無明

テーブルに置いている携帯電話が小さくピピっと鳴り、メールの着信を告げた。隈部俊道は、ランプが点滅しているその端末を取り上げ、フラップを開き、ボタンを押す。着信メールが開き、文面が出現する。

P=10k、S=5kで、OK!

じゃあ、一時間後、スタバの向かいのパチ屋前。

こっちは、白いブラウスに濃紺のミニスカートという制服。

そっちの格好も教えて。

俊道は、返信のボタンを押してメール作成の画面を呼び出し、打ち込んでいく。

こちらは灰色のスーツ、水色の地に白いストライプのネクタイ。

濃い緑のブリーフケースを持っています。

そして、送信する。すると、僅か数分で、また返信が届く。

了解。でも一応、わかりやすいように、手にスポーツ新聞を丸めて持って立っていて。

俊道は、再びメールを打つ。

わかりました。持って待ってます。

送信し、端末をテーブルに置いた。椅子の背もたれに背中を預け、体から力を抜く。約束は一時間後。ということは、現在午後八時だから、九時だ。

繁華街の中にあるカフェは適度に混み合っている。俊道は、その店内の壁際の奥まった小さなテーブルで、アイスラテを飲んでいる。夕食代わりに、ハムとチーズのサンドイッチを食べたところだ。

メールの相手は、女子高生だが、どんな子なのかは知らない。顔も名前も知らないし、そもそも本当に女子高生なのかもわからない。すべては自称で、ハンドルはユカだが、どうせ偽名だろう。そして、十六歳らしいが、真実を確かめる手段はない。しかも、メールの遣り取りはしているが、出会い系サイトが提供している私書箱宛なので、アドレスすら知らない。

もっとも、俊道も、メールアドレスは通知しているが、「イトウ」と偽名を告げているし、歳も、本当は四十三だが、三十六ということにしている。もともと実年齢より若く見られるし、実際に逢っても、たぶん問題はない。そもそも相手にとって、こちらの年齢など、個人的な情報は必要ない。もちろん付き合うわけではないし、金銭的な交渉はあっても、カラダを売っているわけではないから、見た目だって全然気にしないだろう。パンツと靴下を売るだけだから、カネさえきっちり払う人間なら、七十過ぎのおじいさんでも、十八歳の浪人生でも、誰でも構わないはずだ。

今、俊道は、ユカと名乗る女子高生と、パンティを一万、ルーズソックスを五千円で買い取る交渉を成立させた。俊道が提示した条件は、充分に汚れていて、直脱ぎで渡してくれることだ。つまり、一日穿き続けた、現在着用しているパンツと靴下を目の前で脱いで渡してくれるなら、それだけの金額を払う、と持ちかけたのだ。そして、その交渉は、互いに相手がどこの誰だかわからない状態のまま、簡単に成立した。

あとは、実際に会い、どこかの雑居ビルの非常階段などで脱いで渡してもらい、代金を支払うだけだ。それで、終わり。ふたりとも、名前も住所も何も知らないまま、別れていく。そしておそらく、二度と会うことはない。

刹那的な交叉だ。しかも、どんな女の子が来るかわからないから、かなり賭けの部分が大きい。本当なら、前もって写メを交換するか、先に相手を待ち合わせ場所に立たせて、離れたところから容姿を見定めてから接触したいが、それだと相手が警戒してしまって接触不能になってしまうことが多い。だから、冒険になるが、買う側が先にその場所に立たなくてはならない。

もちろん、美人局の系統には細心の注意が必要だ。しかし、カラダが目的ではないし、最初から金額を提示しているのだから、その心配は滅多にないだろう。女の子だって、小遣いが欲しいのだ。そして俊道は下着と靴下が欲しい。つまり、需要と供給がマッチしているのだ。何も、あえてそのバランスを壊すこともないだろう。

俊道にとって、出会い系の利用は、慣れているわけではないが、そんなに特別なことでもない。ただし俊道は変態でマゾヒストだから、一般的な援助交際の経験はない。たいていは、今日のように下着を買うのだ。相手は、女子高生から二十台のOLまで様々だ。年齢的なものには、それほど拘りはない。しかし、ロリコンではないので、さすがに中学生や小学生は有り得ない。もっとも、最近の発育の良い中学生は大人顔負けだから、その時になってみたら、どうなるかはわからないが、今のところ経験はない。

それより驚くのは、サイトのメッセージを見ると、たまに小六が「¥希望」と書き込んでいて、本心からびっくりする。マセた中学生なら今時「ウリ」なんて、それほど珍しくないのかもしれないが、小学生といえば、普段は赤いランドセルを背負っている子供ではないか。そんな子が、体を売っているなんて、俊道の感覚が古いだけなのかもしれないが、それでもちょっと信じられない。ここは日本で、東南アジアではないのだ。タイなどでは、日本のオヤジ連中が十歳未満の少女を買うことも珍しくはないが、向こうの場合は、供給の前にまず需要があって、どちらかというと、おそらく少女が自分の意思で体を売っているわけではないだろう。しかし、出会い系のメッセージは違う。小学生が、自らの意思で売りに出しているのだ。今更、俊道のような人間に道徳を説く資格はないし、そのつもりもないが、しかし何かがおかしいと思う。もっとも、そんなことを思いながらも、今夜、俊道が下着と靴下の買い取り交渉をしたのは十六歳の女の子だから、世情を嘆く説得力はない。一般的な感覚からすれば、小学生は論外だが、中学生と高校生に絶対的な差異はない。どちらを対象にしようと、少女から下着を買うなんて、歪んだ行為だ。

それくらいのことは、俊道にもわかっている。しかし、女子高生の下着の魅力の前には、どんな理屈も敗北してしまうのだった。新陳代謝の激しい年頃だから、彼女たちの下着や靴下は、俊道のような匂いフェチの変態にとって垂涎のアイテムだ。その布に含まれる生々しいフレッシュな雌の匂いと蜜は、二点で一万五千円を支払う価値が充分ある。

アイスラテを一口飲み、あと一時間か、と俊道は思った。いやがうえにも期待は高まる。顔は知らないが、ギャルらしいから、きっとかわいいだろう。俊道は、少し下品なくらいの女の子がタイプだった。深窓の令嬢のような、清楚なタイプには全く惹かれない。それはたぶん、俊道がマゾヒストだからだろう。性的に奥手で、未だに女性経験は数えるほどで、SMの女王様を筆頭に、派手な女の子に罵られると興奮してしまうマゾヒストの俊道だから、たとえ相手が女子高生であってもS気質を求めてしまう。同じパンツを買うにしても、恥ずかしそうにしている地味な女の子から買い取るより、「汚れたパンツなんて何に使うんだか」と見透かした笑いとともに手渡してくれるような遊び慣れた感じの女の子に惹かれがちだ。今夜も、できればパンツを手に入れた後、それを使って自慰に耽る姿を見てくれないか、と頼んでみるつもりだった。追加料金を要求されるかもしれないが、べつに手や口で抜いてくれと求めるわけではないから、うまくいけば了承してくれるかもしれない。もっとも、自慰姿を晒すとなると、場所の問題もあるが、実現すれば俊道としてはかなり嬉しい。パンティの持ち主の前で、そのパンティの匂いを嗅ぎながら自慰ができれば、凄まじい興奮と快感に包まれるだろう。

約束の場所は、このカフェから歩いて五分ほどのところにある。途中にコンビニがあるから、そこでスポーツ紙を買えば良い。だから、その移動の時間を差し引いても、まだ五十分以上あった。

いったんここを出て、待ち合わせ場所近くのスタバにでも行って時間まで待機するか。俊道はそんなことを思いながらタイを少しだけ緩め、残りのアイスラテを飲み干した。

コンビニで夕刊のスポーツ紙を買い、スタバに入ってコーヒーを飲みながら、俊道はたいして興味もないそのスポーツ新聞を読んで時間を潰した。町の喫茶店と違って、カフェはどれだけ居座っていても基本的には嫌な顔をされないから、気が楽だ。しかし、席が空くのを待っている人がいれば、そんなに居心地は良くない。どこからともなく「飲んだら、さっさと席を空けろよ」という無言の圧力がかかってくるからだ。そんな状況下で、コーヒー一杯でひたすら文庫本を読める人が、俊道は羨ましい。俊道は厚顔無恥な変態だが、そのような状況下で席を占拠し続ける度胸はない。おそらく、開き直りの部分のベクトルが違うのだ。見ず知らずの女の子からパンツは買えても、席が空くのを待っている人がいるような満員のカフェで、ほとんど空のカップを前に置いて堂々と居続けることはできない。

しかし、今夜のカフェは、適度に空いていて、そんな性格の俊道でも気楽に約束の時間まで待機できた。俊道は、ざわつくカフェの片隅で、この後の展開を想像して「どんな子が現れるのだろう」と期待に胸を高鳴らせ、密かに興奮しながら、野球だのゴルフだのプロレスだの競馬だのといった記事に目を通していった。

新聞の細かい文字を追うことに目が疲れると、俊道はコーヒーを一口飲み、何気なく周囲を見渡した。隣のテーブルには、勤め帰りらしいOLの二人組がいて、ドイツの旅行パンフレットを覗き込んで話題に花を咲かせている。その更に隣には、難しそうな顔をして手帳をじっと睨んでいる男がひとりでいて、斜向いには、テーブルにノートを広げて何やら書き物をしているサラリーマン風の若い男がいて、そのすぐ隣には、女子大生風の三人組がいて何やら盛り上がっている。

誰もが、スタバというひとつの閉じられた空間の中で、更にそれぞれの小宇宙の中に閉じこもっている。そして、その小宇宙は完全に独立していて、互いに干渉し合うことはない。俊道は、そんな店内をぼんやりと見ながら、この中に女子高生からパンツを買う人が自分の他にいるのだろうか、と漠然と考えた。たとえば、ドイツ旅行のパンフレットを検討しているOLの二人組に、「これから僕、知らない女子高生からパンツを買うんですよ」と突然告白したら、どんな反応が返ってくるだろう、と夢想すると、背筋がゾクゾクとしてくる。おそらく彼女たちは、すぐ隣にいる背広の中年がこの後、女子高生からパンツを買おうとしているなんて、想像すらしていないだろう。俊道の外見はきわめて平凡で、とくに変質者っぽいイメージはないから、まさか自分たちのすぐ隣、一メートル以内にマゾヒストで匂いフェチの変態が澄ました顔して座っていると知ったら、眉を潜めて即座に離れていくはずだ。

もちろん、そういう反応は、俊道としては嬉しい。しかし、それを衆人環視の中でされると辛い。そして、その種類のジレンマは、形を変えながら常に俊道の中にある。たとえば、俊道は美しい女性に自分の醜い自慰姿を晒すことが好きだが、その気持ちの中には、「見せたい」とか「見られたい」と思う心と同時に、「しかし、本気で嫌悪されたら死にたくなるくらい恥ずかしい」という恐怖も感じている。要するに、「見てくれる」人にだけ「見られたい」という身勝手な論理なのだが、嫌悪感を覚えるような人にもあえて見せ「心底から軽蔑されたい」という願望もあり、冷静に考え始めると、引き裂かれそうになってしまう。

もっとも、どのみち、路上などで突然誰かに声をかける勇気など俊道は持ち合わせていないので、いずれにしても実害はない。風俗店や出会い系サイトなどが間に介在しない限り、俊道が堂々と自らのM性や変態性を開示して異性に接触を図ることはないのだ。

腕時計を見る。午後八時四十五分。まだ約束の時間まで十五分あるが、そろそろパチンコ屋の前に立ったほうがいいかもしれない。俊道はそう思い、スポーツ新聞を小さく畳むと、カップの底に残っていた冷めたコーヒーを飲み干して席を立った。

スタバを出て、通りを渡り、パチンコ屋の前の歩道に俊道は立った。その前を、大勢の人々が通り過ぎていく。繁華街という場所柄と午後九時近くという時間のせいか、酔客が目立つ。パチンコ店も、繁盛しているようだ。人の出入りが多いし、自動ドアが開く度に、賑やかな音楽が流れ出てくる。

俊道は時々腕時計を覗きながら、左手にブリーフケース、右手に丸めたスポーツ新聞を持って、ぼんやりと路上に立っている。そして、控えめな態度でさりげなく周囲を見回す。メールの相手であるユカは、制服姿だと告げていたが、まだ現れない。しかし、こんな場所でいかにもサラリーマンの風体をした自分と制服姿の女子高生が一緒にいたら、どうにも怪しすぎるのではないか、と俊道は思った。べつに制服ではなく私服でも、それだけ歳が離れていれば傍目からは充分不審だが、ずっとこの場所に留まるわけではないし、実際の取引は近くの雑居ビルの階段部分か公衆トイレなどへ移動して素早く行うつもりだから、会ってすぐにこの場を離れれば、たぶんたいした問題ではない。もしかすると、親子に見えるかもしれないし、挙動不審な態度を取らなければ、誰かの印象に残ることはないだろう。それに、夜の繁華街には、様々な組み合わせの男女がいるから、サラリーマンと女子高生の組み合わせだって、そんなに珍しいものではないだろう。

やがて九時になった。それを確認して、俊道は改めて周囲を注意深く観察した。相変わらず人は多いが、制服姿の女子高生はいない。反射的に俊道は、「すっぽかされたか?」と思った。どこか物陰から見ていて、女子高生の気が変わってしまった可能性もある。

そう考えた時、反対側の歩道に、ナイロンの薄いバッグを肩に掛けた制服姿の女子高生が現れた。先ほどまで俊道がいたスタバの前を通って、横断歩道を渡ってくる。いかにも、今時の女子高生といった風の女の子だった。色を抜いた巻き髪が揺れていて、全体的に浅黒い肌に白いブラウスが眩しい。スカートも、かなり短く、ときどき擦れ違う酔客がその脚線美を目で追っている。太腿の張りも、まさにパツンパツンだ。そして、日に焼けた肌に白いルーズソックスが映えている。その女の子が、みるみる近づき、俊道に気付いたのか、顔に照れたような微笑みが浮かぶ。

「イトウさん?」

制服の少女は俊道の傍らで足を止めると、笑いながらそう訊いた。向かい合って立つと、少女の身長は百六十弱といったところだった。俊道より、若干低い。しかし、ピチピチの若さに気後れを感じてしまった俊道には、実際より大きく見えていた。

「はい。えっと、ユカさん?」

「うん」

また笑い、ユカが微笑んで腕組みをする。ブラウスの袖はまくられていて、手首にはブレスレットがじゃらじゃらと巻き付いている。近くで向かい合っているだけで、ユカからはとてもいい匂いがした。柑橘系の香水だ。肩に掛けた、おそらく学校指定の薄いボストンバッグの手提げの部分の根元に、たくさんのキーホルダーがぶら下がっている。

ユカは、化粧映えのする派手な顔立ちで、口紅というよりピンクのグロスが塗られた薄い唇が艶やかに光っていて、見ず知らずの男との会話にも全く動じる気配がない。

「早速だけど、どこで脱ごうか? いくら何でも、ここではヤバいじゃんね」

指先をくるくると回してユカが言う。その爪は、綺麗に水色のマニキュアが塗られていて、尖っている。

「まあ、そうですよね」

完全に緊張しながら俊道がそう言うと、ユカはケラケラと笑った。

「なんで敬語」

「すいません」

「いや、ま、いいけどさ」

くすくすと笑いながらユカは腕組みしたまま周囲を見回した。俊道は、そんな彼女の傍らで、少女の履き込まれたローファーの足元を見つめ、だんだんその視線を上へずらしていって、太腿を舐めるように見ている。その視線に気付いたユカは、意味もなくスカートの裾を直し、「気になって仕方ない?」と挑発するように俊道を見つめた。その大きな黒目に覗き込まれて、俊道は「あ、いえ」と俯いてしまう。そんな俊道に、ユカはあっけらかんと「今日って結構暑かったじゃんね? だから、パンツも靴下もかなりキてると思うよ」と言って笑った。

「ねえ、オジサンはどこか適当な場所、知らないの? ほんとは、トイレかどこかで脱いできて渡すのが一番簡単だけど、脱ぐところが見たいんだよね?」

周囲を見回すのをやめ、俊道と向き合いながらユカが訊く。

「ええ、まあ、できれば……」

はっきりとそう言われて照れてしまいながら、俊道はこたえた。

「ま、その気持はわかるけどね。じゃ、あそこにレストランばっか入っているビルあるじゃん? あの中のどこかで済まそっか。階段とかなら、たぶん人はいないと思うし」

通りの先の八階建て程度の小綺麗なビルを示しながらユカが提案し、俊道は同意した。

「そうですね」

「んじゃ、行こ」

俊道の返事を待たず、ユカは先に立ってずんずんと歩きだす。少し遅れて俊道も続き、早足で追いついて横に並ぶ。髪の匂いか香水か、とにかく甘い匂いが漂ってくる。俊道は彼女に気付かれないように、そっとその匂いを嗅いだ。

ビルの前には入居しているレストランの案内が出ていて、入り口から中に入ると、正面にエスカレーターがあり、壁際にエレベーターがあった。三階までは、エスカレーターが通っているようだった。ユカは、そのままエスカレーターに乗った。もちろん俊道も続き、じきに三階に上がると、そこには中華料理と天ぷらと鉄板焼きの店があって、通路の先に、非常口を示すグリーンの表示が見えた。その表示の下に、スチール製のドアがある。

「あの中なら、たぶんいけるって」

ユカはそう言い、俊道を促した。

「そうですね」

ふたりは、いかにもレストランを選別しているといった風を装いながら通路を歩き、非常口まで来た。そして、ユカは素早くそのドアのノブを回した。すると、それは簡単に開いた。

中に入ってすぐにドアを閉じると、そこはまさに非常階段だった。しかし、うらぶれた雰囲気はなく、明かりも充分で、壁はクリーム色に塗られ、床は同系色のリノリウムが敷かれていた。いったん三階から二階へと下り、途中の踊り場まで移動した。

「じゃあ、さっさと済まそっか。あ、でも、悪いけど、先にお金くれる?」

バッグを足元に置いてユカが言う。俊道は、「はい」と頷いて、上着の内ポケットから財布を取り出すと、中から一万円札と五千円札をそれぞれ一枚ずつ抜いて、ユカに差し出した。

「じゃあ、約束の一万五千円」

「ありがと」

ユカはその二枚の紙幣をひょいと取り、そのまま折って制服のスカートのポケットに入れると、階段に座り、足を開いた。そして靴を脱ぎ、まずは右足から、ルーズソックスを足首まで下ろすと、あとは爪先を摘んでするりと脱いだ。同じように左足も脱ぐ。艶かしい生足の出現に、思わず俊道はじっと見入り、生唾を飲み込んだ。ユカの足は、それほど大きくなく、爪には、手の指と同じ色のペディキュアが塗られていた。その時点で、俊道のペニスはズボンの下で完全に勃起していた。

「まず、靴下。はい」

座ったまま、ユカが脱いだばかりの靴下を俊道に手渡す。俊道は、「どうも」と言いながらそれを受け取る。

靴下は温かかった。そしてさりげなく足の裏部分を見ると僅かに黒ずんでいて、爪先部分に触れると、しっとりと湿っていた。しかも、顔の前までそれを持ってくると、仄かに酸味の効いた香りが鼻腔をくすぐった。たまらず、俊道は言った。

「ちょっと、今ここで匂いを嗅いでみてもいいですか?」

すると、ユカは爆笑しながら、「別に勝手にすりゃいいけど、ちょっとハズいわ」とこたえ、「結構キてるはずだし」と付け加えた。

「だから、いいんですよ」

いつのまにかマゾ特有の大胆さを発揮しながら俊道は言い、そのまま爪先を鼻に押し当てて深呼吸した。その様子を見て、ユカが、「マジ、ヤバすぎだって、それ」と大受けした。その笑い声を浴びながら、俊道は「ああ、いい匂いだ……」と酔い痴れるように呟いた。ユカはバッグの中から替えの靴下を出して履きながら、「ちょっ、マジで勘弁して、腹いてえ」と笑い、履き終えると、立ち上がって、言った。

「ま、それはそれでいいけどさ、パンツも脱ぐよ?」

俊道はいったん靴下から顔を離し、ユカを見つめて、「あ、お願いします」とぴょこんと頭を下げた。

「んじゃ」

ユカは、いったんスカートをガバっと捲って、「こんな感じね」と薄いピンクの地に赤い細いストライプが入った下着を俊道に見せつけた後、スカートの裾を下ろし、中に両手を入れて弄るような感じで下着を下ろした。そして、片方ずつ足を上げて抜くと、それを俊道に「はい、パンツね」と差し出した。

「どうも」

俊道は生暖かいそれを受け取り、ひとまず靴下をポケットにしまってから、改めてパンティを広げた。すると俄に艶かしい香気が立ち昇り、クロッチを見ると、しっかりと染みが付着していた。そこには、とろりとした感じのぬめりがあって、天井の明かりのせいで光沢を放っているように見えた。生地の細かな目に、縮れた長めの陰毛が数本、絡み付いている。俊道は、その部分を凝視した後、顔を近づけていった。すると、再び階段に腰を下ろして新しい下着を履きかけていたユカがその俊道の行動に気付いて、すかさず制止した。

「ちょっと、それはさすがに待って。ヤバすぎる。ひとりで家に帰ってからにして。マジで」

笑いながらユカは言ったが、もうマゾのモードが解除されてしまっている俊道は、その場に跪くと、両手でしっかりとパンティを持ったまま目の前の数段上に座っているユカを見上げ、縋り付くような視線を向けながら言った。

「お願いします。今からこの匂いを嗅いでオナるんで、見てて貰えませんか?」

その必死な口調に、ユカはゲラゲラと笑ったが、そのまま許可はしなかった。

「いや、マジで、ここでそれはヤバいって。いつ誰が来るかわからんし」

しかし、もう形振りなど構っていられないほど興奮してしまっている俊道は、そう言われても、簡単には諦められなかった。

「じゃあ、場所を変えたら見ていただけますか? 僕、ユカさんの前で、ユカさんパンティでオナニーしたいんです」

「わかった、わかった。いや、わかってないけど……とにかく、ここでオナニーは勘弁して、マジで」

「だったら、どこだったら良いですか?」

誰も場所を変えたら見てやるとは言っていないのだが、身を乗り出して俊道は訊く。

「いや、だからさ、オジサンが興奮してるのはよく分かったけど、とにかく、ひとます落ち着こ、ね」

十六歳の少女が四十三歳の大人の男を窘めるようにそう言い、ユカは付け加えた。

「オジサンだって、そんな姿を誰かに見られたくないでしょ? だいたいパンツと靴下を持っているだけで充分ヤバいじゃん? だからさ、とりあえず、そのパンツはしまって。ここに誰か来たらアタシだってヤバいし」

「はい……」

冷静に窘められて、俊道は若干平静さを取り戻した。確かに、ここではいつ誰が来るかわかったものではない。そう思った俊道は、ひとまずユカの言う通り、パンツと靴下をしまうことにして、ブリーフケースからビニール袋を二枚、取り出した。それを見てユカが、「用意万端かよ」と笑った。

「すいません」

俊道は謝りながらパンティとルーズソックスを分けてそれぞれビニール袋に収め、ジッパーで封印した。ユカが「ジップロックかよ」と更に大笑いする。その笑い声に包まれながら、俊道はふたつのビニール袋をブリーフケースに入れた。そしてその一連の作業が終了すると、ユカはすっと立ち上がり、スカートの尻をパンパンと払った。

「じゃ、取引終了ってことで、帰るわ」

と二階へと下り始めた。俊道は、それを慌てて追った。

「ちょっ、ちょっと、すいません。待ってください」

あまりに慌てたので階段を踏み外して転げ落ちそうになったが、瞬間的に手すりを掴んで体勢を立て直すと、俊道はユカの前へ回り込むようにして立ち、恥も外聞もなく、その場に跪いた。その俊道の姿を見て、ユカも足を止め、鼻で笑う。

「今度は土下座かよ」

「すいません。でも、本当にちょっと待って下さい」

俊道は必死だった。何よりユカというこの女の子は完全に俊道のタイプだったし、これだけの接触で逃したくはなかった。連絡先も知らないから、このまま別れてしまったら、もう二度と会えない可能性が非常に高い。そして俊道は土下座のまま、目の前に立っているユカを見上げて、訊いた。

「この後、お忙しいですか?」

ユカは腕組みし、薄笑いを浮かべたまま俊道を見下ろしながら小首を傾げてみせる。

「べつに忙しくはないけどさあ」

足を開き、その右足を少し前へ出して唇を尖らせ、片方の眉を上げる。

「っていうか、その格好は何?」

笑い、更に言う。

「もしかして、オジサン、マゾとか?」

言葉尻にあからさまな軽蔑を滲ませてユカは訊く。俊道は、ここで格好をつけても仕方ないと思い、肯定した。

「はい……実は……」

すると、ユカは「マジでMかよ」と笑い、「でも」と続けた。

「どっちにしろ、ここはヤバいからさ。とりあえず移動しよ」

両手を床についたまま、俊道は目を輝かせてユカを見上げる。

「苛めていただけるんですか?」

「ま、カネ次第だな」

そう言い、「ほら、立って」と俊道を促す。

「はい」

俊道は立ち、一緒に二階へ下り、スチールのドアを開けてフロアに出た。そこは、カジュアルなレストランやカフェがいくつか入っているフロアで、なかなか賑わっている。

「とりあえず、そこにでも入らない?」

ユカが、カフェを指して訊く。俊道は正直、「今夜三軒目だな、カフェは」と思ったが、もちろん口には出さず、「ええ」と頷いた。ただ、制服姿の少女と背広姿の男が一緒にテーブルを囲んだら、周囲からはどう見られるだろうか、と考えると、少々気後れしてしまった。しかも、少女は派手なギャルで、俊道は地味で冴えない風体なのだ。それでも、ユカはさっさとカフェへ入っていき、俊道は続いた。そして、カウンターの前でユカは「アタシ、アイスティー」と俊道に言い、「席、取っとくわ」とひとりで奥へと行ってしまった。俊道は、注文を受け付けるカウンターに立ち、「いらっしゃいませ」と微笑む女性店員に、ユカのアイスティーと、自分のカフェオレを注文した。隣のブースでそれを受け取り、トレイを持って店内を進んでいく。すると、最も奥まった壁際のテーブルに、ユカがいた。周りに客はいたが、微妙なアルコーヴの奥の席なので、ちょうどいい具合に通路からは死角気味になっていた。

「どうぞ」

俊道はトレイごとテーブルに置いてから、アイスティーのグラスをユカの前へ置いた。

「ありがと」

ユカは言い、ストローの袋を破った。俊道は自分のカップを持ち、一口飲んだ。ユカはテーブルの下で脚を組み、煙草を取り出すと、華奢なライターをパチンと開いて火をつけた。このカフェは、珍しく禁煙ではないらしかった。

「あ、灰皿がないみたい」

バージニア・スリムの箱をテーブルに置いてユカが言い、俊道は、「借りてきます」と席を立った。飲み物を受け取ったカウンターまで行き、シロップやナフキンなどが置かれている棚に積み上げられていた黒い小さな灰皿をひとつ取ると、席に戻った。

「どうぞ」

テーブルの外へ脚を投げ出して組み、肘をついて細く煙を吐き出しているユカの前に灰皿を置いて、俊道も座った。

「あ、ありがと」

ユカはトントンと煙草を叩いて灰皿の中に灰を落として礼を言った。俊道は、「いえ」とこたえ、カフェオレを飲む。小さなテーブルで派手な女子高生と差し向かいに座っている緊張感から、俊道はまともに顔を上げられなかった。そんな俊道を見て、ユカが煙草を吹かしながら何気なく言う。

「で、苛められたいのはわかったけど、いくらまで出せるの?」

テーブルに肘をつき、唇のすぐ横で煙草を指先で挟みながら、ユカは俊道を見つめた。俊道はその視線をヒシヒシと感じながら、おずおずと顔を上げた。

「えっと……」

正直、そんなにもう財布に余裕はなかった。給料日前だし、既にパンツと靴下の代金として一万五千円支払っている。財布の中には多分、もうニ万くらいしか残っていないはずだ。だから、勢いで「追加料金を払うから苛めてくれ」と言ってしまったものの、もしも商談成立となれば、どこかATMを見つけて引き出さなければならない。

「手持ちは、もう多分二万くらいしかないんですけど……」

「二万?」

ユカは呆れたように言い、煙草の煙を俊道に向けて吐き出した。

「じゃあさ、もしアタシが二万で苛めてやってもいいって言っても、ホテル代がないじゃん」

「いえ、そうなったらATMでいくらか下ろすんで、大丈夫です」

「ふうん」

ユカは唇を尖らせ気味にして頷き、「でもさ」と言って軽く笑って続けた。

「なんか、超必死だよね、オジサン」

含み笑いをそのまま漏らしてそう言うユカの視線と口調に俊道は気恥ずかしさを感じながら、反射的に俯いてしまう。

「すいません」

「いや、べつに謝らなくてもいいけど」

ユカは、煙草の先で灰皿の底をつつくようにして火を消し、アイスティーをストローで吸い上げる。

「ところでさ、メールでは三十六って言ってたけど、ほんとは四十台でしょ?」

顎をしゃくってそう言い、ストローでアイスティーをかき回しながらユカが訊く。俊道は見破られてしまったことに驚いたが、否定しても意味がないので、頷いた。

「すいません……少しでも若いほうがアポが取りやすいかと」

「ははは、まあ、そうかもね。で、ほんとはいくつなの?」

「四十三です」

「ふうん、四十三。ってことは、アタシより二十七も年上かあ。ある意味、すごいね、それ」

まじまじと俊道を見つめてユカが言う。俊道は、そのユカの視線で、どっと汗をかく。

「すいません……」

「しかし、二十七歳も年下の女の子に苛められたいなんて、かなりのマゾだよね。っていうか、うちの父親より年上だし、超受けるんだけど」

新しい煙草に火をつけてユカはおかしそうに笑って言い、煙をまた俊道に向けて吐いた。父親より年上というその言葉に、俊道の中の何かが激しく反応した。それは多分、生粋のマゾヒストとしての部分だった。自分よりも年下の父親を持つ少女からパンツと靴下を買い、「自慰を見てくれ」とせがみ、今、更に「苛めてほしい」と頼んでいる自分が、酷く歪んでいるように思えてならなかった。もちろん実際に歪んでいるのだろうが、しかしその歪みの自覚は、マゾヒストとしての悦びと直結している。世の中に、これほど不様な関係があるだろうか、と思う。ふつうの一般的な援助交際なら、よくある話だろう。しかし、パンツや靴下を買ったり、苛められたりといった話になると、やはりかなり特殊なパターンなのではないかと思われた。

「っていうかさ、情けないとか思わないわけ?」

「えっ?」

テーブルの上の、半分ほどに減ったカフェオレのカップの中に視線を落としていた俊道は、そう訊かれて、つと顔を上げてユカを見た。ユカは大きな瞳で、まっすぐ俊道を見つめている。その瞳には、侮蔑気味の好奇の色が滲んでいる。

「だからさ、アタシみたいな十六の女の子の前で、四十三のオジサンがなんかモジモジしちゃってさ、頭の中では今も『苛められたい』とか思ってて、しかも鞄の中にはアタシから買ったパンツと下着があるわけじゃん? で、どうせ後で家へ帰ったら、そのパンツと靴下でひとり寂しくシコシコするんでしょ? その光景って、相当侘しくない?」

「あ、は、はい……」

じっと見つめられながらそんな風に言われて、俊道はまた視線を落としてしまった。しかし、冷静な口調でしみじみとそのように言われると、マゾの血が沸騰し、密かに勃起してしまう。実際、俊道はユカと対峙しながら、完全に勃起してしまっている。常に視界の端にミニスカートから伸びる魅力的な脚のラインが入っているし、テーブルが小さく、ユカから漂う甘い香水の匂いも、強く届いている。それでいて、向かい合う二人の間の距離は一メートルもないので、ユカが何か喋る度に視線を向ければ、そこにはピンク色に艶めく唇があって、その光沢に心が惹かれてしまう。

「っていうかさあ、もしかして勃ってる?」

嘲る調子で笑いながらユカが訊き、ローファーをテーブルの下で脱ぐと、そのままおもむろに足を伸ばしてきて、いきなり俊道の股間を踏んだ。

「うわっ、カチカチじゃん。すげえ」

そう言って、テーブルの下で俊道の股間を踏みながら、爪先の裏の部分で茎を擦る。思わず俊道は小さく体を悶えさせてしまう。

「あ。ちょ、ちょっと……」

「ちょっと何?」

にやにやと笑いながら、ユカはやめない。俊道の反応を面白がり、完全に弄んでいる。そして、その律動を与え続けながら、言う。

「ところでさあ、苛めるっていっても、何すればいいのかよくわからないんだよね。殴ったり蹴ったりすればいいわけ?」

「あ、は、はい……あと、足を舐めたりとかさせていただけたら……」

「ってことは、ヤらなくてもいいの?」

「ええ。ただ、オナってることろを見ていただければ」

「ふうん」

小さく頷き、ユカはテーブルの下でようやく足を俊道の股間から下ろした。そしてローファーの中に足を突っ込みながら、煙草を消す。

「でも、突然逆キレとか、しないだろうね? 殴られているうちに素に戻るとか」

「そんな心配は一切ないです」

「じゃ、完全に無抵抗?」

「もちろんです」

「ってことは、人間サンドバッグ状態?」

「そうですね……はい」

「面白そう。っていうか。マジ受けるわ、それ」

ユカは手を叩いて笑った。その声が大きかったのか、近くの席にいた客が数人、俊道とユカを見た。中には「どういう関係なんだ?」と無遠慮に好奇の目を向ける者もあった。ユカは全く気に留めていなかったが、俊道はその視線を認識した瞬間、冷や汗が出た。

「じゃあ、あんま遅くなってもあれだし、さっさと行こっか」

ユカはそう言うと、グラスの中のアイスティーを全部ストローで吸い上げ、立ち上がった。

「は、はい」

俊道も、残りのカフェオレを飲み干して、ユカに続いた。

カフェから最も近いラブホテルは、徒歩で五分くらいの場所にあったが、週末の夜のせいか、既に満室だった。仕方なく、更に八分ほど歩いて繁華街の外れにある別のホテルへ向かった。すると、そのホテルは、一室だけ空いていた。ただし、それは一番高い部屋で、休憩料金でも一万二千円と表示されていた。俊道は正直なところ、瞬間的に「高いな」と思った。一応、カフェから一軒目のホテルの間でコンビニに寄り、ATMで二万ほど下ろしていたが、休憩なので、せいぜい四千円くらいを想定していたのだ。しかし、もう選択の余地はなかった。これ以上少女を引き回して、気分を損ねてしまったら元も子もない。ユカも、「案外高いね」とパネルの隣で言っていたが、もちろん自分が代金を支払うつもりなどさらさらなく、他人事のように感想をそのまま述べただけだった。

「ここで、いいですか?」

俊道は、ユカに訊いた。ユカは、「別に、いいよ」とこたえた。

無人のフロントデスクでチェックインを済ませ、奥のエレベーターで七階へ向かった。館内の案内図を見ると、七階はペントハウスで、他に部屋はなかった。さすがに、三時間で一万二千円も取るだけあって、他の部屋の三倍は広そうだった。

小さなエレベーターでユカと二人きりになると、たちまち俊道は興奮してきた。そっと舐めるようにユカの全身を盗み見る。ミニスカートから伸びる、日に焼けた脚が眩しかった。もうすぐこの脚に触ることができるのだ。そう思うと、俊道のペニスは極限まで反り返った。そんなことを考えている俊道に、つとユカが振り向いて、「先に、ここで二万ちょうだい」と言った。俊道は、「はい」と頷いて、財布から一万円札を二枚抜き出し、手渡した。

七階に着き、部屋に入ると、内部はリビングのスペースとベッドルームに別れていて、ガラス張りの巨大なジャグジーがあった。その脇にウッドデッキのような広いスペースもあり、リクライニングチェアなどが置かれている。

ユカは、部屋に入ると、冷蔵庫から勝手にコーラを出して飲み、その壜を持ってリビングのソファに身を沈めた。そしてリモコンでテレビのスイッチを入れ、適当にボタンを押していく。すると、いきなり液晶テレビの大画面にAVが流れた。大きな音量で女の喘ぎ声が響く。

画面の中では、裸の女が二人の男に責められていた。女は、男のひとりの上に跨がって腰を振りつつ、目の前に差し出されたもうひとりの男のペニスを口に咥えながら喘ぎ、悶えている。それをユカは、コーラを飲みながら見て、「まさにチンポ食ってるよ。すげえ」と笑った。

俊道は、どこに座れば最も自然だろうか、と考えながら、ユカから五十センチほど離れた位置に腰を下ろした。すると、ユカはすかさず体を横向きにして俊道に足を伸ばし、蹴った。

「生意気に、どこに座ってんだよ。おまえは床で正座だろ」

「あ、すいません」

俊道は慌ててソファから下り、ユカの前で正座した。背後から女の喘ぎ声が降り注いでいる。

「っていうか、さっさと脱げよ。変態なんだろ? 裸になれよ」

「あ、はい」

俊道はその場で全部脱いだ。パンツを下ろす時、若干恥ずかしさが湧いたが、その一瞬の躊躇の間に、ユカの「早くしろ」という苛立たしげな声が降り掛かって、俊道は一気に全裸になった。そして改めて正座する。もちろん、性器は完全に勃起している。それを見て、ユカが笑う。

「すげえ。チンポ丸出し。しかも、半分皮被ってんじゃん」

確かに俊道は仮性包茎で、剥こうと思えば剥けるが、基本的には常に皮が余っていて、勃起しても、そのままでは亀頭の半分ほどが隠れている。ユカが笑いながら、靴下の足の裏でそのペニスを踏む。

「変態包茎Mオヤジかよ、おまえ」

「は、はい……」

「最低だな。生きてる価値ねえよ、マジで」

「すいません」

屈辱的な言葉を浴び、項垂れはしたが、しかし勃起は更に固くなっている。ユカが、そんな俊道の肩口あたりを蹴り、命じる。

「ベッドから、浴衣の帯を取って来いよ」

「はい」

弾かれたように立ち上がり、俊道は巨大なダブルベッドまで行き、その上に畳まれて置いてあった二枚の浴衣から、紺色の帯だけを取ってユカの前に戻った。そして、「持ってきました」と差し出す。

「とりあえず、これで首輪とリードの代わりにするわ」

ユカはそう言うと、「首、出せ」と俊道の頭を平手で叩き、俊道が従うと、その首に浴衣の帯を、ちょっとだけ余裕を持たせて巻いて縛り、余った部分を右手に持ってくいっと引っ張った。

「うれしい?」

脚を開き、状態を屈ませつつ俊道を正面から覗き込んでユカが訊く。俊道は、「はい」とこたえた。俊道の目の前には、スカートの奥に潜むユカのパンティがある。それは、白地に薄いブルーの水玉模様の下着だった。浅黒い肌とのコントラストが美しい。

「早速パンツ見てるよ、この変態」

「すいません」

謝った後、俊道はおそるおそる切り出す。

「あのう」

「あん?」

冷めた目で俊道を見下ろしながらユカが首を傾げる。

「あのう、脱がなくても結構なんで、このままパンティの上からでいいんで、匂いを嗅がせていただけませんか?」

「はあ? 変態丸出しだな。まあ、それくらい別にいいけど」

大きく脚を開いてユカがスカートをまくり上げる。

「ありがとうございます!」

俊道は跪いたまま前進し、両側の太腿を抱えるようにしてユカの股間に顔を埋め、下着の股間の部分に鼻を強く押し付けて匂いに酔い痴れる。

「ああ、いい匂いです」

そうして、ひとしきりユカの股間の匂いを吸い込み続けた後、俊道は更に言った。

「すいません、、ユカ様のおみ足の香りを嗅がせていただいてもよろしいですか?」

「ああ、いいよ。ほら」

そう言って、ユカはルーズソックスの爪先を俊道の顔に突きつけた。俊道はその足を踵の辺りで両手で支え、鼻先を押し付ける。一時間ほど前に履き替えたばかりだが、その部分からは温かい芳香が立ち昇っていた。俊道はその匂いを吸い込みながら、思わず腰を浮かせて酔い痴れる。

「なんて格好だよ、おまえ」

大受けしてユカが笑う。その笑い声も、俊道にとっては興奮の補助装置だった。

「ありえねえよ、マジで。四十三のオヤジだろ? 大丈夫か?」

俊道はどさくさに紛れながら、踵で支えていた両手のうち、右手だけを外して、そのままユカの足に這わせていく。

「ああ、ユカ様」

とろけるような声でそう呟きながら、手のひらを脹脛から、さらに太腿へと伸ばしていく。つるつるとした十代の少女の肌の質感は、俊道にとって夢のようだった。やがて俊道は、左手も離し、顔を足の裏に押し付けて、その圧力でユカの足を支えながら、両手をユカの脚に伸ばして這わせ、何度も太腿から足首まで撫で続ける。

「ユカ様のおみ足……本当に素晴らしいです」

半眼になり、その感触に陶酔しながら俊道は呟き、更に言う。

「あのう、おみ足の指をじかにしゃぶらせていただいてもよろしいですか?」

ユカの顔色を伺うように仰ぎ見る。

「勝手にすれば?」

「ありがとうございます」

俊道は歓喜し、早速靴下を脱がせて、一気にむしゃぶりついた。親指から小指まで、一本一本口に含んで、丁寧に舌を這わせていく。一日洗っていない爪先は、濃密で強烈な芳香を放っていた。指の間に舌先を差し込み、舐めると、ぬめりも感じられて俊道は狂ったようにしゃぶり続けた。

指先だけに留まらず、やがて俊道はその対象範囲を足の裏全体に拡大させた。踵から土踏まず、指の裏側から表面に至るまで、大胆に舌を伸ばし、執拗に舐め続けた。その様子を、小馬鹿にした顔で冷静に眺めていたユカは、じきに、「マジでキモすぎる、おまえ」と俊道の顔に唾を吐き捨て、いきなり俊道の胸元を蹴って後方へ飛ばした。しかし、すぐさま浴衣の帯を引いてその体を引き戻すと、間髪おかず、立て続けに往復ビンタを浴びせた。

それは、何の遠慮もない、強烈なビンタだった。見る間に俊道の頬が両方とも赤く染まり、そして腫れていく。俊道は、ただ歯を食いしばってその猛攻を受け止めている。ユカは俊道を張り飛ばし続けながら、「マジで楽しいわ、オヤジを殴るのって。なんか、父親を殴ってる感じ」と笑っている。その顔は、いつしか仄かに上気していて、頬がビンクに染まり、額に汗が浮かんでいる。その汗ばんだ肌を認識した時、俊道は思わずせがんでいた。

「ユカ様、ブラウスの上からで結構なんで、腋の匂いを嗅がせてください!」

「はあ?」

呆れたような顔でユカは素っ頓狂な声を上げた。しかし、俊道はめげない。じりじりとユカに近づき、「お願いします」と床に額を擦り付けて懇願する。

「ったく、しょうがねえ変態だな。そんなに匂いたければ嗅げよ」

ユカがそう言ってふと左腕を上げる。俊道は、「ありがとうございます」と叫んでその腋の下へ突進し、鼻先を押し込んで思いっきり吸い込む。

「ああ素晴らしいです」

俊道は顔を腋の下に埋めたまま、両手をユカの腰のあたりに添えて自らの体を支えつつ、執拗なまでにその部分の芳ばしい匂いを吸引し続ける。そんな俊道を、ユカは腕を上げたまま、けらけらと笑っている。

「おまえ、女の匂いなら何でもいいんじゃないの?」

呆れたようにユカはそう言うと、膝の上に半ば乗りかかり、無防備に露出している俊道の生白いぶよぶよとした尻を何度も平手で打った。

その尻への攻撃で、新たな欲望が俊道の内部で爆発した。俊道はいったん腋から顔を上げ、超至近距離からユカを見ると、「そんな間近から見るな、キモい」とユカに拒否され、おとなしく一時撤退して、改めて床で正座すると、「実はお願いがあるのですが」と切り出した。

「何? さっきからお願いばっかだと思うけど?」

冷たい目で見下ろしながらユカが訊く。俊道は、オドオドとした目でユカを見上げながら言った。

「あのう、ペニバンでボクを犯してほしいんですが……」

「はあ?」

心底から軽蔑した調子でユカが眉を吊り上げる。

「んなもん、どこにあるんだよ」

「いや、その、持ってます」

「持ってる? ここに今?」

「はい」

俊道は頷くと、ソファの上に放り出したままだったブリーフケースを手に取り、中から巾着袋を取り出した。そして、それを開け、ペニスバンドとローションのボトルとコンドームの箱をひとつずつ摘み出す。その様子を見て、ユカは手を叩いて笑う。

「なんで仕事の鞄にそんなもん常備してるんだよ。超絶的な変態なんだな、おまえって」

「すいません……でも、これで犯していただきたいんです。お願いします!」

俊道はペニバンとローションとコンドームの箱をユカの足元に置き、額を床に擦り付けて懇願した。ユカは、一瞬迷った素振りは見せたが、すぐに、「やったことないけど、面白そうだから犯してやるよ」と言った。

「ありがとございます!」

目を輝かせて俊道はユカを見上げた。ユカは、「だから、マジでキモいから見んなって」と俊道を蹴ってから、ペニバンを取り上げ、立ってスカートをまくり上げると、それを下着の上から装着した。

「これでいいの、か?」

再びソファに腰を下ろしてユカが訊き、俊道は「はい」とこたえた。

「じゃ、コンドーム着けて」

「はい。失礼します」

俊道はユカの足元に進んで跪き、そのディルドにコンドームを被せて伸ばし、馴染ませた。そして、その作業が終わると、ユカが言った。

「とりあえず、しゃぶれよ」

「はい」

更に前進して俊道は床に手をつくと、ユカの下着の上で屹立しているディルドを口に含んで、何度もスライドさせた。根元まで咥え込む時、間近にユカの下着が迫って、芳醇な香りが俊道の鼻腔をくすぐった。その俊道の髪をユカは掴み、時々腰を突き上げた。俊道は尻を浮かし、一心不乱にディープスロートを続ける。すると、やがてユカが俊道の髪を離し、言った。

「そろそろ、向こう向いてケツを突き出しな」

「はい。お願いします」

俊道はフェラを中断し、その場で方向転換をすると、肘を床について尻を高く掲げるようにして四つん這いになった。背後で、ユカが「汚いケツ」と笑って、ローションを垂らす。その冷たい感触に、俊道の体がビクンと跳ねた。そして、たっぷりとローションが注がれた後、ゆっくりと異物が尻の穴の中に侵入してきた。俊道は口を開けてそれを受け入れる。

ユカの両手が俊道の腰に添えられ、ディルドはどんどんと俊道の中に埋め込まれた。やがて、それが不意に後退し、また沈められた。そんな運動がしばらくゆっくりと続いた。床に向いた俊道のペニスの先から透明な液が溢れて、糸を引きながら垂れていく。

だんだんコツを掴んできたらしいユカが、少しずつスピードを上げながら腰を叩きつけてくる。そのクイックなピストン運動に合わせて俊道の体もリズミカルに律動し、知らぬ間に、俊道は「あんあん」と喘ぎ声を漏らして自らも腰を振り始める。ユカが、俊道の首に巻いた浴衣の帯を引っ張りつつ、腰を振ってディルドで貫きながら、訊く。

「どう? 感じてるの?」

「はい、素晴らしいです。ア、アン。ボ、ボク、ユカ様に犯されて幸せです」

極限まで硬直したペニスを股間で揺らしながら俊道は言い、ふと壁を見た。すると、鏡に、ユカに貫かれている自分の姿が映っていて、その反射の中でユカと目が合い、爆発的な羞恥心が俊道の内部で炸裂した。浴衣の帯を手に巻いたユカは、その反射の中で煙草に火をつけ、クイックイッと腰を突き出している。

それを見ているうちに、俊道はふと、このままの状態で、先ほど買った生脱ぎパンティの匂いを嗅いでオナニーがしたい、と思った。パンツを買った相手の女子高生からペニバンで貫かれながら、そのパンティで自慰をして、尚且つその姿を本人に晒すことができるなんて最高ではないか、と思ったのだ。だから俊道は、貫かれて喘ぎ続けながら、ユカに言った。

「ユカ様。このままで、先ほど買わせていただいたパンティの匂いを嗅ぎながら、今オナニーさせていただいてよろしいでしょうか」

「なんだよ、それ。ちょっと変態過ぎだろ?」

「どうか、どうかお願いいたします」

「ま、どうでもいいや。やりたけりゃやれよ」

突き放すようにユカは言い、俊道は「ありがとうございます!」と歓喜した。そしてディルドを受け入れたまま手だけを伸ばしてブリーフケースを取り、中からジップロックで封印されたビニール袋を抜き出した。そして、パンティを摘み、それをすっぽりと頭に被ってクロッチが鼻から口に掛けて掛かるように位置を調節すると、思いっきり呼吸した。べっとりとした滑りが鼻の頭から唇に掛けて密着し、生々しい雌の匂いに包まれる。俊道は、そのまま突っ伏し、床から両手を離し、顔を横に向けて頬を床に擦り付けて体を支えると、両手を自らの股間に伸ばし、左手で陰嚢をさわさわと緩く掴み、右手を勃起している茎に添えて、一気に扱き始めた。その一部始終を鏡越しに見ていたユカは、「マジで変態過ぎる」と大笑いし、ガンガンと腰を振り始めた。その運動に合わせて俊道も腰を振り、女のように喘ぎ続け、そして不自由な体勢で扱き続ける。

「ああ、ユカ様……アンアンアンアン……」

汗をかき、俊道は扱きながら腰を振り続ける。ユカも、息を切らし、時々髪をかきあげながら腰を叩き込み続ける。

やがて、射精の衝動が突き上げてきて、俊道は手の動きを加速させた。そして、そのまま「あああああ」と絶叫し、次の瞬間、体をヒクヒクと痙攣させながら床に向かって大量の精液を噴射した。

俊道が濃厚な精液を華々しく迸らせた後、ユカは、汗をかいたといって裸になると、ひとりでひとしきりジャグシーを占領した。その間、俊道は「絶対に来るな」と厳命されていて、仕方なく腰に大きなバスタオルを巻いたままソファに座っていた。さすがに、ぐったりと脱力してしまっていた。

ジャグジーから出てくると、ユカは「面倒臭いから、いま履いてたパンツと靴下もおまえにやるよ。後からアタシを思い出してシコシコすれば?」と笑って、ビルの階段の踊り場で履き替えたばかりのパンティと靴下を俊道の足元に放り投げた。俊道は「ありがとうございます」と礼を述べてそれを拾い、ビニール袋に密封した。ユカは「なんかスースーする」と笑っていたが、ノーパンのままスカートを穿いた。

そして入れ替わりで俊道がジャグジーを使い、汗を流して早々に出てくると、ユカはすっかり身支度を終えて煙草を吹かしていて、俊道が出てくるとその煙草を消し、ナイロンのボストンバッグを肩に掛けて「じゃ、先に帰るわ」と言った。

俊道はバスタオルを腰に巻いたまま、慌てて未練がましく、「連絡先を教えて貰えませんか?」とユカに尋ねた。しかしユカはただ笑って、「縁があれば、また会えるかもね」と言うだけで、決してメールアドレスすら教えなかった。そして、「バイバイ」と手を振ると、ひとりで先に部屋から出ていってしまった。その時、ドアの縁で小さく躓いて、「痛っ」と言っていた。

俊道は瞬間的に、追いかけて脚にでも縋りつこうか、と思ったが、まだ裸だったし、ルームチャージの精算も済んでいないし、使った道具も出しっ放しだったので、諦め、ユカがテーブルの上に残していった、まだ半分ほど入っているコーラの壜を取り上げると、間接キスを楽しみながら飲んだ。それはもう生温くなっていて、炭酸もずいぶん抜けてしまっていたが、とてもおいしかった。そして、ユカが捨てていった吸い殻を灰皿から摘んで拾い上げると、それを咥え、唇と舌でユカの口紅と唾液の名残を噛み締めた後、ビニール袋にしまった。

それから時間いっぱいまでホテルで過ごし、俊道はチェックアウトした。既に日付が変わって土曜日になっていた夜更けの路上は、閑散としていた。俊道はひとりで歩きだしながら、ブリーフケースの中にあるユカの下着に思いを馳せた。今頃はもう自宅でベッドの中かもしれない、と漠然と思う。

やがて、明かりの無い、暗い路地に差し掛かった。俊道は、今夜初めて強烈な孤独を感じながら、まだ電車が動いているかどうか不明だったが、とりあえず駅に向かって歩き続けた。

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