SCENES

♯1 深夜の路上にて。

中村稔は見かけ平凡な二十八歳のサラリーマンだが、その実は空手二段、柔道初段、さらには学生時代にボクシングの経験もある大変な猛者だった。しかし体型は細身だし、顔つきもどちらかというと気弱な感じがするから、全然そのような強い男には見えない。だからか、その夜も、いま流行のオヤジ狩りに遭遇してしまった。

夜の十一時を過ぎると、繁華街の外れは人の姿がめっきり減って、駅へと向かう近道であるその横丁には誰もいなかった。中村はほろ酔い気分で横丁に入り、しばらく歩いた。そのうちに、ふと尾行されている気配を感じた。心持ち足を速めると、その気配も合わせてついてくる。厄介なことにならなければいいが、と歩いていくと、いきなり背後から声を掛けられた。

「おっさん、ちょっと待ってくれよ」

振り返ると、金髪にピアス、ダボダボのズボンをずり下ろして腰で履いている若い男がニヤニヤ笑っていた。隣に同じような身なりの男がもうひとりいて、その男達の後ろに派手なコギャル風の少女がふたりいた。おそらくそれぞれの恋人なのだろう。少女はふたりとも肌も露わなキャミソールを着ていて、髪にはメッシュが入っている。足元は揃って厚底のサンダルで、白いペディキュアの爪が街灯の光を撥ね返している。

「なあおっさん、俺達、金がないんだよ。だからさあ、ちょっと貸してくれないかなあ」

相変わらず四人とも笑っている。コギャルのひとりが調子に乗って言う。

「おらオヤジ、さっさとカネ出せよ。おとなしく出すもの出したら解放してやるからさ。痛い思いはしたくないだろ」

続いて、最初に声をかけてきた男が一歩進み出て、だらしなくポケットに手を突っ込みながら体を揺すって下から中村の顔を睨み上げた。威嚇のつもりなのだろう。

「さっさとしろよ。ぶっ飛ばすぞ」

そう言うと同時に男はポケットから手を出した。その手にはバタフライナイフが握られていた。中村は、仕方ないな、と小さく首を振りながらジャケットの前ボタンを外した。それを認めた男達は俄かに殺気立ち、さらに詰め寄ってきた。

「おい、おまえやる気か? おもしれえ」

背後からコギャルが煽る。

「やっちゃえ、やっちゃえ」

全くもって大人を舐めきった態度である。中村は肩を竦めながら首を振った。男のひとりがコギャルに向かって言う。

「おいナツミ、人が来ないかよく見張っておけ」

そして、素早く中村に襲いかかった。ナイフがまっすぐ飛び出してくる。しかし中村は簡単にそれを避け、男の足を払った。

「ヤロー」

地面に転がった男が闘争心を剥きだしにして、すぐさま再び中村に向かってきた。ガールフレンドの前でとんだ醜態を晒してしまったことで、明らかに逆上していた。もう一人の男も加勢する。

それでも中村にとってこのふたりの攻撃は屁でもなかった。中村は一分も経たないうちにふたりを倒した。男達は鼻から血を流し、ほうほうの体で地面を這っている。コギャル達は、つい先ほどまでの威勢のよさもどこへやら、すっかり青ざめて身を寄せ合い、呆然と立ち尽くしている。たぶんこんなことになるとは想像もしていなかったのだろう

そして次の瞬間、男達はコギャルふたりをその場に残して逃げだした。口々に汚い言葉を吐いて精一杯の強がりは示してはいたが、戦闘意欲はすっかり喪失しているようだった。そんな男達の行動にコギャル達は一瞬呆気にとられながらも、じきに我に返り、続いて逃げようとした。しかし、その前に中村は立ち塞がった。

「ちょっと待って」

「な、何よ」

怯えながらも気丈にひとりが言った。男達はもう路地にいない。中村はコギャルを見据えた。よく見るとかなり幼く、なかなかかわいい顔をしていた。十四か五といったところか、と思いながら中村は訊いた。

「君達、いくつ?」

優しい声だった。それに少し安堵したのか、彼女達も心なしか態勢を立て直した。胸を反らし気味にひとりが答える。

「十五よ」

なかなか威勢がいい。

「何か文句でもある?」

どうやらすっかり開き直っているようでもあった。もうどうにでもなれ、といったやけっぱちな感もある。やはり目の前で男友達が無残に叩きのめされて、しかもさっさと逃げ出し自分達だけ置き去りにされたとなれば、そうするしかないのだろう。どのみち中村には勝てやしないのだから、最後の抵抗というようにも見えた。

中村の目に、少女達の剥きだしの太腿が悩ましく映った。ふたりはその視線を感じて身を固くした。しかし、その直後に中村が取った行動は、彼女達の想像したものとは全く違った。

中村は辺りに人影が見えないのを確かめると、いきなり彼女達の前に跪いたのだった。そして額を地面に擦りつけ、こう懇願した。

「コギャル様、どうかさっきみたいに僕を馬鹿にしてください。そして、そのおみ足にご奉仕させてください」

少女達は一瞬大きく目を見開いてそのリクエストに驚いたが、その後、互いに見つめ合い、次の瞬間、大爆笑した。

「なあんだ、そういうことか」

「おまえM男か、ハハハ」

少女達はそう言うと、揃ってサンダルの足を中村の前に差し出した。中村は「ありがとうございます!」と歓喜して、白いペディキュアの爪先を口に含んだ。いとおしく舌を這わせ、息を荒げながら指をしゃぶる。調子に乗ったひとりが、中村の固くなった股間を踏んだ。

「すっげー変態、このおやじ、キャハハハハハ」

少女達の笑い声が無人の路地に反響する。そう、中村稔は肉体的には屈強であるのに、精神的には完全なるマゾなのであった。

♯2 午後の給湯室にて。

三時になると、その課のOLのふたり、江梨子と美奈は、お茶を淹れるために給湯室に入った。茶葉の缶の蓋を回しながら美奈が言う。

「全くあの課長、ムカつくわね」

「ほんとほんと、あの禿おやじ、マジでウザい」

江梨子も同調した。保温ポットの注ぎ口を『出』にして、小窓から湯量を確認する。ふたりは同じ経理課に所属するOLで、十人いる課員の中で最も若い部類に入る。また、経理課に女性はふたりだけということもあり、大の仲良しだった。江梨子は二十三歳、美奈は一歳年下の二十二歳で、ふたりは社内でも美人コンビとして有名だった。それぞれ恋人はいるが社外の人間なので、会社では知られておらず、周囲の独身社員をその気にさせて楽しんでいるところがある。無論、そんな魅力的なふたりだから当然妻子持ちの管理職連中にも人気があって、中には何かと理由をつけて酒や食事に誘ってくる者もあったが、彼女達は持ち前の愛想のよさとバイタリティーで巧みにさりげなく交わしていた。それでも、内心ではかなり腹を立てていた。

彼女達は見た目こそ育ちが良さそうで物腰も上品だが、実際は、元ヤンキーだった。十代の頃は遊びまくった。酒も煙草も中学で覚えたし、処女なんて共に十三歳で捨てていた。そのように高校時代は専ら遊びほうけていたが、ふたりともとりあえずは短大に進み、その後現在の会社に入社した。

年齢が上である江梨子が先に入社し、翌年、美奈が入ってきた。ふたりとも最初から経理課に配属され、すぐに互いの素性を理解しあってたちまち意気投合した。しかし、だいたいが経理なんて仕事は営業や企画と違って華がなく、地味な印象だから、そこで働く課員も陰気な人間が多く、少しでも彼女達が計算ミスをしようものなら、まるで鬼の首でもとったかのように誰もがニヤニヤしながらチクリと厭味を言った。中でも課長の溝口はその最右翼で、事ある毎にネチネチと粘着質な攻撃をした。それは、この男の風体といかにも一致する行動であった。溝口は五十二歳で、既に髪はかなり後退しており、その広い額はいつも脂で光っている。背も百六十センチ足らずと低く、そのくせ体重は八十キロに近いから典型的なチビデブだった。それでいて偉そうにしているから、江梨子と美奈はこの男が大嫌いだった。何か言われた時は表向きこそ仕方なく神妙な顔をしておとなしく聞くが、元々がヤンキーだからストレスは溜まる一方だった。

溝口は厭味が得意なだけではなく、少々変質気味だった。彼女達がデスクで仕事をしていると、溝口は何気なく背後に回ってきて、わざとらしく屈み込んで髪の香りを嗅いだり、どさくさに紛れて体に触る。肩や腕に触れるなんて日常茶飯事で、ひどい時など、美奈がコピーの紙詰まりに四苦八苦して屈み込んでいると、その突き出た丸い尻を、まるで偶然そこを通りかかったみたいに装って手のひらで撫でることもあった。そういう時、キャッと美奈が体をピクつかせて声を上げると、溝口は困惑顔を取り繕いながら「ごめんごめん、ここ、ちょっと狭いからさあ、触っちゃった。わざとじゃないよ」とたいして悪びれもせずにしゃあしゃあと言ってのける。

こんな卑劣な行為がまかり通るのも、この会社の旧態依然としたなんとも不快な社風が、そのような行為を黙認しているからであった。聞くところによると、同じような問題は他の課でも発生しているらしいが、被害に遭った子が上司に直訴しても、なあなあで誤魔化されてしまうらしい。はっきりいって、この会社でセクハラの被害に遭ったOL達は泣き寝入りせざるを得ない状況だった。

いつだったか、こんなことがあった。その時の被害者は江梨子で、加害者は当然溝口であった。それは夏のある日のことだった。江梨子が通路で立ち止まり、長い髪を後ろでまとめていると、突然、後ろから来た溝口に抱きつかれた。そして、さらに胸の膨らみを鷲掴みにされた。まさに両手で、ムンギュという感じだった。さすがの江梨子もそこまで大胆なセクハラをされて、思わずその場でしゃがみこんでしまった。しかし溝口は謝るどころか、案の定澄ました顔で「いやあ、ほらこの床を這ってるパソコンのコード、これが足に引っかかってしまって……勿論わざとじゃないよ」としらばくれた。江梨子はその溝口のあまりに幼稚な言い訳に、呆れて言葉が出なかった。おそらく溝口は江梨子が後ろ髪をまとめている時に白い項を見て興奮してしまったのだ。加えて、江梨子はかなりのグラマーで、制服の白いブラウスの上からでもはっきりとその隆起が目立つほど豊満な胸をしているから、溝口はずっとチャンスを窺っていたに違いなかった。そして、ついにその願望を成就した。その証拠に、溝口の顔には陰湿な充足感が漲っていた。溝口は去っていく時、江梨子に後ろ姿を見せながら、たった今の柔らかい感触を反芻するように何度も空気を手で揉んでいた。そのいやらしい手つきに、江梨子は言い知れぬ嫌悪感を抱いた。

「今日なんかさあ、あの溝口の馬鹿、また私がちょっと席を離れた隙に私の椅子の座っていた部分を触っていたのよ、もう本当にムカつく」

美奈が急須に湯を注ぎながら唇を尖らせて言う。

「それは多分、美奈のお尻の温もりを感じて喜んでいたのよ。アイツ、もし周りに誰もいなかったら絶対その座面に顔を押し付けて匂いも嗅ぐわね」

「全くサイテー」

江梨子は人数分の湯呑みを並べた。色も形状も様々な湯呑みの中でも、溝口のそれは一段と大きい。美奈はお茶が出るのを待ちながら手持ち無沙汰な様子で大きな欠伸をした。つられて江梨子も欠伸をし、ふと思い出して言った。

「そうそう、この間ね、私もひどい目に遭ったわよ」

「何?」

美奈子が訊ねた。江梨子は壁に凭れて、後ろ髪を両手で下から持ち上げ括るようにまとめながら、その時の状況を説明した。

「溝口の奴、この前の残業の時、これみよがしに机の下でアソコを触ってたのよ。勿論私は見て見ぬふりをしたのだけど、あれは絶対に私に見せつけてその反応を楽しんでた感じだった。しかも、話にはまだ続きがあって、私がちょっとトイレに行って戻ってきたら、なんとあの変態おやじ、何をしてたと思う? 私のデスクの脇のゴミ箱を漁ってたのよ。信じられる? で、私の顔を見て、どういう言い訳をしたと思う? こんな風に言ったの、「いやあ、大事な書類がないんだよ。で、もしかしたら僕が君の後ろを通りかかった時に無意識のうちに捨てちゃったのじゃないかと思って」だって。ムカつくでしょ? そんな見え透いた嘘、信じられるわけないじゃん。いったい私のゴミ箱なんて漁って、どうするつもりだったのか。全く理解に苦しむわ」

「それはね、きっと、江梨子さんの使い古しのストッキングとか入っていないか探してたのよ」

美奈は急須を傾けて湯呑みにお茶を注いでいきながら答えた。江梨子は壁に凭れたままパンプスを足の先でぶらぶらさせながら、ほとほと呆れ果てたように呟いた。

「マジで最低ね、溝口って」

美奈がお茶を注ぎ終えると、その湯呑みを江梨子はトレイに載せていった。最後に、溝口の湯呑みが残った。それを手の中で弄びながら、江梨子は提案した。

「ねえ美奈、今日はこの中に私達ふたり分の唾でも入れない?」

「グッドアイディア! 今日は雑巾も濡れていないし、何を入れようかと考えていたところなの」

先に江梨子がトロリとした唾をお茶の中に落とした。続いて美奈も、江梨子の倍くらいの量の唾を垂らした。肉厚の赤い唇から泡立つ唾が糸を引いて茶の表面に落下した。

「わお、たっぷりね」

茶の表面で膨らんでいる大量の唾を見て、江梨子が嬉しそうに言った。美奈がそれをスプーンでかき回す。

「きっと絶妙な味ね」

「変態溝口特製茶の出来上がり」

ふたりは給湯室を出て、経理課に入っていき、お茶を配った。最後に課長の席へ行き、「課長、どうぞ」と特製茶を机に置いた。

「うむ。ありがとう」

何やら計算をしていた溝口は書類に視線を落としたまま頷き、それからちらりと湯呑みに目を遣った。江梨子と美奈は吹きだしそうになるのをぐっと我慢しながら自分の席に戻り、仕事を再開するふりをしながら、溝口の様子を盗み見る。

やがて溝口は書類から顔を上げると、眉間を軽く揉んでから、ゆっくりと湯呑みに手を伸ばした。そして掴み、口に運んだ。茶が食道を下っていくのが、喉の動きでわかる。江梨子と美奈はそっと目を合わせて、やったー、という感じで頷いた。

それは彼女達のささやかな勝利の瞬間だった。江梨子は溝口がお茶を飲み干したのを確認すると、勝利の余韻に浸りながらパソコンの画面に戻った。美奈も充足感を噛み締めながら伝票の束に視線を落とす。

が、しかし、彼女達の勝利は残念ながら勝利ではなかった。なぜなら、溝口は彼女達が自分の湯呑みに唾を入れていることなど百も承知だったのだ。そして彼は、その唾入り特製茶をそうと知った上で喜んで飲んだのだった。溝口はその唾テイストのお茶が飲めて嬉しかった。彼にとって、そのお茶以上においしい飲み物など、この世になかった。溝口は、その素晴らしいお茶を口の中で充分に味わい、このうえない至福感に包まれながら飲み下したのだった。

♯3 昼下がりの高級住宅街にて。

十九歳の上田直紀は、軽トラックをひとりで運転していた。汗の滲んだTシャツの袖を肩まで捲り、首にタオルを巻いて、全開にした窓の枠に肘を載せてハンドルを握っている。

酒類販売店で働く直紀は、昼休みを終えて、午後の配達及び集金に出たばかりだった。彼の担当区域は大きな屋敷が立ち並ぶ高級住宅街で、今日はその中でも一際立派な『滝村邸』が予定に入っていた。滝村さんという家は夫婦ふたり暮らしで子供はいない。ご主人は金融会社を経営しており、相当裕福な感じだった。ガレージにはベンツやポルシェといった高級外車が並び、芝生が敷き詰められた庭にはプールまである。直紀はそれらを目の当たりにする度、金ってあるところにはあるのだなあ、と感心する。しかしそれは羨望ではない。世界があまりに違うから、自分と比べてどうこうとは考えられないのだった。

真夏の炎天下、直紀は予定表に従って配達をこなしていった。重いビールケースをえっちらおっちらと運び、代金をもらっては領収書を切り、注文を受けて回った。どの家もだいたいご主人は不在で、たいてい奥さんが応対する。若い人もいれば年老いた人もいるが、ただ、どの家も標準以上の家庭である為、みな上品である。それでも、家の中という開放感からか、どの奥さんも肩の力を抜いた格好をしており、なかなか刺激的でもあった。中には二十代前半の美しい夫人がいたりして、そういう人がリラックスした感じの、肌を露出した軽いワンピースなどで玄関に姿を見せると、普段殆ど女性と縁のない直紀はドギマギしてしまう。胸の膨らみや尻の丸みや色っぽい脚などに、直紀は目のやり場に困った。涼しげに応対する女性達の前で直紀はたらたらと汗を流して立ちながら、妙におどおどしてしまい、それが我ながら情けなくもあった。

順調に予定を消化していき、次はあの『滝村邸』だった。直紀は直線的に伸びる長い塀に寄せて軽トラックを止めると、エンジンを切った。運転席を出て荷台に回り、ビールケースを持ち上げた。そして人気のない通りを歩いて裏口まで来ると、いったんビールケースを下ろしてインターフォンのボタンを押した。

「毎度ありがとうございます。和泉屋です。ビールをお届けにあがりました」

「はあい。ちょっと待ってくださいね。今、開けますから」

小さなスピーカーから夫人の声が聞こえた。直紀はタオルで汗を拭った。陽射しが強烈だった。じっとしていても汗が噴出してくる。

しばらくして鍵が外される音がして、扉が開くと、そこに蓉子夫人が微笑しながら立っていた。彼女のファッションは、年下の男性を翻弄するには充分な、きわめて挑発的なものだった。蓉子夫人は薄いブルーのノースリーブのシャツに、白いホットパンツを履いていた。たわわな胸の谷間がくっきりと見え、剥きだしの太腿が悩ましい。直紀はその姿に目を細めたが、すぐに照れたように視線を外して頭を下げた。蓉子夫人が言う。

「ご苦労様。暑いでしょう? さあ中に入って」

そう直紀を導く蓉子夫人は三十代後半のたいそう美しい人で、まだ女性経験のない直紀にとっては憧れだった。こういう美しく経験豊かな人妻に玩具にされたい、という願望が直紀にはあった。気づくと、ジーンズの中の性器が勃起を始めていた。

直紀はその勃起を悟られないようにビールケースを持ち上げると、蓉子夫人について扉を潜った。裏口からは、母屋の勝手口まで石畳の道が続いている。芝生のスプリンクラーが水を撒いていて、そこに小さな虹が架かっていた。庭の植木を、年老いた庭師が手入れしている。

勝手口に着き、直紀はその三和土でビールケースを下ろした。視線を落とすと、蓉子夫人の金色のサンダルが目に入った。毒々しいまでに赤い爪が艶やかに光っている。直紀は胸の高鳴りを抑えながら顔を上げたが、蓉子夫人をまともに見つめることが出来ないまま、言った。

「あのう、集金もよろしいでしょうか」

「ええ、いいわよ」

蓉子夫人は頷き、サンダルを脱ぐと、素足になって台所に上がった。そして直紀がその場でまたタオルを使って汗を拭いていると、「どうぞ、上がってちょうだい」と蓉子夫人が言った。

「冷たいものを飲むくらいの時間はあるでしょ?」

目をじっと覗き込まれながらそう訊かれ、直紀は心臓が破裂しそうだった。大きな瞳に見つめられると、直紀は緊張のあまり身動きがとれなくなってしまった。

「さあ、どうぞ」

再度促され、直紀は靴を脱ぐと、素直についていった。広いリビングへと案内され、ぎごちなくソファに腰を下ろした。大きなガラス戸にはレースのカーテンが弾いてあって、部屋には冷房が効いていた。すぐに蓉子夫人がトレイにオレンジジュースのグラスを載せて現れ、なんとしんじられないことに、直紀のすぐ隣に座った。甘い香水の香りが直紀の鼻を擽った。まるで成熟した大人の女性の官能が匂い立つようだった。直紀は体を固くした。

「そんなに緊張しなくていいのよ」

囁くように蓉子夫人は直紀の耳元で言って、直紀の緊張はさらに高まった。

「うふふ、かわいいのね」

蓉子夫人の手が直紀の膝に置かれた。そしてそれはゆっくりと太腿へ、さらに、股間の怒張へと伸びていった。

「やだあ、カチンカチンじゃない?」

吐息が吹きかかる。直紀が顔をそちらへ向けると、赤く濡れた唇がすぐ間近にあった。蓉子夫人は少し舌を出して、焦らすように唇を舐めていった。直紀は放心したようにその動きに心を奪われた。

固く屹立する性器をジーンズの上からさする手が優しい。と、次の瞬間、直紀は我を忘れてその蓉子夫人の股間に顔を埋めていた。

「お、奥さん」

もう我慢が限界だった。両手を太腿に這わせ、顔をホットパンツの股間に強く押し付けた。そこはいい匂いがした。蓉子夫人が、そんな直紀の頭を抱えながら優雅に訊く。

「どうしたの? 何がしたいの?」

きわめて冷静な口調だった。しかし直紀は狂ったように股間に顔を埋めたまま懇願した。いつのまにか直紀はソファから下りており、毛足の長い絨毯の上で膝をついていた。

「お願いします、奥さん……ぼ、僕……」

「なあに? どうしたの? 私のあそこが欲しいの?」

「は、はい」

「じゃあ服を全部脱いで。そしてあなたのおチンポを見せて」

そう言われて直紀は汗をたっぷりと吸って重いTシャツを剥ぎ取るようにもどかしく脱ぎ捨てると、ジーンズとパンツを一緒に下ろした。しかしペニスが限度いっぱいまで反り返っていて、パンツがなかなか脱げなかった。直紀は焦った。そんな直紀を見て、蓉子夫人が窘めるように囁く。

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。私は逃げないから」

ようやくパンツのゴムに引っかかっていたペニスが外れた。その瞬間、勃起したペニスは元気よくピクンと跳ねて腹に当たった。

「まあ、すごく元気なおチンポね」

嬉しそうに蓉子夫人が軽く握って言う。それだけで直紀は天にも昇る心地になった。

「奥さん」

改めて全裸の直紀が蓉子夫人の股間に顔を押し込むと、彼女はそれをやんわりと制した。いったん直紀を後方へ下がらせ、片足ずつ上げてホットパンツを脱いだ。そして直紀を近くに呼び、「もしかして女の人のあそこを見るの初めて?」と訊き、直紀が頷くと、「じゃあ、まずは私のパンティを脱がせてちょうだい」と言って長い脚を、跪いている直紀の肩へ、顔を挟むようにして載せた。直紀はたまらずいったんその薄い水色のパンティに思いっきり顔を押し付けて、その柔らかい布地の向こうから漂う仄かではあるが濃厚な芳香を吸い込んでから、震える手で慎重にパンティを下ろしていった。やがて、艶やかに生い茂る陰毛が現れた。その奥に、ピンク色の亀裂が垣間見える。直紀は蓉子夫人のフォローを借りてパンティを両足から抜くと、温かいそれを握り締めたまま、ごくりと唾を飲み込んで少々濃いめの陰毛に被われた股間を凝視した。蓉子夫人が含み笑いを漏らしながら両足を広げてソファに載せると、陰毛の密集の奥を、指先で広げた。ピンクの襞が、溢れ続ける透明な愛液に濡れて光っている。蓉子夫人が指先を動かす度、その濡れた亀裂はまるで直紀を誘うように蠢いた。直紀は「な、舐めてもいいですか?」と訊きながらじりじりと近づいていった。しかし蓉子夫人は「まだ駄目」と直紀の肩を押して止め、クッションの間から首輪を取り出して彼に見せた。

「私ね、従順なワンちゃんが欲しいの。あなた、私のペットになってくれる?」

「はい、僕、奥さんのペットになりたいです!」

直紀は床に手をついて四つん這いになったまま、数センチの距離に迫る亀裂を凝視しながら叫んだ。一刻も早くあそこを舐めたかった。その答えに蓉子夫人は満足そうに頷き、直紀の首に首輪を装着した。そしてリードの端を持ち、ぐいっと引き寄せる。

「さあワンちゃん、舐めなさい。私のあそこを、私がもういいつて言うまでずうっと舐めるのよ」

「はいっ!」

直紀は蓉子夫人の股間に突進した。開いている足を手でさらに広げ、狂ったように舌を伸ばした。そして、舌先が柔らかい媚肉に到達した瞬間、直紀の全身を電流が貫いた。直紀は、まさに犬となって亀裂に吸いつき、ひたすら舐め上げた。初めての女性器は美味しかった。淫靡な亀裂は甘く、ドロドロと溶けていくようだった。口の周囲をチクチクと刺す陰毛の刺激も夢のようで、直紀は陶酔した。愛液を舌先で掬うようにして吸い、飲んだ。その蜜は、舐めても舐めても涸れることなく次々に溢れ続けて、たちまち直紀の顔をベトベトにした。鼻先で突起を押すと、それに合わせて蓉子夫人は切なげな喘ぎ声を漏らし、背中を仰け反らせた。

午後の陽射しが差し込む広いリビングにピチャピチャという卑猥な音だけが響く。首輪を巻かれた全裸の若者が、シャツを着たまま下半身だけを露出させている成熟した女性の股間に跪き、必死に舌を使っている。女性のか弱い喘ぎと男の荒い息遣いが交錯している。いつのまにか丸めて捨てられている女性のパンティのクロッチには、くっきりと染みが出来ていた。男のペニスの先端からは、透明な汁が零れて床へと糸を引いて垂れている。

窓の外では、無口な庭師が黙々と枝を刈っている。

♯4 黄昏ゆく部室にて。

夏休みの期間中のその日、村井清は当直で登校してきていた。村井は三十二歳の独身で、古文の教師である。

職員室の窓から、プールが見える。涼しげな水を湛えたプールは光を撥ねて、女子の水泳部員達が、紺色の濡れた水着を輝かせながら練習を続けている。その歓声が開け放っている窓から聞こえる。

白っぽく乾いたコンクリートのプールサイドに、無邪気で健康的な若い美が弾けている。恋人のいない村井にとって、その光景は眩しすぎた。村井は窓辺に立ってその女子水泳部を眺めながら、ついにんまりした。

その時だった。暗い欲望が村井の脳裏に湧き起こった。部活動はまだ当分続く。ということは、その間、水泳部の部室は無人なのだ。そしてそこには彼女達の服や下着が無造作に脱ぎ捨てられてある筈だった。たとえ鍵がかかっているにせよ、職員室には無論スペアキーがある。幸い今は夏休み中だから校内に人は少ないし、この職員室にも自分の他には誰もいない。しかも、今日、最後まで活動しているクラブは女子水泳部だけだった。施設の利用予定表を見ると、現在、男子のテニス部がテニスコートを使用しているが、これはあと十分で練習を終える。その後、校内には女子水泳部だけとなるのだ。そうなれば、もう障害はない。テニス部の生徒達が下校するのを見届けてから水泳部の部室へ侵入すれば、誰にも見咎められることはないだろう!

そして村井はその通りに行動した。テニス部の生徒が帰っていくと、村井はスペアキーを握り締めて、いそいそと廊下を進んだ。無人の校内はひっそりと静まり返っていた。時折、プールの方から黄色い歓声が届いて、それが村井の興奮を煽った。

既に村井の性器はギンギンに勃起していた。村井はそれをズボンの上から押さえながら歩き、やがて水泳部の部室に到着した。念のために何度も周囲を窺い、誰もいないことを確認すると、鍵を鍵穴に差し込んだ。そして回したのだが、カチリと思いのほか大きな音がして、村井は身を竦ませた。

そっとドアを開けて体を滑り込ませて、すぐに後ろ手で閉めた。勿論ロックもした。そうしてから、ようやく改めて室内を見回した。

壁に沿ってロッカーが並んでいる。部屋の中央に大きなテーブルがあって、その上には生徒達の荷物が散乱していた。飲みかけのジュースのペットボトルやお菓子の袋がある。部室の隅にはなぜか体操用のマットが畳んで置いてあり、そこかしこに置かれた折り畳み式のパイプ椅子の背に、村井の目当てである衣服が掛かっていた。

窓が閉め切られているのでひどく暑かったが、村井はその場に立ち尽くしたまま目を閉じ、深く深呼吸してみた。部屋中に若い女性特有の甘酸っぱいような体臭が染みつくように充満していた。それから村井は、脱ぎ捨てられてある衣服を慎重にチェックしていった。制服にはそれぞれネームが縫いつけてあるため、それを見れば直ちに誰のものであるか一目瞭然だった。

その辺に脱ぎ散らしてある衣服は、たいてい二年生のものだった。一年生は先輩に遠慮してかきちんとロッカーに仕舞われており、試してみたが鍵が掛かっていて開かなかった。三年生は既に引退しているので部活には参加していない。よって今、この部屋の中にあるものは、すべて十五歳から十七歳の女子のものだった。

一年生といえば、つい数ヶ月前まで中学生であったのだ。そんなことにも村井は興奮した。しかし、一年生のロッカーは開かない。それが村井にはたまらなく残念でならなかった。さすがにロッカーのスペアキーまでは所持していないから、断念するよりなかった。

それにしても、水泳という競技は、他の運動系のクラブと違って、服のみならず下着も靴下も脱いで裸の体に水着をつけるのだから、当然、それまで身に着けていたすべての衣服がここにはあるのだった。村井にとって、それは宝の山だった。普段の生活では絶対に手に触れることなど許されない、崇高な物質達だった。

村井は汗を拭いながら腕時計を見た。部活動の終了時刻まで、まだ後三十分はあった。村井はまず、手近にあった制服を取り、その汗の臭いがするブラウスの腋に鼻を押し当てた。敏感にペニスが反応する。ネームを見ると、2‐B河合とあった。村井は、その生徒のことが好きだった。彼女は水泳部のキャプテンでもあって、とても逞しい体格の持ち主だった。村井は時々、憧れの彼女をオカズに自慰をすることがあった。だから今、村井は幸福の絶頂だった。

ブラウスに続いて、ソックスを持った。よく観察すると、足の裏や爪先がすっかり黒ずんでいて、村井はもう我慢しきれず、そこの匂いを嗅いだ。強烈な匂いだった。それは、彼女のコケテッシュでかわいい顔からは想像もつかない匂いだった。

たまらず村井は服を脱いで全裸になった。そして靴下の匂いを嗅ぎながら、猛然とシゴいた。次に、憧れのパンティに手を伸ばした。そのパンティは淡いピンクで、かなり履きこまれたものらしく、縁取りのレースが解れていた。その分、股間のクロッチには魅惑的な染みが付着していて、その形はアソコと形と同じだった。村井は亀裂に舌を這わせるようにして、その染みを舐めていった。と、その時、不意に背後から声をかけられた。

「てめえ、ここで何やってんだよ」

まだ時間の余裕がある筈だった。村井は信じられない気持ちでその声を聞き、恐る恐る振り向いてその声の主を見た。すると、そこに立っていたのは、いま自分が匂いを嗅いでいるパンティの所有者である河合真由美だった。彼女の背後には、他の部員達の姿もあった。全員がスクール水着姿で、あっという間に取り囲まれてしまった。総勢十五人の女子高生が部室に雪崩込んできて、ドアは固く閉ざされ、逃げ道が絶たれた。村井は、たちまち脱いであった私服を没収された。村井は水着姿の女子高生の輪の中で、全裸で立っていた。あからさまな侮蔑の視線が村井の体、それも破廉恥に屹立する性器に注がれている。村井の右手にはパンティ、左手にはルーズソックスが握られている。合計三十の瞳が、村井を縛り上げていく。

「お許しください」

村井は咄嗟の判断でその場に跪き、額を床に擦りつけた。こんなことが学校にばれたら、間違いなくクビだった。だからもう恥も外聞もなく、ひたすら許しを乞うよりなかった。しかし河合真由美は何も答えず、その返事の代わりに村井の後頭部を裸足で踏んだ。そうされても村井には反抗などできなかった。とにかく耐えるしかなかったし、また、実のところ、憧れの河合真由美にそうされて村井はたまらなく嬉しかったのだ。柔らかい足の裏の感触が快感だった。しかし、その夢のような時間も長くは続かなかった。

「この変態教師、ナメんじゃねえよ、覚悟しな!」

その河合真由美の声がリンチ開始の合図だった。一斉にいくつもの足が飛んできて、村井は見る間にまるでボロ雑巾のようにボコボコにされてしまった。村井は呻き、しかしされるがままだった。嬉しいやら悲しいやら悔しいやら、もう訳がわからなかった。その壮絶な私刑は、黄昏の光が部室の小窓を赤く染めるまで延々と続いた。

♯5 夜明けの浜辺にて。

工藤尚志は海辺で車をとめた。時刻は午前四時を回ったところだった。夜通し運転してきたので、さすがに疲れていた。車が止まった気配で、助手席で眠っていた狩野美貴子が目を覚ました。

「着いたの?」

「うん」

海に向けて車をとめたので、フロントガラスいっぱいに海が広がっている。もう間もなく夜が明ける。昨夜、デートの途中で、美貴子が突然「夜明けの海が見たい」とリクエストし、それに尚志が応えたのだった。

天頂はまだ真っ暗だったが、夜空の色のグラデーションの下の端には白く濁る水平線があり、低い空には刷毛ですっと刷いたような薄い雲がたなびいていて、昇ってこようとしている太陽の光を微かに受けて輝いている。

助手席で美貴子が伸びをした。尚志はエンジンを切り、太陽の出現を待った。夜明けは確実にもうすぐそこまで来ていた。辺りはまだ薄暗いものの、その闇には沈静したオレンジ色の光の粒子が混じっている。

水平線上の雲が輝きを増した。徐々に空気が青く染まっていく。

「ねえ尚志、車から降りてこっちへ回ってきて」

美貴子が助手席のドアを開けて、甘える口調で、しかし拒否することは許さない、といった感じの意志の強さを声に滲ませて言った。

「はい」

尚志は車を降り、ボンネットの前を回って助手席の横に立った。美貴子は、車外に脚を投げ出すと、尚志に跪くよう命じてから、自分の右足を彼に持たせた。尚志は美貴子のパンプスに包まれた足を、大事そうに両手で包み込むように踵の部分で支え、掲げ持った。

「脱がせて。蒸れちゃったみたい」

そう命じられて、尚志は丁寧にパンプスを脱がせた。そして、ストッキングに包まれた踵を改めて持つと、暖かい香気が爪先から俄かに立ち昇った。

辺りが急に光に満ちた。ついに太陽が水平線上に姿を現したのだった。透明度の高い光が車のボディやガラスに反射した。美貴子が、ゆっくりとした優雅な仕草でストッキングを脱いでいく。その間に尚志はパンプスを地面から拾い上げて助手席の床に置いた。

美貴子はストッキングを脱ぎ終えると、それを尚志に手渡した。尚志はまだ温もりを残すそのストッキングを受け取ると、歓喜に打ち震えながらぎゅっと握り締めた。そんな尚志の前に、美貴子の素足が差し出された。白い足の指が太陽の光を浴びて輝いている。ペディキュアの爪がきらりと煌めく。尚志は息を飲んでその美しい爪先を凝視した。

「さあ、舐めなさい」

美貴子の慈愛に満ちたその言葉を拝受して、尚志は「ありがとうございます」と深々と頭を下げると、静かに彼女の足の指を口に含んだ。歯を立てないように細心の注意を払いながら、指の間へ丹念に舌を伸ばしていく。そんな彼の股間を、美貴子は空いている左足で踏み、そして足の裏で擦った。

「ああ、美貴子様」

尚志は生まれたばかりの穢れなき朝の光の中で喘ぎながら、彼女の足の指を堪能した。美貴子は彼に足を与えながら、素敵なメロディを小さくハミングする。

夜明けの浜辺に新しい歌が誕生した。尚志は夢中で足の指を頬張りながら、その小鳥の囀りのような優しい歌を聴いていた。

広告
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。