Session #4

君は今日、仕事を休んだ。現在午前十時二十五分。窓の外は快晴だ。明るい日差しが空間いっぱいに充満している。白い雲が平和そうに浮かんでいて、眩く輝いている。

君は今、自室の居間で朝のモーニングショウを観ながら、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる。窓が開いていて、そこから爽やかな風が吹き込んでくる。レースのカーテンが大きく膨らんで、観葉植物の葉がざわめく。君はソファに深々と身を沈めながらその光景を安らかな気持で眺めているが、内心では実は非常に緊張している。

それは、なぜか。

その理由は、今日、これからSMクラブへ行くからだ。勿論プレイ自体が初めてというわけではないし、その行く予定のクラブも初めての店ではなく、もう何度となく通っているのだが、昼間に行くのが初めてだから君は緊張している。外が明るい時間にクラブのドアを開けるのは勇気がいる。なぜなら、そのクラブは繁華街の外れの商業区域にあって、一応はメインの通りから一本奥まっているのだが、周囲には小さな会社もあれば、若者向けのファッションの店などもあって、人通りが結構あるからだ。普通の人たちに、クラブへ入っていくところを見られるのは、少々恥ずかしい。しかも、一般的な大人ならば、働いている時間だ。そんな時間に、わざわざ仕事を休み、暗い密室で破廉恥な遊戯に興じるなんて、なんだか普通の人間というカテゴリーから脱落したような感覚さえ憶える。

クラブへの予約の電話は、十時二分過ぎに済ませた。風俗専門の情報誌に「十時から予約受付」と書いてあったからだ。ちなみに営業は十一時からだ。君は十二時の予約を入れた。

しかし、ひとつだけ誤算があった。それは、入ろうと思っていた、雑誌に顔出ししている女王様が、その時間ではまだ出勤していなかったのだ。電話で名前を言って予約したい旨を告げた時、店員の男性に「申し訳ありません、彼女は遅番なので五時からです」と言われてしまった。だから君は仕方なく、とあえずプレイルームだけを押さえ、女の子は店で選ぶということにして、予約の電話を終えた。

普段は夜しかクラブへ行かない君が、仕事を休んでまで昼間に行く理由は、明確だった。それは、前回の調教の後の、ある女王様との雑談がきっかけだった。君がよく利用するSMクラブには、控室で待機している女性が、リクエストすればルームに来て簡単なプレイに参加してくれる『乱入』という、いわば裏メニューのような無料のサービスがあるらしいということを、君はその女王様に教えられた。それを聞いて、複数の女性の前で変態な姿を晒してみたいと常日頃から考えていた君は、是非そのプレイをしてみたいと思った。そんなサービスがあるなんて、クラブのフロントで見せられるプレイメニューにも載っていなかったし、その女王様に「うちにはこういうサービスがあるんだよ」と説明してもらうまで全然知らなかった。その時、相手の女王様は、こう付け加えた。

「だけどね、絶対というわけじゃないけど、夜は結構忙しいから、なかなか『乱入』は難しいと思うよ。狙い目はね、平日の昼間。わたしの経験だと、ひとりのお客さんに、八人の女の子が乱入した事があるわよ」

「八人ですか?」

「そう。プレイした子入れると、この狭いルームで9対1ね」

「で、頼むとどんなことをしてもらえるんですか?」

俄然興味が湧いた君は続けざまに質問した。女王様は煙草に火をつけてこたえた。

「たいしたことはしないけど、例えばあなたがオナってるところをみんなで見たりとか、ビンタとか鞭とか言葉責めとか、まあ、その来た子にもよると思うけど、いわゆるW女王様コースのように本格的なプレイじゃなくて『鑑賞』という感じかな。服もボンテージに替えるわけじゃなくて私服だし」

私服の女の子に苛めてもらえるなんてなかなかないことだし、君はすっかりそのサービスを受ける気になってしまった。

「で、どうやって頼めばいいんですか? 受付で言うんですか?」

「ううん。ルームに入ってから女の子に言えばいいわよ。ただ、空いている子がいて、その子が来る気にならないとだめだから、頼んだからといって絶対に女の子が来るという保証はないから、あんまり期待しすぎても駄目だからね。なかには、面倒くさいと言って来たがらない子もいるし、女の子同士の相性とかもあるし、そもそも別の子を呼ぶのは嫌という女王様もいるし、何せ無料のサービスだから」

要するにそのときの運だ、とその女王様は言った。

それ以来、君は密かに、昼間の時間帯にクラブへ行くチャンスを見計らっていた。もちろん財布の都合もあるのだが、ウィークデイにはなかなか休みが取れないので、君は悶々としながら日々を過ごした。そして、今日、そのチャンスをついに掴んだ。ちょうど仕事も暇な時期だし、「風邪をひいて高熱がある」という嘘ついて、休みを強引に取ったのだ。

思えば、前回の訪問からもう三ヶ月近くが過ぎている。しかしその間に、行きたいという欲望が萎えた事はない。日常の生活の中で、複数の女性の前で破廉恥な姿を晒す機会など皆無だから、その欲求は募るばかりだった。

君はコーヒーを飲み終え、テレビで時間を潰して、十一時になるのを時計で確認してから自宅を出た。なだらかな、日の当たる坂道を歩いてバス停へ行き、十一時十三分のバスに乗った。バスの車内は空いていた。朝の渋滞時には十分はかかる道のりを、バスは六分で地下鉄の駅まで走った。

いつもの駅は、日溜りの中にあった。君は弾ける陽光に目を細めながら地下鉄の階段を下りた。クラブがある場所の駅まで、すべて通勤用の定期が使えた。君は、毎日仕事へ行く時と同じように、バスと地下鉄の定期を使った。しかし、それを使用する時間帯と服装が違う。今日は、背広ではなく、カジュアルだ。生成り色の綿パンに、草色のポロシャツを着ている。一見、ごく普通の大人だ。しかし、これから君はSMクラブへ行くのだ。そのギャップに、君は階段を下りながら昂ってくる。いまは澄まして歩いているけれども、一時間後には、密室の中で全裸になって女王様からの折檻を受けるのだ。いったい、この擦れ違う人たちの中で、誰がこんな自分の本性に気づくだろう、と君は秘めやかに思いながら定期で自動改札を抜けて地下鉄に乗る。

プレイは案外体力を消耗するので、今朝は珍しくきちんと朝食をとった。卵とハムのサンドイッチを自分で作って食べた。今日は多分、プレイの後で、クラブの近くで何かを食べることになるだろう。何にしようかな、と君は、空いている地下鉄のシートで列車の振動に身を委ねながら考える。

十八分後、地下鉄は、クラブにもっとも近い位置にある駅に到着した。君は列車を降り、改札を抜けて、階段を昇った。この駅は、クラブへ行く以外にも、時々利用するから、勝手はわかっている。君は、コンコースを歩き、階段を昇って地上に出た。そして出口のところにある銀行のATMで今日の資金である三万円を下ろした。

銀行から出て時計を確認すると、十一時四十四分だった。そろそろ昼休みが近いからか、歩道には人通りが多い。ここからクラブまでは、もう一、二分の距離だ。少し予約の時間には早いが、さっさと入ろう、と君は思った。今日は、受付の時に、女王様を選ぶという作業がある。いつもはたいてい女性もルームも予約して行くから、フロントでのやりとりは最小限で済むが、今日はそういうわけにもいかない。果たして、こんな真っ昼間に何人くらい出勤しているのかわからないが、君は歩道を歩きながら「どうか、好みの女の子がいますように」と祈った。

やがて、クラブの前の通りに出た。素早く周囲に視線を走らせると、随分先のほうに、男性がひとりこちらへ向かって歩いてきているのが認められた。しかし、この位置からクラブまでは五十メートルもないので、擦れ違う前に店内に入れるだろう。君はそう判断して、早足になりながらクラブのドアを目指した。緊張のあまり、無意識のうちに拳を強く握っていて、その手のひらが汗ばんでいる。

君は地面に視線を落としたまま進み、クラブのドアを素早く開けて、中に入る。すると、待合室は無人だった。テレビが、お昼のニュースを映している。カーテンで仕切られたフロントのカウンターの中から、電話のやりとりが聞こえてくる。こんな時間でも、自分のほかに客が来るんだな、と君は妙なことで感心してしまう。

「いらっしゃいませ」

電話の応対はまだ続いていたが、別のボーイがカウンターの中から現れた。君は椅子に腰を下ろした。ボーイはお茶を持って君の前までくると、恭しく膝をついた。

「ご予約はございますか」

君は、会員登録してある名前を告げる。

「予約したイトウですけど」

「えっと、十二時からルームのみの予約をされたイトウ様ですね。ありがとうございます」

ボーイはそう言うといったん立ち去り、メニューのファイルを持ってくる。

「コースはいかがなさいますか」

君は、いつものM60分コースと決めている。しかし、口に出して言うのは恥ずかしいので『M(お客様が責められるコース)60分』と書かれているコース名を指先で示す。

「これで」

「かしこまりました。女王様の60分でございますね」

ここの店の店員に限ったことでもないだろうが、コースの復唱は、周りに他の客がいる時やられると、非常に恥ずかしい思いをする。しかし、幸い今日は、時間が早いからか、君の他に客の姿はない。君はお茶を一口飲んで気持を落ち着かせる。ボーイが、女性の写真とプロフィールが挟んであるファイルを五枚、君に差し出した。

「今のお時間からですと、この五人の中からお選びいただけます」

ファイルには、全身を映した写真と、スリーサイズや年齢、対応できるコースやNGプレイなどが記載されている。君は、二万円以上を支払うのだから、入念に検討していく。それはまさに遺跡発掘現場で地面に腹ばいになって丁寧に刷毛で砂を払っていく考古学者のような慎重さだった。

どの名前にも、覚えはない。雑誌やネットで顔出しをしている女性はいないようだ。しかし、だからといって、全員が不美人というわけではない。中には見た目があまりタイプではない女性もいたが、レベル的には酷くはない。無論、風俗の写真ほどあてにできないものはないのだが、そこに貼られている写真は、コンピュータなどで修正が加えられるようなものではなくポラロイドだから、かなり良心的ではある。

君は何度もファイルを見返し、やがて『美冬』という女王様を選んだ。プロフィールによると、二十四歳で、身長が166と記載されていた。君にとって相手の年齢はそれほど重要ではないが、身長は大切だ。なぜなら、君は自分より大きな女性が好みだからだ。しかし、そのハードルは、たいして高くはない。何せ、君は男としては小柄で、162センチしかないからだ。最近の女子は発育が良いし、そもそも女王様は160センチ以上の女性が多いので、滅多に君より低い身長の人はいないし、もし155センチなどであっても、踵の高いヒールやブーツを履けば、たいていの人は君より背が高くなる。

「美冬さんですね、かしこまりました」

君はルーム代込みの料金を支払った。ボーイは「すぐ準備させますので、少々お待ちください」と言い残して立ち去り、部屋の奥の控室へ繋がるドアを細めに開けて「美冬ちゃん、ご指名です」と言って、カーテンで仕切られたカウンターの向こうへ消えた。

テレビに映っている『笑っていいとも』を見るともなく眺めながらお茶を飲んでいると、ボーイが小型のスーツケースを持って君の前を通り、どこかへ持って行った。君はぼんやりと、あれは美冬という女王様の道具で、先にボーイがルームに運んでいるのだろうと想像した。君はトイレへ行き、再び席に戻ってお茶の残りを飲んだ。

やがて、控室のドアが開き、細身のジーンズにノースリーブのニットを着た女性が現れた。紺色のジーンズに、ニットの鮮やかなオレンジ色が映えている。君は、一瞬、彼女に見惚れた。とても美しい、と思った。写真では、撮られた時期がかなり以前なのか髪がショートだったが、現在の彼女の髪は長く、栗毛色だった。素早く足元に視線を走らせると、踵の高いサンダルを履いている。そのため、ファイルに記載されていた166という身長より、かなり高く見えた。ボーイが君に言う。

「イトウ様、お待たせしました。お部屋は三階でございます」

君が先に立って、女王様と一緒に一旦店を出た。暗い待合室から外に出たので、日差しが眩しかった。君は瞬間的に目を細めた後、いきなり心臓をぎゅっと鷲掴みにされたように、びっくりした。ちょうど店から出た時、道路に、昼休みと思しき同年代のサラリーマンの三人組がいたからだ。昼食にでも行くのだろう、ワイシャツ姿で、何やら喋りながら歩いていた。その男たちの視線が、君に向けられた。君は咄嗟に俯き、そそくさと入り口のドアの脇にある階段を昇った。心臓の動悸が激しくなる。こういうことがあるから、昼間に来るのは恥ずかしいのだ、と君は思いながら階段を上がる。

二階のルームの前を通り過ぎたところで、背後から女王様が君に話しかけてきた。その口調には含み笑いが込められている。

「やっぱり、恥ずかしい?」

「ええ、ちょっと」

君は立ち止まり、振り返って答えた。

「ところで、初めまして、ですよね」

「はい」

階段と廊下は外に面しているため、太陽の光が当たっている。一応は目隠しのフェンスがあるが、覗こうと思えば道路からでも見えてしまう作りだ。

君と女王様は、三階のルームに入った。靴を脱いでスリッパに履き替え、中央部分にシーツが敷いてあるベッドに君は座った。先ほどボーイが持って出て行った小型のスーツケースが、入り口の扉の脇に置かれている。女王様はエアコンの調節をして、君の隣に浅く腰掛けた。

「で、今日はどんなことをしたいの?」

じっと君の目を覗き込むようにして見つめながら女王様が聞く。君はその視線にドギマギしつつ、ぽつぽつと答える。

「えっと、あの、縛られたりとか、鞭とか、言葉責めとか……あと、唾を顔に吐かれるのが好きなんで、吐いてもらいたいです」

オドオドしながら上目遣いで女王様を見つめる。

「鞭は激しいのもイケる?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあアナルは?」

「あまり経験はないですけど、好きです」

「ふーん、たいていのことはOKなんだね。NGはある?」

「体に跡が残るのはちょっと……」

「針とか?」

「そうですね……蝋燭くらいはいいんですけど」

「そりゃあ、蝋燭はよほどの事がない限り跡は残らないからね」

女王様は脚を組み、足の先をブラブラさせる。綺麗に切り揃えられた爪にはラメ入りの水色のペディキュアが塗られていて、それが君の目を引いた。君の視線はいつしか釘付けとなってしまう。

「何? 足の指なんかジロジロ見ちゃって。もしかして足フェチ?」

「は、はい……」

君はそう答えながら、例の『乱入』について、いつ切り出そうかとタイミングを計っていた。このままプレイに突入して、『乱入』が無しとなると、わざわざ仕事を休んでまでして昼間にクラブに来た意味が無い。しかし、どう言い出せばいいのかわからない。女王様が煙草に火をつけて、世間話のような感じで言う。

「今日は、お仕事、お休み?」

「ええ」

いいチャンスだった。『乱入』というのを経験してみたくて仕事を休んできた、と言えば、会話としてもスムーズだろう。君は咄嗟にそう判断して、ゆっくりと切り出していった。

「ええ。実は、今日はここへ来るために、わざわざ休んだんですよ。ていうか、前回入った女王様にちょっと聞いたんですけど、なんか『乱入』っていうのがあるらしいじゃないですか。それで、その女王様に、ウィークデイの昼間なら経験しやすいと言われたので」

女王様が少し呆れたように笑う。

「えっ? じゃあ、それだけのためにわざわざ仕事を休んできたの?」

「ええ、まあ」

君は照れたように答えながら足元に視線を落とした。

「すごいねー。ってことは、いろんな女の子に変態な姿を見られるのが好きなんだ」

君は一瞬だけ顔を上げて女王様を見ながら「はい」と小声で言い、頷く。女王様が不意に手を伸ばしてきて、君の顎を掴み、ぐいっと自分の方を向かせた。

「大勢に恥ずかしい姿を見られたいからこんな真昼間にわざわざ来るなんて、相当変態だね」

「す、すいません」

唐突に始まったプレイの一端に君はときめきながら、しかしズバリと言われて恥ずかしさが爆発的に広がった。たちまち顔が赤らみ、それが自分でもわかった。女王様がおかしそうにケラケラと笑いながら言う。

「ふーん、露出趣味のある変態マゾねえ。いいわ、じゃあシャワーを浴びてきて」

「はい」

君は解放されて、シャワールームへ向かった。すると、すぐに女王様に呼び止められた。

「どこ行くの? 服は私の前で、私の目を見ながら脱ぎなさい」

「は、はい」

君はベッドで脚を組んで座っている女王様の前で服を脱ぎ始めた。言うまでもないことだが、君の性器はもう既に勃起している。それが、ズボンの上からでもはっきりとわかった。君は初めて経験する女王様の前での、女王様を見ながらの脱衣に激しい恥ずかしさを覚えると同時に尋常ではないほどの気持の昂りを味わいつつ、まずはポロシャツを脱いだ。そしてズボンを脱ぎ、白いブリーフ一枚になる。勿論、勃起したペニスがくっきりと浮かび上がっている。

「ハハハ、ブリーフ」

女王様が笑い、「何これ」と言って、ブリーフの上から勃起している君のペニスを指先で弾く。

「まだ何もしてないのに……ほんとにマゾだねえ。ほら、さっさと脱いで」

「はい」

君は普段トランクス派なのだが、SMプレイの時だけは白いブリーフを穿くことにしている。そのほうが、より変態に見えるだろうという君なりの算段だ。

君は思いきってブリーフを下げた。すると、不意に抵抗を失ったペニスがビクンと跳ねてそそり立った。瞬間的に、君は俯き、その股間を両手で隠した。すかさず女王様の厳しい声が飛ぶ。

「隠すんじゃないわよ。手は後ろ! それに、私の目を見てなさいって言ったでしょ?」

「すみません」

君は手を退けて、恐る恐る女王様を見る。女王様は下から、唇の端を歪めて嘲笑を顔に浮かべながら、見上げるようにして君を見て煙草の煙を吐きかけ、そしてペニスを凝視する。

しばらく無言の時間が流れた。君は恥ずかしさのあまり、汗を掻いた。女王様は煙草を吹かしながら、ずっと君の顔を見つめている。君はひたすらその視線に耐えなければならなかった。やがて、ようやく女王様から「もういいわ」というお許しがでた。

「シャワーを浴びてらっしゃい。服は、そこの籠の中へね」

「はい」

君は顔が真っ赤になっているのを自覚しつつ、脱いだ服を抱えてシャワー室へ向かった。ちらりと鏡を見ると、靴下だけ履いた裸の男が、性器を勃起させながら服を抱えて歩いている姿が目に入った。しかも、後方には、脚を組んで煙草を吸っている年下の美しい女性がいる。とても親兄弟や友人知人には見せられない姿だな、と君は思う。

ガラス張りのシャワールームに入り、君は湯を出し、体を洗った。とくに性器周辺とアナル付近は丁寧に洗った。ルームの方を見ると、室内の照明は先程より絞られ、女王様が背中を見せてボンテージに着替えているところだった。それを見て、マゾヒストの君は俄かに興奮してくる。これからプレイが始まるのだ、そう思うと、三ヶ月ぶりとなる調教に期待が高まってくる。勿論毎日の自慰行為は欠かさないし、その際のネタは常に女王様とM男の SMプレイなのだが、想像の世界と実践では、雲泥の差がある。実際に肌で感じる鞭やビンタの痛み、蝋燭の熱、そして女王様の口から発せられる言葉責めと嘲笑は、やはり素晴らしい。君にとって現実的な被虐感は、何物にも代えられない第一級の快楽だ。

シャワーでボティソープを洗い流しながら再び君はルームに目をやった。すると、女王様が片方ずつの足をベッドに上げて、ロングブーツを履いているところだった。

シャワー室を出てバスタオルで体を拭い、やはりどうしても手で股間を隠してしまいながら、君は女王様の方へ近づいていった。女王様はバラ鞭を手に持って椅子に悠然と脚を組んで座っている。

「手はどけなさいと言ったでしょ」

女王様が冷たく言い放つ。その口調には、先ほどまでの親密さはまるでない。君は「申し訳ありません」と答えながら手をどけた。当然ペニスは固く勃起している。

君は生まれたままの姿を晒しながら女王様の前へ進み、跪いた。

「ご挨拶」

女王様の冷徹な声に、君は「はい」と答え、両手を床に揃えて出し、腋を締め、上体を折って額を冷たい床につけた。床は固いフローリングで、膝をつくと微かに痛かった。

「美冬女王様、ご調教を宜しくお願いいたします」

女王様のブーツの底が君の後頭部に置かれる。そして、徐々に重みが加えられていく。

君は、このご挨拶の瞬間が好きだ。隷属の宣言ともとれる、この屈辱的な格好に激しく気持が昂る。女王様がゆっくりと足を君の頭から下ろして「顔を上げなさい」と命じる。

「はい」

君は素直に顔を上げる。女王様の視線が、君の顔と股間の性器を交互に行き来する。

「まだ何もしてないのにそんなにチンポをおっ立てちゃって……いやらしい。それに、この不細工な変態の顔……」

そう言って女王様は君の顎を掴み、軽く頬にビンタを張る。

「すみません……」

「何が『すみません』よ……おまえ、ビンタされてますますチンポが固くなったじゃないの」

「はい……」

「はいじゃなくて、なんでおまえはビンタされてチンポ固くなってるの?」

「えっと……マ、マゾだからです」

「ただのマゾじゃないでしょ? 女王様に殴られて嬉しがる超変態マゾでしょ?」

「はい、ぼくは超変態マゾです」

軽い言葉責めからプレイは始まった。女王様は、鞭を脇に置くと、君を立たせてロープで縛った。その時、君と女王様は向き合う格好になったのだが、踵の高いブーツを履いている女王様の顔は、君より頭ひとつ分は上にあった。自然と、見下ろされる格好になる。女王様は、時々気まぐれに君のペニスを膝で蹴り、わざと大きくて柔らかい胸を君の体に押し付けたり、長い髪を君の顔に触れさせたりして、静かに君を挑発し続けた。君は手を後ろに回し、徐々にロープで体の自由を奪われていきながら、女王様の体から発せられる甘い香水の匂いに惑わされていく。

亀甲縛りが完成すると、続いて首輪が巻かれた。その姿は、壁の鏡にばっちり映っている。とても破廉恥だ。肌には赤いロープが食い込み、玉袋の裏側から絞り上げるように拘束された股間のペニスが、卑猥にいきり立っている。

「ほら、鏡を見てみなさい。すごい変態な格好……そうだ、このまま表に出てみる? あっという間に警察に通報されるわよ」

「そ、それはお許しください」

「えっ? だっておまえ、さっき、変態な姿を大勢に見られたいって言ったじゃないの。今だったら、ちょうど昼休みの時間だから、表の通りにもきっとたくさん人がいて、変態なおまえをよく見てくれるわよ」

女王様が顔を近づけて、醒めた目で君を見つめる。君は、間近に迫る女王様の美しい顔に見惚れながら、「どうか、それだけはご勘弁ください」と泣きそうな顔で言った。

「何を遠慮してるのよ、ほら、行くわよ」

女王様が君の首輪に繋がる鎖のリードを引っ張ってドアの方へ歩き出す。君は両足を踏ん張って必死に抵抗する。いくら君が変態でも、真っ昼間からこんな格好で外に出る勇気はない。

「女王様、どうかお許しください……」

君は必死の形相で懇願する。すると、女王様はふっと足を止めた。

「あっ、そう。女王様の言う事が聞けないわけね。全く、変態のくせに生意気だこと」

冷ややかな口調で女王様はそう言うと、唇を尖らせる。君は消え入りそうな声で「申し訳ございません……」と呟く。

「おまえみたいな奴にはお仕置きが必要ね。何がいい? 鞭? それとも蝋燭がいいかなあ?」

挑発する感じで女王様が言う。

「む、鞭をお願いします」

「鞭が欲しいの?」

「は、はい……」

「じゃあ、ちゃんとお願いしてみなさい」

「はい……女王様、鞭をお与えください。お願いいたします」

君は亀甲縛りが施されたまま床に膝をついて嘆願する。

「しかし、ほんとおまえっていかにも変態って顔してるわね」

女王様は冷ややかに笑いながらそう言い、君の顔にペッと唾を吐いた。

「ありがとうございます」

君は不自由な体を小さく折って礼を述べる。後ろ手で縛られているので、床に手をつくことができない。そのため、体を折った瞬間、バランスを崩して、君はそのまま前のめりに倒れてしまった。そんな君を女王様がブーツで踏む。

「勝手に寝てんじゃないわよ。ほらほら、さっさと立ちなさい」

そう言ってリードを強く引っ張り上げる。君は引きずられるようにして体を起こす。

「は、はい」

君は不自然に体を捻りながらどうにか、まずは膝で立ち、それからバランスを取りながらゆっくりと立ち上がる。そんな君の体を、女王様が蹴った。君は再び床に倒れてしまう。その君の姿を見て、女王様が笑う。

「どんくさいわね」

「申し訳ありません」

君はもう全身汗だくだ。額に噴き出した汗の雫が垂れて睫毛に滴り、視界が滲む。君はもう一度先ほどと同じ手順で立ち上がろうともがく。その行動は、いかにももどかしい。女王様が痺れを切らして、君の髪を鷲掴みにし、強引に引っ張り上げる。

「さっさと立てよ、ド変態」

「はい」

よろよろと立ち上がった君に女王様は数発のビンタを与えた後、天井から下がる鎖を手繰り始めた。ルーム内に、滑車が回る重々しい音が派手に響き渡る。それは、真昼という時間には全くそぐわない淫靡な響きだ。

やがて、下りてきた鎖の先端に取り付けられた金属製のフックに、後ろ手に回した君の手首のロープを繋いだ。そして、さらに君の左足の膝の上の部分にロープを巻き、それも鎖のフックに繋いだ。そして、その二本の鎖を、女王様はゆっくりと再び手繰りだす。少しずつ君の体が上方へ引き上げられていく。

手首に巻かれたロープが手首に食い込む。僅かに浮かせていた左足が、高く持ち上がっていき、君の体は不自然な姿勢で宙吊りとなる。しかし、右足は床についたままなので、それほど苦しくはない。それでも、股間の性器はむき出しで、しかも壁の鏡に全身が映っていて、羞恥心だけは激しく燃え盛っていく。

君は心持ち前のめりになりながら女王様を見る。すると女王様はサディスティックな笑みを浮かべていて、その手にはいつしか長い一本鞭が握られている。

「鞭が欲しいって言ったわよね」

女王様はそういうなり、鞭を一閃した。長い鞭の先端が君の胸元を打つ。続いて、背中。さらに足。女王様が操る鞭は、君の顔以外の部分を的確に打ち据えていく。鞭がしなり、体を打つ度に、君の体は悲鳴とともに揺れる。それに合わせて手首と足に巻かれたロープが食い込み、鞭の痛みとは別種の苦痛が君を襲う。

「ほら、どう? 気持いい?」

女王様が鞭を振りながら笑顔で聞く。君は体を左右に揺らしながら「はい」とこたえる。

「それじゃあねえ、おまえのご要望に応えて、これから他の女の子に来てもらおうかしら。嬉しいでしょ? こんな恥ずかしい格好を他の子にも見られて、ねえ」

鞭をベッドの上に置き、女王様はそう言うと、壁に取り付けられたインターフォンの受話器を持ち上げて内線のボタンを押した。そして君の方を見ながら、受話器に向かって言う。

「美冬ですけど、『乱入』で誰か来てくれます?」

君は中途半端な姿勢で宙吊りになったまま、固唾を呑んで電話の遣り取りを見守っている。

「はい……えっと、何人でもいいんですけど」

女王様は電話の向こうの相手にそう言った後、君に訊いた。

「何人くらい来てほしい?」

「何人でもいいですけど……」

君は蚊の泣くような声でこたえる。女王様は再び受話器に向かい、言う。

「何人でもいいから、来て。うん、三階。待ってるわ」

女王様は受話器をフックに戻し、ゆっくりと君に近づいてきた。そして面白半分に君の体を揺らす。

「すぐに来るわよ。楽しみねえ。わざわざこのために来たんだもんね」

そう言っているうちに、ドアの向こうに、階段を上がってくる複数の靴音が響き、それがだんだん近づいてきた。君の胸の鼓動が早くなる。

「来たわよ」

女王様がにやにやと笑いながら言い、君は緊張する。

そして、ドアが開いた。その瞬間、暗闇に閉ざされていた部屋に、明るい自然の陽光が差し込んで充満した。

「うわー、なんて格好なの。すごーい」

ドアを開けて入ってきた女性は、四人だった。その四人は、靴も脱がすにルーム内に入ってくると、女王様と一緒に君を取り囲んで立った。ドアが閉まり、再び暗くなる。一対一のときは広く感じられたルームだが、五対一となると、たちまち空気の密度が濃くなり、狭く感じられた。入ってきた女性達は、ジーンズ姿やワンピースなど、みな私服だ。そんな普通の格好の女性達の前で、君は全裸を晒し、しかも吊られている。その状況に、君の羞恥心は爆発した。

「何こいつ、真っ昼間からすごいじゃん」

赤いワンピースを着た女性が君の髪を掴み、ぐいっと持ち上げて自分の方を向かせながら笑って言う。その脇で女王様が、黄色いシャツに白いホットパンツを穿いてる長身の女性に聞く。

「もしかして、みんな来ちゃった?」

「うん、暇だしね。で、こいつ何か芸ができるの?」

黄色いシャツの女性が君を見る。その視線には侮蔑の色が滲み出ている。君は吊られたまま硬直してしまう。緊張のあまり喉がカラカラに渇いている。

「ほら、聞かれたことには答えなさいよ」

女王様が手のひらで君の頬を張って言う。突然『芸』といわれても、君にはこたえようがない。ただでさえ、いきなり五人もの女性に取り囲まれて気持は混乱しているし、マゾとしての悦びと興奮と恥ずかしさが入り混じって、大量の汗が全身から噴き出している。

「こいつ、バッカじゃないの? こんな姿晒しながらチンポ立てて、しかもすごい汗かいて、キモーい」

最後に部屋に入ってきた、ラメ入りのニットにレザーのミニ・スカートを穿いた女性がケラケラ笑いながら君に近づいてきて、君の顔にペッと唾を吐いた。温かい感触が鼻柱から唇、そして顎へと滴っていく。

「つうかさあ、おまえ、この節操のないチンポ、どうにかしろよ」

黄色いシャツの女性がハイヒールの底で君のペニスを踏み、続いてレザーのミニ・スカートの女性が、君の玉袋を下からブーツの甲で蹴り上げる。たまらず君は体を弾ませてしまう。その姿に、爆笑が沸き起こり、ルーム内に響き渡る。

「で、おまえ、芸は?」

もう一発蹴りを股間に叩き込みながら、レザーのミニ・スカートの女性が聞く。赤いワンピースの女性が君の背後に回り、手を回して乳首を捻り上げる。

「あーん」

君は女のように喘ぎ声を洩らす。さらに、女王様が、バイブレーターを取り出した。そして、吊られたままの君のアナルにローションを垂らし、そのバイブを挿入してスイッチを入れる。電動モーターの唸りに合わせるように、君の尻が蠢く。女王様は君の背後にしゃがみこんで、そのバイブをゆっくりと出し入れする。そのピストン運動の度に君は呻き、腰をモゾモゾとさせる。首輪のリードは、膝や尻の下の部分が裂けたジーンズを履いている女性が持っていて、時々気まぐれに引っ張って遊んでいる。

「ほら、なんか芸をしなさいよ」

そう言われて、君は快感に身悶えながら、小声で呟く。

「オ、オナニーくらいしかできませんが……それでよろしいですか?」

その君の言葉に、またしても爆笑が広がる。

「おまえ、笑えるねー。いいわ、やってみなさいよ」

女王様が天井から下がっている鎖を手繰って君の体を下ろし、ロープを解いた。そしてリードを引っ張りながら、「四つん這いになって歩いてベッドに上がりなさい」と命じ、君はそれに従った。君は、五人の女性の足元を四つん這いになって進み、ベッドに上がる。拘束の跡が痛かったが、そんなことを気にしている余裕はない。

「こいつ、ほんとに犬だね。尻尾ついてるし」

アナルに入ったままのバイブを指差して、赤いワンピースの女性が笑い、その君の尻を軽く蹴る。

「ほら、早くしなさい」

「はい」

ベッドに上がった君は、犬のお座りと同じ姿勢をとる。勿論、性器を手で隠すことは許されない。黄色いシャツの女性が「チンチンしてみ」と言い、君は腰を浮かして胸の前に両手を上げ、手のひらを垂らした。大受けだ。大音量の嘲笑が君に降り注ぐ。リードは女王様の手にある。

「じゃあ、みんなの前でシコってごらん」

「はい」

君は猛然と自慰を開始する。目の前には、五人の女性が一列になって並び、君に注目している。君は、ペニスを握り、激しくシゴきながら、しかしさすがに恥ずかしくて、つい俯いてしまう。

「何、下向いてんだよ。ちゃんとウチらの方を見てシゴけよ」

厳しい声が飛び、君は反射的に顔を上げ、ひとりひとりの顔を見ながらシゴき続ける。女性達の背後の鏡に、君の姿は映っている。途轍もなく破廉恥でおぞましい光景だった。しかし、マゾヒストの君は猛々しく性器を勃起させ、最高レベルの昂りを憶えている。

だんだん君の喘ぎ声が大きくなり、手のスピードも増していく。

「そうだ、おまえにオカズをやるよ」

不意に、レザーのミニ・スカートの女性が言い、おもむろにブーツを脱ぐと、ストッキングに包まれた爪先を君の顔に押し付けた。

「いい匂いでしょ?」

「はい!」

君はその芳香に狂喜しながら足の裏の指の付け根に鼻先を押し当て、猛然と香気を吸い込んだ。無論、手の動きは止めない。

「すげーよ、こいつ」

呆れたような、おかしくてたまらないといった嘲りの声が上がる。そんな侮辱の声にも、君は昂ってしまう。寧ろ、興奮は飛躍的に高まっていく。

もう君の精神は正常ではない。君は夢見心地で女性の爪先の匂いを嗅ぎ、その濃密な匂いに陶酔しながら自慰に耽っている。そのうちに、するりと尻のバイブが抜けてしまった。 女性が「おまえ、ヤバいよ」と笑いながら言って君の鼻先から足を引き、床に下ろした。

そして、やがて君は大量の精液を放出した。射精の瞬間、女性達の笑い声は頂点に達した。君は執拗に何度もペニスを擦り上げ、最後の一滴まで搾り出す。ネバネバとした精液が君の手のひらと性器を彩る。

射精を終えた君は、呆然となりながら、女性達を見回した。女性達は呆れたように肩を竦めている。君はその女性達を見て、大勢の人の前で射精してしまったという事実に、愕然としてしまう。恥ずかしい。穴があったら入って隠れたいくらいに恥ずかしい。それは、プレイ中に感じて昂った羞恥心とはまるで異質で、別種の恥ずかしさだった。君は、放出の倦怠感に包まれながら、顔を真っ赤にした。鏡には、首輪をつけて全裸でお座りをしている、まさに犬のような自分の姿が映っている。

女性達が君を見下ろしている。君はその視線に耐え切れなくなって、精液が飛散している床に視線を落とした。まだ息は弾んでいる。しかし、まるで夢から覚めるように、君は少しずつ平静さを取り戻していく。

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