草原の詩

風薫る五月の草原に麗らかな日差しがまんべんなく降り注いでいる。空はどこまでも晴れ渡っていて、高みに、すうと刷毛で刷いたような薄い雲がたなびいている。甘く優しい風が吹く度に草原は柔らかく波打って、その漣を思わせる葉擦れの音が渡っていく。

どこまでも見渡す限り緑の絨毯を敷き詰めたように穏やかな丘陵が続いていて、空の青さと草原の緑が鮮やかだ。遠くの山並みは淡く紫色に煙り、あたりに人家らしき影はない。

そんな草原に、一本の杭が打ち込まれている。それは朽ち果てた太い老木を削ったもので、高さは一メートルくらいだ。大地に力強く、まるで世界の地軸のように突き刺さるその老木は、とても寡黙だった。過ぎ去っていく時間、そして巡る季節を、ただそこに立って見守っている。まるで無名戦士の墓のように。

その老木に今、錆びついた鎖で繋がれている男がいる。男は二十六歳で、名前を新田誠治という。新田は、一糸纏わぬ全裸だった。いや、首にだけレザーの太い首輪を巻いている。それはブルドッグとかドーベルマンといった大型犬用のもので、革のベルトの表面には鉄の鋲がいくつも打ってあり、そのひとつひとつに陽が撥ねてきらめきを放っていた。そして新田は、お世辞にも逞しいとはいえない貧相な体を日光に晒しながら、杭のそばで膝を抱えて座っている。

むき出しの尻を草の先がチクチクと刺激している。新田は何気なく屈み込んで自分の股間を見た。そこはつるりと陰毛が剃られていて、だらりと性器が垂れ下がっていた。密生する縮れ毛は跡形もなく消滅し、その青白い股間の中心にぶら下がる性器は、弛んだ包皮によって亀頭の約半分が隠されているが、生白い太腿や腹の色に比べて色素が沈着気味だ。

新田はそれを握ってみた。完全に萎えた性器はムニュムニュとした単なる肉塊で、余っている皮を引っ張ると、いとも簡単に亀頭を全て隠してしまった。まるで象の鼻のようだ、と新田は思う。

正午にはまだ早い、午前中の曖昧な時間だった。新田は今、放牧中であり、彼の生活の場である厩舎はこの場所から数キロ離れている。そこからここまで新田は、羽田志津子が運転するジープによって連れられてくる。羽田志津子というのは三十六歳の未亡人で、この広大な草原の所有者であり、彼女には二十歳のときに産んだ涼子という十六歳の一人娘がいて、そのふたりが新田を飼育しているのだった。

なぜ新田が彼女達の所有となったのか。それは彼がそうされることを自ら望んだからであって、決して非合法な手段によって強制的に連行されてきたのではなかった。きっかけは定期購読しているSM雑誌の読者のページに載っていた奴隷募集のメッセージだった。新田はそれを見て、ほんの軽い気持で手紙を送った。すると、ほどなくして封書が届いた。その中には応募に対する丁寧な礼状が入っていて、別の用紙に、箇条書きにされた五項目の質問事項があって、それに記入して全身と顔のアップの写真を添えて返送するよう記されていた。そして、その返答の用紙及び写真によって書類選考を行い、後日改めて面接を行う旨が書かれてあった。質問とは、以下の五項目だった。生年月日。身長と体重。M歴。独身か既婚か。そして最後に、採用となった際は現在の仕事と住居を放棄して二十四時間、三百六十五日、衣食住の全てを専属奴隷として捧げることになるが、それでも構わないか、とあった。

新田は一人暮らしのアパートの一室でその通知を受け取り、質問事項に上から順番に答えていった。生年月日と身長体重は何の問題もなく書けた。しかしM歴の部分で少し滞った。というのも、新田には大したM歴などなく、四、五回SMクラブへ行ったことがある程度で、実際の経験はそれだけだった。あとは専らビデオやSM雑誌のグラビアで勝手な妄想を膨らまして右手で導くのみだった。だから、嘘を書いても仕方ないのでそのとおりのことを書いた。次の質問である「独身か既婚か」という項目は簡単で、迷うことなく「独身」に丸を打った。そして最後の設問、さすがにここでペンが完全に止まった。現在の職にはたいした希望も持っていなかったので失うことにそれほどの恐れはなかったが、果たして中途半端なM 男である自分に専属奴隷など勤まるものかどうか全くわからなかったし、またその自信もまるで無かったから、さんざん迷った挙句、正直にその旨を書くことにした。どのみちM歴の項目で落とされるだろうと簡単に想像がついたし、クラブでのお遊びのようなSMごっこの経験しかない自分など、硬派なSM愛好者には物足りないに違いない、という確信に近い意識があった。それでも新田は駄目で元々と思い、とりあえずは写真を同封して返送した。

約一ヵ月後、また封書が届いた。仕事を終えて夜遅くに帰宅した新田は、郵便受けを覗いてそのありふれた封筒を認めた瞬間、返事が来た、と胸をときめかせた。でも、おそらくは落選の通知だろう、とも思った。しかしそれでも心を浮き立たせながら部屋へ入り、早速開封した。すると中から出てきた紙には『一次選考通過のお知らせ』と大きく書かれていて、その下に面接の日時と場所が記されていた。それによると、指定された場所は超高級ホテルだった。ルームナンバーも記されていて、日時は再来週の日曜日の午後二時、「時間厳守」と書かれていた。

当日、指定された時間の十分前にホテルに着いた新田は、ルームナンバーを頼りにエレベーターに乗り、その指定のフロアの廊下に踏み出した瞬間、ひどく場違いなところに来てしまった、と後悔した。その階は、スウィートルームばかりが並んでいる特別なフロアで、絨毯など踝まで埋まってしまいそうだったし、廊下の幅も一般的なホテルのそれに比べて三倍はあった。かなりの距離をとって並ぶ部屋のドアはどれも両開きの途轍もなく巨大なものだったし、壁にかかる絵画や、さりげなく置かれている花瓶やオブジェなど装飾品も人目で高級なものだとわかった。新田は紳士服の量販店で買った二万九千八百円のスーツが恥ずかしくてたまらなかった。三本五千円のネクタイなど、締めていないほうがマシのようにさえ思った。何度も引き返そうと足を止めたが、それでも、やがて目指すルームナンバーのプレートが打ち付けられたドアの前に到達してしまった。新田は意を決して背広の襟の歪みを正し、ネクタイを締めなおすと、一度深呼吸して気持を落ち着かせ、それから恐る恐るインターフォンのボタンを押した。

ドアの向こうで品の良いチャイムが鳴る音が微かに聞こえ、じきにドアが開かれた。それが羽田志津子との出会いだった。志津子は鶯色のツーピースを着て、悠然とした物腰で新田を中へ迎え入れた。

「新田さんね、どうぞ」

どう見てもS女性には見えなかった。新田はそのことに軽く戸惑いながらも彼女の後ろについて中へと進んだ。部屋は、まるで映画のセットのように豪華だった。新田の六畳一間のアパート五つ分くらいは楽にありそうだった。二十畳はありそうなリビング、小さな会議が開けそうなダイニング、さらにそれらとは別に、オーク材の重厚な扉の向こうに寝室がふたつあった。

「さあ、そこに掛けて」

新田は、優雅な手つきによって示された革張りのゆったりとしたソファに座った。天井から床までを占める大きな窓には薄いレースのカーテンが弾かれていて、柔らかい日差しが室内に差し込んでいた。志津子は新田のすぐ向かいのソファに腰を下ろすと、脚を組み、傍らのファイルを開いた。

「新田誠治、二十六歳、ふーん、M歴はクラブで四、五回……」

ファイルに目を落としたまま志津子が言い、新田は背筋を伸ばして座りながら「はい」とこたえた。部屋にBGMはなく、息苦しいほどの沈黙が生まれた。志津子は細長い煙草を咥えて火をつけ、唇を窄めて細く煙を吐き出しながら、ファイルに落としていた視線を上げて新田を見、訊いた。

「どうして応募をしようと思ったのかしら? たいした経験もないみたいだけど」

緊張のあまり喉が干上がっていた新田は、はい、とこたえたつもりだったが、声が掠れてうまく出ず、一度唾をごくりと飲み込んでから改めて「はい」と言った。

「失礼かもしれませんが、そういう生活に憧れがあったのです。誰かに所有されたい、という願望とでも申しましょうか、いえ、どちらかというと、支配されたいのだと思います。どなたか絶対的な存在感で君臨する女性に、自分の身も心も捧げ、そして支配されたいのです。確かに、自分にはたいした経験がありません。しかし、誰かにお仕えしたいという思いは、もうどうにもできないのです。そして、その対象が美しい方なら、もうそれ以上望むことは何もありません」

志津子は黙ったまま、じっと新田を見詰めた。その目は、見る者をたちまち虜にして吸い込んでしまいそうな、魅力的で聡明な光を湛えていた。志津子は煙草を大理石の灰皿に消し、脚を組み替えた。その仕草の一つ一つに気品があって、新田はその場に跪きたい衝動に駆られた。許されるのなら全裸になって、彼女の足元にひれ伏したかった。志津子はそんな新田の心を見透かしたように泰然と微笑し、ファイルを閉じてテーブルの上に置いた。新田は床の絨毯に目を落として身を固くしていた。

「新田さん」

やがて静かな口調で志津子が問いかけた。新田は心臓を鷲掴みにされたみたいにどきりとして目を上げた。

「私、今回見つけた奴隷は北海道にある私の牧場へ連れていって、そこで十六の娘と一緒に飼いたいと思っているんだけど、あなたにそれができる? 期間はもちろん私達が飽きるまで。それは一日かもしれないし、一年かも十年かも、いえ、もしかしたら一生かもしれない。ただ、確実にいえるのは、私達がその奴隷に飽きたらすぐに捨てるということ。その時は問答無用で情け容赦なく裸のまま放り出すつもり。だから下手すると、貴方は一生を棒に振ることになるかもしれないし、そういう立場にあなたは堪えられるかしら? 当然その間は私達に絶対服従、しかも自由は一切認めないし、基本的に外界とは遮断された生活よ。いい服を着たいとか美味しい食事を食べたいとか綺麗な女の子とセックスしたいとか、結婚して家庭を持ち子供を作るとか、そういった人並みの幸福は諦めてもらわなければならないし、貴方の存在理由は私達に仕えることだけで、それ以外は何もなし。正真正銘の絶対奴隷。これはSMクラブみたいに射精が目的のいわゆるプレイとは違うの。はっきりいえば、昔のアメリカで白人に使われた黒人以上に、貴方の人格とか人権は私達によって完全に剥奪されるわけなのだけど、現在の生活を断ち切って、さらにこの先の人生を放棄して、私達に誠心誠意仕えなければならないそういう隷属生活に飛び込む覚悟はあるのかしら?」

志津子はそういうと小首を軽く傾げて、また微笑んだ。新田は膝の上に置いた拳をぎゅっと握った。羽田志津子は新田がこれまでの人生で巡り合った女性の中で最高ランクの女性だった。美しく、品があって、それでいてサディストなのだ。それを思うと、新田の心は激しく揺れた。この先、志津子のような完璧な女性と知り合える可能性など限りなくゼロに近いし、現在の生活に未練などない。しかし、彼女が提示する生活に果たして自分が適応できるかどうかが問題だった。自信はない。しかし、やりたい、と思った。何度も自問してその気持ちを確かめた。そして新田は、ぺこりと頭を下げた。

「よろしくお願いいたします。わたしを奴隷にしてください。精一杯頑張ってお仕えさせていただきます」

すると志津子は、わかったわ、と言った。

「それでは後日、選考結果を知らせます。今日のところはこれで結構です」

志津子は立ち上がり、新田に退室を促した。面接は終わった。新田はドアまできて、もう一度頭を下げた。

「ありがとうございました」

目の前でドアが閉じられると、新田は、ふうっと大きく息を吐いた。こんなに緊張したのは入社試験のとき以来だ、と思った。気づくと、全身にびっしょりと汗をかいていた。

そして十日後、羽田志津子から封書が届いた。開けてみると、中に入っていたのは、一枚の合格通知だった。新田はその夜、感慨深く何時間もその通知を見続けた。その通知には、一週間以内に身辺を整理して北海道へ来るように命じてあり、住所と地図が添付されていた。このとき、何かが新田の身体の奥で激しく燃え上がっていたが、それは希望とか情熱とか新生活への期待とか、そういう感情ではなかった。かといって絶望とも違った。やがて新田は、昔、戦争末期、特攻機に乗り込んで南洋へと向かった兵士の気持ちに似ているのかもしれない、と思った。そう考えたら、武者震いがした。

翌日、新田は会社に辞表を提出し、五日後にはアパートを引き払って機上の人となった。

新田は膝を抱えて杭に凭れ、爽やかに晴れ渡る初夏の空を仰いだ。朝晩はまだ冷えるが、日中は気温もかなり高くなり、こうしていると、裸の身体が熱を帯びてうっすらと汗ばんでくる。この北の大地にも、ようやく明るい季節の到来だった。

新田が北海道へ渡ってきたのは三月の終わりだった。まだ至るところに雪が残り、春はまだ遠かった。あれから二ヶ月あまり。新田は羽田家の家畜として仕え、この頃では随分その生活にも慣れて、言葉では到底言い表すことのできないくらい満ち足りた、充実した日々を送っている。ねぐらとして与えられている厩舎には寝藁が敷き詰めてあって、それが新田にとって唯一寛げる場所、ベッドだ。新田は基本的に常に全裸だから、その藁の量を調節して眠る。ここへ来た当初、もちろん昼間も寒かったが、朝夕の冷え込みは想像以上だった。一応この厩舎はセントラルヒーティングになっているのだが、隙間風までは防げていない。新田は慣れない日常に戸惑いつつも懸命に順応しようと努力し、疲れ果てて毎晩、大量の藁に包まれて眠った。寒い季節は、彼女達の慈悲により、昼の放牧中に限ってダウンのロングコートの着用が許されている。新田は月水金の九時から四時までの放牧時、裸の身体にそのロングコートだけを羽織ってガタガタと震えながら過ごした。あの頃に比べたら、明るい日差しが降り注ぐいまは天国にいるに等しい。

新田の一日は、夜明けと共に始まる。新田は目覚めると、まず冷たい井戸の水で体を清め、それから羽田親子が暮らす母屋へ赴き、彼女達の朝食の仕度をする。当然のことではあるが、自分の分は作らせてもらえない。新田の食事はいつだって彼女達の残飯で、それは、食事のあとでシャツだけを身に付けて涼子をジープに乗せて学校へ送り、戻ってくると、厩舎の飼い葉桶に投げ入れられている。

羽田志津子は一生かかっても使い切れないほどの財産を有しているが、翻訳の仕事を持っていて、新田が月水金に放牧に出されるのはその仕事に没頭するためだった。彼女は主にフランスの文芸作品を日本語に訳している。だから彼女の部屋には、新田には全くチンプンカンプンな、フランス語で書かれた小説の原書が本棚一杯に並んでいる。

放牧に出ない日の新田は、邸宅の掃除をしたり、洗濯をしたり、食料の買出しに行ったり、かなり多忙だ。買出しのときだけは、シャツとズボンの着用が許されている。涼子の学校への送迎は、車から降りる必要がないため、窓からは見えない下半身は露出したままだが、買い物はスーパーなどへ出入りするために車から降りなければならなかったから、最低限の衣服の着用が認められている。

このように新田の生活は、あくまでも地に足のついたものだ。いわゆる酒池肉林のSMプレイなどは殆ど行われない。たまに涼子が悪戯半分で新田に自慰をさせて、それを見て笑う程度だ。志津子はしばしば新田をバスルームに呼んで身体を洗わせたりするが、性の対象としては全く見ておらず、まるで透明人間か単なる道具のように新田を扱う。新田は彼女の豊満な肉体に大いに興奮して勃起を晒すが、まるで相手にされず、厩舎に帰ってから猛然と自慰をして紛らわすしかなかった。もちろん志津子の目には新田の勃起が映っているはずだったが、完全に無視を決め込んで知らん顔だった。泡に塗れたスポンジ越しには彼女の身体に触れることができるが、自分の手のひらで直に触ることは絶対に許されず、たとえ不可抗力であっても、もしも触ってしまうと、その後には鞭による凄惨なお仕置きが待っている。涼子に至っては、浴室へ呼ばれること自体、全くないから、スポンジ越しに触ることすらできない。ただ、彼女達の裸は四六時中見られる。というのも、風呂上がりの彼女達は、新田の存在など気にも留めずに全裸でそこら中を歩き回るから、いやでも目に入るし、彼女達の腋や股間の無駄毛の処理も新田の仕事だったから、間近で肌を鑑賞することもでき、それはそれで嬉しいことではあったが、また余計に性欲を煽られるのも確かで、しかし新田がその欲望を満たすことができるのは自分の右手によってだけだった。だから新田の唯一の楽しみは、洗濯のときに密かに彼女達の使用済み下着の匂いを嗅ぐことくらいだった。

新田はここで暮らすようになってから自慰の回数が飛躍的に増加した。一日に五回とか六回とか、そんなことも決して珍しくはない。一度など、洗濯室で志津子のシルクの下着の匂いを嗅ぎながら自慰しているところを涼子に目撃されたが、鼻で笑われて終わりだった。志津子には、深夜に自分の厩舎でこっそりと隠し持ってきた彼女の下着を使っている現場を押さえられたが、そのときも志津子は、真っ赤になって慌てふためく新田の様子を冷ややかに見据えながら僅かに唇を歪めただけで、何も言わなかった。

そういう人間としての人格を徹底的に無視する無言の陵辱の数々が、新田を更に精神的なマゾヒストへと育てていった。彼女達の冷徹な瞳こそが、今では新田にとって明日を生きる貴重な糧であり、人生のモチベーションでもあった。

50ccのオートバイの排気音が聞こえてきた。新田は立ち上がって音源を捜した。すると、草原の起伏を越えながらこちらへ向かってくるオフロードタイプのオートバイが視界に入った。

ハンドルを握っているのは、高校の制服に身を包んだ涼子だった。ヘルメットは被っていない。色を抜いた髪が盛大に踊り、制服の白いブラウスが陽を撥ねていて眩しかった。涼子は免許を所持してはいないが、ここは羽田家の私有地だから道路交通法は関係ない。だから涼子は、ノーヘルでハンドルを握ろうが、泥酔状態で運転しようが、全く問題はないのだった。今日はたまたまバイクだが、彼女はジープの運転だってできる。

だんだんオートバイが近づいてくる。新田は杭の前で気をつけの姿勢をとりながら、普段であれば夕方まで放っておかれるのに今頃どうして涼子が現れたのだろう? と不思議に思った。

じきにオートバイは新田の前に止まった。涼子はスタンドを蹴り出すと、エンジンを切り、リアの荷台にロープで括りつけてきたカンバス地の折り畳み椅子をおろした。それを地面に置いて組み立て、腰を下ろす。

「何をびっくりしてるのよ。馬鹿みたいにボーと立ってないで、そこにお座りしなさい」

そう命じて涼子は脚を組み、煙草に火をつけた。お座りをした新田の目の前で、よく履き込まれているローファーとルーズソックスが揺れる。新田は吸い寄せられるようにそれを見つめた。そういえば今朝、今日は中間テストだから午前中で学校は終わりだ、と彼女が車中でいっていたことを、新田は思い出した。

「今日はね、特別におやつを持ってきてあげたの。感謝しなさい」

涼子はそういいながら煙草を地面に落として踏み消し、ポケットから一本のバナナを取り出した。そして皮をむくと、白く反り返るバナナをペニスに見立てていやらしく舌を這わせたり、唇を窄めてキスしたりしながら、新田の反応を楽しんだ。新田はその舌の動きを見て、早くも勃起していた。涼子はそれを認めてケラケラと笑いながら、さらに調子に乗って新田の顔の間近でバナナを執拗に舐め回して見せた。新田は、涼子の濡れた唇に、そして艶かしい舌の動きに、激しく興奮した。

「どうしたの? 何興奮してるの?」

涼子は新田を見つめながら惚けたように訊き、バナナをぱくりと咥え込むと、大量の唾液を絡ませながら音を立ててそのバナナをしゃぶった。新田は腰を浮かせて唇をペロペロと舐めながら息を荒げている。そんな新田の前で、涼子はバナナを噛み千切り、口の中でクチャクチャと咀嚼した。そして新田を手招きし、手を出すように命じ、新田が命じられたとおりに手のひらを揃えて差し出すと、その上に口の中のものを吐き出した。

新田は手のひらの上に落とされた、もはや原型を留めていないグチャグチャのバナナを見つめた。それは唾に塗れて陽光を浴びながら白く光っている。

「ほら、食べなさい」

涼子が促す。新田は「いただきます」といって手のひらを口に近づけ、その咀嚼されたグチャグチャのハナナを食べた。見た目は既にバナナではなかったが、味は確かにバナナ以外の何物でもなかった。ただ、少し暖かい。

涼子が満足げに笑っている。新田があらかた飲み下すと、涼子はまたバナナを一齧りして入念に咀嚼し、再び新田の手のひらに吐き出した。結局、新田はそのようにしてバナナ一本を食べてしまった。

「おいしかった?」

「はい」

新田は素直に頷いた。嘘偽りなく、本当に美味しかったのだ。普通にバナナを食べるより、三倍は美味しかった。涼子がこんな風にして新田に餌を与えたのは、ここへ来て以来初めてのことだった。こんなことは志津子にもしてもらった覚えがなく、新田が感激していると、涼子が足を組み替えていった。

「ねえ新田、おまえ、最近ちょっと盛りがついているんじゃない? なんか四六時中オナってるでしょ」

「す、すいません……」

勃起しているペニスを手で隠して新田は答えた。確かに新田の欲求不満はこの頃限界を迎えていた。寝ても覚めても頭に浮かぶのは志津子や涼子の体だった。とくに下半身、尻や脚や足の指。いまもムッチリとした健康的な太腿が手を伸ばせば届く位置にあるのに、それに触れることができないという厳しい現実は、想像を絶する苦痛だった。そしてその太腿の奥には、聖なる亀裂が深い茂みに隠されている。それを思うと、新田は気が狂いそうだった。この熱く脈打つペニスをその茂みに沈めたいが、涼子と自分では身分が違うから絶対に許されないし、そんなことを考える事自体既に罪だった。だから新田は、せめて奉仕の名の下に、その聖なる亀裂に舌を這わせたいと強く願わずにはいられないのだった。

と、涼子がおもむろに脚を解いて軽く開いた。新田は反射的にその奥を見つめて、次の瞬間、目を丸くした。なんと涼子はスカートの下に何も身に付けていなかったのだ。いきなり艶やかに光る陰毛の密集が三十センチ先の距離に出現した。新田はごくりと唾を飲み込んでその部分を凝視した。

「私、おまえをバター犬にしてもいいと思っているの。でもチンポは絶対に入れさせてはあげない。おまえはただ舐めるだけ。それも舌が痺れて感覚がなくなってくるくらいまで延々と舐め続けるの。もちろん舐めながらシコるのはおまえの勝手よ。どう? わたしのバター犬になりたい?」

涼子はそう言ってさらに足を広げ、スカートを捲って見せながら新田を挑発した。新田は膝で立って涼子の股間へにじり寄った。すると涼子はそれをすかすようにしてすっと立ち上がり、新田の髪を掴んで焦る彼を立たせた。そして限度一杯まで反り返っている新田のペニスをむんずと掴むと、そのままぐいっと引っ張った。涼子は身長が170センチあるから、こうして163センチの新田と向かい合うと、見下ろす格好になる。新田は十六歳の女の子にペニスを引っ張られている自分が途轍もなく情けなくてたまらなかった。涼子はそんな新田の焦燥を嘲笑うかのように、蔑みの光を瞳に湛えて睥睨している。その視線の強さに、新田は思わず目を伏せてしまった。すると涼子はペニスを握っている右手にさらに力を込めて捻り上げるように引っ張り、左手で新田の顔を上向かせた。

「おまえ、こうされて本当は嬉しいんでしょ? ほら、こうやってチンポを引っ張られて。やだあ、先っぽからいやらしい汁が溢れているわ。何これ? 涎みたい」

吹きかかる甘い吐息が新田の煩悩をチリチリと焦がしていく。

「申し訳ございません……」

新田は身悶えながら消え入りそうな声で言って、間近に迫っている涼子の顔を盗み見た。濡れた唇は僅かに開き、ピンクの舌先がチロチロと蠢いている。涼子が、口の中に溜めた唾を思わせぶりに唇の間に見せた。新田は惚けたように口を半開きにして哀願する。

「涼子様、そのお唾をお与えください! そしてバター犬としてお仕えさせてください!」

涼子はニヤニヤと笑っている。新田はもう恥も外聞もなく、ペニスを握っている涼子の手で快感を得ようと自ら腰を振った。

「ハハハ、おまえ、何を腰振ってるの? バッカじゃなーい?」

絶妙なタッチで玉袋までをも刺激しながら涼子が言う。新田はたまらず絶叫した。

「涼子様! お願いいたします。ぼ、ぼくを涼子様のバター犬にしてください!」

涼子の焦らしのテクニックはとても女子高生のものとは思えなかった。新田は完全に我を忘れ、ただこの十六歳の少女に支配される歓びに悶えながら、所有されることのみを望んでいた。

「あらあらおまえのチンポ、どんどんカチカチになってきたじゃない。ほんとマゾなんだから、しようがないわねえ」

呆れたように涼子は言うと、ペニスを離し、椅子に座ってスカートをたくし上げた。そして足をいっぱいに開いて新田をその前に跪かせ、髪を掴んで股間へ引き寄せる。

「ほら、じゃあ、ちゃんと私を気持ち良くさせるのよ。手を抜いたり、私がもういいと言うまでやめたりしたら承知しないからね」

「はい! ありがとうございます!」

新田は嬉々として股間に顔を埋め、舌先で茂みを掻き分け、亀裂に到達すると、ゆっくり丁寧に舐めていった。その部分は既に充分に潤み、芳醇な香りを漂わせていた。新田はとめどなく溢れる透明な液を舌で掬っては飲んだ。それは瑞々しく光り輝く植物の葉から滴る朝露のように清冽な甘露だった。涼子が切なげな吐息を洩らしながら言う。

「上手よ、もっと強弱をつけて、そう、その感じ」

新田はフンフンと鼻息を荒くしながら無我夢中で亀裂を味わった。口の周りはすぐに愛液によってベトベトになり、唇に陰毛が絡みついてきだ、新田はまるで気にせず、決してやめなかった。この二ヶ月の間に溜まった欲望をここぞとばかりに舌先に集中させて、ひたすら舐めた。そして同時にペニスを握り、激しく上下させる。

たちまち射精してしまった。しかし舌での奉仕は終わらない。新田は精液の付着した右手を拭うこともなく、いつまでもペニスを握り続け、さらに果敢に亀裂に挑み続けた。

涼子の携帯電話が鳴り出した。ラルクアンシエルのメロディが草原に流れる。新田が奉仕を始めて一時間が経った頃だった。涼子は、黙々と股間を舐め続ける新田を制し、やんわりと後退させると、ポケットから携帯電話を取り出した。通話ボタンを押して耳に当てる。

「もしもし?」

新田はお預けを食らった犬のように涼子の前でお座りをしたまま、唾と愛液でヌメヌメと光っている茂みを見つめていた。涼子は、そんな新田の肩に両足を投げ出して乗せ、時々その足で頭を挟んではニヤニヤ笑いながら電話の応対をしている。

「今? 新田と遊んでる……うん、わかった」

やがて通話を終えると涼子は携帯電話をポケットに戻し、代わりにティッシュを出して一枚抜くと、新田の肩から足を下ろしてそのティッシュで自分の股間を無造作に拭った。

「もうおしまい、また今度ね」

そう言って股を閉じ、ティッシュを捨てた。新田は唐突に奉仕を打ち切られた。涼子が、スカートの裾をなおしてきちんと膝を揃えて椅子に座り直した。

「これからこっちにママが来るって」

その言葉に、新田は緊張した。舌は性器を延々と舐め続けたせいでヒリヒリと痺れている。ペニスはまだいきり立っていて、何度も噴き上げた精液がそのまま手のひらや陰茎に付着し、乾き始めている。新田は無性にそれをティッシュで拭きたかったが、涼子は自分の始末をしただけで新田にはティッシュを与えなかった。だから新田は仕方なくベトつく手のひらを自分の太腿あたりに擦り付け、性器も、自分の足の間に挟んで精液を拭き取った。

じきにジープが丘の上に現れ、スロープを滑るように下りてきて、新田と涼子の前に止まった。サイドブレーキが軋み、エンジンが停止し、サングラスを掛けた志津子がドアを開けて草原に降り立つ。

志津子はピタリと身体に張り付いた迷彩柄のTシャツに、ポケットがたくさんついているカーキ色のアーミーパンツを穿き、足元は頑丈そうな編み上げブーツだった。志津子はサングラスを外して頭の上に乗せると、涼子の傍らまで進んだ。新田には、志津子に隠れていかがわしいことをしてしまったという疚しい気持があって、まともに彼女を見つめることができず、地面に視線を落としていた。志津子が、オドオドしているそんな新田に気づいた。足を止めて新田の前にしゃがむ。

「ねえ、おまえ、何をそんなに怯えているの? 何か悪いことでもしたの?」

「い、いえ」

新田は大きく頭を振った。志津子の手が新田の顎に伸びて掛けられ、新田は上を向かされた。美しく端正な志津子の顔が間近に迫り、新田はその眩しさに目を細めた。涼子はクスクスと笑っている。

「あら、口に何かついているわよ」

志津子はそう言うと、新田の唇の端に付着していた一本の短い縮れ毛を取った。そして、それを新田に突きつけながら訊く。

「これは何かしら?」

首を傾げながら微笑んでそう訊く志津子に、新田は即答できなかった。もちろんそれが涼子の陰毛だとすぐに気付いたからだ。新田は焦り、混乱し、喉がカラカラに渇いて、心臓が止まりそうになってしまった。しかし、惚けとおすことなど不可能だったし、ここは潔く認めるほかなさそうだった。

「申し訳ございません!」

新田は観念して頭を下げた。涼子が「バカねえ」と小声で呟き呆れている。志津子も、困った子だ、という感じで肩を竦めて見せ、その陰毛を捨てると、もう一度新田を自分のほうにきちんと向かせた。

「ちゃんと説明しなさい。おまえ、ここで何をしていたの?」

「は、はい……あのう…そのう……実は……」

ちらりと横目で涼子を見ると、彼女は笑っていた。新田は覚悟を決めて告白を始めた。

「実は……涼子様のバター犬として股間にご奉仕させていただいておりました」

間があった。新田が志津子の顔色を上目で窺うと、彼女は薄ら笑いを浮かべていた。

「そう……それでおまえのチンポはベトベトなんだ。で、いったい何回射精したの?」

志津子は立ち上がって腕を組むと、ブーツの先で新田の股間を踏んだ。新田は喘ぎ声を洩らした。その圧力によってまたしても硬く勃起してしまったが、どうすることもできなかった。

「わ、わかりません。無我夢中だったので、よく憶えておりません。すみません」

消え入りそうな声でそう言い、新田は頭を下げた。ブーツのゴツゴツしたソールが、ペニスを擦り上げるように動いている。涼子がおかしそうに笑いながら言う。

「でもね、こいつ、なかなか舐めるの上手よ。ママも試してみたら? こいつの場合相当溜まっているから、まるで盛りのついた犬みたいにむしゃぶりついてくるの。全く笑っちゃうわ」

その冷静に考えたらかなり屈辱的な言葉を全身に浴びながらも、新田の勃起の硬度は増していくばかりだった。志津子の目が冷たい。その森の奥で空を映してひっそりと佇む湖のような瞳に見つめられると、新田は自分がひどくみすぼらしい存在に思えてならなかった。

ジープのバックミラーが陽を撥ねていた。時刻はそろそろ夕暮れに近づいて、光線が黄ばんできた。ふと気が付けば、そよ風にも冷たさが混じっている。

この初夏の季節になっても、朝夕はまだ気温が下がる。股間へのブーツによる刺激は続いていて、新田は膝の上に置いた拳に力を込めながらそれにじっと耐えていた。

「どうしたの? こんな風にされて感じてるの?」

志津子にそう蔑んだ口調で訊かれて、それがさらに新田の被虐感を煽った。新田は「はい……」とこたえ、腰を浮かすと、自らの股間をブーツの底に下から押し付けるようにして、さらなる刺激を求めた。

「何やってるのよ、本当に変態なんだから」

志津子は笑いながら新田の両手を持つと、股間を踏んだまま、その腕を引っ張ってぐいっと上体を引き寄せた。新田は不様な格好で悶える。

「志津子様、き、き、気持いいです……」

そんな新田の仕草と台詞に、涼子が笑い転げている。志津子が刺激を与え続けながら言う。

「おまえもここへ来て約二ヶ月、よく堪えたわ。だから、そろそろおまえをチンポ奴隷としても使ってあげようかしら。これから、おまえは家畜兼オモチャよ。奴隷なんかとセックスは絶対にしないけど、おまえのチンポはオモチャとして弄んであげるわ。どう? 私達のオモチャになりたい?」

「はい! なりたいです! どうかぼくのチンポを志津子様と涼子様のオモチャにしてください!」

新田は喘ぎながら叫んだ。両腕はまだ志津子に掴まれたままで、体の自由は利かなかったから、新田は首を大きく縦に何度も振って、感謝の気持と承諾の意思を表明した。

カンバス地の椅子に脚を組んで座っている涼子が満足げに頷きながら、ローファーを蹴るようにして脱ぐと、ルーズソックスの足の裏を新田の顔に押し付けた。そして爪先をモゾモゾと動かして鼻を摘んだり、口の中に指先を突っ込んだりして遊び始める。この二ヶ月の間、憧れ続け夢想し続けた芳香が、新田を激しく翻弄した。新田は暖かい足の裏に鼻をあてがい、クンクと匂いを嗅いだ。新田は、至福の時に酔い痴れていた。涼子の素晴らしい香気が理性を麻痺させ、志津子による股間への刺激が、倒錯したヘブンへと新田を導いていく。

新しい季節の扉が今、開かれようとしていた。風に揺れる草原は遥か悠久の時に寄り添い、この瞬間、神々の地へと変容した。新田にとって、そよぐ風が奏でる草原の囁きは、一遍の優しい詩だった。降り注ぐふたりの嘲笑が真実の光を湛えて、これから新田が進むべき道を示している。

果たしてこの道はどこへ続いているのだろう。新田は快感に溺れながら思う。当たり前の生活にはもう戻れないし、戻るつもりもない。自分はこのまま行くのだ、と改めて誓う。自分は志津子と涼子というふたりの女神が全てを司るこの神聖な北の大地で、いま繋がれているこの杭のように、揺れ動く時代に突き刺さる不動の楔となって、自らの運命の意味を見い出していくのだ。

志津子のブーツの底が、執拗に新田のペニスを擦り上げ、次第にそのスピードを速めている。それに合わせて新田の息遣いもますます荒くなる。

完全なる隷属と支配。それこそが新田が長い間夢見続けていた究極の愛の形だった。美しい女性に支配される歓び。新田は今、その夢を叶えていた。新田は清らかな草原の詩を聞きながら、志津子と涼子が惜しみなく与える恥辱に塗れた清冽な愛を享受している。新田の脳裏にふと、「幸福」という言葉が浮かんだ。

その言葉は、静かな湖に投げた小石が水面に波紋を広げるように、そっと新田の心に染み入っていく。そして、やがて訪れた甘美なる射精の瞬間、燦然と光り輝くとこしえの彼方へ昇華した。

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