Session #3

「サユリ女王様、御調教を宜しくお願いいたします」

シャワーを終えて体の水滴を拭った君は、椅子に座って長い脚を組んでいる女王様の前へ進み、跪くと、額を床につけて調教のご挨拶を述べた。プレイへの期待で、性器は既に勃起している。女王様のブーツが、君の後頭部に置かれた。その重みを感じながら君はマゾヒストとしての至福に包まれていく。

サユリ女王様のプロフィールは、クラブのアルバムによると、年齢が21で、身長が166センチとなっている。スリーサイズは上から88、58、85と見事なプロポーション誇り、そのボディはエロチックで肉感的だ。君は、すぐにプレイが可能な女王様だといって待合室で提示された五枚のファイルの中から、迷わずこのサユリ女王様を選んだ。写真を見る限り、サユリ女王様は君好みのスタイルだったうえ、凄まじい美貌の持ち主で、とても素敵に思えたのだ。普段は学生をしているらしく、サユリ女王様はネットでも雑誌でも一切顔出しをしていない。クラブのフロントの人も、「サユリちゃんはまだ女王様歴一年弱ですけど、超オススメですよ」と言っていた。風俗店の人が言う「超オススメ」はあまり当てにならないし、アルバムの写真というのもいまいち信用できないのだが、君は写真を一目見てすっかり虜になってしまっていたし、とりあえずフロントの人の言葉を信じてみることにして指名した。

アルバムには、全身を写したボンデージ姿の写真と、顔だけの写真の二枚が貼られていたのだが、しばらく待合室でウーロン茶を飲みながら待っていた後に、実物の女王様が現れたとき、君は実物の方が写真よりももっと美しいことを知った。風俗店では、写真では良さそうに見えたけれども実物に会ったらガッカリ、というのはよくあることだが、今夜のように写真よりも実物の方がいいというパターンは珍しい。君は女王様とふたりきりでプレイルームへ向かう間、これからこんな素晴らしい女王様に苛めていただけるのだ、と思うと、胸の高鳴りを抑えることができなかった。

女王様が、君の頭からブーツを降ろす。

「顔を上げなさい、変態」

「はい」

君は上体を起こした。女王様の手には、赤い革の首輪が握られている。女王様はそれを君に示しながら、言う。

「おまえは犬になりたいんだったわね」

ルームに入ってすぐに行われたカウンセリングのときに、君は女王様に「犬になって苛められたいのです」と自分の要望を伝達済みだった。

「自分から犬になりたいなんて、本当に変態だね」

「すみません」

君は恥ずかしさのあまり俯いてしまう。その君の顎を、女王様がブーツの爪先で持ち上げる。

「なんで俯くの?」

「すみません」

「おまえ、『すみません』しか言葉を知らないの?」

女王様が君の目をじっと見つめて訊く。君は混乱し、返事に詰まってしまった。しかし何か言わなければならないと思い、少しどもりながら「も、申し訳ございません」とこたえた。

「おまえって変態のうえにバカ? 『すみません』も『申し訳ございません』も意味は一緒でしょ。全く、言葉も知らないなんて、さすが犬になりたいだけのことはあるわ」

呆れたように女王様が言った。君はさらに口籠ってしまう。また『申し訳ございません』という言葉が口から出かかったが、辛うじてそれを飲み込み、「はい……」と小声で呟いた。

「はい? おまえはわたしの犬になりたいんでしょ? だったらちゃんと変態らしい自己紹介をして、それから、犬になりたいってことをしっかり言葉にしてお願いしなさい。この首輪を巻かれたいんでしょ?」

女王様が首輪を君の目の前で揺らす。君は両手を床についたままの姿勢で女王様を仰ぎ見ながら「はい」とこたえ、言った。

「ぼくは変態マゾです。どうか、サユリ女王様の犬にしてください。そして、犬調教を宜しくお願いします」

「ふーん、この首輪を巻かれて調教されたいんだ?」

女王様が焦らすように、誘うように言う。君は大袈裟に何度も首を縦に振って頷く。

「はい。犬になりたいです。お願いします!」

恥ずかしさで君の顔はもう真っ赤だ。『犬になりたい』なんて、普通、男性が女性に向かって口にする言葉ではない。女王様がニヤニヤ笑いながら、さらに君の羞恥心を煽る。君はモジモジしながらその目を恐る恐る見つめ返している。女王様は唇を片方だけ吊り上げて、あからさまに君を侮蔑しながら命じる。

「じゃあ、今からこの首輪を巻いてあげるから、そうね、そこでチンチンして、首を前に差し出しなさい」

「はい」

君は命じられたとおり、両手を持ち上げて手を下に垂らし、犬のチンチンの姿勢をとると、腰を浮かせて首を前へ差し出した。首輪のベルトを外しながら女王様は、おかしそうに笑っている。

「なかなか似合ってるわよ、その格好。さすが変態マゾ犬。ほら、鏡を見てごらん」

そう言って女王様は君の髪を無造作に掴むと、無理やり君を壁の鏡のほうへ向かせた。正視に耐えない破廉恥な姿が、大きな鏡いっぱいに映っている。いい年をした大人の男が、犬と同じチンチンの姿勢をとって、股間のペニスを勃起させている。それは、常人が人前で晒すべき姿ではなかった。しかも、目の前で脚を組んで優雅に座っている女性は君より年下で、しかもとても美しいのだ。その対比は、滑稽で卑猥だ。

「恥ずかしいわね。チンチンしながらチンポおっ勃てちゃって。しかも、今から首輪を巻かれるのよ」

女王様が、組んでいた脚を解いて体を前へ乗り出し、君の首に首輪を装着した。ベルトを止め、リードを引っ張る。

「さあ、変態マゾ犬の誕生よ。どう? 嬉しい?」

女王様は脚を開いて、膝に肘を載せて屈み込むようにしながら、君を見つめる。

「はい、嬉しいです」

君はチンチンの姿勢を保ったまま、素直に言う。しかし女王様には、その返事が不満だった。

「嬉しいじゃないでしょ? 『嬉しいです、ワン』でしょ。おまえは犬なんだから」

君は慌てて言い直す。

「申し訳ありません。嬉しいです、ワン!」

「ハハハ、犬だ、犬」

ひとしきり笑ってから、女王様はリードを手に立ち上がる。君は、床に近い場所から、そんな女王様を見上げる。犬の視点だ。

「じゃあ、まずはお散歩しようか。四つん這いのままついていらっしゃい」

「はい」

君は反射的にそうこたえた後、すぐに『ワン』を付け忘れたことに気づいて、言い直す。

「はい。ワン!」

女王様が君を見下ろして、言う。

「お利口ね。ちゃんと学習できてるじゃない」

「ありがとうございます、ワン!」

君は嬉々としてこたえ、四つん這いのまま、飼い主である女王様を振り仰いだ。

女王様は、リードを引っ張りながら部屋を周回し始めた。君は手と膝を使って女王様についていく。その様子は、壁の鏡にしっかりと映っている。女王様は時々強くリードを引っ張って、君を急かした。君はその度にちょっとよろけながらも、必死についていく。普段、四つん這いで歩くことなどないので、三分もしないうちに君は膝に痛みを覚えた。何せ床は固いフローリングなので、衝撃は直に骨まで伝わる。とくに激しい運動でもないのだが、君は次第に汗をかいてくる。

ルーム内に、女王様のブーツが刻む硬い靴音が響いている。君は床を見つめ、時々女王様のブーツの踵を視界の隅に捉えながら、黙々と歩いていく。ルームには、いろいろなものが置かれている。女王様が座る椅子やベッド、スタンド式の灰皿、小物を置いておくためのワゴン、奴隷の脚を開かせて座らせる椅子、それらの間を縫って女王様は進む。君のスピードが落ちると、女王様は君を蹴飛ばす。

「ちゃんと歩きなさい」

「はい、ワン!」

やがて女王様は「疲れた」と言って君の背中に腰を下ろした。柔らかいお尻の肉の感触が直に皮膚に伝わって、君は喜ぶ。しかし、女王様が足を浮かせて完全に君の上に乗ると、全体重が背中にのしかかってきて、君はひしゃげそうになってしまった。それでも、まさか女王様を乗せたまま床に潰れることなどできるはずがなかったので、君は一所懸命我慢した。だんだん手と膝が震えてくる。女王様が、平手で君の尻を打つ。

「何フラフラしてるのよ。座り心地の悪い椅子ね」

「申し訳ございません、ワン」

君は律儀に『ワン』をしっかり語尾につけて謝罪する。もう君は汗だくだ。額に浮かんだ玉のような汗が、床にポタポタと落ちている。女王様が君の髪を引っ張って言う。

「そうだ、このまま歩いてみようか」

「はい、ワン!」

君は女王様を背中に乗せて、進み始める。床に手をついて体重を支えているため肘がガクガクしてきて、膝が痛い。それでも止まることは許されず、君はリードを手綱代わりにして操る女王様に導かれながらルーム内を歩き続ける。女王様が、君の頭を挟み込むように、両脚を君の肩から前へ伸ばした。女王様の太腿が君の頬に触れて、君は夢心地になる。しかも、直接肌に触れているので、体温までも伝わってくる。君はしばし肘や膝の痛みを忘れてその感触に酔った。

それでも、さすがに疲れてきて、次第に君のスピードが落ちてくる。その度に、君は腹を蹴られ、尻を平手で打たれた。しかしやがて君はついに力尽き、床にひしゃげた。女王様の全体重がのしかかる。

「情けない子ねえ、もうダウン?」

女王様が君の背中で跳ねながら言う。君は息を詰まらせながら必死に謝罪する。

「申し訳ございません……ワン」

女王様が不満げな顔で君の上から降りた。そして君の前でしゃがむ。

「そうだ、何か足りないと思ったら、おまえ、犬のくせに尻尾がないわね」

そのとき、たっぷりとした肉感の白い太腿が君の目の前に降臨して、君は無意識のうちにその部分を見つめてしまう。白く豊満な太腿の奥に、黒く光る小さな革のショーツがとても小さく見える。君は、あの布の中に女王様の大切な場所が隠されているのだ、と思い、さらにじっと凝視してしまった。その視線に気づいた女王様が、君の頬をパシッと張る。

「どこ見てんだよ、変態」

「い、いえ……」

しどろもどろになって君が返答に困っていると、女王様は君の顎を掴み、そのまま頬を指先で圧しながら、君の顔をぐいっと持ち上げた。君の顔が不様に歪む。

「どこを見てたのかって訊いたの」

「は、はい……。すいません、女王様の、あのう、太腿です……ワン」

君は顔を持ち上げられたままこたえる。

「変態のくせに、一丁前に脚を見て興奮してんじゃねーよ」

女王様はそう言い捨て、君の顔に向かってペッと唾を吐いた。

「ありがとうございます、ワン!」

君は顔面を伝って流れていく唾の暖かい感触に歓喜しながら礼を述べる。

「ほら、今から尻尾をつけてあげるから、ケツを高く掲げてこっちに向けなさい」

女王様がもう一発ビンタを浴びせて君に命じる。君は「はい、ワン!」と返事をして、女王様にお尻を向けた。そして頭を低くし、尻を高く持ち上げる。君はその体勢をとりながら、我ながらあられもない姿だと思う。

「うわー、汚いケツだねー。穴の周りまで毛がモジャモジャじゃん」

君の尻の肉を開いて女王様が言う。君は急にアヌス周辺が涼しくなって、反射的に穴を窄めてしまった。それを見て女王様は「ヒクヒクしてるー」と笑いながら、薄いビニールの手袋をはめた。

君は肘で体を支えながら、尻尾の装着を待ち焦がれている。やがて、お尻に冷たいヌルッとした感触が伝わった。ローションが垂らされたのだ。続いて女王様の指先が君のアナルをなぞるように蠢き、やがて、ズブリと突っ込まれた。君は反射的にお尻の穴を窄めて女王様の指先をぐっと咥え込む。

「締りがいいわねえ」

女王様は呆れたように笑い、指でピストン運動を開始した。それに合わせて君の腰も自然に動く。口からは、「あん、あん」という快感の喘ぎ声が漏れる。

「おまえ、なかなか感度がいいわね」

女王様はそう言うと、指で君のお尻の穴の中を大胆に掻き回す。前立腺が刺激されて、君のペニスの先からダラダラと透明な液が溢れ、糸を引いて床へ滴り落ちる。

女王様の指が、さらにもう一本挿入された。君はそれもちゃんと受け入れ、咥え込んで離さない。やがて女王様は三本目の指を捻じ込んだ。そして、ゆっくりとピストンする。君は我を忘れて腰を振っている。

「あん、あん、女王様、気持ちいいです……」

「そう、そんなにアナルを犯されるのが好きなの。ほら、鏡で見てごらん。おまえ、指を三本も咥え込んでるわよ」

君は自分の体の下から、後方を見た。女王様が体を横にどけたので、鏡には、三本の指をすっぽりと咥え込んだ破廉恥なアナルが映っている。女王様は君の視線を意識しながらズボズボと指を出し入れする。

「じゃあ、そろそろ尻尾を付けてあげるわね」

女王様はいったん指を引き抜き、バイブレーターのスイッチを入れた。ペニスの形をしたピンク色のバイブが、クネクネと卑猥に動く。君はそれを見つめながら息を飲む。

女王様がバイブにコンドームを被せて、もう一度君のアナルにローションを垂らした。そして、おもむろにバイブを突き刺す。君はその異物感に貫かれた瞬間、思わず背中を反らせて「あーん」と喘いだ。

お尻の穴の中で異物感が暴れている。君はその快楽に身を捩じらせている。女王様が、ガムテープでバイブのリモコン部分を君の背中に貼り付けた。そして立ち上がり、リードを引っ張る。

「じゃあ、このままの格好で表へお散歩に行くわよ」

「えっ?」

君は驚いて、女王様を下から見上げる。

「お、表は、ちょっと……」

「何言ってるのよ、いくわよ。四つん這いのままついていらっしゃい」

女王様は問答無用という感じでそう言い、君を引っ張ってドアへ向かった。仕方なく君は手と膝を使ってついていった。ウイーン、ウイーンとバイブが唸っている。気を抜くと落としてしまいそうだったので、君は尻の穴に込めた力を緩めることができない。

やがて、女王様はドアの前まで君を連れてくると、本当にドアを開けた。そして、むずがる君を蹴ってルームの外に出し、「立ちなさい」と命じた。

君は慄きながら立ち上がる。ルームの外は廊下になっていて、一応横には目隠しのための磨りガラスの囲いがあるが、階段の方向は、クラブ前の道路が丸見えだった。周囲のビルからも、たぶんばっちり見えている。いくつかの窓には明かりが入っているし、路上からは、行き交う人達が喋っている声も聞こえた。

君は恥ずかしさとアナルの快感で、小さく震え始める。こんなところにいたら、本当に誰かに見られてしまう、そう思った。女王様は、君の傍らに立って、ニヤニヤと笑っている。そんな女王様に、君はおずおずと言う。

「女王様、恥ずかしいです。どうか、お許しください」

「恥ずかしい? おまえ、何言ってるの? おまえは変態マゾなんでしょ? だったら恥ずかしいことは大好きでしょ」

「でも……」

君は俯いて言い淀む。しかし、君の性器は、君の意思とは全く正反対に硬く勃起している。

「でも、じゃないわよ。自分のチンポ見てごらん。恥ずかしいとか言いながらビンビンじゃん。ほら、ここでオナニーしなさいよ」

「オ、オナニーですか……」

君は戸惑いを目に浮かべて女王様に訊きなおす。

「そうよ、ほら、さっさとやりなさい」

「は、はい……」

君はお尻のバイブが抜けないように注意しながら、ペニスを擦り始める。しかし恥ずかしくてたまらなかったので目を瞑った。すると、すかさず鋭いビンタが飛んでくる。

「目をちゃんと開けなさい。そうね、しっかり私の目を見てシコりなさい」

「はい」

君は間近にある女王様の美しい顔を、その残忍に澄んだ瞳を見つめながら、ペニスをシゴいた。どこで誰に見られているかわからず、気が気でなかったのだが、外で、それも女王様の前で披露するオナニーは、とても刺激的だった。君はいつしか、そのオナニーに夢中になってしまった。そんな君の気持ちを代弁するように、ペニスの勃起は普段以上の硬度を示している。全裸の君を夜風が撫でていき、女王様の髪がそよぐ。女王様は廊下の先の階段を数段下りて、下から君を観察している。階段を降りると、目隠しの囲いによって外からの視線が遮られるため、向かいのビルや路上からだと、まるで君がひとりで廊下に出てオナニーをしているように見える。君はそのことに激しい昂りを覚えている。正真正銘の変態だ。

と、その時、四階のルームのドアが開いて、私服姿の女王様がひとり出てきた。君の格好を見て、あからさまな嘲笑を浮かべる。続いて、M客だと思われる中年の男も出てきた。その男は、君の姿を認めた瞬間、大きく目を見開いた。君は真っ赤になって俯いた。そして思わず手を止めたのだが、すぐさま下からサユリ女王様の「ちゃんとオナニーしなさい」という厳しい声が飛んできて、仕方なく再開する。

四階の女王様が客と一緒に下りてきて、君のそばを通りかかった。男の客の方は見てみないふりをしてくれたが、女王様の方は君の横で足を止め「あらあら、かわいい尻尾まで付けちゃって、変態だねえ。気持ちいい?」と訊いてきた。その女王様も踵の高いブーツを履いているため、君よりかなり背が高い。君は私服姿の女性に見下ろされながら、手を止めることなくペニスをシゴき続けて、小声で「はい」とこたえた。

そんな君を、私服の女王様は鼻でフンと笑うと、もう何も言わず、客と一緒に階段を下りていった。途中でサユリ女王様と意味深な笑みを交わす。そのふたりが見えなくなってから、サユリ女王様が再び上がってきて「見られちゃったねえ」と笑って言った。

「じゃあ、よく頑張ったからご褒美をあげるわ」

女王様はそう言うと、君の顔にペッと唾を吐いた。君はペニスを擦り続けながら「ありがとうございます」と礼を述べた。すると女王様は、立て続けに君の顔にたっぷりと唾を吐き捨て、ついでに、君のペニスにも唾を飛ばした。君はその特別なローションに恍惚となりながら、一層激しくペニスをシゴく。君の顔を、大量の唾が流れていく。君はその素敵な感触に酔い痴れている。

やがて外でのプレイは終わり、君はルームに戻された。尻からバイブが抜かれる。正直、外でのオナニーはとても刺激的だったが、ルームに入ってドアが閉じられたとき、君はほっとした。思わず安堵の吐息が漏れたくらいだ。しかし、奴隷に休息の時間はない。君はまた四つん這いになって犬になるよう命じられ、素直に従った。

続いて君は、リードの端をベッドの脚に繋がれた。床でお座りをする。そんな君の前に女王様がしゃがみ、言う。

「おまえの顔、唾塗れだねえ」

君は睫毛に付着している唾の煌めきに目を細めながらこたえる。

「はい」

「もっと唾だらけにしてあげようか」

そのありがたいお言葉に、君はただちに反応する。

「はい! お願いします!」

君の目はキラキラと輝いている。女王様は立ち上がり、そんな君の顔へ、唾を吐き始めた。たちまち君は唾に塗れていく。女王様は君の顔だけではなく、胸や腹やペニスにも唾を吐く。君は全身唾塗れになりながら、その素晴らしい夢のような状態に陶然としている。女王様の暖かく甘い唾が、君の顔を流れていく。それは鼻腔の中にも侵入し、まるで暗闇の中で原色の花が鮮やかにその花弁を開くように、濃密で芳醇な香りが静かに拡がっていく。君の睫毛にはびっしりと唾の飛沫がとまっていて、視界は光のプリズムに彩られている。

「うわあ、すごい、おまえ唾塗れだよー」

楽しそうに女王様が言う。君は半眼で陶酔したまま「ありがとうございます」とこたえる。

「ほら、口を開けなさい。浴びるだけじゃなくて、飲ませてあげるわ」

女王様が君の顔に口元を近づけて言う。君は「ありがとうございます!」と絶叫して、大きく口を開いた。その中へ、女王様は一段とねっとりと濃厚な唾を大量に注ぎ込んでいく。君はそれを、喉を鳴らして飲み込む。甘い。とても美味しい。君は心の中で、女王様のお唾ほど尊く美味な液体はない、と強く思う。それは、長い間、砂漠を彷徨い続けてきた旅人が、オアシスで口にする一滴の水のようなものだ。旅人は、その一滴の水に生の喜びや神の慈悲を感じるだろう。同じように、君も今、マゾヒストとしての歓喜を実感している。君は、白く濁る唾のベールの向こうに、女神の実在を確信している。

いったん女王様がその場を離れた。そしてプラスチック製のコップになみなみとウーロン茶を注いで戻ってくると、君の前でそのウーロン茶を口に含んだ。そして、口の中でクチュクチュと熟成させた後、君の頭の上で口を開き、その聖なるウーロン茶を一気に浴びせた。君は頭の天辺からずぶ濡れになる。体温によって温められたウーロン茶は髪の先から滴り、君の顔、そして上半身を濡らしていく。そのとき君はまるで魂を清められているような感覚に捕らわれている。

「ああ、女王様ー」

君は命じられてもいないのにペニスを強く握ると、猛然と自慰を開始した。それを見て女王様は怒り、勢いよく君を蹴っ飛ばした。しかし君は首輪のリードをベッドの脚に括りつけられているため、中途半端な格好で転がる。

「勝手にセンズリこいてんじゃねーよ」

女王様が君の髪を鷲掴みにして引っ張り上げながら言い、すかさず強烈なビンタを炸裂させる。君は素早く態勢を立て直し、お座りの姿勢に戻ると、床を額に擦りつけた。

「申し訳ございません! 申し訳ございません!」

まるで何かの呪文のように君はそう繰り返す。しかし女王様はその謝罪を受け入れず、君を無理やり立たせると、ベッドに押し上げ、手足を大きく開かせて、予めベッドに付属している手枷と足枷で君を拘束した。そしてバラ鞭を持ってくると、凄まじいパワーでそれを振るい始める。

バシッバシッと肌を打つ鞭の乾いた音がルーム内に響く。君は不自由さの中で体を弾ませながら泣き喚く。

「おら、てめえ、犬だろ。犬だったら犬らしくキャンキャンと鳴けよ」

女王様が鞭を振り下ろす手を休めることなく言う。君はそのとおりに「キャン! キャン!」と鳴いた。天井の鏡には、両手足を開いて鞭を受けよがっている君の姿がばっちり映っている。

「ハハハ、さすがは犬だ、いい鳴きっぷりだこと」

女王様は片脚をベッドに上げ、鞭を叩き込み続けながら言う。君はそれに「キャン、キャン」という鳴き声でこたえる。女王様は、鞭の雨の間に、唾も降らせた。君は鞭の痛みと唾の恵みを交互に与えられながら、どうしようもないほどの昂りを覚えている。無性にペニスをシゴきたかったが、手足を縛られているためそれは叶わない。君は悶々と体を捩らせながら、鞭と唾を受け続ける。

やがて女王様が鞭を捨て、ベッドの上に上がってきた。寝ている体勢から見上げる女王様は圧倒的な迫力で、そのうえ神々しさを纏っている。女王様は、ベッドに上がって君の足の間に立つと、破廉恥にそそり立っている君のペニスを、ブーツの底で踏んだ。そして、擦るようにそのブーツの足を動かす。

「おら、変態、気持ちいい?」

また唾を君の顔に吐きかけて、女王様が訊く。君は大きく首を縦に振って頷く。

「はい、気持ちいいです」

女王様はブーツでペニスを擦ったり、踏んだり、時々玉袋をその甲で蹴り続けている。君は、擦られては喘ぎ、踏まれては呻き、蹴られては喚いた。そのいちいち変化させて示す君の反応がおかしいのか、女王様はケラケラと笑い続けている。その降り注ぐ嘲笑の中で、君は狂いそうなほど興奮している。

君が暴れる度に、手枷や足枷をベッドに繋いでいる鎖が金属製の支柱に触れてジャラジャラと鳴った。ベッドも音を立てて盛大に軋んでいる。

「ほらほら、もっとよがれ、変態」

女王様が尖ったブーツの先で君の亀頭をなぞり、裏筋を絶妙な力で擦り上げる。そして君が昂ってくると、唐突にそれを止め、今度は玉袋を蹴り上げる。君のペニスは、もはや完全に女王様に支配されている。それは性器ではなく、単なるオモチャだ。

やがて女王様はベッドを降り、しゃがむと、君と同じ視線の高さになって、今度は手で君のペニスを握った。君は顔を横に向けて、女王様を見た。女王様が、軽く二、三度君のペニスをシゴいて訊く。

「イキたい?」

「は、はい」

君は不様な格好を晒したままこたえる。

「そう。でも、簡単にはイかせてあげないわよ」

女王様は不敵な笑みを浮かべ、君の瞳をじっと見つめたまま、猛然と君のペニスを擦った。君は見つめられている恥ずかしさとペニスへの刺激の心地よさで、意識が分裂しそうだ。それでも、射精への欲求がせり上がってくる。君は目を半分閉じ、腰を浮かせた。すると、もうすぐ射精するという寸前に、女王様は手の動きを止めてしまった。ただし、まだ女王様の手はペニスに添えられたままだったので、君は狂いそうになりながら自ら腰を突き上げ、振って、刺激を得ようともがいた。そんな君を見て、女王様が爆笑する。

「ハハハ、憐れなマゾ奴隷だこと、必死だねー」

君は涙目になりながら懇願する。

「お願いします、女王様。イかせてください!」

「ふーん、そんなにイきたいんだ?」

そう言って女王様はハンドジョブを再開する。君はまた快感に身を委ねる。女王様の手の上下運動が、だんだん激しさを増していく。そして、君は再度爆発しそうになった。ぐっと腰に力を込め、その瞬間の到来に備える。

と、またしても女王様の手が止まった。君は「あーん」とあられもない吐息を漏らして、腰をくねらせる。この衝動をどう処理すればよいのか、君は完全にその術を見失っている。君の射精は、いまや完全に女王様の支配下にあり、コントロールされている。身動きが取れない以上、それはどうすることもできなかった。

結局、女王様は合計で四回、君を寸止め地獄に突き落とした。そして、運命の五度目が訪れる。

「イきそうです!」

君が腰をヒクヒクさせながらそう申告すると、女王様は一層手の速度を速めて、「イきなさい。いっぱい出しなさい」とついに射精の許可を下した。君は女王様の神業のようなハンドジョブに陶然となりながら「ありがとうございます!」と絶叫し、来るべき瞬間に備えた。射精の衝動が津波のように押し寄せてくる。君は下腹部に神経を集中させ、腰を突き上げる。女王様の手のスピードが、リミッターを振り切り、レッドゾーンへと突入する。

やがて、君のペニスの先端から濃厚な白濁液が盛大に噴き上がった。君は思わず「ああ」と呻いた。女王様が「出たー」と楽しそうに言う。

そして。

放出を終えた君は、ベッドで拘束されたままぐったりとしている。立てた膝が奇妙な形に折れ曲がっていて、まだ性器やその周辺は精液に塗れたままだが、そんなことは気にもならない。君の全身は途轍もない疲労感に覆われているが、気持ちの中には目を見張るほどの充実感が力強く漲っている。女王様がテッシュを大量にまとめて箱から引き抜き、君が放出した精液によって汚れてしまった自分の手を拭っている。君は今、とても幸せだ。無防備な姿態を晒しながらも、もうしばらくこのままでいたい、と切に思っている。

しかしそのとき無情にも、プレイ時間終了を告げるタイマーの無機質なアラームが、ルームのどこかで鳴り始めた。

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