識が常にあって、和夫は自制しながら狭い小路を歩いた。やがて、ひっそりとしたアーケードの商店街に出て、しばらく歩き、次の交差点でコンビニの方向へ曲がった。そして、再びSMクラブ前の道との交差点に出ると、車が来ないことを確認して、小走りで通りを渡った。と、その時、俯き加減だった和夫の視界に、ふたつの影が立ち塞がった。和夫は足を止め、つと顔を上げた。すると目の前に、ぞっとするほど美しい、長身の女性が二人、唇に冷笑を浮かべながら立っていた。年の頃は二十代の前半といった印象で、ウェーブのかかった髪や、原色のスーツなど、彼女達は全体的にゴージャスな雰囲気を身に纏っていた。履いているヒールは優に十センチはあり、そのため、身長は軽く180センチはありそうだった。和夫は 167センチしかないから、その差は二十センチほどあった。和夫は突然塞ぐように現れたふたりに、一瞬ドキッとしたが、すぐに視線を再び路面に落として、その脇を通り抜けようとした。すると、赤いスーツを着た女性が、和夫を呼び止めた。

「ねえお兄さん、あなた今そこのSMクラブから出てきたところでしょ? 嘘をついても駄目よ、見てたんだから。で、どっち? S? M?」

唐突にそう訊かれて、和夫は咄嗟に返事が出来なかった。まともに彼女達を見ることすら出来ず、俯いたまま無言でいた。すると、黄色いスーツを着た女性が、返答に窮している和夫の顔を下から覗き込んで言った。

「ははん、もしかしてM男くんかなあ? こういう態度ってマゾに多いのよねえ。モジモジしてさあ、そのくせ、どうせ勃起してたりするんでしょ」

その言葉には明らかに侮蔑の響きが込められていた。しかし和夫はその通りだったので、一層何も言えなくなってしまった。顔が真っ赤になった。街灯の光が女性達の影を淡く路面に落とし、相変わらず誰も通らず、人通りは途絶えたままだった。

「ほら、答えなさいよ、どっちなの? マゾなんでしょ? あなたは恥ずかしい格好を見てもらったり、鞭で打たれたり、オシッコを飲んで喜ぶ変態なんでしょ?」

畳み掛けるように、黄色いスーツの女性が言った。和夫はつい、「はい」と小さな声で答えてしまった。すると、ふたりの女性は顔を見合わせて低い笑いを漏らし、それぞれ軽くハイヒールの爪先で和夫の足を蹴った。もちろん和夫はされるがままだった。

「あーら、『はい』だって。変態なんだー。気持ち悪いね。ほら、『僕は変態マゾです』って言ってごらん」

赤いスーツの女性が軽い蹴りを続けながら促した。和夫は観念して言った。

「ぼ、僕は変態のマゾです」

小声でそう言うと、今度は遠慮のない爆笑が起こった。その声は深夜の街路に響き渡り、和夫は笑われながら、誰か出てきやしないか、と気が気でなかった。しかし、幸いその危惧は杞憂に終わった。いつまでたっても辺りは静かだった。

やがてひとしきり笑って一段落すると、黄色いスーツの女性が和夫に訊いた。

「ねえ、これから私達がおまえを苛めてあげようか? いいところへ連れていってあげるわ。どう? 来たい?」

その言葉を赤いスーツの女性が受けて続けた。

「私達って言っても二人だけじゃないのよ。もっとたくさんいるの。それで、その全員の前でおまえは恥ずかしいことをいっぱいするの。もちろん全員女性よ。どう? そそられるでしょ?」

確かに、それは和夫にとって魅力的な提案だった。しかし同時に、果たしてそんな美味しい話などあるのだろうか、という警戒心があった。悪質な美人局か何かではないのか。それに、プレイをしてきたばかりだから、財布の中身もかなり寂しく、一万円ちょっとしか入っていなかった。だから、お金を請求されたら払えないし……一瞬の間に、和夫はそう思いを巡らせていた。すると、そんな和夫の不安を見透かしたように、黄色いスーツの女性が言った。

「ねえ、私達は趣味でM男を苛めるのが好きなだけだから全然怖くはないわよ。本当に女の子ばかりだし。どうせ、美人局か何かだと心配してるんでしょ。だったら安心していいわ」

「い、いえ、そんなことはないんですけど……あのう、ぼ、僕、あんまりお金を持っていないんですけど……そ、それでもいいのですか?」

しどろもどろになりながら、和夫はおずおずと訊いた。内心、気持ちはすっかり傾いていた。行きたい、と強く思った。それでも、まだ不安だったのだ。

「おまえ、いま私が言ったことを聞いてなかったの? 趣味って言ったでしょ? だからお金なんか取らないわよ」

「そ、それでよかったら、是非行きたいです」

反射的に和夫は言った。まだそれが本当か嘘かもわからないのに、和夫は現金にも、どんな風に苛めてもらえるのだろう、と早速想像してしまった。期待が高まり、それに比例して性器がズボンの下で見る間に固くなった。

「おまえ、『行きたいです』じゃないだろ。『連れていって下さい、お願いします』じゃないの?」

すかさず赤いスーツの女性が冷たい口調で訂正を求めた。和夫は素直に謝り、言い直した。

「申し訳ございません。連れていって下さい、お願いいたします」

和夫が深々と頭を下げると、ふたりの女性は小さく頷きあい、和夫に、傍らに停めてあるクーペを示した。

「それじゃあ、この車に乗りなさい」

黄色いスーツの女性が運転席のドアを開いて後部座席に和夫を押し込んだ。そして、シートを直して座り、差したままだったキーを回した。そして、赤いスーツの女性が助手席に納まると、車は発進した。走り出してすぐ、助手席の赤いスーツの女性が体を捻ってバックシートを振り向き、アイマスクを和夫に手渡して、装着するよう命じた。和夫は、どこへ連れていかれるのだろう、と不安になり、訝しんだが、その先に待っている誘惑には勝てず、そのアイマスクを付けた。

「ちゃんと見張ってるからね。もしもずらして外を見たり、ちょっとでも怪しい素振りを見せたりしたらその場で降りてもらうわよ。わかった? 私達に苛めてもらいたいなら変な詮索なんかしないで着くまでおとなしくしてなさい」

「はい」

まだ完全に美人局や恐喝に対する不安が去ったわけではなかったが、もうどうにでもなれ、といった一種開き直りに似た心境で、和夫は覚悟を決めると、何も見えない闇の中で頷いた。

どれくらいの間、車に揺られていたのか。視界が塞がれているというだけで、和夫は時間の経過が全く掴めなかった。カーステレオは沈黙していたし、女性達はふたりとも殆ど喋らなかったから、時間の経過を計る手がかりさえなかった。和夫は黙って車の振動に身を任せていた。どこへ向かっているのかまるで定かではなかったが、着いた後への期待が大きかったから、さほど苦にはならなかった。

そして三十分以上、一時間以下の時間が経過した思われる頃、車がようやくどこかに着いて止まり、ドアの開く気配がして、女性の声がした。

「さあ着いたわ。でもまだアイマスクは取っては駄目よ。もうちょっと我慢しなさい」

和夫は目隠しをしたまま車から降ろされ、手を引かれてヨロヨロと歩きだし、彼女達の先導で階段を下りた。そしてドアが開かれ、中に入ると、大勢の人がいる気配を感じた。しかし声は聞こえなかった。和夫は、そのままさらに歩かされ、もう一枚ドアを抜けたところで、片方の耳にイヤホンを差し込まれた。すると、いきなり人々のざわめきが聞こえてきた。傍らに立って寄り添っていた女性が、和夫の肩をポンと軽く叩いた。

「それじゃあ、私がドアを閉じて出て行ったらアイマスクを取っていいわ。その後の指示はイヤホンで伝えるから」

数秒後、ドアが閉じられた。和夫は、もういいだろう、と思い、ゆっくりとアイマスクに手を掛けた。それと殆ど同時に、イヤホンから先ほどの女性の声が響いてきた。

「さあ、アイマスクを取ったら、そこで着ているものを全部脱ぎなさい」

和夫は思い切ってアイマスクを取った。すると、四方を取り囲む壁には全て鏡が張られていて、自分の姿が映っていた。和夫はそれを見て心底から驚いた。部屋は狭く、ちょっと高級なブティックのフィッティングルームのようで、言葉もなくキョロキョロと見回していると、いきなりイヤホンから厳しい女性の声が伝わってきた。

「ほら、早く脱ぎなさい」

その声の背後で笑い声が広がった。和夫は混乱したまま、それでも服を脱ぎ始めた。四方を鏡に囲まれて服を脱いでいくのは妙な気分だった。

「その鏡はね、マジックミラーだから、そっちからこっちは見えないけど、こっちからは丸見えになっているのよ。ほら、とっとと裸になりなさい。何をグズグズしてるの」

和夫はジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、ズボンを下ろし、シャツを取り、靴下を脱いで、白いブリーフ一枚になった。

「やだ、こいつ。いまどきブリーフよ。しかも、白。ハハハ。それになんか膨らんでるわよ。やらしい」

これまでとは違う女性の声がした。和夫がブリーフを脱ぐことに躊躇していると、「さっさと脱げ、バカ」と叱られた。和夫はその声に、まるで弾かれたように白いブリーフを下ろした。大爆笑がイヤホンと壁越しに直接聞こえた。その笑い声によって和夫の羞恥心とマゾヒストとしての性に火が点き、ペニスが一気にいきり立った。

「わあ、マジで変態ね。でもいいわ、いい感じよ。じゃあ、おまえの前に小さな円い穴が開いているでしょ? そこからそのいやらしいチンポを突き出しなさい。でも、その穴からこっちを覗いては駄目よ。わかった? わかったらちゃんと返事をしなさい。おまえの声は天井のスピーカーで拾ってるから、遠慮せずに恥ずかしいことをいっぱい言いなさい。それと、この様子はビデオで録っているから、帰りにダビングして進呈するわ。いい記念になるでしょ? カメラはね、おまえの後ろとこっちの部屋にあるわ。それじゃあ、そろそろ変態マゾ豚ショーを始めましょうか。まずはご挨拶からね。台詞はおまえに任せるわ。ほら、私達にご挨拶なさい」

和夫は意を決して一糸纏わぬ生まれたままの姿で鏡に歩み寄り、全裸の自分に向かって言った。

「皆様、ぼ、ぼ、僕の変態な姿を見てください。そして、このいやらしいチンポを見て笑ってください!」

目を瞑って一息にそう言うと、和夫は鏡に開いている小さな穴から勃起しているペニスをぐいっと突き出した。

ペニスに装着したピンクローターとアナルに差し込まれたバイブから伸びる二本の細いコードが、先ほどまでペニスを突き出していた鏡の小さな穴に消えている。和夫は快感に身悶えながら、そのコードを目で追った。まさに和夫は今、そのコードによって支配されているといっていい状態だった。

「おい変態、そこに四つん這いになって、こっちを向いてみな」

イヤホンから声がして、和夫はガクガクと震える膝を床につくと、体を折って両手を床についた。しゃがむ時、ちらりと穴の向こう側が覗けた。ほんの一瞬だったからあまりよくは見えなかったが、少なく見積もっても鏡の向こうには五人の若い女性がいた。その誰もがカーペットが敷き詰められた床で直に座り、足を投げ出したり、胡坐をかいたり、思い思いの格好で寛いでいた。

「おまえ、今、こっちを覗いただろう」

四つん這いになった瞬間、鋭く咎める声がイヤホンから響いた。和夫は鏡に向かって「申し訳ございません!」と頭を下げた。しかし女性の怒りは収まらず、「ちょっと待っていなさい」と言うと、そのままの姿勢での待機を命じた。

和夫は言われた通り、そのまま待機した。ちらりと自分の股間を覗き込むと、床についた手と足の間に、ローターと一緒にコンドームに包まれた性器が見えて、その歪な膨らみが卑猥だった。絶えずバイブは蠢き、尻の穴は収縮を繰り返している。下唇を噛んでその快感を堪えるように俯くと、すかさず、「顔を上げろ!」という叱責が飛んできた。

「こっちを覗いた罰として、これから、おまえをもっと変態にしてやるわ。ほら、これを吸いなさい」

その声とともに、円い穴から紙コップが差し入れられた。受け取ると、その中には丸められたティッシュが入っていて、何かの液体が沁み込ませてあった。

「さあ、その匂いを嗅いでごらん。口を閉じて、鼻からゆっくり吸い込むの。で、吐く時は口から大きく吐いて。それをゆっくり何回も繰り返しなさい。ほら、やってごらん」

和夫はよくわからないまま紙コップを鼻にあてがい、深呼吸と同じ要領で気体を吸引した。何なんだ、これは? 得体の知れない匂いに戸惑いながら、それでも和夫は命じられた通りに何度もその気体を吸い込んだ。すると、じきに、頭がおかしくなってきた。中のティッシュに沁み込ませてあるのは、どうやら合法ドラッグの一種らしいとわかったが、そういった種類の薬物を経験するのは初めてだったので、和夫はだんだん訳がわからなくなってきた。次第に目の焦点が怪しくなり、それと比例するように、なんとも形容しがたい欲望の炎が燃え盛った。顔が熱い。いや、体中が熱かった。何より、股間の熱が想像を超えていた。こめかみの辺りがドクドクと脈打ち、和夫は自制が効かなくなってきた。どうしようもなくイヤらしい淫らな気分だった。それまで僅かに残されていた理性はすっかりどこかへと吹き飛び、和夫は今にも狂いそうな感じに陥った。イヤホンから聞こえてくる女性達の笑い声が、バイブの振動と相俟って、和夫のマゾ性を激しく翻弄していく。和夫は、叫んだ。

「お、お願いします、オ、オ、オナニーをさせてください!」

膝で立って鏡に寄り、腰をモゾモゾさせながら、鏡の向こうにいるはずの誰かに向かって懇願する。

「こいつ、メチャクチャ面白ーい。バリバリに効いてるじゃん。ギャハハハハハ」

「おまえ、自分が何を言っているかわかってるの? オナニーなんてイヤらしいことは、普通、ひとりでこっそりとするものでしょ? こっちには大勢の女の子がいるのよ。それなのにオナニーがしたいだなんて、バッカじゃない?」

侮蔑の言葉が次々に浴びせられた。しかし和夫にとって、それらの言葉は、今や蝋燭や鞭と同じ、調教のための道具だった。和夫は鏡の壁ににじり寄り、小さな穴から外を覗いた。どうしても、どんな女性に見られているか知りたかったからだ。

「おまえ、こっちを見るなって言っただろ。しょうがない変態ね。そんなに誰に見られているか知りたいの? じゃあ、見てごらん。どう? みんな美人でしょ? 六人もいるのよ。しかもみんな女子大生。それもおまえみたいな安物のサラリーマンとは住む世界が違うお嬢様学校の女子大生よ。あーあ、情けないわねえ。男のくせに自分より一回り以上も年下の女の子達に変態な姿を見られて興奮してるなんて……でもまあ、おまえみたいな人間の屑にはお似合いだけどね。だって、おまえみたいに下等な人種の場合、こんなことでもないと、私達みたいな高級な人種とは接点すらないもんね。でも、絶対に触ることはできないわよ。おまえは私達に見られながらシコるだけ。憐れねえ。だけど、それで充分でしょ? っていうか、そのほうが嬉しいでしょ。なんといってもおまえは変態のマゾなんだから」

ケラケラと笑い続ける女性達の笑顔を小さな穴から見回しながら、和夫はなおも懇願する。

「お、お願いします! ぼ、僕のオナニーを見てください!」

知らぬ間に強くペニスを握っている。無造作に投げ出された彼女達のストッキングに包まれた脚が悩ましかった。赤く濡れたように光る、大きく開かれた口紅の唇。無遠慮に降り注がれる軽蔑の眼差し……彼女達のそれらすべてが艶かしかった。

「お願いします、お願いします、ぼ、ぼ、僕のオナニーを……」

「ったく、オナニー、オナニーって、おまえ、ちょっと頭がおかしいんじゃないの?」

また大爆笑が沸き起こる。和夫はそれを全身で浴びながら、ただひたすら射精することのみを切望していた。マゾヒズムのバロメーターの針はとうにレッドゾーンへと突入し、振り切っている。つい一時間ほど前にSMクラブでたっぷりと放出したばかりだというのに、早くも睾丸では精子の生産体制がフル稼働状態に入っている。

鏡の向こうでひとりの女性が立ち上がり、和夫のほうへ歩いてきた。和夫はドキドキしながらその接近を凝視した。しかし、女性は穴の前まで来ると、すっとしゃがみ、「はい、もうおしまい」と言って、穴のシャッターを下ろしてしまった。その瞬間、女性のスカートの奥にちらりと、ベージュ色のパンティが覗けた。しかし和夫にはどうすることも不可能で、ただじっと未練がましく塞がれた穴を見つめるだけだった。コードがあるので完全には閉まっていないが、もう向こう側を見ることは出来なかった。下ろされたシャッターにも鏡が張られていて、赤く充血している自分の目だけが映っている。

和夫は再びひとりになった。脳裏には今のベーシュ色のパンティの残像がはっきりと焼き付いており、なまじか生身の女性を見てしまったがために、和夫の煩悩はチリチリとショートしていた。まるでお預けを食った犬のようだった。瞬間的に見えたパンティの残像がいつまで経っても消えず、和夫はその匂いが嗅ぎたくてたまらなかった。きっと暖かくて、とても良い匂いがするに違いない。そして、その匂いを嗅いで自慰をする自分の姿を見ていただきたい、と思った。いまの女性はストッキングを穿いていなかったから、白い太腿の肉感が素晴らしかった。スベスベしていそうで、柔らかそうで、舌を這わせたら吸い付くようだろう、と想像した。俄かに和夫は高まる。薬の効果が薄まってくると、絶妙のタイミングで鏡のシャッターが開き、追加の紙コップが投げ入れられた。和夫は狂ったようにそれを吸引した。もう制御が効かなかった。妄想が暴走を始めていた。薬のせいだろうと簡単に想像がついたが、意志と理性は完全に離反していた。だから、普段であれば絶対に口に出来ないような破廉恥な台詞でも、何の躊躇もなく口にすることが出来た。和夫は伏せてあった紙コップを拾い上げて、また思いっきり深く薬を吸った。そして、薬が効いてくると、絶叫した。

「お願いします、今の方、どうかパンティをお与えください。ベージュ色の素敵なパンティが見えてしまいました。すみません。でも、そのパンティの匂いが嗅ぎたいのです。ああ、あなた様の匂いを嗅がせてください! お願いします、その匂いでオナニーをさせてください! どうか、どうかよろしくお願いします。そして、そのオナニーをする姿を見て笑ってください! 変態の僕をバカにしてください!」

和夫の人格は既に崩壊の兆しを見せ始めていた。このようなことを平気で言えることからして、それは著しく明白だった。

渦巻く嘲笑の中から、様々な女性の声が、途切れ途切れに聞こえてくる。

「面白そうじゃん、与えてみなよ」

「嫌よ、そんなの。朝からずっと履きっ放しなのよ」

「何言ってるのよ、そういうのがこいつにはいいんじゃん」

「やだ、恥ずかしいわ。匂いがしたらどうするの?」

「それこそ、こいつにとっては最高じゃん」

そんな遣り取りを和夫が悶えながら聞いていると、イヤホンに、さっきとは別の女性の声が流れてきた。

「ほら、おまえからももっとお願いしなくちゃ駄目でしょ? おまえはどういうパンツが好きなの? どういうのがいいのか細かく言ってごらん」

和夫は嬉々としてこたえる。

「はい。僕は匂いのキツいパンティが大好きです。そして、出来ればいろいろな沁み……例えばオシッコとかウンチとか愛液とか、とにかく汚れていればいるほどいいです。お願いします、僕に匂いを嗅がせてください!」

必死だった。和夫は鏡の前で中腰になったまま、声高にそう叫んで精一杯の誠意を示した。また遣り取りが聞こえてくる。

「ほら、この変態がこんなに必死に求めてるのよ。与えてみなよ。どんな風にオナるか、見てみたいじゃん」

「でも……」

「いいから。早く脱いでこいつに渡して。みんな見たがってるわよ」

「そう?」

「そうそう、ね?」

周囲に同意を求める声、そして皆が頷く気配。和夫の胸が高鳴る。動悸が早くなり、ペニスの硬度が増していく。和夫はまた薬を吸った。

そして。

果たしてシャッターは開かれた。「ほら」という声と一緒に、丸められたベージュ色の布が投げ込まれる。和夫は急いでそれを拾い上げた。

「ありがとうございます!」

言い終わらないうちに和夫はぎゅっとそのパンティを握り締めていた。手のひらに温もりが伝わる。和夫は、逸る気持ちを抑えてゆっくりとパンティを広げた。すると、それはフロントの部分だけが花柄のレースになっていて、あとは無地だった。和夫はいろいろな角度からまじまじとそのパンティを鑑賞してから、ついに、そこだけ分厚くなっているクロッチの内側に鼻を強く押し付けると、深々と匂いを嗅いだ。暖かい匂いが素晴らしかった。初めて体験する女性の生の芳香だった。薬を吸引する時と同じように、和夫は鼻を鳴らしてスーハースーハーとその匂いを嗅いだ。呆れきったような嘲笑が爆発的に起こる。

「バッカみたーい」

「正真正銘の変態だわ」

「最低ー」

「よくやるわ、この豚」

鏡の向こうで口々から漏れるそんな感想が、さらに和夫を変態な気分にさせた。

「どう? いい匂い? 最高?」

そう訊かれて和夫は、「はい、ありがとうございます! 最高でございます!」と心ゆくまでその芳香を堪能しながらこたえた。バイブの振動と、鏡に映る自分の常軌を逸した姿に、被虐感が盛大に煽られた。いまや、和夫は完全な変態だった。床に跪いて、一心不乱にパンティの様々な部分の匂いを嗅ぎ続けている。

やがて和夫は耐え切れなくなって、おもむろにペニスを包んでいるコンドームを剥ぎ取ると、猛然とシゴき始めた。もうバイブレーションだけでは満足が得られなくなっていた。床に落ちたローターが空虚に震えている。口を半開きにした恍惚の表情で自慰に耽る和夫に、女性達の歓声が届く。和夫はその声によってさらに興奮を煽られ、ますます盛っていく。動かす手にも、自然と力がこもる。

薬品のせいで靄る頭には、天使と悪魔のごとく二つの意識があった。ひとつは、正常な人格が瓦解していく快楽に溺れている自分、もうひとつは、そんな自分を醒めた目で憐憫とともに眺めている冷静な自分、そのふたつの意識がこんがらがって混在していた。おれはこんなところで何をしているんだ? という理性ある思考と、もっともっと、とさらなる被虐的刺激を貪欲に求めているマゾとしての本性が、激しくせめぎ合っている。和夫は、どちらが本当の自分なのだろう? と意外なほど冷静に分析しようとしていた。しかし、恥ずかしげもなく破廉恥な自慰を晒している、と認識した瞬間、和夫の意識は別の世界へと雄飛した。

だんだん、もう自分が何をしているのかよくわからなくなってきた。ただ、シゴかずにはいられなかった。自分は今、途轍もなく恥ずかしい格好を見られて、嘲笑われている……気がつくと、その喜びだけに支配されていた。

和夫はパンティを手に持っていることがもどかしくなり、頭に被った。もちろんクロッチの内側がちょうど鼻を塞ぐよう、位置は合わせた。鏡に、とてもこの世のものとは思えない、おぞましい自分の姿が映った。全裸でパンティを頭に被り、尻の穴にバイブを咥え込んで自慰をしている三十二歳の男……。

「やだあ、こいつ、なんて格好をしてるの? 人間のする格好とは思えなーい」

「なんか、こんな奴が普段、背広を着てネクタイを締めて、普通に社会生活を送っているかと思うと呆れるわね。マトモな顔をして生活しながら、頭の中ではいつもこんなことを考えているんでしょ? 病気よ、病気」

「っていうか、こいつ人間? 絶対、頭おかしいって。ハハハハハハ」

和夫はひどく喉が渇いていた。膝がガクガクと震えている。調子に乗って薬品を摂取しすぎたのだろうか。体の平衡感覚も危うい。和夫は、快楽の崖っぷちに立っていた。

不意に穴のシャッターが開き、そこからひとりの女性が内部を覗き込んだ。そして、和夫を手招きする。

「おい変態、ちょっとこっちへおいで」

呼ばれて、和夫は自慰を中断し、何だろう、と思いながら穴に顔を近づけた。すると、いきなり何か液体を浴びせられた。咄嗟に目を瞑ったが、あっという間に和夫の顔がびしょ濡れになる。女性達の乾いた笑い声が一段と高くなった。和夫は目を開き、濡れた自分の顔を手のひらで拭った。そして、唇を舐めてみると、苦味が舌を痺れさせた。こ、これは! 和夫は瞬間的に沸騰する。微かな匂い……それはまぎれもなくアンモニア臭だった。瞬間的に目は瞑ったが、間に合わなかったのか、ひどく目が沁みている。和夫は何度も瞼を擦りながら、これは聖水だ! と歓喜した。

その感慨に耽っている間もなく、再びシャッターが開かれた。さっきとは違う女性がまた和夫を呼ぶ。和夫は目を瞬かせながらも、穴の前へ進み、正座した。すると、女性はニヤニヤ笑いながら、「もっと近くへ寄りなさい」と促した。それに従って和夫は鏡に接近し、腰を浮かせた。間近に、化粧映えのする女性の派手な顔が迫り、香水のいい香りが鼻腔を擽った。

「ほら、観光地にある記念写真のボードみたいに、この穴から顔だけ出してごらん。パンツは取ってね。さあ、早く」

「はい」

和夫はさらに腰を浮かせて、穴の高さに合わせ、顔を出した。すると、寛ぐ大勢の女性の姿が目に入った。先ほどオシッコをかけてくれた女性がいる。缶ビールを飲みながら顔をほんのりと赤らめている人もいる。煙草を吸いながら立て膝で、ストッキングに包まれた太腿を見せつけて笑っている女性もいる。そして、今まで頭に被っていたパンティを与えてくれた、ベージュ色のそれの提供者も、当然その中にいた。その女性は体育座りのような格好で、軽く足を開きながら両膝を立てて座っているので、短いスカートの奥に茂る陰毛の陰りが丸見えだった。艶やかに光る陰毛……和夫の目はしばしその部分に釘付けとなった。と、その時。

いきなりパイ投げみたいに、紙皿に載った何かが和夫の顔に押し付けられた。一瞬、和夫は何が起きたのかよくわからなかった。それは生まれて初めて体験する感触だった。柔らかくて暖かくて、そして強烈な匂いを放っていた。あまりに大量に押し付けられたので、息が詰まる。和夫は無我夢中になりながら、顔面を覆うその泥みたいな物質を拭った。瞬く間に手のひらが茶色に塗れる。

まるで泥遊びに興じる子供みたいだった。和夫は手に付着した物質を自分の胸にこすりつけるようにして拭った。それは紛れもなく、『黄金』と呼ばれ、全てのマゾヒスト男性から崇められている高貴な物質――女性の排泄物だった。その触感は少し柔らかめで、硬くはないが、下痢気味の軟便でもない。ちょうどいい硬度だった。しかし夢のようなその感触とは裏腹に、とうていこの世のものとは思えない、常識の範疇を軽々と超越した凄まじい臭気が和夫を包み込んでいる。

「あらあら、それじゃあ前が見えないでしょ? これで顔を洗いなさい」

別の女性が穴の向こうに現れて、間髪置かずにまた紙コップの中の液体を和夫めがけてぶっ掛けた。これも先ほどと同じ、オシッコだった。しかし、今度は少し色と香りが薄めだった。和夫は今、顔についたウンチをオシッコで流そうとしているのだった。とても正常な人間の行動ではない。

「ありがとうございます!」

和夫は絶叫した。体中に女性の排泄物を塗りたくり、その手でペニスを擦った。その黄金の破片は、股間をびっしりと覆う陰毛にも絡まり、和夫は狂ったようにそれを玉袋の裏側にまで伸ばした。

「ああ、皆様、本当にありがとうございます!」

「うわっ、すっごい格好。信じられなーい」

「ウンチで興奮してるよ、こいつ」

「本当に人間かしら?」

「まさに人間便器って感じ」

「チョー変態!」

数々の罵声が和夫に浴びせられた。和夫は、顔面を彩る黄金と聖水によって、もう殆ど目を開けていられなかった。いったいこの排泄物は誰のものなのか……ちらりとそれについて考えたが、すぐに、どうでもいいことだ、と思った。全くわからないが、ここにいる全員が若くて美しいのだから、そんなことはどうでもいい。こんなに美しい女性達の体内を通過して排出されたものならば、誰のものであろうとも、そしてどんなものであろうとも、それは途轍もなく尊いに違いなかった。それほどのものを与えていただけるなんて、自分はなんと幸せなのだろう! 和夫は猛然と自慰をしながら、純粋にそう思った。

そして、その至福感に包まれたまま、やがて和夫は盛大に白濁液を噴き上げた。

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